6章
スイは一晩病室のベッドの中で夢の中で会った少女の事を考えていた。瞳の色を除いて、自分と瓜二つの少女。彼女は何者なのだろう。そして燃える様に真っ赤なあの両目。何かを思い出しそうなのだが、考えれば考えるほど、スイは心が引き裂かれる様な苦しみを感じた。
夜が明け、朝を迎え、人々が活動を始めた。部屋の外から誰かが誰かと会話をしたり、行き来したりする物音が時々聞こえてきた。
「おはよう、スイ」
ユリアが朝食を持って病室にやってきた。
「昨日の返事を聞かせてちょうだい。決心はついたかしら?」
「ユリア、調査に協力する代わりに、いくつか条件があります」
「わかったわ。それで条件とは?」
「私、ここに連れて来られる前はごみ捨て場にいました。ネルやライラ、色んな子供達と一緒に。私が調査に協力する代わりに、その子供達の生活を保証してもらいたいのと、一緒にまた生活させて欲しいです。これが一つ目の条件。それから、あのアバターの事で分かっていること全部、内緒にしないで教えて欲しいです。実験の事も、あのギガスという敵の事も、ジェシカの事も、ここネオ・ムセイオンの事も。これが二つ目。最後に、私自身、子供の頃の記憶がなくて、父さんと母さんの事を何も覚えていないんです。私の過去を、ルーツを知りたいんです。私の過去を調べる協力をしてほしいんです。これが最後の条件です」
ユリアは最後まで相槌すら打たず、黙ってスイの発言を聞き、しばらく腕組みをしたままじっと天井を見つめていたが、静かにスイの顔を見て答えた。
「一つ目、貴女と一緒に保護された子供達。貴女がネオ・ムセイオン所属のメンバーになる以上、一緒の生活をさせる事は難しいわ。貴女はこれからネオ・ムセイオン内で生活する事になるのだけど、他の子供達は生活訓練センターで生活する事になるからね。でも、スイもセンターの子供達も、日中はリュケイオンで教育を受ける事になるから、そこで昔のお友達と会う事は出来ると思うわ」
始め緊張した面持ちだったスイの顔が、ユリアの話を聞いているうちに少し表情が和らいだ。
「二つ目、アバターについては、私の母、アリッサ・グールド博士が開発し生み出した、原始生物のDNAを持った人工生命体と言った所かしら。身体の構造とか、仕組みなどはほぼ人間と同じなのだけど、ただ自力で自らの心臓を動かす事が出来ない。ところが奇跡的にDNAや脳波や様々な要素が近い人間が存在し、その人間が同調する事で、彼らは生命を吹き込まれる。実験は、その数少ない人工生命体を同調させられるペアリングを見つける作業といった所かな。ネオ・ムセイオンにいれば、そのうち私の母や他のアバターの担当研究者とも会えるだろうし、ジェシカとも話す機会もあるし、自然とネオ・ムセイオンの事も理解できると思うわよ。残念ながらギガスの事だけはまだ解明されてなくて、私も知りたい位かな」
スイは聞きながらも、次から次へと出てくる新たな専門用語に頭が着いていけなかった。
「三つ目、私もどうして貴女がこれほど早くアバターに同調出来て、超人じみた動きをアバターにさせられたのか、ぜひ詳しく知りたいと思ってる。だから、貴女の自分探しに協力できる事があれば力になるわよ。いかが?」
「分かりました」
「 では、ゆっくり朝食とって、起きられそうだったらベッドの横のブザーで呼び出してちょうだい。じゃあね」
スイは朝食としてユリアが持ってきたボウルいっぱいのポリッジを口にした。
「おいしくない…」