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スキャンダルアイドル  作者: 秋元智也
3/55

3話

いつのまにか怜の家に着くと抱えながら家へと運んだ。

足元もふらふらとしていて、心配で帰る事もできなかった。

部屋に入るとベッドまで運ぶとやっと一息つける。


冷蔵庫にはミネラルウォーターが入っているのでそれを取ってくると

ベッドの側におく。

怜は眠そうにしながら手を伸ばすので渡してやると、ごくごくと飲み

出した。


「じゃ〜俺は帰るから。ちゃんと戸締まりしておくんだよ。」


立ち上がりかけると手を掴まれ後ろに引き寄せられた。

一瞬の事でバランスを崩すとベッドの上に倒れ込んでいた。


「怜っ!…んっ!!」


一瞬何が起きたのか分からなかった。

唇が重なると上にのしかかる体重に身動きが取れなくて恐怖に支配さ

れる。


ー怖い…嫌だ…ー


真っ青になっていく涼の顔色を伺うと怜の手が止まった。

目の前にいるのは同じアイドルのメンバーなのに、今涼の目に写って

いるのはあの日、ナイフ持った見知らぬ男の姿だった。

過去の記憶がフラッシュバックする様に恐怖の対象に見えてしまって

いるのだ。


起き上がると小刻みに震える涼を抱きしめようとすると、明らかに

拒絶されてしまった。

逃げるように部屋を駆け出していってしまう。


どうやって家に帰ったのか覚えていない。

怜の家にいて…そして押し倒されてからの記憶があやふやで気づいたら

家の玄関に座り込んでいた。


社長からのメールもそのままに、倒れ込むように眠った。

朝起きるとスッキリした気分で仕事へと出かけた。

今日はプロモーション撮影が入っている。

新曲が決まってまずは歌入れとジャケット撮影。そのあとで場所を変え

てプロモーション撮影に入る。


各個人を撮っていってあとで、合成していく。

ダンスは決まっていたし、今回はストーリー性のある撮影に挑む事にな

っている。


全員が揃うと、ひさしぶりに賑やかになった。


「昨日の番組見た?俺出てただろ?」

「うん、樹かっこよかったよ。衣装は自前?前も来てた事あるよね?」

「分かった?そうそう。俺のチョイス、センスいいだろう?」


褒めてやると嬉しそうに笑った。


「そういえば朝から大変だったな?涼はライブの次の日、朝のニュース出

 てたろ?あれって怜が断ったやつだろ?」

「うん…仕事貰えるだけで嬉しいから…」

「怜の尻拭いも大変だな?」

「そんな事は…」


少し棘のある言い方をすると聖は怜を睨みつけた。

怜の視線に入らないように間に立つと話題を変える。


「そういえば聖はドラマ決まりそうなんだって?」

「そうそう、見てろよ?俺の顔を一気に売ってもっと人気になるからさ〜」

「それは凄いな〜。俺も見習わないとな〜」

「脇役で出れるように監督に言ってみようか?涼ならどんな役でもきちんと

 やるからいいんじゃない?」

「はははっ…いいよ。聖の立場を悪くしたら嫌だし…頑張って!」


いつも八方美人に振る舞うのも慣れてきた。

自分の感情を押し殺して嫌な事を自分から引き受ける。

それが、ここでの涼の役割だ。

分かってはいても、心がついていかない時もある。


「涼、少し疲れてるんじゃないのか?」

「春…そんな事ないよ。俺は大丈夫!ほらっ春、呼ばれてるよ」


春の番になると背中を押してやる。


「カッコいい春を見せつけてやろう!」

「あぁ、ちゃんと見てろよ!」

「うん」


まるでこれではマネージャーだ。

ため息を吐くと帰ってきた怜を眺めて横に座った。


「俺の悪口でも言っていたのか?」

「そうじゃないよ。この前の事なんだけど…」

「何かあったのか?」

「いや…えーっと、社長から伝言で女遊びはほどほどにって…文春に写真が

 乗る事になるから覚悟しろって…」

「あぁ、それな…いっそ辞めてもいいかもな…」

「えっ…ちょっと待って!今この時期に辞めるっていうの?やっと売れて来

 たっていうのに?まだ俺たちデビューして一年しか経ってないんだよ?」


声が大きくなる。

それを聞きつけた聖が近寄って来た。


「おい、辞めるって本気か?」

「あぁ、それもいいかもな〜。お前ら俺の事、邪魔だろ?」


売り言葉に買い言葉。

聖の視線を睨みつけるように、怜は反抗する。


「ちょっと待って、一緒に頑張って来た仲間じゃん?これからだってずっと

 一緒にやっていきたいって思ってるよ」


涼にとって、精一杯の言葉だった。


「文春撮られて、足引っ張って、今度は辞めますってか?どれだけ迷惑かけ

 んだよ。」


聖にとっては思ったままの言葉だった。

樹が気づいて止めに入ったが、言葉は取り消せない。


「女と寝よーがお前には関係ねーだろ?俺と寝たいってか奴が勝手に群がって

 来るんだよ。男の僻みほど惨めなものはないな?」

「待って!それ以上はダメだよ」


殴りかかろうとする聖を樹に任せて、一旦二人を離した。

火に油を注ぐようなものだった。

決して二人っきりにはしてはいけない。

今日の撮影中は顔に怪我など御法度だ。


個人写真が終わり、全体の集合写真へと移る。


並び順は左から聖、樹、怜、涼、春の順番でお互い肩に手を乗せる。

視線を言われた方に向けると怜の鋭い視線が目に入った。


頬をぷにっと指で押すと驚いたのか、振り返った。


「表情が硬いよ?怜ならもっと自然に笑えるよ!」

「…/////」


にっこりと微笑むと一瞬顔を逸らして、そして自然に表情が緩む。


「いい感じ。さすが怜だね」


小声で言うとカメラを見た。



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