最終話 暗黒女帝。それが私たちの生きる道
一か月後。エレクトラとアンナの祖母アリアドニが警察に出頭した。
ランド王子暗殺未遂事件の首謀者として名乗り上げたのだ。
この事件がきっかけでエレクトラの実家は宮廷内で立場を失い、後退の憂き目に遭う。
アリアドニは警察署に行く前にアンナの前に現れて「貴女の人生を壊してしまった。すまない」と言い残したという。
アンナは馬車が来るまで精気を失い枯れ枝のようになったアリアドニの手を取り泣いたという。
「アリアドニ様はさ、私の母さんを巻き込んでしまった事を死ぬほど後悔していたんだとさ」
「女帝アリアドニも人の子、子の母というところか。結局誰も救われない話になってしまったな」
しのぶはアリアドニ本人から他の王族を暗殺するように依頼を受けた時の事を思い出す。
おそらくは彼女は正しい血統にこそ正義が宿ると信じていたのだろう。
その結果自分の子供が死ぬ事になったとしても彼女は心を鬼にして正義を守り続けたのだ。
しのぶはMGグフカスタムを購入する資金をアリアドニから受け取ったお金で払っていたので彼女の事を悪人だと思わない。
なぜならしのぶにとってガンプラは人の命よりもずっと重い物だから。
「お前らの実家はしばらく大変な事になるそうだな、同情するぜ。それでエレクトラは今どうしているんだ?」
アンナは校庭に設置されたベンチの上に座り、勇者学園の校舎の方を見る。
今日はしのぶのおなら暴発事故によって休んでいたエレクトラとアンナが久々に復学した日だった。
事故は学園内に入り込んだ人型の魔物(※ピカ虫の事)が引き起こした災害という形で処理され、アンナとエレクトラに至っては不問という形で落ち着いた。
もっともアンナとランドは偽り恋人関係だったという話は学園虫に広がり、ランドが火消しに躍起になっている。
「彼女は今、校長室で事故の説明をしているはずよ。前とは立場が変わったから教員たちも強気でしょうけど、エレクトラが本気を出せば…」
アンナは悪戯っぽく校舎二階の職員室の窓を見た。
「ワームホール・リリース‼」
ド‼ド‼ド‼ド‼ド‼ド‼ドカーン‼
暗黒のオーラが窓ガラスを突き破り、爆発と共にガラス片が飛び散っていた。
エレクトラが教師たちのワームホールを解放した証拠である。
おそらくは会議が終わった後、勇者学園の教師たちはエレクトラの穴奴隷になっている事だろう。
「アイツ、でかくなりやがって…」
しのぶはただの悪役令嬢だった頃のエレクトラを思い出し、涙を流した。
「ふふん、流石は私の戦友。この調子なら夏の全国高校生対抗ワームホールマスター大会優勝も夢じゃないわね」
アンナは何かを思いついたらしく勢い良くベンチから立ち上がった。
「というわけで勇者学園ワームホールマスター部の監督さん、お願いね」
しのぶに向ってアンナは手を出した。
しのぶは頬を掻きながら微笑む。
「その話、辞退ってわけにはいかないかな」
アンナは素早くしのぶの背後に回って肩を掴む。
この時、しのぶは首筋に刃物を当てられた気分になっていた。
ポタリ、ポタリと冷たい汗が額から落ちる。
「ははっ。…却下に決まってるだろ」
アンナはしのぶの首輪についた鎖を引っ張り、彼を部室まで連れて行った。
しかしそこはふじわらしのぶとでも言うべきか、美少女二人に首輪と鎖で飼われているという趣向に新たな価値を見出す。
(この際だからポチとでも呼んでもらおうかな…)
アンナとしのぶはかつてラクロス部が使っていた部室に辿り着く。
部室の内外はアンナとエレクトラが暴れまわった為に夥しい流血沙汰の痕跡が残っていた。
「よう、しのぶ‼元気だったか‼」
部室の中にはピカ虫とムキムキの美女、そしてフランシスらがいた。
フランシスはあの後、エレクトラの押しかけM奴隷となり彼女の後をつきまとっている。
しかし暴力女としての本性を現したアンナは相当苦手らしく、彼女の影が見えると部室の隅に逃げてしまった。
「ピカ虫、そちらの女性は?」
しのぶはマッスルフォームになったピカ虫のとなりにいる淡いブロンドの女性を指さす。
「誰って…ピ虫だよ。この前の冒険でサトシが見っけてきた…俺の彼女?」
ピカ中はガラにもなく照れている。
「ピカ。アンタ誰だい、この冴えないおっさんは?」
(もう嫁さん的な立場か。ピカ虫のヤツ)
しのぶは部室の窓を開けて外の景色を見る。
ジャリッ‼アンナがすごい目つきで鎖を引っ張った。
「テメエまた逃げるつもりだっただろ?」
「誤解だ、アンナ。それより主役が戻ってきたみたいだぜ」
ガラガラガラッ‼
勢い良く部室の扉が開いたかと思うと、黒アゲハ蝶のようなコスチュームを着たエレクトラが息を切らせながら現れた。
「おおッ‼我が女神エレクトラ‼」
フランシスと彼の仲間が一斉にエレクトラのもとに集まる。
しのぶとアンナとピカ虫たちは呆れながらエレクトラのところに向った。
「一回戦の相手が決まりましたよ。優勝候補の一角、エクスカリバー学院です‼でも私たちは負けません。なぜならば私たちには世界最高のワームホールマスターがついているのですから‼」
エレクトラはしのぶに向ってウィンクをする。
「やれやれ。まだ俺のお世話が必要ななのかよ。お前ら、全員今日からガチョウ歩きで登校しやがれ‼」
しのぶはお尻の穴から竹刀を取り出して振り回す。
笑顔満面で部員たちは元気いっぱいに挨拶をした。
「はい、コーチ」
一年後、勇者学園は世界一のワームホールマスターを誕生させる。
その名はエレクトラ。後に暗黒女帝とよばれる女性である。
~ 完 ~