133―霧の中、それぞれの再会
森の中で、事故で死んだはずのお姉ちゃんを見た私は、居ても立っても居られなくなり、アサヒ様達を起こすこと忘れて、霧の向こうに消えたお姉ちゃんを必死に追いかけていった。
裸足だったせいで、小石や小枝をたくさん踏んで足にいっぱいケガをしたと思うが、今の私には、痛みなんて全く感じなかった。
それくらいに、私は一心不乱だったのだ。
お願い!追いついて!!
私はあれが・・・本当のお姉ちゃんかどうか、確かめたいのッッッ!!!
そんな私の願いが通じたのか、お姉ちゃんらしき人物の後ろ姿が見えてきて、すぐそばまで来た途端、私はその人物の背中に飛びついた。
振り返ったその人の顔を見ると・・・間違いなくその人は、死んだ私のお姉ちゃんだった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!おっ、お姉ちゃん!!なの・・・?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「クスッ。忘れちゃったの?私の顔?」
「まっ、まさか・・・幽霊かなんか!?」
お姉ちゃんは、真面目に質問する私に、冗談っぽくまたケタケタと笑った。
「相変わらず面白いこと言うのね。幽霊がこうやって生きてる人に触れると思う?」
「だっ、だったらどうして・・・!?」
お姉ちゃんはゆっくりしゃがみ込み、すがってくる私の手を優しくギュッと握った。
「ここはね、向こう側の世界なの。だからソレットは、私に触ることができるんだよ。もっとも、ソレットが死んだってワケじゃなくて、たまたま迷いこんだだけ。だから安心して。」
向こう側の世界?
迷い込んだだけ?
「じゃあ、あの噂は本当・・・ッッッ!!!」
お姉ちゃんは、激しく困惑する私を、安心させるかのようにそっと抱きしめた。
「ずっと会いたかったよ、ソレット。」
「お姉・・・ちゃん・・・。うっ、ううっ・・・うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
そう言われた途端、今まで抱え込んでいたお姉ちゃんへの感情が一気に爆発して、私はお姉ちゃんを強く抱きしめ返して、そして、大泣きした。
どういうことかなんてもうどうでもいい。
私・・・また会えたんだ。
もう二度と会えないと思っていた、お姉ちゃんに・・・。
◇◇◇
「ノイエフ隊長!お久しぶりです!!」
俺の前には今、ミラの手によって皆殺しにされた、斥候部隊の仲間達がいた。
「あっ、あなた達・・・どうして・・・?ミラの奴に、全員・・・殺されたんじゃ・・・?」
「隊長はご存じですよね?この森の噂。」
黄泉の国の一部で、死んだ人と再会できる・・・。
「あれは・・・本当だったって、こと・・・ですか?」
俺の質問に、部隊のみんなは大きく頷いた。
「あっ、ああっ・・・!!」
俺はうずくまり、その瞬間涙が止まらなかった。
「たっ、隊長?」
「本当に・・・すみません!!あなた達を、あの時死なせてしまって・・・!どうか・・・どうか許してほしい!!俺が必ず・・・あなた達の仇を・・・ミラを討ち取ってみせますからッッッ!!!」
みんなは俺の傍まで歩みより、一人が優しく肩に手を置いた。
「隊長になら必ずできます。それまでずっと、待ってますから!」
「安心して下さい!もしそれで隊長が死んで、本当にこっち側に来たとしても、俺らちっとも恨んだりなんかしませんから!!」
「みっ、みんな・・・。」
部隊のみんなに優しい言葉をかけられて、俺は再び顔を傾けて泣き出してしまった。
「ほら!そんないつまでも泣いてなんかないでこっち来て最近の身の上話でも聞かせて下さいよ~!!」
俺は部隊のみんなに立たされ、興味深々なみんなに最近の俺のことを話し始めた。
◇◇◇
「よっ!ご無沙汰だな。ティスムドル!!」
信じ難い話だが、俺は今、かつての大戦でともに戦い、そして失った幼馴染と再会していた。
「おっ、お前達・・・どうして・・・ここに・・・?」
「どうしてって、ここが黄泉の国の一部だからだよ。まぁ、俺らもまさかお前とまたこうして会えるなんて思ってもみなかったがな!へへっ!」
「そうだな。だけど再び君と会えて、僕は嬉しいよ。ティスムドル。」
ファイセアの言っていたこの森の噂、まさか本当だったのか?
いやまさか・・・でも・・・。
「おっ!一番お前と会いたい奴がこっちに来たなぁ!」
彼等の後ろから、もう一人誰かが走って来て、その者の顔を見た瞬間に、俺は固まってしまった。
「ユメ・・・ストゥル・・・?」
それは、彼等と同じ俺の幼馴染であるとともに、俺と・・・結婚の約束をしていた女性だった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!また・・・会えたぁ・・・。ティスムドル!!」
ユメストゥルは俺に抱きついてきて、彼女の確かな温もりを感じた俺もまた、彼女を抱きしめた。
ずっと・・・ずっとこうしてやりたかった・・・。
もう・・・絶対に離さない。
絶対に・・・離さない・・・。
◇◇◇
「ガーナイト・・・。まさかそんな・・・!」
「お久しぶりでございます、総騎士長殿。」
そんな・・・在り得ない!!
此奴は先の、ベリグルズ平野での戦いで、討ち取られたはずだ・・・!!
「そっ、其方が、ここにいるはずが・・・ない!!なっ、何故なら・・・」
「ミラとの戦いで死んだから・・・ですか?」
確信を先に突かれて、私はドキっとした。
そして暫しの沈黙が訪れた後、ガーナイトは再び話し始めた。
「謝りたかったのです、総騎士長殿に。」
「謝り・・・たかった・・・?」
「我々の力が及ばないことで、ベリグルズ平野を吸血鬼達に奪われてしまった・・・全て、我々の失態に他なりません。本当に・・・申し訳ありませんでした・・・。」
深々と頭を下げるガーナイトに居た堪れなくなり、私はガーナイトの肩をガシっと掴んだ。
「其方が謝ることなどない!!私が無力なばかりに・・・皆を死なせてしまった。本来ならば、私もあの場で死ぬ運命だった。だがそうはならず、おめおめと生き残ってしまった。どうか・・・どうか許してほしい・・・。」
罪悪感で膝を付いてしまった私の肩に、ガーナイトは何も言わず手を置いた。
◇◇◇
「みんなそれぞれ、大切な人と感動的な再会を果たしているようだね~♪」
結界内に入り込んだ人達の様子を、遠隔視の魔能で映し出してみながら、私は笑いを堪えるのに必死だった。
だってみんな・・・今会ってる大切な人に殺されて、本物の死人になるんだもん・・・♪
その時、彼等がどんな顔をするのか、想像しただけでおかしくなってくる・・・!
おおっと、いかんいかん!
今は任された仕事に集中しないとっ!!
見たカンジ、今見てる人達は、耳飾りを持ってないのかな?
「となると・・・やっぱりこのパーティのリーダーが持ってるのかな?どれどれ~♪」
私はまだ、魔能にかかっていないパーティリーダーと、彼女と一緒で、すでにかかっている女の様子を映し出した。
「いやぁ~それにしてもビックリしたな~!!まさかこの2人が人間じゃなくて、吸血鬼だったなんて♪」




