17―難民救出作戦②
「んっ、あっ、あれ?」
「おお、やっと目を覚ましたか。」
「ソウリン殿・・・アドレ・・・ここは?」
「拠点の医務室だ。毒気は体内から完全に消え失せたゆえに大丈夫だぞ。」
「そうですか・・・助けてくれて本当にありがとうございます。」
「起き上がったと思ったら、また気を失ったんでビックリしましたよ。」
「いや、死にかけたせいか知りませんが、偉く妙な幻を見てしまって。目の前にミラ様が立っていて、私に語りかけてきたのです。可笑しいですよね。あの方はもう亡くなっていらっしゃるというのに・・・」
ヒョコ・・・
「ねぇ、さっきの人、起きましたか?」
「ッッッ!!?みっ、ミラ様!!?」
ガタガタガタッッッ!!
「えっ、ちょ、何で隅の方に逃げるんですか!?」
「みっ、ミラ様が・・・冥府より・・・私を・・・つっ、連れ去りにきたッッッ!!!」
はっ、はぁ!!?
何言ってんのこの人!?
冥府よりって、ナニ人をお化けみたいに扱ってんの!!?
「其方が驚くのも無理はないが、このお方こそ、正真正銘本物のミラ殿だっ。討ち取られたが復活し、我らを敵の手から救って下さったのだ!」
「うん!そうそうっ。だから怖がらないでこっちおいで。悪いようにはしないから。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!こっち来ないでぇ!!ボク美味しくなんかないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
幾つなんだよこの人!!?
◇◇◇
「どう?落ち着いた?」
「えっ、ええ。お見苦しい姿をお見せして、大変申し訳なかったです。」
「ん、いや、いいんだよ、別に。あんま気にしてないからっ。」
ホントはすげぇメンドくせ〜って思ってたけど・・・
「あっ、改めまして、私は南の執将に仕えているセドヴィグと申します。」
「“南の執将”?」
「東西南北の地方にいる、吸血鬼の将軍の一人です。ここを含めた南方の拠点を束ねてるんです。」
へぇ、つまりソウリンさん達の指揮官ってワケだ。
「それで、セドヴィグ。何用でこの地までやってきたのだ?」
「実は私は、執将様の命のもと、ミラ様の御遺体を捜索するためにこの地に参りました。」
「あたしの、遺体?」
「討ち取られたミラ様の御遺体は、地方の収容所の何処かに極秘に運ばれたとの情報だったので、目星の付いた場所を順に巡って、最も有力な三カ所の内の一つであるこの”リューティアの森”近郊にたどり着いたのです。」
「で、アタリを引いたってことね。」
「はい。でもまさか、復活されていたとは・・・」
そりゃ化けて出たってパニクっても仕方ないかっ。
なんせ探してた遺体が立って話してたんだから。
あたしでもビビんもん、そんなん・・・
「しかし、何故あのような手傷を負ってしまったのですか?」
「じっ、実は・・・」
◇◇◇
セドヴィグさんによると、ミラの身体があるらしき収容所(あたしが魔能で消しちゃった建物・・・)に向かう途中で、吸血鬼の孤児を中心にした難民グループが人間達に襲われてる現場を目撃してしまったらしかった。
いの一番で助けに行って、その人達を守ろうとしたけど、襲撃者のグループの中にものすごく強いヤツがいて、ひどくやられて守り切れず、残らず捕まえられてしまったとのことだった。
あたしが治した毒も、そいつが持ってた武器のせいだという。
それであと少しでトドメを刺されそうになった時、どうにか身体を動かして、命からがらここまで逃げてきた。
これがセドヴィグさんが話してくれた事の顛末だ。
◇◇◇
「迂闊でした。まさか連中の中にあんなにも強力な武器を扱うヤツがいるなんて・・・」
「セドヴィグさん、そいつらは何者なんですか?」
「連中の引いてた荷馬車に見覚えのあるマークがありました。あれは、アドニサカ魔政国の国章です。」
「捕まった子ども達はどうなるんですか?」
「おそらく、全員繁殖用として養殖されるでしょう。魔能で心を完全に殺して、ただの人形にした上で・・・」
ひっ、酷すぎる・・・
子どもをそんな、まるで道具のように弄ぶなんて・・・
「セドヴィグさん、あたし達をそのグループのところまで案内して下さい。あたし達が、必ずみんなのことを助けてみせます。」
「ええ、元よりそのつもりです。こんなところで引き下がって、彼等を見殺しになど、できません。私にだって、あの故事達と同じ年頃の娘がいます。子どもを、あんな家畜以下の如く仕立てる連中のことは、絶対に許せません・・・!」
「ああ、オレだって、そんなの真っ平御免だ。」
「オレ達で良かったら、好きに使ってくれ!」
「ミラ様、みんな・・・御尽力感謝致します!では直ちに出立しましょう!残り一日半もすれば、アドニサカの領土に入ってしまいます。そうなってしまったら、もう救出することはほぼ不可能となってしまいますので!!」
「分かりました!ソウリンさん、アーさん、急いで準備してきて下さい!あたしも先に行って、禍狼族達の支度をしてくるんでっ!」
「「了解ッッッ!!!」」
待ってて。
絶対、絶対あなた達を救い出してみせるからっ!
◇◇◇
「なぁ、さっきオレらを襲った吸血鬼、また来ると思うか?」
「いや、さすがにもう死んでるだろ。なんせあんなヤバい毒食らっちまったんだから。」
「それもそっか。しっかし、今回の収穫、思ってた以上に上手くいったな!」
「だな。吸血鬼一匹ごとに大人だったら10ダリアン、ガキは5ダリアン貰えんだからな。オレ達も大金持ちの仲間入りだぞ!!」
「某に払う報酬、ゆめゆめ忘れてもらっては困るぞ。」
「あ〜はいはい、分かってますよ、メウロの旦那。」
「それで良い。浅ましき凡骨ども。」
「けっ、偉っそうに!てめぇだって金目当てに引き受けたクセしやがって。」
「おっ、おい!聞こえるぞ、そんな声で言ったら。」
「だってよぉ、納得いかねぇじゃんか、あんな態度取られたらよぉ・・・」
「仕方ないだろぉ、だってアイツのお陰で襲って来た吸血鬼くたばったんだから。」
「まぁ、そうなんだけどさぁ・・・」
「しかしアイツ、評判通りの腕前だったな。さすが人間軍最強の騎士団“黎明の開手”さま新メンバー候補、高くついたが、その分リターンも多かったよ。」
「でもなんでそんなすげぇヤツが副業で傭兵なんかやってだ?」
「さぁ?軍が安月給なんじゃねぇの?」
「まぁ、いいじゃないか。そんな変わりモンのお陰でオレ達はガッポリ儲かるんだからさ!」
「でももちっと性格直してほしいよ。あんなんじゃ折角の美少年が台無しだよ、全く!」




