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第四話 ヒロインと暗黒女帝。そして暴かれる陰謀


 「エレクトラッ‼その姿は一体…‼」


 ランドは変わり果てたエレクトラの姿を見て顔面蒼白となる。

 先日までは菫の華をモチーフにデザインされたドレスを纏っていた元・婚約者がSMの女王様のようなコスチュームを着ているのだから驚くなという方が無理な話だった。


 「エレクトラ、使え‼」


 しのぶはマイバッグの中から電磁鞭を取り出してエレクトラに渡した。


 「しのぶさん、この鞭は一体⁉」


 「その鞭で打たれた者は痛みがクセになってお前の奴隷になる。悪役令嬢から暗黒令嬢にクラスチェンジした今のお前なら使いこなせるはず‼」


 しのぶは生き残った近衛兵の背後に回り、ワームホールをぶっ刺した。


 「はぐうッ‼」


 「びうぅッ‼」


 ワームホールを開通させられた近衛兵たちは短い悲鳴を上げたかと思うと至福の表情を浮かべながら倒れてしまう。


 「私は暗黒の力に染まりし令嬢エレクトラ‼私の前に立ちふさがる者は誰であろうと…てぇぇぇいッ‼」


 演奏者に向って指揮棒を振るうマエストロのように電磁鞭を振った。


 ピシィッ‼ピシィィッ‼


 電光と共に近衛兵たちの衣服は切り裂かれ、後に残ったのは意識を失ったまま恍惚の笑顔となった者ばかり。

 暗黒令嬢エレクトラは無人の野を征くが如く、ランドとアンナの前に歩みを進めた。


 「お久しぶりですね。わが友アンナ、そして元婚約者のランド殿下」


 エレクトラは二人に優雅な笑みを贈り、華麗に頭を垂れる。

 儀礼的でありながらも好戦的な姿勢に周囲はエレクトラに畏怖の視線を集める。

 王太子ランドもその一人だった。


 「私を憎んでいるのか、エレクトラ…。だが私とてどうしようもなかったのだ。まさかフレイムドラゴンの徘徊する最難関ダンジョンに取り残されたお前が生還するなどと…」


 ランド王子は額の汗を拭う。


 平素は周囲からその堂々とした王族然とした振る舞いに尊敬を集める偉丈夫だったが、今は己の不明の為に返答を窮する童子にしか見えない。


 ピシィッ‼


 エレクトラの懲罰の鞭がランドの手の甲を切り裂く。

 彼女の鞭の虜となった者たちは女神を慕う信徒の如き視線を向ける。


 (まずい。これは俺でも責任が取れん)


 しのぶは己の軽率な言動に責任を感じていた。


 「どうかお口を閉じてくださいな、ランド様。仮にも私の婚約者だった男が今では蛇に睨まれた蛙のよう…王家の威厳を損なう結果にしかなりませんわよ?」


 エレクトラはいざという時の為に用意しておいた縄でランドの体を拘束する。

 どこで覚えたのかは知らないが亀の甲羅のような模様の縛り方だった。


 (痛い。苦しい。でも少しだけ嬉しい。というか、これでは言いわけの仕様が無い)


 うつ伏せに転がされたランドは自分の背中を踏んでいるかつての婚約者こそが己の真の主人である事を認めつつあった。


 「さあ‼今度はどこをどうして欲しいの⁉語尾に”ワン”を付けて言ってごらんなさい‼」


 「落ち着け、泥女王ドロンジョ‼これはSM小説じゃないんだ‼」


 しのぶは暴走したエレクトラをランドから引き剥がす。


 「エレクトラ…、よくもランド王子にこんな事をしてくれたわね」


 肩を震わせながらエレクトラの親友だった少女アンナが立ち上がる。


 ランドはクラスメイトらによって縄を外され衰弱した状態で倒れていた。


 「オホホホ‼そこのランドは貴女の婚約者‼ワタクシにとっては野良豚にすぎませんのよ‼オーッホッホッホ‼」


 エレクトラは口元に左手を当てながら高笑いをする。

 この時、エレクトラのキャラは完全に壊れてしまった。


 「バカな。あの完全会員性秘密クラブの女王様のような姿をした貴婦人が、あのエレクトラさんだと⁉」

 

 フランシスが近衛兵たちに支えられながら現場に復帰する。

 しかし悲しいかな、今のフランシスはピカ虫の攻撃によって受けたダメージの為にまっすぐ歩く事が出来ない。

 勇者学園の制服を軍服風にアレンジした一張羅も端が焦げて台無しになっていた。


 (こんな事ならお金を渡して毎日ムチをもらうべきだった)


 フランシスは心底悔しそうな顔をする。


 護国の軍神と称されるバドラー将軍の一人息子、フランシスは厳しく鍛えすぎてマゾ体質になっていたのだ。


 「野良豚とは言ってくれたわね。私がランド王子に近づいたのは貴女のお祖母様の命令だというのに…」


 「私のお祖母さまの命令ですって⁉いい加減なことを言わないで頂戴‼」


 ヒュン!ヒュン!ピシャンッ‼


 流星群の如き鞭の乱舞がアンナではなくフランシスに襲いかかる。

 フランシスは衣服を切り裂かれ、その美しい細面を朱に染めた。


 「ふあ、ああああああ…ッ‼こんな、こんな世界があったなんて‼ああ、エレクトラさん‼いやエレクトラさま…ッッ‼」


 バリバリバリッ‼


 フランシスは上着を脱ぎ捨て均整の取れた細マッチョを晒した。


 「この卑しい豚ンシスに鞭を、もっと鞭を下さいっ‼ぶひいいいいんッ‼」


 フランシスは煩悶しながら地面を転がった。


 「エレクトラ、これ以上フランシスにご褒美をやるな‼社会復帰できなくなるぞ‼」


 ドスッ‼しのぶはフランシスの首の後ろに手刀を落として動きを止めた。


 「私の本当の主は、貴方のおば様のラクシス夫人ではない、お祖母さまのアリアドニ様よ。貴方にはショックな出来事かもしれないけど、ランド王子は王家の血を引いていないという噂があるのを知っているかしら?」


 エレクトラの知るアンナの素性とは、叔母ラクシスの統治する領地にある修道院で赤ん坊の頃に拾われたという話だった。

 それがまさか平民を極端に嫌う祖母の使いの者とは耳を疑うわねばならない事実である。


 「そんな根も葉もない噂を、この私が信じるわけがないでしょう。貴女は勇者学園に成績上位者として通いながら王族侮辱罪という罪をご存知ないのかしら?」


 ランドは心ここにあらずといった状態でアンナの姿を見ていた。

 そんな失意の中にあるランドを見たエレクトラはアンナに怒りを覚える。


 「やはり何も知らないのね、お可哀想なエレクトラ様。そこの偽王子は生まれた時に亡くなられた本物の王子様の代用品。それを証拠に王家の一員である証の…”太陽”の紋章を持っていない」


 そう言ってアンナは右手の甲をエレクトラに見せる。

 幼い頃に火傷をしたといって包帯で隠していた箇所には燃える太陽の紋様が彫り込まれていた。


 「アンナ、貴女正体は一体誰なの?」「私は若くして死んでしまった現国王の兄ハイデルと貴女の伯母イリーナの間に生まれた子供…。この男のせいで私は存在さえ許されなかった」


 アンナは怒りと悲しみが同居した悲壮な顔を見せる。


 思えばそれが操り人形だったアンナという人間が表で見せた素顔だったのかもしれない。


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