19―難民救出作戦④
「バウッ!ハッ、ハッ、ハッ・・・」
あれ、白丸の走るスピードが落ちてきた?
「ミラ殿!茶々助が・・・」
「えっ、茶々助も?ソウリンさん、これって・・・」
「ええ、近いのかもしれません。」
やっぱり・・・
夕方に出発して、今はもう夜だからあんまり時間は経ってないのかも?
周りに街とか村は見えないし、なんとか間に合ったみたいで良かったぁ。
よし、それじゃあみんなにアレを渡すか・・・
「白丸、茶々助!いったんちょっと止まってっ。」
「ガウッ!」
「オウッ!」
ザザァ・・・!
「ミラ様?」
「どうかしたのですか?このような場所で止まったりして・・・」
「みんな、もうそろそろ着くけど、その前にちょっと渡したいのがあって。」
「渡したいもの?」
「うん、もしかしたら、めっちゃ必要に、なるかなって、思ってさ・・・」
ガサ、ゴソ・・・カチャ、カチャ・・・
「はいっ。」
「これは・・・小瓶、ですか?」
「まぁ、ぶっちゃけて言うと、予防薬、かな?」
「予防薬?」
「今からあたしの考えた作戦を言うから、それをやる前にその中身を飲んでほしいの。」
「「「作戦?」」」
「うん、みんながいる場所に着いたら・・・」
◇◇◇
「ひぐっ、ずっ、ひっ・・・」
「大丈夫よ、必ず助けが来るからね。」
「ほんとぉ・・・」
「ええ、だから泣かないで。」
「里長さま、さっきボクたちを守ろうとした人、逃げることができたかなぁ・・・?」
「うん。きっと味方を呼んで、ここに向かって来てくれるわ。」
「ナオ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「奴らここでの野営を終えたら、一気にアドニサカの領土まで行くつもりだぞ。」
「分かったわ。そうとなると、もう時間がないわね。」
「本当に、やるつもりなのか?」
「そのつもりよ。」
「皆、お前のことを必要としている。やはり考え直さないか?」
「里が襲われた時、多くの仲間が死んでしまった・・・もうこれ以上の犠牲は出したくない。」
「ならせめてオレ達もっ!」
「それはダメッ!あなたたちは子ども達を安全な場所まで逃がして。」
「いいのか・・・?こんなこと言いたくないが、お前、間違いなく殺されるぞ・・・」
「なら安心して。とっくに覚悟なんかできてるから・・・」
「ナオ・・・お前・・・ぐっ!」
「みんなを無事に逃がすこと・・・それが里長である私に残された最後の役目だから。」
「頼む・・・!お前も一緒に来てくれ!オレ達も、仲間が殺されるところなんて、もう見たくない・・・!!」
「よぅし!ほんじゃ、ぼちぼち出発しようか~」
「ッッッ!!それじゃあみんな、後のことはお願いね。」
「里長、さま・・・?」
「大丈夫。あなたたちは、絶対に、助かるから・・・助けてみせるから。」
「まっ、待てッッッ!!!」
「ん?何やってんだお前?さっさと馬車に戻れ!」
「なっ、なんだか、身体の具合が、悪いの・・・たっ、助けて・・・」
「おい、病気か?ならオレが介抱してやるよ。そんなフラついてたらブッ倒れちまうぞ。へへっ、支えてやっからそんな無理しねぇで・・・」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
ガブッ!!
「がっ!!?ああっ!?」
ズッ、ズズッ、ズズッ・・・
「かはぁ・・・!あっ・・・はっ・・・」
「ッッッ!!おい!何やってんだお前!?」
「やっ・・・やめ・・・しっ、死に・・・たく・・・」
ゴト・・・
「おっ、おい・・・」
「さっ、里長、さま・・・?」
「みんな、私のことはいいから大人たちと一緒に逃げなさい。絶対に振り返っちゃダメよ。」
「いっ、イヤだ!!里長さまも一緒に・・・」
「いいから行きなさいッッッ!!!」
「なっ、ナオ・・・すまないッッッ!!!」
「おっ、おいテメェら!!待ちやが・・・!!」
バッ!
「くっ・・・このぉ・・・!!」
「ここから先は誰も通さないわ。行きたかったら私を殺してからにしなさいッッッ!!!」
「ああ、そうさせてもらおう。」
「え?」
ドッッッ!!
「かっ・・・!あ・・・」
ドサッ・・・
「なっ、ナオッッッ!!!」
「あ・・・ああ・・・かっ・・・」
「どうだ?“ロスドゥルガの呪毒”の威力は。さぞ苦しいだろう?お前の身体は、このままじわじわと生気を失い、生きながら腐ってゆくのだ。」
「あ・・・あ・・・」
「やはり低級の吸血鬼では吸い取れる生気の量が少ないな。にもかかわらず、お前は自らの身の程もわきまえず仲間を、己を犠牲にして逃がそうとした。血吸いしか能のない醜い地虫が自己犠牲など・・・怒りを通り越して呆れるわ。」
「おっ・・・おね、がい・・・」
「んっ?」
「みっ・・・みんな・・・だけは・・・せめ、て・・・」
「おい、ここまできて性懲りもなくまだそんな妄言を吐くか。こうなれば、その智がまるでない脳味噌に直接毒を流し込むしかないか。少しはマシな考えができるだろう・・・」
「やっ、止めてッッッ!!!里長さまを殺さないでッッッ!!!」
「喚くなウジ虫。親バエが駆除されるのをしっかり見てるんだな。」
「やっ、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ガウウウウッッッ!!!」
「グオオオオッッッ!!!」
「ッッッ!!」
「なっ、なんだ!?」
「グルルルルルル・・・」
「ガアアアアアア・・・」
「コイツ等、禍狼種じゃねぇか!?一体どうしてこんなところに・・・」
「ちょっとちょっと!勝手に人の大事な商品キズモノにしないでくれる!?」
「ッッッ!!」
「何だお前?いきなり割り込むとは、失礼な奴だな。」
「アタシぃ?まぁ言ってしまえば、いいカモを見つけた通りすがりの強盗、かな?吸血鬼はいいカネになるって聞いたからさ。悪いけど、アンタたちが運んでいる吸血鬼、ぜぇんぶアタシらで横取りさせてもらうよッッッ!!!」




