124―敗魔将の誇り
忘れもしない、あれは100年前のこと。
古き大戦で、俺様達魔族軍は他の種族を根絶やしにし、アルスワルドを征服するまで後一歩だった。
ところが・・・幻想大厄災のせいで、魔族は絶命寸前まで激減し、魔族軍は実に不愉快な不戦敗を味わうことになり、地下深くに潜るハメになっちまった。
だがしかし、それでも冥王は地上掌握を諦めておらず、陽が当たらぬ地の底で着々と再起を窺い、軍備を整えていた。
あの方の信念に、一度は何もかも諦めていた俺様も、深く感銘を受け再び立ち上がる決意をした。
完璧だったのだ。
奴が、現れるまでは・・・。
「お前達の主の力を奪いに来た。」
そう言って、アイツは俺様達が潜伏している、滅びた岩削人の国に踏み込んできた。
アイツの前には俺様が率いる痩鬼種軍およそ2万がいた。
それに対して、向こうはたったの1匹。
それも森精人の紛い物の種族である、吸血鬼。
しかも・・・女だ。
“気が触れて自分から死にに来た。”
そう思った俺様達は、腹を抱えて笑った。
その瞬間、女吸血鬼は痩鬼種軍を薙ぎ払いながら国の中に突っ込んできた。
吹き飛ばされた瞬間、俺様は思い出した。
人間、森精人に岩削人、それに俺様達のように幻想大厄災を生き残り、強大な魔能を持つ種族を手当たり次第に襲い、血・・・すなわち力を奪う謎の吸血鬼がいるという噂を・・・。
そして悟った。
奴の次の獲物が・・・俺様達の主である、冥王であることを・・・。
手傷を負いながらも、俺様は奴の企みを食い止めるべく、一刻も早く全軍を冥王の間の前に集めるよう命じた。
魔族達を蹂躙しながら突き進み、いよいよ奴は冥王と、その娘である冥府の姫がいる部屋まで来た。
俺達は全力で奴を殺そうと立ち向かった。
ところが奴は、冥王の間の扉に集まったおよそ2000もの魔族軍を、あろうことかまとめて燃やし尽くし、扉を吹き飛ばしやがった。
「人間を根絶やしにするのに、お前達の血は必要ない。」
それが、俺様が聞いた奴の最後の言葉だった。
気が付くと、俺様は瓦礫の中に埋もれていて、爆発により全身に火傷を負っており、痛みだけで意識が飛びそうだった。
それでも俺様は冥王と、姫の安否を確かめるべく地を這いつくばって部屋に入った。
そこで目にしたのは・・・首に噛み傷がある冥王と、胸に剣を突き立てて死んでいる姫の死体だった。
奴を止められず、主達を死なせてしまった俺様は、地に伏せたまま慟哭した。
生き残りの仲間に助けられた後、俺様を待っていたのは虚無に満ちた日々だった。
もう守るべき王も、果たすべき役目もない。
そんな俺様の許に、希望の光が差したのだ。
“人々を魅了し、最終的に命を奪う呪いの耳飾り”
耳飾りの特徴を聞いた瞬間、俺様は直感した。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
姫は生きている。
奴に力を奪われる前に自害し、自分の耳飾りに魂を移したのだと・・・。
俺様は誓った。
どんな手を使ってでも、姫を・・・再び取り戻してみせると。
さすれば、あの方の父君の悲願だった地上掌握を、再び果たすことができるやもしれん。
だが、何故だ?
姫は目前だというのに、何故それを持つ人間を前に、俺様は怯えている?
これではまるで・・・あの時と同じではないか!!
俺様は・・・またしても惨めな思いをしなくてはならないのか・・・!?
◇◇◇
あっという間にドツボにハマってしまい、ゲブルは一切動こうとしなかった。
こりゃあ完全にビビっちまったかもね・・・。
「通じてるかどうか分かんないけど、逃げるんならお好きにどうぞ。どの道アンタらにはもう勝ち目なんてないんだから。」
{・・・・・・・。}
ゲブルは未だ何も話さない。
{頭、どうしましょうか?}
{・・・・・・・。誰が逃げるか。}
ゲブルは乗っていた禍狼種から降り、背負ってた大剣を抜いてあたしにそれを向けてきた。
{貴様らは下がってろ。俺様が・・・ケリをつける!!}
仲間を下がらせた?
まさか、あたしとサシでやるってこと?
{俺様は、もう負けぬ。貴様から、必ずや姫を奪い返してやる!そしてその暁には、姫を復活させ、俺様から主を・・・あの方から父君を奪ったあの吸血鬼に・・・必ず復讐してやるッッッ!!!}
何言ってるか全っ然分かんないけど、そっちがその気なら相手になってやろうじゃんか!
まぁでも、結果は分かりきってるけどね。
なんせあたしは・・・といってもホントのミラじゃないけど、冥王を倒すほどのチートキャラだったらしいんだからッッッ!!!




