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第三話 暗黒女帝の出陣


 翌日、勇者学園。


 エレクトラはしのぶとピカ虫を連れて玄関の前に立っていた。


 エレクトラは悪役令嬢御用達の青と黒を基調としたドレスからワームホールマスターの衣装に着替えていた。

 尚しのぶの頬にはデカイ平手打ちの跡が残っている。

 しのぶとピカ虫はそれぞれ「主役奪還」と「恋敵打倒」というのぼりを持っていた。


 「ピッカー。しのぶ、この幟ってお前が作ったのかよ?」


 「フフフ。可愛い弟子の門出だ。これくらいは頑張らないとな」


 「二人とも、ランドとアンナが来ましたわよ!」


 エレクトラはそう呼びかけた後、校門の方を指さした。

 一組のカップルを中心に勇者学園に通う学生たちが集まっている。

 カップルの男性の方が優雅な笑みで手を振ると学生たちは歓声を上げてそれに答えた。


 「ピッカー…、あれがランドか。何だエレクトラがゾッコン(死語)っていうからどれほどいい男かと思えばサトシの方がずっといい男だぜ」


 ピカ虫は刃物のような視線をランドに向ける。


 「お前から見れば人間なんてみんなサトシ以下のゴミクズだろう。全く話にならん。エレクトラ、気にするなよ」


 しのぶはワームホールマスター専用の黒を基調としたドレスを身に纏う暗黒令嬢エレクトラの様子を窺う。


 「おのれアンナ‼私のランドの隣に立って登校だなんて…かくなる上は貴女のワームホールを限界まで拡張して瞬間接着剤で…」


 しのぶは暴走寸前のエレクトラの手を取った。


 「落ち着け、エレクトラ。俺の教えたワームホール支配の技能は復讐の為に使ってはいけない。あくまで選択肢の一つくらいに考えるんだ」


 エレクトラは返事の代わりに強引に手を解いてから背中を向ける。

 しのぶは最初からこうなる事を知っていたのでため息をこぼす。

 強すぎる力は人の心まで変えてしまう。


 古来よりトランクス、うちはサスケ、デスピサロらのように闇堕ちして取り返しのつかない失敗をする者は後を絶たない。


 「おい、エレクトラ。あの軍服みたいなのを着ている連中は?」


 ピカ虫はランドと穴を取り囲んでいる屈強な男たちを指さす。


 「あれは近衛兵ですわ。ランドが勇者学園で危険な目に遭ってもすぐに対応できるようにバトラー将軍が配置したと聞いています」


 「ハッ、そういう事かよ。じゃあ俺がお前とアンナがタイマンできるように数を減らしてやらあッ‼ピッカチュゥゥゥゥゥゥッ‼」


 バリバリバリッ‼


 全身から電気を発してピカ虫(マッスル形態)は近衛兵に襲いかかった。


 「殿下、お気をつけください‼学園内に魔物が侵入しているようです‼」


 ランドとアンナの後ろにいた金髪の男が二人に声をかける。


 「バカな、ここは勇者学園だぞ。警備はどうなっている⁉」


 ランドはアンナの手と取って自分の後ろに向かわせる。

 近衛兵の長と思われる男は蔑むような視線をアンナに向けた。


 「伝統ある勇者学園といえど最近はかような害虫がうろつく様子。油断はなりませぬ」


 「フランシス、アンナを侮辱するな。将軍の息子であるお前でも容赦せぬぞ‼」

 

 ランドはフランシスに向って手を払い、彼を近衛兵たちのもとに追い返す。


 フランシスは疎ましそうな顔でランドとアンナを見た。


 (クソ無能王太子が。お前が庶民の女に興味を持つから私がこんな雑務をしなければならなくなったのだ。さっさとバカ貴族の娘と籍を入れてしまえばよい物を)


 フランシスは人目も憚らずに親指の爪を噛む。

 彼の父バドラー将軍は生粋の国王派だったが、野心家のフランシスは王の権力を形骸化させて厳格な法と強力な軍隊で統治する革新派の人間である。


 「フランシス様、大変です。魔物がすぐそこに‼」


 近衛兵の悲痛な叫びがフランシスの耳に届く。


 「ピッカー‼ライトニングプラズマ‼」


 フランシスと近衛兵たちはピカ虫のパンチを受けて吹っ飛んだ。


 「おいおい。俺はまだ”わざ”使ってないんだぜ?軽く触れただけでグロッキーになりやがって…この国のセキュリティはどうなってやがる」


 ピカ虫は古代ムエタイ、ムエカッチュアーの戦士ジャガッタ・シャーマンを物理的に折り畳んだ後の範馬勇次郎のような邪悪な笑みを浮かべる。


 ごりっ‼…ぶんぶんぶん‼


 右手を大きく回して関節を可動領域を確かめて次の獲物を探した。


 「流石はピカム虫さん。精鋭揃いの近衛兵を一網打尽にしてしまうなんて…」


 暗黒令嬢となったエレクトラは鋼のようなピカ虫の打撃技の為に特化した背筋に熱い視線を送る。


 プルルルル…。


 その時、しのぶのガラケーにサトシから着信があった。


 「はい、ふじわらです。…え?今からピカ虫を迎えに来るって?」


 サトシは別の地方に行く事になったのでしのぶのところに預けていたピカ虫を迎えに来ると言い出したのだ。


 しのぶは近衛兵を踏んづけて敵の返り血に酔っているピカ虫を見た。


 「サトシ君。明日でもいいんじゃないか?君も忙しいんだから休んだ方がいいよ」


 「ふじわらさん‼もしかしてピカ虫に何かあったんですか⁉」


 しのぶの言葉の行間を読んだサトシが尋ねる。


 「死ぬには早いぜ、雑魚ども。俺に逆らったプチモンがどうなるかたっぷりと教えてやらなければなあ‼ゲハハハッ‼ピッカチュゥゥ‼‼」


 ポンポンッ。


 しのぶは哀愁漂う顔つきでピカ虫の肩を叩く。


 「ピカ虫。サトシがお前を迎えに来るってよ」


 「うおッ⁉マジか‼そいつはやべえ…元の姿に戻らねえと」


 ピカ虫は全身から電気を発して体内のマッスルエネルギーを排出する。


 ビビビビビビビビッ‼


 それから10秒くらいでピカ虫は愛らしい姿に戻った。


 「おーい!ピカ虫、そろそろ次の町に出発するぞー」


 トレードマークのプチモンブリーダ―の帽子をかぶった少年サトシがカスミっぽい女の子とタケシっぽい男の子を連れてやってきた。


 「ピカチュウ‼」


 ピカ虫の声は江川央生から大谷育江に戻っている。

 ピカ虫はサトシの腕に抱きつくと頬ずりしていた。


 「コイツ、しのぶさんのところでさんざん他のプチモンと遊んでいた(※血みどろの死闘)くせに…」


 などと言いながらサトシはピカ虫にお返しの頬ずりをする。


 「それじゃあしのぶさん、今回はありがとうございました」


 ピカ虫をおんぶしてからペコリと頭を下げるサトシ。


 こうしてフランシスは連れていた手勢の半分とフランシス自身が脱臼するという被害を被った。


 恐るべきは歴戦の雄ピカ虫の力か。


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