135―罵倒、懺悔
「へぇ~!!それでは娘は、ミラ様直属の精鋭部隊で、ミラ様のお傍で戦っておられるのですね!!」
「まっ、まぁ~そっすね!」
あたしが魔能で出したお酒に酔って、リリーのお父さんはすっかり陽気になっていた。
「私も鼻が高いです。まさか娘が、そんな大事なお役目を任される身になっていたなんて。」
お母さんも、少しお上品っぽく両手でグラスを持ちながら、ほろ酔い状態で赤くなった顔で笑顔を見せた。
「もう本っ当、娘さんにはいっつも助けられてます!!おまけにいい子だし!でも、ちょ~っと・・・何て言うんですか?推しが強いと、いいますか~・・・。」
「はっはっはっ!!ウチの娘は少々人懐っこさが過ぎるところがございますからな!!」
人懐っこいっていうのか?アレ。
なんかアブナイ関係になりそうな雰囲気を感じんのだが・・・。
にしてもこの人達、ホントに幻の類いかなんかなのか?
あたしが出した料理やお酒にも、ちゃんと手を付けてるし。
でも幽霊だって、人や物に触れるか普通?
じゃあ・・・やっぱりここはあの世でぇ、だからこそこの人達はそんなことができんのか?
ん~・・・なんかもう分からん!!
「ほら!リリーナもソーラと一緒にこっち来て、一杯飲んだらどうだ!?」
「ええいいよぉ~!っていうかお父さん、ミラお姉様と話し過ぎだってぇ~!!」
お父さんに呼ばれたリリーは、恥ずかしそうな顔で、広げた手をブンブン横に振って断った。
「ああいいですよお父さん!リリーナさんも、お姉さんと久しぶりに会って色々と話したいでしょうし。」
「そうですよあなた。今は2人っきりにさせておきましょうよ。」
「そっ、そうかぁ~。」
あたし達は、リリーとお姉さんをそっとして、また雑談に戻った。
◇◇◇
「おっ、お姉ちゃん・・・。」
「何、リリーナ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
どっ、どうしよ・・・。
全然話を切り出すことができない・・・!
ミラお姉様が、気を遣って「あそこの根っこにでも2人っきりで座ったら?」と言ってくれたが、どうにも気まずい・・・。
はぁ~!
どうしたものかな~?
「フフッ。もしかして緊張してる?」
お姉ちゃんに図星を言われて、私はすごくドキっとした。
「リリーナは昔から私と一緒だと照れ屋さんだったわね?」
「そっ、そう!?」
「そうよ。リリーナがお友達と一緒に遊んでいる時に、私が来ると、すっごくモジモジしてた。」
たっ、確かに、私は昔からお姉ちゃんの前では妙に引っ込み思案になることが多かった。
大人になって思い返しみると、あれはお姉ちゃんを尊敬するあまり、照れていたんだと思う。
私はお姉ちゃんが、本当に大好きだった。
話し上手で、周りにも気配りができ、お母さんが風邪にかかったら代わりに家事と、まだ幼い私の世話と遊び相手をしてくれる、まさに理想の姉だった。
お姉ちゃんは、本当に頼り甲斐があって、そして一緒にいてすごく楽しくなれる人だった。
お姉ちゃんが私を助けようと、最後まで諦めなかったお陰で、人間達が私を殺す前に、私はミラお姉様によって助けられた。
だから私にとってお姉ちゃんは、もう一人の命の恩人だ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
お姉ちゃんに一言、お礼が言いたい。
「あの時、私を助けようとしてくれて、本当にありがとう。」って。
それを言うことができて、私は、お姉ちゃんへの未練に区切りを付けられる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あのさお姉ちゃん!あの時、私を・・・!」
「ねぇ、リリーナ。」
「なっ、何?」
「今お父さん達と話してる人のこと、好き?」
「え?」
私は直前で思いを伝えることができなかったことに、少しモヤモヤした気持ちになったが、まだ心に残っている緊張をほぐすにはちょうどいいとポジティブに考えた。
「うっ、うん!大好きだよ!!すごく強くて、優しくて・・・あの人のためだったら、私は何だってできるって思えるんだ・・・。」
「ふ~ん・・・そっかぁ・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「良かったね。代わりが見つかって。」
「え?」
皮肉ったように言ったお姉ちゃんは笑っていたけど、目は一切笑ってなかった。
「かっ、代わりって・・・?」
「だってそうでしょ?お父さん達の話聞いてると、あの人リリーナのこと、妹のように可愛がってるみたいだから。リリーナもさ、ついさっきあの人のこと話す時、なんだか私のこと自慢するのと同じに見えたよ?だからあの人はリリーナにとって、私の代わりなんだよ。結局のところさ、リリーナは頼りになる姉だったら、誰でもいいんだよ。」
さっきまでの優しい態度とは裏腹に、とても冷徹なことを次々言い放つお姉ちゃんが、私はとても怖かった。
と同時に、私は「本当にそう思ってるのかもしれない。」と、激しい自己嫌悪に駆られた。
「あ~あ。なんかそうなると、あの時リリーナを庇って人間達に殺されたの、すっごくバカみたい。こんな冷たい妹だったら、一緒に死んでても良かったんじゃないの?あなた。」
目の前のお姉ちゃんから、とてつもなく残酷な事を言われ、私は愕然とした。
だって、私の知ってるお姉ちゃんは・・・そんなこと絶対に言わないもの・・・。
「なっ、なんでお姉ちゃん・・・そんな酷いこと言うの!?私の大好きなお姉ちゃんは、そんなこと・・・絶対に言わないはずでしょ!?」
お姉ちゃんは、フッと笑った後、上目遣いで私をギロリと睨みつけた。
「私の何を知っているっていうの?」
「え?」
「私はね、あなたが思ってるような心の強い人じゃないんだよ。その証拠に教えてあげようか?あの日の夜、殺される時、私が何て思ったか・・・。」
お姉ちゃんは唇をプルプル震わせた後、般若のような顔を私に向けてきた。
「“痛い!!苦しい!!誰か助けて!!どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!!助けて!!お願いだから助けてよ!!リリーナ!!!”って。だけどあなた・・・泣いてばかりでちっとも私を助けようとしなかったよね?私が死んだのはね・・・全部、あなたのせいなんだよ。リリー。」
その通りだ。
お姉ちゃんが殺されるのを、私はただ、泣くことしかできなくて、助けることができなかった。
お姉ちゃんが死んだのは・・・私のせいだ。
「ごめんなさい・・・。本当に・・・ごめんなさい・・・。」
「許してほしい?だったら・・・。」
膝を付いて項垂れる私の首に、お姉ちゃんは手をかけて、力強く締め上げた。
「死者と一緒になってよ。リリーナ。」
信じられないような力で首を絞めてくるお姉ちゃんに、抵抗しようとしたが、できなかった。
お父さんとお母さんはが、私の両腕を押さえていたからだ。
「さぁ、一緒に死のうか?リリーナ。」
「私達と同じになりましょう?」
優しい声をかけてくるお父さんとお母さんは、決して私の腕を放そうとしなかった。
◇◇◇
ちょっ!?
何なのアレ!?
いきなりフラッと立ったと思ったら、リリーのご両親、お姉さんと一緒になってリリーを殺しにかかってんだけど!?
どっ、どうしよ・・・。
このままじゃリリーが・・・!!
でっ、でも・・・死人か幻か分かんない相手に魔能が効くかどうか・・・。
ましてやあの人達は・・・リリーの大切な家族で・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ダメだ!
迷ってるヒマなんかない!!
今は・・・リリーを助けないとッッッ!!!
「消失!!」
心配とは裏腹に、魔能はしっかり聞き、リリーを殺そうとした家族はみんな、跡形もなく消え去った。
「ゴホッ・・・!ガハッ・・・!ゴホッ・・・!」
あたしは首を絞められて、苦しがってるリリーのところに急いで駆けつけた。
「リリー!ねぇ大丈夫!?」
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」
「りっ、リリー?」
霧が立ち込める森を見上げて、リリーは抜け殻のような顔をしながら、うわ言みたいにひたすら謝っていた。




