5−2 屋根裏の洋菓子(ラングドシャ)
「この山に住んでるって一体どういう」
「正確にはこの山にある村に住んでいるのだ」
「その耳で村ってもしかして……!」
「お姉ちゃん分かるの?」
「そう。汝の予想通り吾はエルフだ」
「えぇ!? エルフってホントに居たの!?!?」
国の王女様ですら知らないってことはかなり厳重に隠されてるのか?
「エルフってあの伝承とかによく出てくる民族みたいなやつよね? 実在してたってこと?」
「フッ、そういうことさ」
さっきから思ってたけどこの人「フッ」って言い過ぎじゃないか。
「確か大昔の勇者パーティにも入ってたんですよね」
「その人はまだ生きてるぞ」
「生きてるんですか!? 世界を救った人が!?」
え? 世界ってもう救われてたの?
「世界救われたのになんで魔王居るんだ?」
「何言ってるのお姉ちゃん。魔王が出てくる前はすごい平和だったじゃん」
なるほど、魔王の子孫が生きてたとかそういう感じだろうな多分。
「一応生きてはいるがな……あのお方、吾々の村にずっと帰ってこないんだ。死んでいないことは分かるのだがな」
「思ったより自由な人なのね」
世界救ったパーティの一人がそれでいいのかよ。
「さて、ここで話すのも些か違和感を覚える。吾の住む『ルキートン村』へ向かうとしようではないか」
「よろしくお願いしますです」
「そうだ汝ら、名は何だ?」
「私がルリア=シエスターで」
「その妹のセツナ=シエスター」
「リサ=セマームよ」
「ソフィー=デルピーヌです」
私達が言い終わるとターコイズなんたらは考え込み始めた。
「フッ、決めたぞ。リサはエリザベス、ソフィーはポセイドン、セツナはシャナ、ルリアはラピスラズリと呼ぶ」
何を言ってるんだこいつは。
「吾は渾名を考えるのが大好きなのだ」
つい最近同じ感じの文章見た気がする。
「どういう意味でつけてるんですか?」
「名前とフィーリングで其の人に合ったものを選んでいるだけだ」
「分かりずらそーねぇ」
「それとラピスラズリよ。これはフルで言うと『ラピスラズリ=星=カメーリエ』だ」
「ラピスラズリって誰だっけ」
「ピンクの汝だ汝」
えー……なにそれー。絶妙にダサい名前を勝手に付けないでもらいたいなぁ。
「ラピスラズリ、汝からは吾と同じ気配がする。これはもちろん褒めているのだぞ」
なんだかよく分からない人だな。
「それでは行こう。ラピスラズリと愉快な仲間たちよ」
* * *
「着いたぞ。ここだ」
そこには江戸時代の城下町の様な景色が広がっていた。大正ロマンな服を着てる奴が沢山居るのにこんな景観だからなんだか変な感じ。
「ゴエモンみたいですごいです!!」
「山の中にこんなのがあったなんてね」
「ふっふっふ、普通のハイキングじゃ味わえない体験が出来たわね」
コイツ、反省してなさそー。
「フッ、どうせなら吾のアトリエでも見ていくか?」
「アトリエってことは何か作ってるんですか?」
「あぁ、吾は絵を描くのが趣味でな。それと同居人も紹介したいのもある」
「アトリエとか言ってるけど、家だろ」
「何故バレた!? フッ、だがな、正確にはアトリエに改造した家だ」
「そうじゃなきゃ普通の家をアトリエって呼んでる変な人だもんな」
「くッ、ラピスラズリは言葉の戦が得意なのだな……」
「お前が弱すぎるだけだ」
「ぐふぁぁっ!! 追い討ち……だと!?」
「案内するなら早く案内しなさいよ〜」
「む、そういえばそういう話だったな。ついてこい」
(スタスタスタ)
「ここだ」
「思ったより近いんですね」
いたって一般的な民家がそこにはあった。
「さて、案内したものの吾は用事があってすぐに入れないんだ。先に入って作品でも見ていってくれ」
そう言うと一目散と走っていってしまった。先に済ませてからここに来ればよかっただろ。
「あーんなこと言われちゃったし入りましょ」
入口を通り抜けて靴を脱いでから奥へと進んで行った。
「なんかいろいろありますねぇ」
「籠の中に絵の具が入ってたのは補充のためってことなのかしら。てか思ったより上手いのね」
「なんか気に食わんな〜」
「お姉ちゃん、会ったばかりの人なのにかなり当たり強いね……」
「厨二病に同族扱いされたのがちょっとね」
「そこで対抗しようとするから同族扱いされたんじゃないの?」
このバカ、こういう時は痛いとこついてきやがって……
「こーゆーの風景画って言うのかしら、人を描いてるものより背景を描いてるものの方が多いわねぇ」
「森の中に住んでるからなのか木の絵が多いな」
作品達を横目にどんどんと奥に進んで行ったが作品以外何も無かった。
「ここで行き止まりなんでしょうか」
「外から見たとき2階があるようには見えなかったしここで終わりなのかもな」
同居人を紹介だとかなんだとか言ってた気もするけどきっと出かけてるとかだろ。
「フッ、汝らは吾の作品をゆっくりと観てくれたようだな。光栄だぞ」
「うっわびっくりしたぁ! もう戻ってきたのかよ!」
「何やってきたんですか?」
「フッ、聞いて驚け! 汝らにおもてなしする為にこの村でも特に有名なお菓子を買ってきたのだ!」
「それってどんなものなの?」
「ラングドシャだ」
クッキーの絵が描いてある紙袋を取り出した。
「ラングドシャってあのクッキーとクッキーで挟んでるアレ?」
「そうだ。実はこれはここ発祥だったりする」
確かラングドシャってフランスのお菓子だよな、ここの文化よく分からんことになってないか。
「さぁさ、上に上がるぞ」
「え、でも上の階なんて──」
「確かに上の階は無い。だが上にはな屋根裏があるのだよ」
あーその手があったかーってんなアホな。
「汚くないんですか?」
「吾が寝たり食べたりしてる部屋だ。汚いはずが無かろう?」
信頼されてる前提なのかよ。とか思いつつぎしぎしと音が鳴る階段を登った。
「あ、意外と綺麗」
1階の方が屋根裏っぽくない? って思うほどに綺麗な部屋だった。
「適当に座ってくれ」
適当と言われたものの、自然とみんな机の近くに集まりその机の上にラングドシャが置かれた。
「美味しそうねぇ。いっただきまーす!!」
「じゃあわたしも、っと」
私も手に取りサクサクと食べていく。うん、美味い。こういうとき甘めのミルクティーが欲しくなる。甘いに甘いをかけてあまあまにしてやりたい。
そんな甘い考えをしていると、何者かが部屋に入ってきた。
「…………アオちゃん、この人たち誰」
「フッ、来たかリリス。待っていたぞ」
「…………だから誰なの」
「こやつらは吾の新たな隸──元いお友達だ」
「…………お友達」
「さて汝らに吾が同居人を紹介しよう。『リリス=クモユリ』、音楽家だ」
ウェーブな緑髪で綺麗というよりかは不健康に見えるぐらいに白い肌をしている少女は虚ろな目でこちらを見てきた。言ってしまえばこの少女、不気味だ。化粧し過ぎたって可能性もあるにしろその顔はお葬式の故人以上白塗り未満、それに顔以外は手袋やらなんやらで肌が露出しないようになっていて化粧でないという確証を得られない。意図的ではないと思うんだけどやっぱり私からするとそれは不気味だった。
「…………こんにちは」
「こんにちは! ソフィーの名前はソフィーです!」
「…………そう」
冷たくあしらわれたけど本人はそうは思ってないっぽい。
「…………そうだ。今のうちに言っとくとアオちゃんの本名は『アオイ=ヒナタ』だからわざわざ合わせずに名前で呼んであげて」
「吾は自称ターコイズ=陽=ゾンネンブルーメだが真の名はアオイだ。別にそちらで呼ばれても何ら問題は無いが──ターコイズの方がカッコイイだろう?」
「そうだったのね、アオイ」
「アオちゃんってアオイだからなんだなアオイ」
「おぉっとラピスラズリよ、汝は今日から吾の相棒なのだ。ちゃんとターコイズと呼べ」
「んなめちゃくちゃな……」
そもそも相棒なんて初耳だが。
「…………相棒……? アオちゃんと?」
「いやこいつが勝手に言ってるだけだよ」
「悲しいじゃないかぁ、ラピスラズリよ。吾はもうコンビ名を決めているのだぞ?」
コンビ名って言うな芸人みたいじゃんか。実際今そんな感じだけど。
「フッ、その名も『暮色蒼然の親善』だ」
韻踏んでてちょーーーっとかっこいいの腹立つなぁ。
「お姉ちゃんはわたし達のチームだってのに何やるのよ」
「いや、別に2人で冒険するだとかそういうのは求めていない。そもそも吾はデバフ専門でラピスラズリは見たところプリーストの様だから戦うことが出来ん」
厨二ワードとか使ったりするのになんか強い魔法とかじゃなくてデバフ専門なのかよ。そんで周りは安心するな。心配しなくても私はこのチームを離れたりはしない。
「…………じゃあ結局何の相棒なの?」
「今まであった中で1番仲良しになりたいと思ってるからな、さっき言った相棒というのは盟友と同じニュアンスだ」
「…………なんで初対面の人と1番仲良しになりたいの?」
「ん、まぁ、アレだ。直感だ直感」
「…………ふーん」
なんで私は今のところ無条件で好かれてるんだろう。ここまで来たら流石に自分でも違和感を感じる。あの神様──スノードロップ様がなんかしら干渉してるのか?
……今適当に言ったけどあの人って干渉とか出来るんだっけ? でも干渉がなんだかって聞き覚えあるんだよな──
「って! あぁあぁーーー!!!」
「急にどうしたんですかぁ!?」
そうだそうだ、いつだったかボタンが言ってたんだ! あの人しばらく会ってなかったからちょっと忘れかけてた! あぶねー!
「るりりどうしたの?」
「もしかしたら昔勇者パーティに入ってたってエルフがいる所分かったかもしれない……」
「本当か!?」
「そのエルフってボタン──『ボタン=ナトリ』だよな?」
「…………うん。その人で間違いない」
「何処にいるのだ!?」
「国営圕ヒストワールドの噴水がある隠し部屋!」
まさかこんな勢いで伏線回収するなんてびっくりだ。もうちょっと後から分かってもおかしくない話だぞこれ。
「ヒストワールドってアタシがけっこー前に教えてあげたとこじゃない。隠し部屋なんてあったのね」
一応国営ってついてるんだからその辺把握しとけよ。
「そうか……本音を言えば今すぐ行ってあの方がやるべき仕事を全部やってもらいたいところだが、生憎コンクールがそろそろあるのでな……」
「…………あの人ならリリス達が行かないと帰ってきてくれないだろうし、しばらくは無理になる。リリスもやりたいことあるし」
うーーん。そう上手くは行かないよなー。
「教えてくれたお礼と言ってもなんだが実は今日はお祭りがあるのだ。折角だし今日は吾の家にでも泊まっていかないか?」
「7月ですし夏祭りですか? でもちょっと早いような」
「フッ、この村には七夕祭りというものがあるのだ」
今日は確か7月6日、ってことは真夜中にやるってことか。そんでもってこの世界には元々七夕って行事は存在しないっぽいな。ボタンは何回か日本に行ったことあるって言ってたし、それで気に入ったから取り入れたとかそういうのだろ。
「…………七夕祭りでは短冊に書いて笹に飾った願い事がなんでも叶うって言われてる」
「へぇ面白そうじゃない」
「まぁ最初からお礼とか関係無しに誘うつもりだったのだがな」
「お礼なんて要らないしそれぐらいで丁度いいよ」
「でもお礼だと思うとテンションアガるわね〜〜⤴︎︎︎︎︎⤴︎︎︎︎︎」
「という訳でそろそろ吾は準備でもしに行くとしよう。あと7時間ぐらいだからな」
ターコイズ(ちゃんと呼んであげる)はあんま話してないのに降りていってしまった。
「これからどうしましょう?」
「待つしかないんじゃない?」
「そんじゃアタシは観光しよーかしら。セツナも来なさい!」
「なんでアンタなんかと」
「行くわよ〜」
「ちょっ、まだ良いなんて言ってないんだけど!」
「“まだ”ってことは言う予定だったってことね! 行きましょう!」
セツナはそのまま連れていかれてしまった。
「ソフィーはクモユリさんとお話したいですっ」
「へいへい、じゃあ私は家ん中でうろついとくよ」
「行ってらっしゃーいです」
さてと、なんかいいもの探し出しますかぁ。




