181―ティリグ・ミナーレの変①
調印式が終わりに差し掛かったところで、あたしと王様に向かって矢を放ってきた人。
何とそれは・・・ノイエフさんだった。
そして彼と同じように観衆に紛れて矢を向ける何者か達・・・。
彼等はそのまま、ノイエフさんの後に続くかのように一斉に矢を放ってきた。
「ッッッ!!!球形防壁!!」
咄嗟に防壁魔能を展開したおかげで、あたしと王様は弓矢の的にならずに済んだ。
「きっ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
自分達の中に暗殺者達が紛れ込んだこと知った観衆は、途端にパニック状態になった。
暗殺者達は、慌てふためく観衆を押しのけながら、あたし達のところに短剣を持って向かってきた。
「よっ、よくもミラお姉様に矢を・・・!アイツ等全員八つ裂きにしてやるッッッ!!!」
「はぁ・・・。リリーナはすぐ頭に血が上ってしまっていけません。ここは私に任せて下さい。」
「ひゅ、ヒューゴ!?」
「地級第一位・無慈悲なる安息!」
「ちょっ・・・なっ!?」
ヒューゴ君が詠唱すると、パニックになった観衆はおろか、あたし達に殺意剥き出しだったはずの暗殺者達まで、ピタッと動きを止め、リラックスした様子を見せた。
「この場にいる全員の精神を強制的に落ち着かせました。」
「さっ、さっすがヒューゴ君!やるね~♪」
「お褒めに預かり光栄です。ただ・・・あの者は殺意が高すぎて、抗ってしまったようです・・・。」
「は・・・?」
あたしが訳分からないでいると、何とノイエフさんだけが、防壁魔能で守られたあたし達に再び矢を放ってきた。
どうやら彼には、ヒューゴ君の魔能が効かなかったようだった。
「ミラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!お前だけはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
防壁魔能で守られてるあたしと王様に向かって、何本も弓矢・・・しかも魔能が付与された状態で放ってくるノイエフさん。
すると・・・。
「もう止せッッッ!!!」
ファイセアさんが、矢を撃ちまくってくるノイエフさんに斬りかかり、無理やり止めに入った。
「兄上!!邪魔をしないで下さい!!ミラは、俺の仲間を・・・!!」
「お前の憎しみは重々承知している!!だがこのような行いは罷り通らぬぞッッッ!!!」
「ファイセアの言う通りだわ。こんなの、流石に見過ごせない!」
立ち塞がるファイセアさんとアルーチェさんを見て、ノイエフさんは俯いて黙りこくった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「兄上も、義姉様も・・・どいつもこいつもこんな奴にほだされやがって・・・!!もうお前らは・・・兄弟とも仲間とも思わない!叩き潰すべき、俺達の敵だッッッ!!!」
「俺、達・・・?」
「まぁすぐに分かるさ!!怖じ気づいてそのまま平和ボケしたお前らに代わって、真の勇気を持つ人がこの国を治めることをなぁ!!!」
ノイエフさんは、そう捨て台詞を吐くと王宮の屋根に飛び乗ってそのまま外に向かった。
「グレースちゃん!ノイエフさんの後を追って!!」
「はっ、はい!!」
グレースちゃんにノイエフさんを任せると、あたしは防壁魔能を解いて王様の様子を見た。
「王様!大丈夫ですか!?」
「余は無事だ。しかし・・・ノイエフが・・・。」
幸いなことに王様は無傷だったけど、自分の国の兵士であるノイエフさんがこんな暴挙に出たことにひどく混乱しているみたいだった。
「陛下・・・。くっ・・・!」
「・・・・・・・。」
それはファイセアさんも、アルーチェさんも同じだった。
二人にとって大切な家族であるノイエフさんが、まさかテロ行為じみたことに手を出すなんて、到底受け入れられるはずがない・・・。
「ファイセアさん、アルーチェさん・・・。」
二人にどう言葉をかけたらいいか分からないでいると、ノイエフさんの後を追わせたグレースちゃんから突然通信が入った。
「もしもしグレースちゃん!?どうしたの!?」
(ミラ様。これは、さすがに早急に対処すべきかと・・・。)
「何が!?」
(王国軍が・・・王都を進軍中です。)
「王国軍が王都に進軍中!?」
あたしがそれを言った瞬間、王様達は驚愕した。
だって自分達の国の王都に、あろうことかその国の兵士達が襲いに来てるんだもん。
これってさ・・・つまり、“謀反”ってことだよね・・・。
「で、数は!?」
(目算ですが、およそ2000・・・。真っ直ぐ王都に向かってきてます!)
「2000かぁ・・・!結構厳しいな~それ。」
(どうしましょうか!?)
王様の方を見ると、とてもまともな指示ができるようには見えない。
「何故・・・こんな・・・。」
他の人達も、かなり混乱している。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あたしが・・・あたしが何とかしないと!!
「ファイセアさん!」
「ッッッ!!なっ、何だ?」
「レオルさん達王都守衛隊と一緒に、急いで王宮の門を閉めてきて!!そんでその後は、中の暗殺者を捕らえて、それが終わったら守備の配置について!!分かった!?」
「あっ、ああ!任せろ!!」
「アルーチェさんは天使を召喚して外の兵士を制圧!いい!?絶対誰も殺したりなんかしないで!!」
「わっ、分かったわ!」
「リリーはアルーチェさんのサポート役!ヒューゴ君は、ひとまずこのまま中の人達を魔能で落ち着かせて!!」
「承知いたしました。」
「任せて下さい!ほら!アルーチェ行くわよ!!」
「グレースちゃん!ノイエフさんはどう!?」
(まだ目視で捉えています!)
「いい!?絶対に進軍中の王国軍と合流させないで!!」
(生死についてはどうしましょうか?)
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「殺さないで。だけど、多少手荒なマネはしてもいいから必ず捕まえて来てッッッ!!!」
(了解いたしました!!)
みんなに指示を飛ばすと、あたしはわなわなしてる王様の肩に優しく手を置いた。
「みっ、ミラ・・・。」
「安心して下さい。王宮はあたしの仲間達が、何があっても守ってみせますから。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「かっ、かたじけない。」
あたしは王様にニコッと笑いかけると、彼をソレットに任せた。
さぁ!
誰が相手だろうと関係あるか!
あたしはこの国の人間と仲良くするって決めたんだ!
それを力づくで邪魔しようってもんなら、必ず止めてやるんだからッッッ!!!




