1−3 美少女いっぺんとー
何かがおかしい。
宿屋から出た僕は何故かとてつもない違和感に襲われた、がその正体が分からない。
外は見たところ僕が求めていた王道ファンタジーな世界そのものだった。テーマパークでも再現不可能な本物って感じだ。そして見渡す限りの一般人の方々。どんな人がいるのだろうか、どれどれ──美女に美少女に美少女、美少女に美少女と美……
そう、ここで今まで感じていた違和感の正体に気づいた。いや、逆になぜ最初から気づかなかったのだろうか。
男が居ない。
全く居ない。
言い換えてしまえばそこには理想郷が広がっていた。しかも僕も今は女の子になってるから実質ハーレムモノじゃないってのも罪悪感が無くてサイコーだ。思ってたよりもこれからの人生楽しくなるんじゃないか?
そう思うと僕は少し気が楽になったのでした。
だがまだ謎は残っていた。どこに何をしに行こうとしているかだ。
「……んでどこ行くんだっけ」
「えっそりゃお城だけど」
……?
「今はお城に向かってるんだよ」
おいおい嘘だろそんなバカな。よくあるRPGではまず最初に王様にそこまで多くない量のお小遣いを貰うってテンプレはよくあるけど一応これはリアルなのだ、現実。そんな都合のいい話はある訳──でも今までは転生者にとって都合の良いように作り替えられて行ったならおかしくないんじゃないか。つまりアレか? ここでもご都合主義ってか? いや僕はご都合主義が嫌いなわけじゃないから今の状況が嫌ってワケじゃないんだけど、ここで良いことが起こってると後々付けが回ってくるんじゃないかって不安になっちゃうんだよね……
「えっとお城に何しに行くんだっけ?」
「なんか今日のお姉ちゃんいつもより忘れっぽいね」
どうやらいつも忘れっぽいらしい。本当に転生前の僕にそっくりだな。
「王女様に招待されたから行くんだよ。なんで招待されたかは分かんないんだけどね」
なるほどそりゃすげぇな。招待した理由を明確にしないだなんて面倒くさそうな王女様だこと。しかも僕らは別に有名人でもなんでもないみたいだし訳がわからなすぎて怖くなってきた。
そうこうしているうちに奥にお城としか言いようのない中世的な建物が建っているけどあれが今向かっているというお城なのだろうか。でも何故だろう、僕の目には中世的なお城が二つ見える。
「手前にあるお城っぽいのが目的のお城なの?」
「うーん確かあそこはホテルだったはず。奥にある方が目的のピュエラ城だよ」
その時僕は何をする建物なのか分かってしまったのでこれ以上深く考えない事にした。
と言うわけで奥にあった方のお城こと『ピュエラ城』に着いた。そして僕は今、本当に異世界に来たのだと実感した。きっとこの城を見たら誰もが『これぞ正真正銘の異世界!』とワクワクすること間違いない。
僕達は流石に無駄なのでは無いかと思うぐらいデカい門をくぐり抜け城へ入り少し歩いているが城内は想像通り無駄に広かった。
長い廊下、半数が客室用なんじゃないかと思うほどの大量の部屋、正にファンタジー世界のお城と言ったところだ。そしてさっきからメイドをよく見かけるが何人雇っているのだろうか。もしかしなくてもここのスタッフってメイドしか居ないんじゃ無いのかと思いながら城を歩いているととりわけ豪華な扉がそこにはあった。
「ねぇセツナ、この先にその王女様とかがいるの?」
「多分王様がいる部屋だと思うんだけど……王女様も居るんじゃないかな?」
王様!? この世界に来て初めて見る同性は王様なのか!? いや今は異性だけど!
「んじゃわたしが扉開けるよ」
扉はガチャッと言うよりかはギィィに近い重々しい音を響かせながら開かれた。
扉の先には王座と呼べる広間があった。
「ようこそ二人の冒険者よ、我が娘が突然呼び出して済まないね……」
僕達に挨拶をしたのは豪華な椅子に座っていて白い髭が生えている熟年ぐらいに見える人だった。この人は王様と言われれば王様と誰もが納得できるであろう。一体僕は何時間ぶりに男を見たのだろうか、まさか男を見て感動するなんて自分でもびっくりだ。
「よし、入っていいぞリサ」
王様がそう言うと左奥にある扉からドレスを着ていて赤色でふわふわとしたロングヘアーで僕と同い年ぐらいの少女が出てきた。彼女が『リサ』という名の王女様だろう。王女様の隣には髪型がポニーテールでメイド服を着ているクールなイメージの大人な若い女性が出てきた。
「貴方たちがここらで有名な美少女姉妹ね?」
赤髪の王女様は身分の事を気にせず気さくに話しかけてきた。
王女様と言うからには清楚な女の子が出てくるのかと思ったが意外にもサバサバしている子が出てきて驚きを隠せていない。
「あんれー? ピンクの子もしかして緊張しちゃってる? 大丈夫、アタシは王女だけど中身は普通の女の子だから!」
そしてなんか、こう、ウザい。あと常識的に考えて普通の女の子ではないと思います。
「そんじゃあ話戻すよ? アタシは貴方たちにお願いがあって城に呼び出したの。強いんでしょ貴方たち」
王女は改まってそんな事を言い出した。僕達は強いと言うより特殊なだけだと思うんだけどなぁ。
「いやわたしたちは強くないんですけど」
セツナの口から聞いた事のないような無愛想な声が漏れた。 セツナさんどうされたんですか。優しくて可愛い妹は何処へ?
「貴方たちは元々素質があるの! ピンクの子とかステータス極振りしてるし!」
「おいお前僕はなりたくてこうなってるんじゃないんだよ」
「あ〜っ! 王女様に向かってお前って言ったぁ〜っ! ここではお父様も見てるのよ貴方なんて極刑よ極刑!!」
何この人物騒。あんまり関わりたくないな……
「今のはリサが悪いと思うぞ……」
とても寛容な王様がそう言うと王女様は悔しいとばかりに頬をふくらませて喋りだした。
「アタシはね貴方たちと比べ物にならないくらい強いの。そりゃもう王女様なんてやってないでモンスターと戦った方が社会に貢献出来るくらいに強いの。つまり最強なのよ」
「いや王女様やってても十分に社会貢献してるだろが」
「たっ確かにそうだけどそれとこれでは違うの! そうじゃなくてアタシは最強なの!」
「いやだからそれは分かったんだって」
「──つまりアンタがわたしたち姉妹に協力しようっての?」
あれ、今のってそういう意味なんですか。僕の妹察しがいいんですね。
「そうそうそう! そゆこと! アタシは早く冒険したくて仕方がないの! だから仲間に入れてくれない?」
まさかの急展開に勿論僕の脳は追いついていない。自称最強のお姫様が仲間になってくれるだって? 仮に最強ってほどじゃなかったとしても断る理由が無いじゃないか。
「よし決めた仲間になr」
「お姉ちゃんストップ。こんな怪しい王女様仲間に出来るわけないでしょ。わたしたちのチームは姉妹仲良く一緒にモンスターを退治したり宿の同じ部屋に寝泊まりしたりするのが目的なの。こんなヤローと一緒に冒険なんて無理」
「このアタシに向かってひどい! アンタは絶対に極刑よ極刑! でもアタシ知ってるのよ──貴方たちのチームは主戦力がいないってことを。つまりアタシを仲間にする以外選択肢はないの。分かった?」
「よし、じゃあ仲間になろう」
すまんな妹よ、楽な方を選ぶ。
いや、もしかしたら楽だから王女様を連れて行くのでは無いのかもしれない。なぜなら僕はさっきからずっと王女様のたわわな胸元に釘付けだからだ。
「ちょっお姉ちゃん本気……?」
セツナはとてもとても残念そうな顔をした。王女様と仲間になるのがそんなに嫌なのかよ。
「では私が姫様のために予め用意していた荷物を持ってきますので少々お待ちを」
王女様の隣で全く微動だにしなかったメイドがやっと喋ったと思ったらさっき王女様が出てきた扉に戻って行った。
「所で王女様のことはなんて呼ぶべきなんですかね?」
「まぁ一緒に旅する仲間にいっつも王女とか呼ばれてたらキモチワルイものね。あたしは名前で呼んでもらって構わないわよ」
おお、そりゃ楽になるな。
「でもその代わりアタシも貴方たちのこと名前で呼ぶから! よろしくっ!」
「こちらこそよろしく、リサ。私の名前はルリアでこっちがセツナ」
「よろしく!ルリアとセツナ!」
「……わたしの事は名前で読んでいいけどお姉ちゃんには親しく接しないで欲しいから名前で呼ぶのやめてくんない?」
おっとこの流れでそんなこと言っちゃいますか妹さん。
「何? セツナ、貴方やる気なの? アタシは一国のお姫様なのよ? もし何か手を出したら死刑よ死刑。極刑よ!!」
そう言いながらリサは王様の方をちらっと見た。
「わしの国家はそんな物騒じゃない」
あっさり否定された。
リサは今にも泣きそうな赤面でまた頬をふくらませているが、流石に可哀想なんじゃないか。
「お姉ちゃんっコイツは絶対要らないよ。今からでも遅くないからリーダーとして最終判決を下して!」
僕ってリーダー扱いなんですか。しかも最終判決て。僕なんて上に立てるような大層な人間じゃないのになぁ……やっぱりここまで来たら連れて行くのが一番だよ。
「流石に可哀想だから連れていくよ。あとお前らは仲良くしろ」
「……まぁお姉ちゃんがそう言うならそうするけど……」
セツナはリサに僕のときとは別人にしか見えないぐらい気が乗っていない手つきで手を差し伸べた。
「ほら立って連れていくからさ」
「さっきまでと対応が全然違くない? 怖いんですけど……」
あいつ凄いなぁ。自然と(?)王女に敬語使わせてるよ
「別にアンタのことなんか大っキライだからね! ただお姉ちゃんが言うから優しくしてるだけだから!」
「これアタシ的には全然優しい対応じゃないんだけどって痛い痛い手が潰れるぅ!!」
ツンデレ台詞がこんなに怖く聞こえたのは初めてかもしれない。
「さて丁度いいタイミングになったところで私の登場です」
これは果たしてタイミングが良かったのか否か。出てきたのはあのお付きメイドだった。
「さて姫様。こちらの服に着替えるために更衣室に行きましょう。“私が”着付けますので」
そう言いながらメイドさんは晴れやかな笑顔をを見せていた。
着替えてきたリサは魔法使いに近いようで遠い様な姿になっていた。そう思うのは魔女帽子を付けていないのがミソなのだろう。それに魔法使いと言うよりかは魔女と言う方が的確な衣装だった。
「じゃーんどうよこの服」
「わたしは別にキライじゃないけど……」
「さっきも思ったけどセツナってもしかしてツンデレなの? かわいいわね」
やめてやれ、今度はこいつの顔が赤くなってるから。
「ところであんまり見ない雰囲気の服だけどなんて職業なの?」
「ふふっ『ソーサラー』よ! 簡単に言えば上位魔法の使い手よ!」
ソーサラー。あまり馴染みのないファンタジー職業だけどなんとなく強そうな名前だ。
「そんじゃあ早く行くわよ!」
「いや待て待てこれからの予定まだ何も立てて無いんだよ」
「予定も何もギルドに行けばいいじゃない」
ああそうか、こう言う異世界転生モノにはギルドが付き物か。
「そんじゃとりあえずクエストでも受けにギルドにでも行こうか」
「「おっけー!!」」
「ってなんで一緒に言うのよ!」
「あんたが合わせてきたんじゃない!」
「お前ら仲良しかよ!!!」