15―鍔迫り合いの約束
「それではこれより、鍛錬を開始します。ミラ様。」
「うん。お手柔らかにね。グレースちゃん。」
初めて持ってみたけど、剣って思ってた以上にズッシリくるな・・・
ファンタジー映画とかでみんなコレ片手で振り回してみたりしてるけど、あれってめちゃくちゃ大変なんかもしれない。
「まず最初に簡単な足の使い方から教えますね。」
「ハッ、ハイ!ヨロシクオネガイシマスッ。」
「そっ、そんなにかしこまらないで下さい。なんだか申し訳なくなってしまいます。」
「だっ、だって、グレースちゃん本当の先生みたいで緊張しちゃうんだもん・・・」
「わっ、私が、先生、ですか・・・?」
「うん。グレースちゃんはあたしの剣の先生。生徒は先生を敬わないと。でしょ?」
「ミラ様が・・・私を・・・」
「グレースちゃん?」
「ッッッ!いっ、いえ。何でもありませんっ。それじゃあ、始めていきますね。大事なのは身体の軸を刀身の進む方向に同調して、それに合わせてステップを踏むイメージを持つことです。はっ!ふん!」
おお~。グレースちゃんカッコいい~!
「ではミラ様もやってみて下さい。」
「うっ、うん!」
えっ~と、身体の軸を剣の向きと一緒にして、それに合わせてステップ・・・
「やあっ!えいっ!」
どっ、どうかな?
上手くできてたらいいんだけど・・・
「そうですね。ちょっと肩に力が入ってますが、リラックスできると綺麗な動きになるかと思います。」
「そっ、そっか・・・」
なんかあたし、もしかしたら結構いいスジしてんのかも?
「次に、剣の振り下ろし方について教えます。先ほども言いましたが、あまり肩に力を入れず、刀身の重さに若干任せるようにするといいでしょう。はあっ!」
これも見事なフォルムしてんなぁ・・・
「さっ、ミラ様。やってみて下さい。」
「はいっ!」
肩に力を入れず、剣自体の重さに任せて・・・
「はああっ!!」
スポッ
カシャッ、カラン!
「あっ!?ああっ、あっ。」
やばっ!剣すっぽ抜けちゃった!
「グレースちゃん、ゴメンっ。」
「う~ん、肩の力は抜けてましたが、両手の力まで抜いちゃいましたか。剣の柄はしっかり握っておかないと手から飛んじゃう危険があるので気を付けて下さいね。」
「はっ、はい・・・」
さっきちょっとはできてたから、自信ついたんだけどなぁ・・・
「ミラ様?」
「えっ!だっ、大丈夫。別になんでもないよ!」
「そう、ですか。では今踏まえたことを振り返りながら、もう一度練習しましょうか。」
「うっ、うん!よろしくお願いしますね、グレース先生!」
◇◇◇
ふぃ~疲れたぁ!
両手の手の平がジンジンするよぉ・・・
「お疲れ様です。ミラ様。」
「うん。グレースちゃんもお疲れぇ。」
しっかし、始めてからもう結構時間経ってるよなぁ・・・
段々明るくなってきたし。
こんだけ根詰めてやるって、グレースちゃんって顔にこそ出さないけど、中々に厳しめの子なんかもしれない・・・
「はぁ・・・」
「どうしたのグレースちゃん?そんな溜め息ついて。」
まっ、まさかあたし「てんで出来ない奴」って思われてる!?
いっ、いや、グレースちゃんに限ってそんなことは・・・
でっ、でもグレースちゃんめちゃくちゃ真面目ちゃんだから意外とそういう風なこと考えてたりしてッ!!
「いや・・・ミラ様って、やはりすごいなぁって思って。」
「へ?」
「だってミラ様、始めの頃は動きが固かったのに、練習を重ねる内に徐々に滑らかに剣を振るうことができていたので・・・」
そっ、そうかな~?
あたしとしては、まだ全然ガチガチのような気がするんだけど・・・
「ミラ様はやはり、私なんかよりよっぽど才能に溢れておいでなのですね。記憶を無くされている身であるにも関わらず、多くの仲間を危機から救い、常に皆の拠り所であろうと努めるために明るく接してらっしゃる。それに引き換え私なんか、ミラ様をお傍で守ると約束したのにお力になることが叶わずにいる。先の戦いにおいてだってミラ様をお一人残して自分は仲間と一緒に引き上げたのですから・・・私って従者失格ですね・・・」
「グレースちゃん、もうやめなよ。」
「え・・・?」
「あたしはグレースちゃんのこと頼りないって思ったことないし、そもそも従者なんてこれっぽっちも思ってないよ。グレースちゃんは気づいてないけど、あたしはグレースちゃんのこと、すっごく頼りにしてるんだよ。だって、記憶を無くしたばっかのあたしにとっても優しくしてくれたし、今もこうして剣の使い方教えてくれてるじゃん。この間のソウリンさんを助けに行った時だってグレースちゃんにだったらみんなのこと任せられるって確信したからそうしたんだよ。で、結果しっかりみんなを拠点まで送ってくれたじゃん。あたしはグレースちゃん、すっごくカッコいいって思ってるよ。」
「私が、カッコいい?」
「うん!とってもカッコよくて、とっても頼りになる、あたし、ミラの親友。」
「しん、ゆう・・・」
そうだよ。
グレースちゃんは、この世界に来たあたしに、最初にできた、大切な親友。
グレースちゃんに会わなかったら、今頃あたしはどうなってたか・・・
はっきり言って、あなたにだったら本当のことを言いたい。
でもそれを言っちゃったら、きっとグレースちゃん、あたしのことキライになっちゃうだろうな。
だったらせめて、グレースちゃんが思って、尊敬してくれる『救血の乙女・ミラ』として頑張らなくっちゃ。
そのためにもまず、本物のミラが遺してくれたこの身体を、もっと上手く使いこなせるようにならなくっちゃ。
「っし!じゃあそろそろお昼の狩りの準備に行くけど、最後にさ、よかったら一緒に手合わせしてくれない?今日のおさらいも兼ねてさ。」
「えっ、ええ。お受けいたしますっ。」
ザリッ・・・
ザリッ・・・
「えいっ!」
「はっ!」
カキンッ!カキンッ!カキッ!キチキチ・・・
「ねぇグレースちゃん!また一個、あたしとお願いしてほしんだけどさぁ!」
「はい!何でしょうか!?」
「もう自分下げの話なんか言わないで、自信を持って頑張ってくれる!?」
「自分下げ・・・それは何でしょうか?」
カキンッ!カキンッ!
「“あたしなんか”って暗いセリフを言わないようにするってこと!どう?できる!?」
「・・・・・・・。はい!私はもう、“自分下げ”の言葉を吐いたりなんか、しません!!」
「ありがとっ!親友同士の約束だよ!!」
「ッッッ!!・・・・・・・。ええ!!任せて下さいッッッ!!!」
カキンッッッ!!!




