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【完結】吸血鬼の救世主に転生した陽キャ女子が異世界で無双代行する話。  作者: ハニィビィ=さくらんぼ
第三章 : 耳飾りの旅
128/514

128―優しき勝者

“勝者は悦に浸り、敗者は苦汁を舐めさせられる。”


勝負事において、それは至極自然なことだとばかり思っていた。


幼き時分より、丈夫さと腕っぷしに自信があった我輩は、己の武がどれほどのものなのか確かめずにはいられず、各地を放浪する旅に出た。


様々な者と拳で渡り合った。


人間、森精人(エルフ)岩削人(ドワーフ)・・・そして幻想大厄災ファンタズマ・カタストロフィを運よく生き残った魔獣や痩鬼種(オーク)といった種族とも。


数多くの勝負を重ねながら、我輩は勝利をもぎ取っていった。


幼少の頃より、先の考えを捨てることができず、敗北が怖かったからだ。


やがて勝ち進める内に、我輩は慢心するようになった。


“我輩は強い。誰も勝てやしない。”


吸血鬼と人間との間に戦争が勃発しても、我輩は軍に加わろうとはせず、勝利のための放浪に突き進んだ。


一族が危機に陥っているのに、我輩はただ、己の勝利にこだわるばかりだった。


何故なら、その日々に幸福を見出していたからだ。


今にして思えば、あの頃の我輩は、とても愚かだった。


一族存亡よりも、己の悦にふけてばかりだったのだから・・・。


そのような日々の中で出会ったのだ。


我輩の愚かしい慢心を打ち砕いてくれた、あの方に・・・。





◇◇◇





「あなたが軍に入らず、各地を転々として様々な種族と戦っている吸血鬼・・・ですか・・・?」


あの日我輩は、己の拳を鍛えるために、森の樹々を殴り折っていた。


我輩の手で樹々が倒され、すっかり見晴らしが良くなったところに、その方は現れた。


後に仲間となる、アウレルとリリーナを連れて・・・。


「ミラお姉様!やっぱり帰りましょうよ~!!」


リリーナが口にした名で、我輩はピンときた。


「ミラ・・・。なるほど。貴様が吸血鬼の間で救世主としてもてはやされている女か?」


「そんな大層なモノじゃありませんよ。私はただ、大切な仲間を一人でも多く救うために頑張っているだけです。」


強大な力を持ち、絶大な支持を得ているのに関わらず、謙遜するその態度に、我輩は少しばかりの怒りを覚えた。


「それで・・・かの救世主様が我輩に何用だ?まさか、仲間にでも引き入れにしたのではあるまいな?」


「ええ、そうよ。」


皮肉で言った問いかけに、何の迷いもなくそう言ったことに、我輩は驚きを隠せなかった。


「なっ、何故だ!?」


()()って・・・決まっているじゃないですか。仲間を救うには、悔しいけど私一人では力不足なの。味方は一人でも多い方が心強い・・・。だから私は、あなたの力を借りて一緒に戦いたい。それ以外に、理由なんか要りますか?」


真っ直ぐな目をして、そう告げる同族の少女に、我輩は困惑した。


どうやら彼女は、本気で我輩を頼りにしてくれている。


しかしながら我輩は、「これはいい機会だ。」と思った。


「分かった。貴様とともに戦おう。」


「ほっ、本当ですか!?」


申し出を了承したことにミラは大層喜んだ。


「しかし・・・()()がある。」


「条件?」


「我輩と一対一で戦い、貴様が勝利すれば、仲間に加わろう。」


我輩の提示した条件に、お付きのリリーナとアウレルは憤った。


「あっ、アンタ・・・!!いつまでも図に乗っていると、タダじゃすまないわよ!?」


「リリーナの言う通りだ。あんまり僕達を怒らせないでくれるかなぁ?」


「いいわ。それで。」


条件を受け入れたことに、リリーナとアウレルの怒りは一気に引っ込み、愕然とした。


「みっ、ミラお姉様!!ばっ、馬鹿なこと言うのは止めて下さい!!」


「そうですよ!こんな血気盛んで、戦うことしか能のない者なんか放っておきましょう!!」


「私が勝てば、この人は仲間になってくれる。ならそうするしかないわ。」


「でっ、ですが・・・!これはあまりにも・・・!!」


「ミラお姉様にもしものことがあったら・・・私・・・!!!」


悔しさをにじませる従者達を、ミラは優しく抱きしめた。


「リリー、アウレル。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。私は負けたりなんかしないわ。」


ミラに優しく諭されて、2人もようやく彼女の意見に同意した。


「従者の説得は済ませたか?()()()殿()?」


「ええ。ではまず、そちらからどうぞ?」


先手を譲られた途端、我輩は興奮で堪らなくなった。


吸血鬼(我輩達)から救世主と崇められる者に、我輩の武芸を試すことができる。


我輩は爪で手の平を引き裂き、傷口から滴る血で(メイス)を顕現させた。


そして腕に渾身の力を込め、大きく振り上げた。


「救血の乙女ミラ!!貴様の力量、このローランドが見極めさせてもらおうぞッッッ!!!」


我輩はミラの頭に、(メイス)を叩き込んだ。


だがその一撃は・・・止められた。


ミラの・・・()()()によって・・・。


「なっ・・・!?」


人差し指だけで、我が渾身の一撃が止められたことに、我輩は愕然とした。


「では今度は・・・私の番です。」


そう言ってミラは、我輩の胸にそっと手を当てた。


その瞬間に襲ったのは、全身の骨が砕けたと思うほどの凄まじい激痛。


今まで味わったことのない痛みに、我輩はその場にうずくまり、立つことができなかった。


「ぐっ・・・!!ゴホォ・・・。」


「どうやら、私の勝ちみたいですね。」


ミラが勝利を見届けて、従者の2人が彼女の許に駆け付けた。


「ミラ(お姉)様ッッッ!!!」」


「2人とも、心配かけてごめんさない。見ての通り、私は大丈夫だから。」


「すごいですね!!あんな屈強な大男を、触れただけで倒してみせるなんて・・・。それでこそ、私の愛しのミラお姉様です!!!♡♡♡」


「僕は少しヒヤッとしました。だけど、何事もなくて良かったです。」


2人とも口々に、ミラの無事を喜んだが、ミラは2人に「少し2人だけで話したいから先に行って。」と伝えた。


うずくまる我輩の許に、ミラはゆっくり歩み寄って来た。


我輩は痛みで・・・だけどそれ以上に悔しさで顔を上げられなかった。


我輩の、今まで培ってきた武芸は・・・ミラにまるで歯が立たなかった。


我輩が戦いに明け暮れたあの日々は、全くの無駄だったのか?


これが・・・敗者が味わう苦汁か・・・?


ミラは今から、勝利の悦びに満ちた顔で、我輩を見下ろしてくる。


そんなの・・・耐えられない・・・!!


「あなた。」


ミラの足が、我輩のすぐそばまで迫ってきた。


ああ・・・これで、己が無力だったと思い知らされる。


もうどうでもよい・・・。


好きなだけ嘲るがいい・・・。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


()()()()()()()()()()()()()()()。」


「え・・・?」


全く予想だにしない一言を言われ、驚いていると、ミラはしゃがみ込み、先程我輩の一撃を受け止めた人差し指を見せてきた。


「ほら。物理攻撃が無効のはずなのに、私の爪にヒビが入っているでしょ?」


見るとミラの人差し指の爪に一筋の亀裂が走っていた。


「痛みを堪えるのに必死だったわ。リリーにこれがバレると、あなたにすごく怒っちゃうから。」


あのミラが、痛みを必死に堪えていた?


「私にこの傷を付けたくらいだから、相当な鍛錬を重ねてきたのね。あなたの血の滲む日々の重さ・・・身を以って思い知ったわ。あなたの強さは・・・本物よ。」


我輩の渾身の一撃は、確かにミラに痛手を与えていた。


我輩の鍛練は・・・決して無駄ではなかった。


「立てなくさせて本当にごめんなさい!!でも、改めてお願いします。どうか・・・私達と一緒に戦って下さいッッッ!!!」


しゃがみ込んだミラは、土下座のような姿勢で我輩に謝罪し、再び我輩に仲間になるよう頼み込んできた。


敗北したにも関わらず称賛され、あまつさえ詫びまで入れられたことは生まれて初めてだった。


この時、我輩の長年の慢心と価値観は崩れ去り、その代わりに芽生えたものがある。


それは・・・今目の前の吸血鬼の少女に対する、絶対たる信頼と忠義の心である。


「分かった。いや・・・分かり申した!!我輩が磨き上げた武術の腕、全てをあなた様のためにお使いしましょうぞッッッ!!!」


「フフッ。そこまでかしこまらなくても大丈夫よ。そういえば、まだあなたの名前、聞いてなかったわね。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「ローランドです!!どうかお見知りおきを!ミラ様ッッッ!!!」


ミラ様は今一度くすっと笑うと、動けなくなった我輩を治癒魔能で治し、我輩の手を取って、立たせてくれた。





◇◇◇





森の中でミラ様と鍔迫り合いを重ねながら、我輩はミラ様と初めて会った日に想いを馳せらせた。


ミラ様・・・。


あなた様と出会ったあの日のことは、我輩の生涯で最も幸せな瞬間でした。


そして今、我輩はこうして、あなた様と五分の戦いを繰り広げている。


いつか・・・今度は存分に手合わせしたいと願っていたことが、今日こうして叶った。


ああ、ミラ様・・・。


我輩はこうして、あなた様に遅れを取ることがないほど、強くなりましたぞッッッ!!!

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