191―最後の平穏
翌朝、あたし達は自分達の領地に帰るために王宮の広場に停められていた馬車に乗るところであり、王様やファイセアさん達に見送られる最中だった。
「ではこれで!今回は大変お世話になりました!!」
「色々あったが、其方らと公式に和睦を結ぶことができ、かつ親交を持てて、大変有意義な時間を過ごすことができた。」
見送りにきた王様の顔は清々しそうだったけど、それでいてなんかちょっと寂しそうにも見えた。
「また近い内に顔出しに行こうと思うんで、その時はまたよろしくお願いします!まだまだ会わせたい人達がたくさんいるんで!!」
「そうか。それは是非、楽しみにしておるぞ!」
良かった。
なんかちょびっとだけ、元気出たっぽい。
「ではお父様!行って参ります!」
「よかろう!ミラの領地にて、吸血鬼達のことを大いに学んでくると良い。」
「お父様こそ、ミラ様に会いたいがあまり、公務に身が入らないようにして下さいね!」
「ばっ、馬鹿を申すな!わっ、分かって・・・おる!」
あちゃ~!
イタイとこ突かれて動揺しちゃってるよ~。
イーニッドさん、もう~ちょっとお父様に優しくしてあげてネ・・・。
「ミラ殿!此度は、我が不肖の弟が起こした事で手を煩わせてしまい、大変申し訳なかった!」
「そっ、そんな謝らないで下さい!ファイセアさんも、アルーチェさんも、家族があんなことになってしまって、なんて言ったらいいか・・・。」
「ミラ、私からもどうか謝らせて頂戴。ノイエフのせいで、あなたの親友が傷つくことになってしまったのは、事実だから・・・。本当に、ごめんなさい・・・。」
謝ってくる二人に、とってもいたたまれないでいると、グレースちゃんが二人の傍に寄ってきた。
「どうかそう、お気を落とされないで下さい。彼を後一歩まで追い詰めたのに、止められなかったのは、私の力が及ばずに至ったことです。」
「グレース殿・・・。」
「約束します。再び彼と事を構えることになった際、今度こそ止められるようにもっと・・・もっと強くなってみせます!!」
そう決意したグレースちゃんの手を、ファイセアさんがグッと握ってきた。
「もしその時は、どうか我らにも声をかけてくれ!我らはもう敵同士ではない!戦場で互いの背中を任せて戦う、仲間なのだから・・・!!」
ファイセアさんの言葉に、グレースちゃんは大きく頷いて、アルーチェさんもとても満足げな顔をしていた。
「ミラ様、そろそろ・・・。」
ヒューゴ君が促すと、あたし達は馬車に乗り込み、全員が乗ると、馬車はあたしの領地に向かって走り出した。
「それでは皆さん!また今度~!!」
見送りに来たみんなが見えなくなるまで、あたしは馬車の窓から体を乗り出して手をめいっぱい振り続けた。
◇◇◇
「ミラ様、今回の王都における活動、大変お疲れ様でした。」
「みんなもお疲れ。まぁ~色々あったけど、結構楽しかったよね!」
「私はミラお姉様とご一緒なら、どこでも天国ですよ!!」
「ありがとリリー。だけど次来る時はお留守番だからね。」
「ええ!?何でですか!?」
「当たり前っしょ~!あんなことしでかしといて。ウンと反省してもらわなくちゃ!それに次も同じメンバーってワケにはいかないでしょ?ラリーちゃん達も連れていきたいし。」
「ミラ様、次回はアウレル様もお連れになられるのですか?」
「え?まぁ~そだね。できたらそうしようかと思ってる。」
「でしたらわたくしが、王都自慢のぬいぐるみ店を、ご紹介いたしましょう。」
「は?何言ってんの?」
「そうよちんちくりん。どうしてアウレル連れて来る時にそんなお店紹介すんのさ?」
「それはですね・・・。あの方は可愛くてモッフモフなぬいぐるみが・・・。」
「みっ、みんな!!もうそろそろ王都の門抜けるよッッッ!!!」
またもや仲間の秘密を暴露されそうになったあたしは咄嗟に話を逸らした。
っていうかコエ~よソレット・・・。
どんだけみんなの秘密知ってんのさ?
「これからも、皆さんでたくさん楽しい時間をあそこで過ごしたいですね!」
門を出た後でグレースちゃんが、声を弾ませながら言った。
「そうだねグレースちゃん!またみんなでさ、色々メンバーの組み合わせも変えながら、遊びに来ようね!!」
なんか・・・今からでも楽しくなってきたな~♪
次は王都で、どんな楽しい時間を過ごすんだろ~♪
・・・・・・・。
・・・・・・・。
だけど、あたしを含めたここにいるみんなは夢にも思ってなかった。
王都で平和で、楽しい時間を過ごすのは、これで、最初で最後になるということを・・・。




