114―小さき鬼に救いを
児鬼種達が走っていった木でできた道を、チョコ之丞に乗って急いでると、たくさんの児鬼種の怒鳴り声や悲鳴が、段々大きくなっていった。
「こりゃ近いな!急ごっ!チョコ之丞!!」
「バウ!!」
あたしの声に応えて、チョコ之丞のスピードが更に速くなった。
すると向こうに、児鬼種の国がある洞窟を丸ごと塞いでいる巨大な木の壁があって、その上で児鬼種達が何かに向かって弓矢を放っていた。
一体、何に攻撃してるんだろ・・・?
よぉ~く目を凝らして見てみると・・・。
「なっ、何じゃありゃ!?」
巨大な木の壁に、ヘビのように首と尻尾が長く、コウモリのような翼で、猛禽類のような足をした、ワケの分からん生き物が6匹集まっていた。
何て言ったらいいんだろ?
ああ!あれだ!!
あの某ファンタジー映画に出てくる、真っ黒なフード被った敵キャラが乗ってたドラゴンのようなモンスター。
あれに良く似てるわ!
「って、関心してる場合じゃない!!早く児鬼種達を助けないと・・・!!」
門の上で必死に応戦する児鬼種達だったが、洞窟内を自由自在に飛び回るモンスターに弓矢は当たらず、運よく当たったとしても、児鬼種の小さな弓矢では撃ち落とすことができず、児鬼種達は足で掴まれて攫われたり、大きな口で咥えられ、空中でグチャグチャと、生きたまま食べられた。
「いいかぁ!!絶対に国の中に入れんなぁ!!!」
「ダメだ!!もう守りがほとんど残ってねぇ!!このままじゃ全滅しちまうよッッッ!!!」
「弱音吐いてんじゃねぇ!!家族がみんな喰われちまってもいいのか!?」
リーダーらしき一匹が必死で仲間を鼓舞したが、明らかに守りが全滅するのは時間の問題だった。
「チョコ之丞、ちょっとここで待っててね!あたし、今からみんなを助けてくるから!」
チョコ之丞の頭を撫で、あたしは門で応戦する児鬼種のところに急いだ。
「クソッ!アイツ等ぁ・・・!好き勝手に仲間を喰いやがってぇ・・・!!おっ、オイ!何だテメェは!?」
「説明は後!こっから先はあたしに任せて、みんなは後ろに!!」
「あっ!コイツ、さっき檻にかかってた人間!!テメェ!一体どうやって逃げた!?」
「今そんなこと言ってる場合?まずはアレ、何とかしなくちゃなんないんじゃないの!?」
飛び交ってるモンスターを指差して言うと、児鬼種達はそれ以上何も言わなくなった。
モンスター達は飛びながら、「ガギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」とあたしに向かって大きな声で威嚇してきた。
あたしは威嚇してきた一匹に手をかざした。
「爆散!!」
モンスターの頭はあたしの魔能で破裂して、頭部が無くなったモンスターは地面に真っ逆さまに落下した。
仲間がやられて、他のモンスター達は怒り狂ってあたしにみんな向かってきた。
「大地の大槍!!」
洞窟の地面からたくさんの岩の槍が飛び出して、モンスター達はまとめて貫かれた。
「まっ、こんなもんか。」
「てっ、テメェ・・・。一体ナニモンだ!?」
児鬼種達は、モンスターを全滅させたあたしを、驚きと恐怖が混じったような目で見てきた。
「アサヒお姉様ぁ!!ご無事ですか!?」
「あれ、みんなぁ~。先に行ってって言ったしょ?」
「どうしても放っておけなくてな。してアサヒ殿、これは一体どういうことか!?」
「実のところ、あたしもどういった事情かピンとこなくてさぁ。つうことで・・・。」
あたしは踵を返して、生き残った児鬼種の守衛隊のリーダーの方を見た。
「ここのトップに会わせてよ。どういった事情か、よぉ~く知りたいからさぁ。」
あたしの気迫に圧倒され、児鬼種達のリーダーは神妙な顔をして頷いた。
◇◇◇
「お前達が大門で仲間を守ったという人間と、その仲間達であるか?」
あたし達は、この国を統べる児鬼種達の王様に謁見していた。
2mくらいの身長で、ガリガリで小振りな頭とは裏腹に、お腹は大きく、でっぷりと膨らんでいて、何かの骨でできた冠を被っていた。
「そっ!でさでさ、教えてくんない?アンタらが直面してる危機について。」
「一月前のことじゃ。蝠獣種の奴らが我が王国に侵攻してきたのは。」
「ファイセアさん、蝠獣種って?」
「洞窟に棲む、竜種の派生種、天獣種の一種のことだ。真社会性、つまり1頭の女王を筆頭に増え、一際繁殖力の強い種だ。」
つまり、アリやハチのような生態をしたワイバーンってことか。
珍しいな・・・。
「奴らのせいで、一体どれほどの仲間がやられたことか・・・!!あまつさえ、奴らは国に入り込んで女子供といった戦えぬ者まで喰い漁ろうとしてる・・・。この蛮行、断じて許してはならぬッッッ!!!」
児鬼種の王様は憤り、座ってる玉座のひじ掛けをドン!!っと殴った。
彼等も魔物には変わりないが、仲間を大切にする心は本物だ。
だったらここは、一肌脱ぐしかない!!か・・・。
「あのさ王様、あたし達がこの国の危機、救ってあげよっか?」
突然の申し出に王様は勿論、その場にいた全員が目をパチクリさせた。
「何を申しておるのだ貴様?」
「そのまんまの意味だよ。あたし達がこの国を滅亡から救うって言ってんの。」
「クッ、ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
児鬼種の王様は、玉座に座りながら腹を抱えて大笑いした。
「あれ?なんかウケるポイントあった?」
「お前らが我が王国を救う!?人間が魔物の国を救うなど、これほどまでに滑稽な言い草があるものか!?貴様ぁ、少~し腕が立つといって、粋がっておるだけなのではないかぁ~?」
「ふぅ~ん。少~し・・・ねぇ?」
あぐらを組んで座ってたあたしはスッと立ち上がって、ネットリとした声でバカにする児鬼種の王様に杖を向けた。
「きっ、貴様!何のマ・・・」
「消失。」
その瞬間、王様が座っていた玉座は消え去って、王様は「ギャッ!」と尻餅を付いた。
あたしはそんな王様に、再度杖を向けてこうすごんだ。
「次はこの国を丸ごと消してあげようか?あたしだったら、それっくらいのこと簡単にできっけど?」
王様は「ヒィ!!」と悲鳴を上げて、歯をガチガチ震わした。
「で、どうすんの?任せんの?任せないの?」
「わっ、分かった!!申し出を・・・受ける!!貴様らのことを・・・信用する!!」
「分かりゃいいんだよ、分かりゃ。」
あたしは王様に手を伸ばして、怯える彼を立たせた。
「約束する!絶対児鬼種をこの危機から守ってみせる!!だからビシっとしんしゃい!」
あたしに肩をバシっと叩かれた王様は、気まずそうに引きつった笑いを見せた。
どうやらこれで、パワーバランスは確定したらしい。




