4章
スイと同調しほぼ一体化したアバター、デフテロはエレベーターから降り、砂漠の大地を踏んだ。歩く度に足が砂の中に沈み、デフテロの全身を包む金属製のスーツの隙間に砂が入り込んだ。
「今のところ数値は正常、特に問題なさそうですね」
モニターを見ながらミッコがフェイに話しかける。
「同調までの早さ、地上デビューまでのスピード、全部ジェシカ&プロト以上、私達の想像をはるかに越えたものだったわ。このプロジェクトも大きく前進しそうよ」
顔をほころばせるフェイに、
「地上に現存する生物は残っていないと考えられていたのに、あんな巨大なものがいるなんて、そっちの方が気になっちゃって、正直こっちの研究どころじゃないわ」
とユリアがつっこむ。研究者達が見守るモニターには、地上のドローン(あの後更に追加で3体飛ばしていた)からの映像が映っていた。
「スイ、異変があったらすぐに知らせてちょうだいね?」
一方スイとデフテロは、目の前に立つ巨人と対峙していた。巨人は太陽の光を反射するギラギラした鎧を纏っていた。巨人の顔は兜のため、どんな表情をしているのか、どんな顔つきをしているのか、さっぱりだった。右手には巨大な両刃の刀を持っており、時折風で砂が舞い上がり、ぱちぱちと刀に当たる音を立てていた。
「来る!」
スイの意識の中で何かが閃くと同時に、巨人は刀を軽々と振り回し、その勢いでデフテロに向かって刃を振り下ろした。それを易々とかわすデフテロ。決して巨人の動きが遅い訳ではないが、何故かスイには巨人が次にどう攻撃してくるのかが、頭の中で思い描くことができた。それに合わせるかの様にデフテロも、巨人の攻撃をひらりひらりとかわしていった。
「何て動きなの…!」
モニター越しに息を飲むユリア。
「E-スポーツの格闘ゲームの試合でも見てるみたいだ…」
同じくモニターで様子を観察していたジャックが呟く。
「スイの様子は?」
「脳波、脈拍、血圧、特に異常は見られません」
「デフテロも、スイと完全に同調しています」
「相手が武器を使用している分、こっちは不利なんじゃないでしょうか?」
確かに実際のところ、デフテロは何も武器を持たない。そもそもアバターは戦闘機や兵器として造られてはいないため、武装していないのだ。
とはいえ、デフテロの動きは常に軽々としたものだった。巨人が振り回す刀の重量、巨人の動きとそのスピード、砂漠の大地の地形、すべての状況を踏まえた上での身のこなしであった。ただ、止めを指すには決定的なものがない。
「スイ、無理しないで逃げて!」
ユリアの声は届いているのか否か、スイとデフテロの動きは変わらずすばしっこかった。それに対し、巨人のほうがやや疲れてきたのか、動きの鋭さが失われつつあった。
スイとデフテロはその変化を見逃さなかった。巨人が刀を再度振り下ろした時、デフテロは刀身の上にさっと飛び乗ったのである。巨人はデフテロを振り払おうと刀を振ると、逆にその勢いを利用して、デフテロは刀を蹴り、宙に飛び上がった。そしてあろうことか、その場に飛んでいたドローンの1つを掴み、巨人の顔目掛けて投げつけたのである。
「あっ」
ドローンをコントロールしていたミッコが顔をひきつらせた。案の定モニターの画面が一つ、砂嵐状に変わった。
巨人も突然顔面にドローンをぶつけられた衝撃で、兜により直接のダメージは無いものの、動きが一瞬止まり、顔が下を向いた。
その隙を狙い、デフテロは上から巨人のうなじに蹴りを食らわせた。頚椎をやられ、砂の上に大きく倒れる巨人。デフテロは巨人が倒れる間際に手を離した刀を拾うと、躊躇せず巨人の首目掛けて振り下ろした。
モニター越しに見ていた研究者の何人かは短くうめき声をあげ、目を覆った。デフテロが斬首した鎧の巨人は、あまりにも生々しく人間と同じ様に血を流して息途絶えたのだった。