2話
誰もが順調に番組が進んでいる事を確信していて、CMを挟むと進行の紙を見直す。
「本当に涼さんは物知りですね〜、朝の番組のレギュラーになって欲しいくらい
ですよ。一緒だとすっごくやりやすいので」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
お世辞にもちゃんと笑ってかえした。
CM開けて番組は最後までノンストップで進んでいった。
「ではここで番宣があるんですよね?」
「はい、呼んでもらって恐縮ですが、今回初ライブを終えて武道館ライブのDVD
が発売になります。ぜひこの機会に僕達の活躍を見てください!」
営業スマイルをカメラに振りまくと今日の撮影が終わった。
「お疲れ様〜」
「お疲れ様でした。今日はありがとうございます」
丁寧に頭を下げると一人、一人に挨拶して帰ってきた。
さほど眠れていなかったせいか家に帰ると眠気に負けて倒れ込むように眠ってし
まっていた。
その間に何度も事務所から着信があったのだが、それさえも気づかなかった。
夕方に起きるとスマホの着信履歴を見て驚いて掛け直した。
「すいません。何かありましたか?」
『何かじゃないよ!どしてくれるの?文春にすっぱ抜かれるなんて…ちゃんと怜の
事は見張っておいてって言っといたよね?君の役目は金のなる木である怜を繋ぎ
止めておく事と、ちゃんと見張っておく事でしょ?』
「す、すいません。ちゃんと言っておきます」
『しっかりしてくれないと困るよ、リーダー。』
「はい」
こんなはずじゃなかった…。
涼自身同じグループのアイドルなのに…やる事と言ったら、ステージにたっても怜の
アシスタントみたいな事ばかりで、写真も前に出る事はない。
花がない!と言われた通りに目立った才能もない。
マネージャーが失敗しないように、みんなのスケジュール管理して連絡は早めに伝え
る。こんなのアイドルの仕事じゃない!
そうは思っても、やっとデビューして人気も上がってきたのだから我儘なんて言って
いられない。
メンバーの嫌がる仕事は全て引き受けて、涼ができる事でやるしかないのだ。
その為、メンバーの携帯の位置は涼には分かるようになっていた。
怜を探すとバーで飲んでいるのか全く動かなかった。
電車で向かうと夕方だというのに酒を飲んでいた。
隣にはまだ駆け出しの女優が座っていた。
「怜、こんなところで飲んで酔っ払ってたら写真取られるだけだよ。まずは出よう?」
「涼?お前には関係ねーだろ?」
「関係あるよ。何かあったらメンバーにも迷惑がかかるだろう?」
「そんなの関係ねーよ。だったら辞めてやるよ」
「そんな事言わないで。ほらっ、帰るよ」
怜の腕を掴むと立ち上がらせた。
すると覆い被さるように抱きついてきた。
「ならおぶってくれよ?俺もう酔って歩けねーし?」
「はぁ〜?」
一瞬耳を疑ったが、このまま放置するよりはいいかと思うと店を出た。
タクシーを拾うと怜のマンションへと頼む。
「では、お願いします」
「待てって、このままだと俺は次の店に行く!」
「何で?ちゃんと家に帰って休むの、わかった?」
「分かんねーよ、運転手さん、銀座までよろしく〜」
「ダメです!もう、俺も行きますから、目的地はそのままで。」
聞き分けがない子供のような怜の隣に座ると怜の家に向かってもらう。
怜がこんな風になったのは、あの時の事件がきっかけだったのかもしれない。
あの日は連日お披露目を兼ねて握手会をやっていた。
人気順に列の長さが顕著に表れていたあの頃。
涼の列はいつも多くないのですぐに終わってしまう。
そんな毎回の握手会がつまらないと言い出して、衣装チェンジをしたのだ。
涼と怜が、そして春の衣装を樹が、樹のを聖が、聖のを春が着た。
その時はあんな事が起こるなんて思っても見なくて普通にCDをリリースした
記念にと開かれた握手会だった。
列はやっぱりいつものように怜が一番長く終わるのが遅いのもいつも怜だった。
そして、はじまってすぐに事件が起きた。
涼の握手会に参加していたファンだと思われる男性がいきなり涼に掴みかかった
のだった。
ナイフをかざしながら押し倒すと顔目がけて振り下ろしたのだった。
スタッフも唖然として誰も動けないでいる中で、怜だけがすぐに犯人を蹴り付け
殴り飛ばしたのだった。
「このクソが!何がアイドルだ!何をやってもいいのかぁ!俺の彼女を寝とって
おいて他の女どももたぶらかすのか!新藤怜、てめーなんか殺してやる!」
逆恨みだった。
しかも、彼女の言っていたトレードカラーで判断したらしく、顔は知らなかった
らしい。
だから、涼を見て怜と勘違いして飛びかかったのだという。
その日から握手会は無くなった。
ファンへのサービスも極力無くなっていった。
そして、怜の女遊びも盛んになっていったのだ。
涼はそれ以降後ろに誰か立たれると怯える事があった。
分かっている事ならいいのだがアドリブで腕を掴まれるだけでもその時の恐怖が
蘇るのか怯えるようになってしまった。
自分でも、終わった事だと思い込むのだが、恐怖は消えて無くなりはしなかった。