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第五話 復讐の炎は愛憎と共に消える


 「なるほどこれで話が繋がったな。アンナは正当な王位継承者だったハイデル王子の子供、ゆえにランドを暗殺する為に近づいたという話か…」


 ハイデルの弟ヨハンは実の兄弟だったが、太陽の紋章は持っていなかった。

 数十年前しのぶはアンナの養母アリアドニからヨハンの暗殺を依頼された事があった。

 王家の傍流出身のアリアドニは紋章持ちでは無いヨハンが王になる事を何よりも恐れていたからである。


 しのぶはガンプラ資金を得る為にヨハンの肛門に暗黒突きを十連発ほどぶち込んで殺そうとしたが間違ってハイデルの方にぶち込んでしまった。


 それでもハイデルが死ななかったのは暗黒門使いの対極的な位置にある太陽の紋章の持ち主だったからだろう。


 「すまん、アンナ。お前の親父の肛門を拡張したのは俺だ、許せ」


 しのぶは頭を深々と下げる。


 「お父様を痔にしたのは…お、お前だったのか―ッ‼」


 アンナは泣きながら手持ちの魔法杖を振り回す。

 今は亡きアンナの父ヨハンは夜毎に痔で苦しんでいた。


 そして娘のアンナもまた…痔になり易い体質になっていた。


 「待ってくれ、アンナ‼ふぐおっ‼」


 ランドの顔面に魔法杖がヒットする。

 ランドはうつ伏せになって倒れ、地面にどくどくと鼻血を垂れ流す。


 「今は眠っていてランド。次に目が覚めた時には悪夢は終わっているから」


 アンナは気を失ったランドの横面に接吻する。


 それは永遠なる別離の挨拶だった。


 「アリアドニ様はご自身の血統から紋章持ちが出る事を決して許さない。また王家の継承者は絶対に太陽の紋章を持った者しか継がせない。だから私は死んだ両親の名誉を回復させる為に、貴女を排除しなければならないの」


 アンナは勇者学園の赤い学生服を脱ぎ捨てた。


 学生服の下には空手の胴着を着込んでいた。

 胴着の色は黒く、背中に”暗黒太陽拳”というロゴがついていた。


 「あれは暗黒太陽拳の継承者だけが身に纏う事が許されるという伝説の胴着…。ぬううッ‼まさか現代に暗黒太陽拳の使い手がいようとはな…」


 しのぶはアンナのぺったんこなオッパイとエレクトラの美巨乳を見比べる。


 (いかんな。どちらも女性から見てナイスバディというデザインであり、対魔忍”鬼崎きらら”先輩に比べると物足りない…)


 しのぶは両腕を組んで目を閉じる。


 「気をつけるのじゃ、エレクトラ。アンナの使う”暗黒太陽拳”とは敵の体に存在する経絡秘孔を突く事によって体内のメタンガスを暴発させる技なのじゃ…」


 「しのぶさん、それはつまり…」


 「下手にヤツのパンチを食らうとダメージと一緒に屁をぶっこく‼」


 他人の前で屁をする。この破廉恥な行為は暗黒令嬢に身を堕としたエレクトラとて避けて通りたい行為だった。


 「しゃらぁぁぁぁぁッ‼」


 アンナは中指を中心に人差し指と薬指を固めて貫手を作る。

 そこから繰り出される無限にも等しい連打技、修羅紅陽千手突き。

 岩をも砕く必殺拳をエレクトラはふじわらしのぶの体を使って受け止めた。


 「しのぶさん‼先日わたくしの聖域に無断で不埒な事をした責任ここで取ってもらいますわよ‼」


 「ぐおおおおおッ‼ごっつあんです‼‼」


 しのぶはアンナの手刀を自慢のチンコで全て叩き落とした。


 「流石は初代ワームホールマスター、チンコにこんな使い方があったなんで知りませんでした」


 アンナは今の攻防で指を骨折していた。

 

 以前のアンナは毎日試割りなどをして部位鍛錬を欠かさなかったがランドと交際するようになってからは舞踏会に参加するイベントが重なってしまった為、思うようにトレーニングに時間を使えなくなってしまったのである。


 アンナは右の拳の赤くなった部分をペロリと舐める。


 「エレクトラ、防御は私にまかせてお前は攻撃に集中しろ‼」


 ぶーッ‼言いながらしのぶは盛大に屁をこいた‼


 「ぐえええッ‼」


 エレクトラとアンナはあまりの臭さにユニゾンして悲鳴を上げる。


 (許せ。エレクトラ、アンナ。男は四十歳を超えると何かをした際におならが出てしまう悲しい生き物なのだ)


 しのぶは心の中で二人に謝る。


 そして…、ぶぅぅぅぅぅぅぅぅーーー‼‼


 一回目よりもさらに強力な屁をこいた。


 「ぐおおおおおッ‼」


 アンナとエレクトラは同時に気絶してしまった。

 それから二時間後、二人はしのぶの手で保健室のベッドに運ばれていた。


 「ううん、ここは一体…私はどうして保健室にいるのかしら」


 エレクトラが身体を起こすと隣からアンナが話かけてきた。


 「お目覚めのようね、エレクトラお嬢様」


 「アンナ?」


 エレクトラは意識を取り戻してから始めて鼻から息を吸い込む。

 すると鼻の穴が腐り、内臓が溶けてしまいそうな悪臭が襲いかかった。


 「うおええええッ‼」


 「まだ息をしない方が賢明だわ。私もさっき死にかけたから…」


 シィ…。隣のベッドとの仕切りになっているカーテンが開かれるとそこには鼻用のマスクを装着したアンナの姿があった。


 「私たちの勝負はどうなってしまったの?」


 エレクトラは出来るだけアンナの方を見ないように尋ねる。

 今のゲルググみたいな顔になってしまったアンナを見てしまえば、エレクトラでなくとも笑ってしまうだろう。


 「別に我慢しなくてもいいわよ。低い身分に生まれたせいで笑われてばかりの人生だったから」


 アンナはどこか不貞腐れた口調で言い放つとベッドに体を倒して寝返りをうつ。しのぶのおならの後遺症でいつもの猫かぶりが出来なくなっていたのだ。

 旧友の意地っ張りな姿を見たエレクトラはクスリと笑ってしまった。


 「あら。それなら私も似たような物よ。何の取柄もないくせにいつも空威張りをして周囲からはバカ貴族のバカ娘って陰口を叩かれていたから」


 エレクトラはエアコンの風を浴びながら自嘲の入った愚痴をこぼす。

 自分は常に優秀な人間だと言い聞かせていたが、そうではない事は自分自身が一番良く知っていた。

 

 「あははは。…自覚あったんだ」


 「まあね」


 それも今となってはどうでもいいことだった。

 親友と認めた少女と本心から語り合えるという成果を手にしたのだから、今までの肩書など塵に等しい。


 「ねえ、アンナ。改めて私の親友になってくれない?」


 エレクトラは隣のベッドで横になっているアンナに手を伸ばした。


 「平民の私と?…冗談でしょう」


 アンナは後ろを向いたまま手を振る。本当は嬉しくて泣いていた。

 学園ではひどく冷淡な人間として知られるエレクトラは誰よりも優しく、情深い女性だという事を。


 「今度は一人の人間として貴女と向き合いたい、だなんて厚かましいかしら」


 エレクトラは伸ばした手を引かない。


 アンナは起き上がりバツの悪そうな顔でエレクトラの手を取る。


 「じゃあ友達じゃなくて、知り合いから」


 「うふふ。そうね」


 エレクトラとアンナは互いの手を取り微笑んだ。


 「尻の穴の話だけに、お知り合いとは実に美しいじゃないか」


 しのぶは保健室の入り口の前で二人の女性の絆が紡がれた事を心から祝福する。


 (私はここで消えるとしよう。これから始まるのは二人の物語だ)


 しのぶは踵を返し、学校の入り口に向かう。


 「おい、クソデブ。ちょっと待てや。このまま逃げられると思ってんじゃねえぞ…」


 ダンッ‼

 ドスの利いた女性の声と共に、保健室の中から校舎のそのものを破壊しかねない”音”が響いた。


 「とりあえずしのぶさんは正座で説教ですわね」


 しのぶは後ろ歩きで保健室に入り、日が暮れるまでアンナとエレクトラに説教されることになった。

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