103―重なる道筋
「つまり昨夜の痩鬼種の狙いは、今回の旅の荷である耳飾りが目当てだった、と・・・。」
翌朝、あたしは朝食の席で夢でカリアード君が言った考えをみんなに話した。
「うん。少なくとも、あたしはそう思ってる。」
「しかしアサヒお姉様、それはさすがに飛躍した考え・・・とも言えないでしょうか?」
「ん~・・・そうかなぁ?でもさぁ、そうだとしたら腑に落ちないんだよねぇ・・・。」
「何が、ですか?」
「だってさ、あの痩鬼種達、襲う前に耳飾りが入ってるポケットガン見してたし、その後互いに何か相談した後で向かってきたんだよ?耳飾りの魔力を感じ取ったとしか思えないんだよ。」
まぁこれは、カリアード君が夢で言ったことを、あたしなりにもう一度考えて思いついたことなんだけど・・・。
「つまりアサヒ殿、昨夜の痩鬼種たちはあの耳飾りの魔力を感じ取り、それで襲い掛かってきたとでも?」
「いや、それも違うと思う。」
「どういうことですか?」
「だってさぁ、耳飾りの魅了の力ってめっちゃ強力なんでしょ?だったらアイツ等は、仲間を殺してでも手に入れようとするはずじゃん。でもそうはならなかった。協力して、奪おうとしてた。」
「つまり・・・。」
「つまりねだよ?あの痩鬼種達は、誰かに命令されてずっと探してたんじゃないかな?魂喰い華の耳飾りを・・・。」
ちなみに、仲間割れ云々は、あたしのオリジナル。
まるでカリアード君と一緒に、仲間を説得できてるような気がして、心強かったし、なんだか、嬉しかった・・・。
「これまでのアサヒ殿の考えが事実だとすると、今後も耳飾りをつけ狙って闇の者どもが追手を差し向けることを覚悟しなければならない・・・ということですか?」
ファイセアさんの質問に、あたしは張り詰めた表情で頷いた。
「どっ、どうすんですかぁ~!?早速わたくし達、ピンチですよぉ~・・・!!」
「遅かれ早かれ、こういうことも起こり得たわよ。ビビってたってどうしようもないでしょう?」
「ひっ、ヒバナ様ぁ~・・・。」
「まっ、ちんちくりんの言う通り、私達に危険が迫っているのも事実だし・・・。どうしましょうか、アサヒお姉様。」
「そうだなぁ~・・・。やっぱ、ルートの見直しは必須かも。ノイエフさん、地図持ってたよね?」
「はい。どうぞ!」
ノイエフさんは、内ポケットから地図を出して、それをテーブルに広げてあたし達に見せた。
「ここが今、我々がいるディーブスの街だな。このまま街道を進めば・・・6人目の仲間がいる場所に到着するのは、明日の夕刻だな。道中何事もなければ、だが・・・。」
「そんな・・・!!一日半もあったら敵に襲われるリスクも高まっちゃいますよ!!何かないんですか!?近道的なものは・・・。」
「う~む・・・そうだなぁ・・・このルートを進めば、遅くとも今夜には辿り着けるだろう。」
「そうなんですか!?だったらこの道で・・・!」
「だが、いささかこのルートも、ある意味安全とは言えんぞ。」
「どういうことですか?」
「北方吸血鬼軍の・・・本部の近くをかすめるからだ・・・。」
北方の・・・吸血鬼軍の本部を・・・。
「そっ、そんなルートを通るなんて・・・痩鬼種の群れに追われるより危ないじゃないですかッッッ!!!」
「俺もそう思う。第一、吸血鬼が支配下に置いている場所の近くを通るなんて・・・考えるだけで・・・!!」
人間と戦争状態の種族を怖がるソレットと、吸血鬼に対して激しい憎悪を抱くノイエフさんは、やはり反対のようだった。
「私は、アサヒ殿の判断に委ねる。其方が此度の旅の指揮役なのだからな。」
確かにこの近道は、痩鬼種数十匹に追っかけられるより、よっぽど危なっかしい。
だけど・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ここを通ろう。なるべく吸血鬼に見つからず、こっそり。」
「「あっ、アサヒ殿(様)!?」
「何も絶対見つかるってワケじゃないんでしょ?それに話が通じない痩鬼種よか、吸血鬼の方がちょっぴりマシかもよ?」
「アサヒ様、それはかなり適当すぎる気が・・・。」
「とにかく近道するにはこっちを通るしかないんだから、お願いだから分かって!もし何かあったら、あたしがカバーするから!!」
「わっ、分かりました・・・。でしたら俺は、アサヒ殿に従います・・・。」
「ぜっ、絶対に・・・絶対に守って下さいねッッッ!!!」
「よし、では決まりだ。この街を出立したら、このルートを通ることにする。」
あたしの案が通って、みんなは再び朝ごはんを食べ始めた。
ただ一人・・・リリーだけを除いて・・・。
「アサヒお姉様、馬小屋の禍犬種の様子を見に行きたいのですが、着いて来てもらってよろしいですか?」
「うっ、うん!分かった。」
リリーはあたしを連れ出して、宿屋の裏に一緒に入った。
「ミラお姉様!何をお考えなのですか!?よりによって、北方本部の付近をアイツ等と一緒に通るなんて・・・。」
「あはは・・・やっぱ・・・無理が、あった?」
「当たり前でしょう!どうするのですか!?もし北方本部の者と出くわしたら・・・。」
「そん時は・・・あたしが囮になるフリして、引き離したトコで正体をバラす。」
「なっ・・・!」
「あたしが誰か見せて、事情を詳しく話したら、向こうだって分かってくれるよ。」
「しっ、しかし・・・!救血の乙女たるミラお姉様が人間と行動をともにしていることで、あらぬ誤解をされたりでもしたら・・・!!」
「大丈夫だよ!だって吸血鬼のみんな、優しい人ばかりだから!!リリーもそうでしょ?」
「ッッッ!!!もうぅ・・・ミラお姉様ったら・・・。分かりました。そのように仰るのなら、私はもう何も言いません。ミラお姉様ったら、本当に記憶が無くなったか疑わしいほどお人好しなのが変わりませんね。」
「“でもそこが好きぃ~♡♡♡”でしょ?」
あたしがからかうと、リリーは顔を真っ赤にしてみんなのトコに帰っていった。
実際あたしも、どういう風に転ぶかなんてまだ分かんない。
だけどみんなを無事がちょっとでも保証されるんだったら、あたしはそれに賭けてみたい。
考えをポジティブに!!
きっと・・・大丈夫だと思うから。
◇◇◇
「ということで、ヴェル・ハルド王国に今のところ目立った動きはありません。先の戦いで、ミラ様に恐れをなしたのでしょう。」
「アイツおっかないからねぇ~♪向こうの気持ちが痛いほど分かるよ。」
会議室でのヒューゴ様の報告に、ラリーザ様は笑みを浮かべながら顎に手をやった。
「今後も彼等は、こちら側に何か仕掛けるつもりはないかと思われます。以上で、私からの報告を終わります。」
「ヒューゴ、ラリーザ殿に例の事を話しておいた良いと我輩は思うぞ。」
「例の事?それって何さ?」
「実は・・・ここのところ、周辺地域で痩鬼種の群れが頻繁に目撃されるようになりまして・・・。」
「痩鬼種?数はどんくらい?」
「数十匹程度。ですが、日ごとに数を増しています。」
「こんなところに現れるなんて珍しいな・・・。で、どうすんの?」
「北方吸血鬼軍の本部付近に近く調査部隊を送ろうかと。もし奴らがそこまで来ていたら、勿論討伐します。」
「あのさぁ、その調査隊の指揮、俺がやるわ。」
「らっ、ラリーザ殿がですか?」
「当たり前だろ?俺が管理してる場所なんだから。結果的にとんぼ返りすることになるけどさ。」
「しっ、しかし!わざわざ執将様が直接出向く必要は・・・。」
「いいだろプルナトぉ~!ここんとこデスクワークばっかで飽き飽きしてたんだよ!久しぶりの鉄火場だぜ?俺が行かなくてどうするよ~?」
「わっ、分かりました。ではここは、執将様にお任せします。」
「うし!決まりだ。じゃあ早速今から・・・。」
「あっ、あの!」
「何だ?」
「わっ、私も・・・ご一緒させて下さい!!」
突然テーブルから立ち上がった私を、ラリーザ様はしばらく見つめた。
「・・・・・・・。いいぜ。付いて来いよグレース。」
「あっ、ありがとうございます!!」
ラリーザ様は、私が同行することを無事許可してくれた。
私としては、珍しく大胆な行動に出たと思う。
だけど、動かずにはいられなかった。
だって・・・ラリーザ様から、私の知らないミラ様の事を聞くことができるまたとない機会が巡ってきたからだ。




