1−4 はじめてのクエスト
──ギルド。クエストを受注したり飯食ったりするたまり場みたいな所。
「で、来たはいいものの結局どうするよ?」
「わたし達はギルドに来るのも初めてだから分かんないだよね」
「アタシも分かんないんだけど」
「未経験者しか居ないのかよ」
そりゃそうだ。なんたって初めて冒険に出る姉妹と本来なら冒険とは無縁の王女様だ。普通クエストを受けたことなんてあるはずない──まぁ受付の人にオススメを聞くってのがベターなんだろうけどテンプレ通り過ぎるしなあ……いや考えてても埒が明かん。それに1番ダメなのは意見を言わないことなんだよ。
「試しに受付の人からオススメ教えてもらって比較的簡単そうなクエストでも受けるとかどう?」
僕がそう言うと2人は『すっげーあったまいいー!』とでも言いたげなキラキラした顔になった。こいつらひょっとして、ひょっとするとアホなんじゃないだろうか。
「よーっしそうと決まれば王女であるアタシがちょちょいと聞いて来てあげるわよ!」
そう言うとアホは勝手に聞きに行ってしまった。こういうのって普通はリーダーとかが行くところじゃないの?
「……アイツほんとーに王族なのか心配になるぐらい自由奔放ね」
「……もしかしたら意外に王族ってのは変なやつが多いのかも知れないぞ」
「お姉ちゃん、先が不安になること言わないで」
〜80秒後〜
「ふっふー! 早速受注してきたわよーー!」
「ちょいまて展開が早い何があった」
早すぎるだろ、まだ1分ぐらいしか経ってないぞ。
「受付の人にオススメの聞いてそれ受けまーすって言って戻ってきた」
「それぐらい話の流れで分かるわよ。わたし達が聞きたいのはどんなクエストを受けたのかよ」
「『山に巣食うゴブリンの討伐』ってやつ」
「思ったよりはちゃんと決めてるのね。ゴブリンといえば有名な雑魚モンスターじゃない」
どうやらこの世界でもゴブリンは雑魚で有名らしい。いやまあ“この”世界と言っても僕の居た世界ではゴブリンはフィクションの生き物でしかなかったのだが。
「受注したんだから早く向かいましょ! アタシ達の輝かしい冒険者生活と言う名の伝説の始まりよ!」
流石にテンション上がりすぎ──と思ったがコイツは最初っからテンション高かったな。とか思ってたら僕もなんだか気持ちが昂ってきた。
「そうと決まれば行きますか!」
僕達は山へ向かった。
どうやらそのゴブリンが巣食う山は縁畳山と言うらしい。畳縁ではなく縁畳だ。こんな名前だと足を踏み出すことさえもさせてくれなさそうに聞こえるが別にそんなことはなく山の中では比較的安全な部類らしい──安全な土地ならば討伐依頼が出るほどの量のモンスターが住み着いていてもおかしい話じゃない。僕は今、そんな山に向かっているが今はなんの話題も生まれずにただ淡々と時間と足だけが進んで行く気まずい状況になっていた。
「なんか話さない?」
そう言い出したのはあの明るい王女様だった。そういえば僕もギルド出る時は気分が昂りすぎてアゲアゲだったけど今さっきから全然興奮していないな──もっと言ってしまえば元気がないとまで行くんじゃないか? 賢者タイムかよ。
「あのね、アタシ思うのよ。“こ”って強くない?」
いきなり何を言い出すんだこの王女は。謎すぎるだろ。未だかつてそんなセリフ聞いた事ねぇよ。
「ほら、怖いって言葉にも“こ”が入ってるじゃない? ほら強くない?」
「いやそれだけで強いって言えないでしょうが」
「「「…………」」」
「こんな意味不明なことしか言えない奴が話振っても意味ないしわたしが話題出すわ」
もうそういう流れなのかよ。
「“璽”って漢字って使わなくない?」
「って言ってることリサと大差ねーじゃねーか!!!」
ついツッコんでしまった。
「そーそー、るりりの言う通り! アンタこそ意味不明なことしか言えないじゃない!」
「ちょっと待て、るりりって何? もしかして僕の事?」
「はぁ? わたしが言ってる話はちゃんと意味が分かるじゃない。しかもわたしの記憶上だと璽が使われてる単語って国璽ぐらいしかないんだけど王女として国璽の璽を意味不明って言うのはどうなの?」
「なによ〜っ!! アンタだって使わなくないとか言ってた癖に使う単語1つでも知ってるじゃない!」
あれぇ? もしかして僕の存在消されてる? なんにも反応してくれなーい……
「これ以外で使わないって趣旨の話しになる予定だったのよ! これだから話を進ませずにいちゃもん付けてくるバカは!」
「今バカって言った? バカって言ったわねバカって言った方がバカなのよバーカ!!!!」
「そういうアンタだってわたしにバカって言ってるじゃない!」
やばいやばいどうしよう。て言うかコイツら喧嘩しすぎだろ!! いやでももしかしたらセツナなら宥めば落ち着くかもしれないがその後喧嘩をやめたとしてもリサが喧嘩をまたふっかけてきたら元も子もないしな……
ここは普通に注意してみるべきなのかもしれない。それもやさしく、やさしくだ。
「ふ、二人とも一端落ち着いて!」
(スッ)
何も無かったかのように喧嘩をやめやがったぞコイツら。今までのはなんだったんだよ。
「──縁畳山が見えてきたわね」
確かにまあまあな大きさの山が見えてきたが流石に今の話からそこに繋げるのは無理がある。
ん……? 今気づいたけど──
「──遠くに魔法撃つことって出来るの?」
「? そりゃあできるけど」
「確かリサの魔法って強いんだよね?」
「そうよ。アタシは魔法においては最強よ」
「山に目掛けて強いのぶっ放せば一気に倒せて楽なんじゃない?」
「あー確かにアリね。アタシの見せ場になるし。ふふふ、アタシが覚えてる中でも一番強い魔法使っちゃうわ」
そう言うとリサは呪文のようなものを唱え始めた。詠唱というやつだろうか。
「なーんかアンタがそう得意げそうにしてると嫌な予感がするのよね……」
そんなフラグみたいなこと言わないでくれよ。不安になってきゃうじゃん。
「いくわよ! 最強のアタシの最強の魔法『プレミアムウェルダン』!!」
リサの手から物凄い大きさの炎が出た。
わーすげぇ、めっちゃ燃えてる。
山がめっちゃ燃えてる。
山がめっちゃ燃えちゃってる。
「めっちゃ燃えちゃってるけどあれって大丈夫じゃないやつだよね」
「お姉ちゃん、魔法はモンスターだけに効くなんて都合のいいものじゃないからこれは大丈夫じゃないやつだよ」
自称最強の王女様はやってもうたって顔をしていた。
「あっはは、この勢いだとここまで燃え広がってきそうだし早く逃げよ」
「「逃げるつもりかこの放火魔」」
「ほら、こんな状況他の誰かに見られたらアタシ達多分犯罪者よ? 早く逃げましょ」
「「罪から逃げるつもりかこの放火魔」」
「だってるりりが撃てって言うから!」
「なんの魔法使うかぐらい先に言え」
「バレなきゃ犯罪じゃないのよ!」
「王女様がやらかしたって言いふらす事だってできるのよ?」
「国家ぐるみの場合は犯罪にならないもん……」
さりげなく恐ろしいことを言いやがったぞコイツ。
「アンタはごめんなさいも言えないの?」
「そっそれだけは絶対に言わないわよ!」
「お前はワガママな子供か!」
「うぅ……アタシが悪かったです。ごめんなさい……」
「ふふ、謝ればいいのよ謝れば」
口では厳しかったがセツナの顔は、それこそ親が子を思うような優しい表情だった。
まあ山火事が起きたって事実は変わらないんだけど。縁畳山ならぬ炎上ってね。
「目的のゴブリン討伐は出来てそうだし帰りましょ。ほんとに近くまで燃え広がってきてるし」
そうして僕達は文字通り逃げるように帰ったのであった。