118―児鬼種(ゴブリン)国攻防戦③
ミラが蝠獣種の巣で女王と対峙し、大門でパーティメンバー達がワーカーを食い止めている間、ソレットは、戦えない児鬼種の女子供とともに、国の奥に作られた避難所にいた。
大門から蝠獣種の咆哮と、大門に彼等の死骸が落下した音、そして、児鬼種の兵士達の断末魔が聞こえる度に、避難所の者はギュッと目を瞑り、肩を震わせていた。
「今の悲鳴は、亭主がやられた声ではないか。」、「大門に蝠獣種が落ちた時に、父が巻き添えを食らったんじゃないか。」・・・。
そんな恐ろしい考えが頭をよぎって、避難した者達は心配で心配で堪らなくなり、今すぐにでもここから飛び出して、身内がいる戦場に駆け付けたかった。
身内の安否を激しく心配する児鬼種達を、ソレットはただじっと見据えていた。
彼等の気持ちは、痛々しくなるくらい理解していた。
何故なら、自分も同じなのだから・・・。
「なぁ!」
ソレットを呼ぶ声がして、横を見ると、児鬼種の少年が話しかけていた。
それは、ミラにお礼を言いにきた、あの少年だった。
「お前、お父を助けた人間の仲間なんだろ?」
「そうですけど・・・。」
「お前の仲間も大門で戦ってるんだろ?心配じゃねぇのか!?」
「そういうあなたも、お父様がまた大門で戦っているのでしょう?さぞかしご心配ではないのですか?」
「しっ、心配なんかしてねぇよ!!お父があんなヘビコウモリどもに喰われたりなんかしねぇんだからッッッ!!!」
強がる児鬼種の少年だったが、声は震え、額から大量の冷や汗をかいていた。
しかし、恐怖を必死に堪える少年の意を汲んで、ソレットはそこに触れようとは思わなかった。
「わたくしも・・・あなたと同じ気持ちです。」
「えっ・・・!?」
「わたくしの仲間も、アイツ等なんかに負けるタマでは決してないということです。特に、今回最も重要な役目を任され、わたくしが最も帰りを待っている方は、何があっても必ず帰ってきます。」
「なんで、そう言い切れるんだよ?」
訝しんで問いただす児鬼種の少年に、ソレットは誇らしげに答えた。
「だって・・・そのお方は、どんな相手も決して勝てない、化け物なんですから!」
◇◇◇
「地級第一位・強欲なる地心!!」
あたしに襲ってきた兵アリのような役目をした10頭の角の生えた蝠獣種は、強大な重力によって、あっという間にペシャンコになった。
衛兵達が一瞬でやられて、女王が動揺したように見えた気がした。
「どうした?もうおしまい?あんま大したことない巣だね、ココ。」
挑発すると、女王は「舐めるなぁ!!!」と言わんばかりに、改めてエリマキを広げ咆哮を轟かせた。
すると今度は、兵隊蝠獣種が15頭、普通のが20頭、そして、まだ成長しきってないと思われるのが50頭飛び出してきた。
「ほぇ~!今度は多めに出してきたねぇ~♪だが甘い!!静かなる死・広範囲!」
まずあたしを喰おうとした、幼獣とワーカーが眠るように死んで、その後ろにいた兵隊が牙を剥けてきた。
「大地の大槍!」
兵隊は全て、地面から伸びた岩の槍によって、一気に突き上げられた。
「グゴッ・・・!ガハア・・・。」
兵隊の1頭はまだ息があり、あたしはそいつの頭に向かって血で作った槍をブン投げた。
ようやくくたばったか。
フフ・・・。相手が、悪かったな・・・!
確実に殺すつもりでけしかけた子ども達がみんな返り討ちになったことに、女王はウロウロしまくっていた。
「じゃあ次は、いよいよアンタの番だね。女王様♪」
女王を首を確実に落とすため、あたしは手に出した血の剣に、力を込めて構えた。
「グッ・・・グウウ・・・。」
「悔しいだろうけど、あの国を救うために、あたしはアンタをここで殺す。悪く思わないでくれると嬉し・・・。」
「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!」
女王は突然天井を向いて、今までにないくらい大きな咆哮を響かせた。
「ちょっ、いきなり何・・・はっ!まさか・・・。ヤッベ!調子に乗り過ぎたッッッ!!!」
(アサヒお姉様!!)
「リリー!じゃあ、やっぱり・・・!」
(ええ!!大門に集まっていた蝠獣種が、一斉に巣に戻り始めました!!)
女王のヤツ、あたしを殺すために自分で産んだ子ども全部をけしかけてきやがった!!
あたしもムダなチートムーブなんかしないで、女王1頭に集中すればよかった・・・!!
クッソ~!!
迷ってる余裕なんかない!
最初に決めた通り、やることは・・・一つ!!
「リリー!!やるよ!プランB!!みんなをできるだけ国の奥に避難させてッッッ!!!」
(承知しました!!)
咆哮の後に、巣に開いた穴からも今までにないくらい大量の蝠獣種が出現して、女王は「これで勝った!」という風に見える表情を見せた。
ドヤ顔してんのも今の内さ・・・。
アンタら全員、まとめてやられんだかんなッッッ!!!
あたしは目を瞑って、巣を丸ごと消し飛ばす、超高位魔能は放つため集中した。
あたしからただならぬ気配を感じた女王は、一刻も早くあたしの息の根を止めるよう子ども達に命じた。
巣を確実に無くすために、あたしは出し惜しみなくやる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
みんな・・・どうか無事でありますようにッッッ!!!
あたしは心から児鬼種の国にいるみんなの無事を願って、自分の中にチャージした力を放った。
「天級第三位・却炎の鏖殺ッッッ!!!」
あたしを中心に、青い炎の大爆発が起き、その爆炎は巣の中を飛び出して、どこまでも広がり続けた。




