11―撤退支援戦②
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・
「おい、逃げた吸血鬼どもの反応はどこから出ている?」
「ここから南西におよそ6km進んだ場所に出ています。早駆けで行けば半日で追いつけるかと。」
「よ~し!では急ぐとするかっ。お前たち、分かっているかと思うが・・・」
「はい。多数の魔能を所持すると思われる個体は手足を斬って生け捕りに。それ以外は駆除、ですね。」
「その通りだ。ただ出来たらその弱いヤツらも報酬として受け取りたいな。せめて簡易ポーションの材料程度にはなるだろ?」
「そうですねっ。しかしアイツ等、威勢だけは良かったですけどすぐ逃げましたよね。ホント拍子抜けしましたよ!」
「だな。吸血鬼の戦意も大分削がれたと見える。なんだって、あの救血の乙女様がついに
人間軍の手で倒されたんだからな。ヤツの死を伝えた時の吸血鬼の絶望しきった顔、さぞ傑作だったぞっ。」
「このまま一気に人間の完全勝利に持ち込んでやりましょう!!」
「その意気だ!それじゃあ貴様ら、その一助のために、今日はひと働きしてもらうぞ!!」
「「「了解しました!!エリスト様!」」」
◇◇◇
ギャア!ギャア!ギャア!
わっ!?
ふぅ、何だ鳥か・・・
ったく、ビックリさせないでよ~
しかし、拠点の洞窟を出てからもう随分森の中を進んだよな。
一体いつになったら拠点長さんの部隊との合流地点に辿りつくんだろ・・・
ザッ・・・!
あれ、どしたんだろアドレさん。
急に止まったりして。
「みんな、もうすぐ拠点長の部隊との合流地点に到着するが、万が一の時に備えて、今の内に装備と行使可能な魔能の確認をするぞ。」
「「「了解!!」」」
うわぁ、いよいよだぁ・・・
万が一ってのは、やっぱ人間側との戦闘だよね・・・
どうしよ。あたし、剣なんか使ったことないし、まだ自分がどんな魔能使えるかなんて全然分かんないし・・・
「ミラ殿。」
「ぅはい!!?なっ、何ですか!?」
「いや、その、ミラ様も行使可能の魔能を確認した方がよろしいかと思ってな。」
「で、でもあたし、記憶が無いんでどれが使えるかなんて・・・」
「分かってます。ですがご安心を。このスクロールをお手に。」
「これは?」
「これに手を触れると、自分が今現在使える魔能が全て書き記されます。」
え?
お、おお、ホントだ。
なんか文字がどんどん浮かんでいた。
ええと、どれどれ・・・
・・・・・・・。
・・・・・・・。
なんか、多くね・・・?
「あ、アドレさん・・・」
「ん?どうしました?」
「い、いっぱいありすぎてどれがどれやら・・・」
「なっ、なんだこれは!?こっ。こんな膨大な量の魔能、今まで見たことがないぞ・・・」
「えっと・・・あの・・・とっ、取り敢えず、今役に立ちそうなヤツだけ、どんなのか、おっ、教えてくれませんか・・・?」
「そっ、そうだな。んっ~と・・・」
ドォン・・・
「ッッッ!?」
い、今のは・・・
「そんな・・・クソ!おいみんな!今すぐ出発するぞ!!」
「アドレ殿、一体・・・」
「恐れていた最悪なことが起きたようだ!くれぐれも警戒を怠るなよ!!」
「「「はっ、はい!!!!」」」
ちょっ!ちょっ!?
ちょっと待って!
あたしまだスクロール全部見てないのに・・・
ええい、しゃあない!!
走りながらチェックするしか・・・!
ええっと・・・ええっと・・・
なんかあたし、歩きスマホより危なっかしいことしてない!?
◇◇◇
「拠点長殿、そろそろ出発しましょう。」
「ああ、そうだな。みんな立ってくれ!アドレとの合流地点に向かうぞ。」
「「「了解!」」」
「さっ、みんな立ってくれ。疲れているところ悪いが。ん?」
「あっ、拠点長殿。」
「その人形・・・」
「はい。救血の乙女様を象ったものです。父と母が一人娘へのお守りにと。」
「そうか。優しいご両親だな。」
「・・・・・・・。拠点長殿。」
「なんだ?」
「あの方が、討ち死にしたというのは、本当なんでしょうか?」
「・・・・・・・。おそらく、な・・・」
「私、一度でいいから、あの方と一緒に戦ってみたかったです・・・」
「ああ、オレもだ。」
「あの方なしで、吸血鬼に未来なんて、あるのでしょうか・・・」
「今からそんな悲観的なことを言ってどうする!?今はとにかく、みんなで無事に帰れることを第一に考えるべきだろう。」
「・・・・・・・。はい。」
「よし。そうと分かったら出ぱ・・・」
ドォン!!
「はっ!?」
パラパラパラ・・・
「なっ、何だ!?」
「やっと追いついたぞ。このカス吸血鬼ども。」
「さっ、さっきの人間達!!お前達!オレが足止めしている間に退却しろ!!」
「だっ、ダメです!!か、完全に包囲されてます!!」
「そっ、そんな・・・」
「先ほどはまんまと逃げられたが、もう誰一人ここから出すワケにはいかん。」
「くっ、クソぉ・・・」
「分かったらそこで大人しくしておくんだな。よしお前ら!吸血鬼どもを収穫しろ。抵抗してきた場合は死体でも構わん!」
「「「はっ!!!!」」」
「きょ、拠点長殿・・・」
「うっ、うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ガキンッ!
ガキンッ!
ブシュ!!
ザシュ!!
「こっ、こいつ、しぶといぞ・・・!!」
「死に損ないのくせに生意気な・・・」
「はぁ!はぁ!みっ、みんな・・・!」
ザクッ!
「ぐあぁ・・・」
ブシュ!
「いぎっ・・・」
ドシャ!
「あがっ・・・」
「あっ、ああ・・・」
「どうやらお前達はここで終わりみたいだな。」
「きっ、貴様ぁ・・・」
「そう不愉快な顔をするな。お前達の血は全て抜き取って、人類の未来のために有効活用させてもらうからな。悪い話ではなかろう。」
「ふっ、ふざけるな!!オレ達を家畜みたいに言いやがって!!」
「は?何言ってるのだ。みたいではなく、そうであろうが。」
「う・・・」
「お前は中々活きがいい。吸い取った魔能も多いだろうから、ここの領主の献上品にでもするか。」
「地級第三位魔能・風の怒り!!」
ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「「「ぐああ!!?」」」
「はっ・・・!!」
「大丈夫か!?ソウリン!!」
「あっ、アドレ!」
「遅くなってすいませんっ。」
「ねっ、ネザミ・・・」
「ほう。新手か。のこのこ仲間を助けに来たということか。」
「どうしましょうか、エリスト様!?」
「案ずるな。見たところ数はそんなではない。このまま続けろ。」
「わっ、分かりました!!」
「ソウリン、オレ達が時間を稼ぐからその間に撤退しろ。」
「お、お前らを置いてみすみす逃げるなんてできるか!」
「大丈夫っすよ。こっちには、心強い味方がいるんで。」
「そっ、それはどういう・・・」
「あああああああああああああああああああ!!!!」
「ッッッ!?」
「おいおい、片腕斬っただけでそんな喚くんじゃねぇよ。」
「ん?コイツ、変な人形持ってんぞ。なんだぁコレ?www」
「やっ、やめて!それだけは・・・」
「触んじゃねぇよ!家畜の分際で。」
ドゴッ!
「あぐっ・・・!うう・・・」
「おいどうするよコイツ?」
「そうだなぁ・・・うるさくされても面倒だし、喉笛斬って黙らせるか。」
ヒュン・・・
「ひっ!いっ、いや・・・」
「よっ、よせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
バシュ!!ドッ・・・!
「ッッッ!!?」
「いっ!?ぐぼぉ・・・」
ドサッ・・・
「うっ!?」
「おっ、おい!!」
(こっ、これは・・・血操師で作った血の剣!しっ、しかし一体どこから・・・)
タッ、タッ、タッ、タッ・・・
「はっ、初めて作ってブン投げたけど、マジで当たった・・・」
「ッッッ!」
「うっ、うう・・・」
「だっ、大丈夫?」
「ちっ、血が止まらないよ・・・」
「待ってて、今治すから!ええっと回復系は・・・あっ、これかな?地級第一位魔能・全回復っ。」
キィィン、バキッ!
「ッッッ!?腕が、瞬時に、生えただと・・・」
「もう痛くない、かな?」
「あっ、あなたは、一体・・・」
「えっ!?じっ。自分で名乗るのまだ恥ずかしいんだよね。なっ、なんて言おうか・・・ん?これ、あなたの?」
「えっ、ええ。」
「へぇ、キレイな人形だね。お守りかなんか?はい、大事に持っとくんだよ。」
「あっ、ありが・・・ッッッ!?」
「ここは危ないから、じっとしておいて。グレースちゃん!この子をお願い!」
「分かりました!」
「ふぅ・・・さてっと。」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・
「ぶっ、無事で良かった!ん?どうしたんだ?」
「いっ、生きてた・・・生きてたんだ・・・」
「だっ、誰がだ?」
「ようやく・・・会えた・・・吸血鬼の・・・最後の・・・希望・・・」
「えっ?」
「何だ?貴様は?」
「こっ、これ以上大切な仲間を傷つけることは許しません!!いっ、痛い目に遭いたくなかったら早々にここを立ち去りなさいッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
きゅ、救世主っぽい決めゼリフ、とうとう言えたぁ・・・!




