1話
とある事務所では前回デビューした5人組アイドルが話題になっていた。
歌って踊れて、イケメン揃い。
ドラマや映画にも話題は事かかない。
そんなアイドルグループ「ジェニス」が今日武道館でライブを行っていた。
観客の熱い視線に応えるようなバラードが鳴り響き歌い出す。
舞台の中央から迫り上がる舞台。
熱が一斉に集まる。
中央で歌うのはリーダーの涼風涼と新藤怜だ。
金髪の怜に視線が集まり、涼はただのお飾り。
歌も声がハモるにはすごく相性がいいと歌の先生に言われいつも怜のハモリ
に徹している。
黒髪のままの涼に対して金髪にした怜が隣に居るととても目立つ。
まるで引き立て役のようだ。
バラードが終わるとすぐにステージが暗転して次のリズミカルな曲が始まる。
ステージ傍から飛び出してきたのが真っ赤な髪の浪川春だ。
軽いステップを踏みながらパフォーマンスをすると舞台に上がる。
左を最後に指差すとそっちにスポットライトが当たる。
そこには青い髪の今川樹が帽子を深く被り現れる。
そして、顔を隠すようにロボットダンスを披露。
スポットライトが絞られ下から強く当たると影を使って蝶を作ると大きな音
がして一斉に銀色のリボンが会場に降っていく。
最後に右側にライトが当たると満面の笑みで手をめ一杯振っている三谷聖が
立っている。
中央で春が歩き出し歌い始めると左右にいる二人もそれに合わせるように中
央へと集まっていく。
3人が揃うとサビに入る。
歌い終わると、袖からさっきのバラードを歌った涼と怜が合流すると、3人が
上着を脱ぎ捨てると涼と怜が持ってきたモノを投げると受け取る。
同じ色の上着を着ると、客の声援が大きくなる。
そこで曲がうって変わって、ノリのいいのが始まる。
カラフルなペンライトが会場全体で振られてステージ上からはすごく綺麗だった。
熱は最高潮に盛り上がりを見せていてそれに応えるように声を張り上げて歌う。
気持ちのいいステージだった。
ステージを降りても興奮は止まない。
「はぁ〜やっぱり武道館はいいよな〜。観客の熱気が違うよ!」
聖が興奮するように言うとまだ歌い足りないとばかりに服を着替えてアンコール
に備える。
横を涼やかな顔で怜が通り過ぎていく。
「おい、どこいくんだよ!もうすぐアンコールで幕が上がるんだぞ!」
「帰る…、時間分は終わっただろ?」
怜の冷えた声に聖は苛立ちを覚えた。
「お前何様のつもりだよ!普通アンコールまでがコンサートだろ?」
「まぁまぁ、落ち着けって。怜も何か用事があるのか?」
間に入るように笑いながら声をかけ、聖を宥める。
涼の役目といえば、内輪揉めを起こさないように緩和剤になる事だった。
「疲れたら帰る、それだけだが?何が悪い?」
「みんなでやってるんだし、少しは合わせる気はない?ほらっ、声援だって聞こえ
てきてるし…怜、あと少しだけ付き合ってくれない?」
「…面倒くせっ。」
小声で言ったのだろうが、部屋にいる全員に聞こえていた。
スタッフの人も聞こえていたのか気まずそうに顔を背けた。
「ごめん。今日はアンコールなしでお願いできるかな?」
「何でだよ!こいつの我儘に何で俺らが付き合わなきゃなんねーんだよ」
「聖ごめん、本当にみんなごめんね。」
スタッフやメンバーに謝るとその間に怜は帰っていってしまう。
最初グループを組んだ時はこんな自分勝手にする人間ではなかった。
いつのまにか、我儘を通すようになって、誰の言う事も聞かなくなってしまった。
「春、今日は大丈夫?舞台が迫り上がった時捻ってなかった?」
「気づいてたんだ〜、大丈夫。最初ひやっとしたけど今はどうもないよ!」
「それならよかった〜」
マネージャーも気づかない事にも涼は気がつく事が多かった。
コンサートが終わると関係者スタッフさんまで、お礼を言いにいくとそれから帰る
ので遅くなることが多かった。
「ね〜涼って明日の朝ロケじゃないの?」
「あぁ、5時からだから早く帰らないとだね。」
「マジか〜、俺はそんな早くは嫌だな〜」
「これも仕事だから…。樹も昼の番組でるんだろう?ちゃんと休めておきなよ」
「はーい」
樹は聖と一緒にマネージャーの車で帰っていく。
春は電車を使う生活をしている。
もちろん、涼も自力で帰るしかない。
「こういう時、車があるといいんだろうけどな〜」
怜は車の免許を取って乗り回している。
本当なら、ライブ会場へは事故を防ぐために車で行くのは禁止されているのだが、
怜が聞くはずもなく、自分勝手に振る舞っていた。
ため息を漏らすと片付けて帰る。
家に帰っても一人暮らしの部屋には誰もいない。
ただ眠って、そして仕事に行くだけだった。
朝の情報番組に呼ばれていたので、朝はとにかく早い。
本当だったら怜にきた仕事なのだが、『朝早いのは嫌だ』と一言いわれ、代わりに
涼が行く事に決まったのである。
「今人気の『ジャニス』のメンバーの涼さんが特別ゲストできてまーす」
「おはようございます。こんな朝の有名番組に呼んでもらえて光栄です」
「またまた〜、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気アイドルが謙遜しないで下さいよ〜」
「はははっ…いつも見て勉強になります」
司会者への対応も欠かさず即座に返した。
番組の進行を妨げてはならない。朝の時間は貴重なのだから…。