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徹攻兵「アデル・ヴォルフ」  作者: 888-878こと
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訓練記録ファイル202104dd-15 光条の近接武器応用

 輝巳は毎月、第三金曜日に残業をしないようにしている。

 そもそも、働き方改革とやらで残業は少なくしろといわれている。

 だから誰からも文句の一つもいわれない。

 育ち盛りの子供達を抱える身としては、残業代が削られるのは本当に心的ストレスを募らすほど辛い。

 しかし残業時間が増えすぎれば注意をされ、呼び出しをくらい、評価を下げる。

 会社を出て思う。

 こうして、得たものが結局平社員の身分かあ。

 四月に入ったのに、冷たい雨が気温をぐっと下げる。

 ワイシャツの上に季節外れのダウンを着込んだ身なりに頓着しないおじさん。

 不格好に大きな黒い鞄からスマホを取り出す。

 「もしもし、あ、莉央(りお)。うん、今会社でたところ。

 これから羽田に向かう。

 帰りはまた日曜の夜になるからさ。

 あ、お義父さん、お義母さんによろしくね。

 うん、じゃあ」

 妻の莉央には月次出張といってある。

 出張中はセキュリティエリアであるマシンルームにこもりきりで電話での連絡も付かないことも断りを入れている。

 莉央は、輝巳の不在を理由に、中学生に上がったばかりの長男の颯太(はやた)と小学三年生の詩央(しお)を、一駅離れた義実家に連れて帰る。

 普段厳しく叱ることもある父の輝巳と違い、無条件に甘えさせてくれるじいじ、ばあばの存在は、孫である颯太と詩央にしてみれば、中途半端な外出に連れ出すより、楽しいひとときを過ごせる癒しの場所だった。


 中央区のオフィスを出た輝巳はJRで新宿駅に向かうと小田急線に乗る。

 向かう先は神奈川県中央部に位置する座間。

 日米合同の軍事基地であるキャンプ座間である。

 最寄りの駅を降りるととぼとぼと緩い上り坂を歩いて行く。

 裏門の守衛さんは米国人、日本語で座間駐屯地の都築当てであると説明し、マイナンバーカードを提示する。

 守衛さんがどこかに電話すると、受話器を置く。「車が迎えに来ます。ここで待って下さい」

 来たのは信世本人。

 輝巳は後部座席に乗り込む。

 キャンプ座間内にある座間駐屯地まではとぼとぼ歩くと結構な距離だが、車を使えばなんてことはない。

 その短い間にも会話が交わされる。

 信世がたずねる。「薬はまだ飲んでるの?」

 「ステロイド? 抗うつ剤? まあ、どっちも毎日飲んでるよ。

 いわなかったっけ、鬱も脳腫瘍の後遺症の可能性があるんだと」

 「そう、止められるようになるといいわね」

 車が止まる。二人で降りる。

 「ステロイドはもう、一生ものと決まってるよ。

 鬱の方も、いわなかったっけ、俺、平社員に落とされちゃってさ。

 こっちも一生ものかな」

 司令部庁舎に向かいながらこぼす。

 「誕生日が一日違いでさ、執行役事業部長さんがいるんだよ。

 彼は女性の部下達からバースデーカードと贈り物をプレゼントされていたりしてさ。

 こっちはその部下達の指示を受けて右往左往していてさ。彼と俺、何が違ったんだろうなって」

 信世も、返す言葉がない。「たまたま、巡り合わせもあったんじゃない」

 「いやその、明らかにおかしいんだ俺。

 我ながら、上司に対してさ、こんな返ししかできないヤツが俺の部下にいたら評価しないだろうな、って対応しかできないんだ。

 得意にしていた商材を会社が扱わなくなったとたん、転がり落ちるようにこのざまだ、笑っちゃうよね」

 「それでも輝巳は諦めたりしないから、きっといつかまた、道が開けるわよ」

 信世がそういってほほえむと、輝巳も力なくはにかんだ。

 

 会議室に入ると、既に全員到着していた。

 身長百七十六センチ、体重六十七キロ、前の方に薄く残っているものの頭頂部にかけて頭髪が薄く、全体的に刈り込んでしまっているのが春日(かすが)(ゆう)

 たれ目がちな目つきは穏やかそうに見えるが、しっかり引き結んだ口元と剣道で引き締めた体型は武人の風格を見せる。

 身長百七十四センチ、体重六十三キロ、手足が長く身長体重のバランス以上にほっそりして見えるのが山中(やまなか)(たかし)

 癖の強い、やや明るみを帯びた髪の毛を短く無難にまとめている。小ぶりなアーモンド型の目つきとアルカイックスマイルは、話しかけやすい雰囲気を醸す。

 あまり自分の主張はせず、判断を周囲の判断にうまく合わせてみせるが、芯はぶれないものを持っている。

 身長百九十三・九センチ、体重百八キロとひときわ大柄なのが根本(ねもと)堅剛(けんごう)

 年に似合わぬつやつやとした黒髪を七三に分けてまとめている。

 まつげの長い瞳だけ取ればかわいげもあるが、かぎ鼻とたくましい顎がしっかり男らしさを表している。

 身長百七十五センチ、女性としては大柄で、スレンダーともおデブとも言えないふっくらとした体型を取っているのが都築(つづき)信世(のぶよ)

 明るすぎない内側にカールした茶髪を肩に掛かるくらいまで伸ばしている。

 肩が張っていてお尻も小さめで、顎もしっかりしており、女性ながら仕事を任せられる空気を作る。

 身長百六十六・六センチと決して小さすぎもしないのだが、一同の中では一番小柄になってしまうのが尾形(おがた)輝巳(かがみ)

 体重五十五キロ。 

 小顔で童顔なため年若に見られるのが癪で、白髪を隠そうともせずに伸ばしているため灰色が頭を覆う。

 間を開けて会う人からは「白くなったね」次いで「苦労しているの?」と聞かれるのが常で、仕事への行き詰まりがやつれた笑顔を張り付かせる。

 若い頃は容姿を褒められたこともあったのに、着の身着のままのすっかりくたびれた眼鏡のおじさんといった感じだ。


 五人はよほど都合が付かない限り、極力第三週末に座間駐屯地に集合する。

 理由は他でもない、徹攻兵としての訓練のためだ。

 正確には自分自身達のための訓練ではない。輝巳と遊は一八式と呼ばれる第四世代規格の装甲服を、宇と堅剛は〇六式と呼ばれる第三世代規格の装甲服を着こなし、装甲服開発で先行するドイツで観測された運動能力を余すところ無く引き出している。

 装甲服は世代をあげることで能力が倍々に伸びていくことが分かっている。

 第三世代になると主力戦車級の働きを見せ、第四世代になると完全に、現代の通常兵器を凌駕する。

 そもそも戦車は空に飛び上がらないし、戦車砲は航空機に対してあまりにも無力だ。

 しかし徹攻兵はそれをやってのける。

 第三世代以降の徹攻兵の育成は急務といえたが、正直、なかなか進んでいないのが現状だ。

 徹攻兵の育成には、直接その能力を視認させ、体感させ、その上で着甲させてみるのが一番なのだが、これがなかなかうまくいかない。

 輝巳あたりにいわせると「本職は国防に迷いがなさ過ぎる」ということになるのだが、正規の自衛官の中にもいろんな考えの人間がいる。

 しかし誕生日から割出された候補者のうち、実際に着甲して動作できる顕現者となるとある一定の性格特性が必要となる。

 それがかみ合わないのだろうか、正規の自衛官から選ばれた権限者は、第二世代に当たる〇五式から抜け出せないでいた。

 そのため、そうした正規の徹攻兵に〇六式、一八式の能力を見せつける教導隊としての役割が、彼らに課せられた役割だった。


 先日の尖閣強襲は徹攻兵の素早い現地投入が奏功した好事例だった。

 その後の政治的な駆け引きはあったが、無事に島に駐留部隊が置かれる運びとなった。

 三月は各社期末ということもあり忙しく、五人とも集まれなかった。

 そのため、四月のこのタイミングが久しぶりの集合となった。

 入室した輝巳に声をかけてきたのは堅剛。「むー、久しぶり。なんかまた痩せた?」

 それに声を合わすのが宇。「痩せたっていうか、やつれた感じだよね」

 輝巳が返す。「なーんていうか、仕事が全くうまくいかなくてさ。

 あの作戦から戻ったら、ヒラに降格されていたんだ」

 ちょっとさすがに、みんな言葉を失う。

 輝巳も苦笑い。「いや、まあ、こういう空気になるよな」

 五人は中学からの同級生ならではで、語らずとも伝わるところもある。

 重くなった雰囲気を振り払うように信世が語り出す。「揃ったところでブリーフィング初めてもいいかしら?」

 りょーかい、といいながら輝巳も席に着く。


 機密扱いのため、余計な資料は配付されない。

 会議室のスクリーンに投影されたプロジェクターの表示を眺める。

 説明役の情報将校を差し置いて、信世が語り出す。

 「まずは前回の戦闘による成果の紹介から始めます。

 前回は突然の参集に協力いただきありがとうございました。

 皆さんの活躍の結果、国境線は変わらずに済みました」

 輝巳が呟く。「全滅はマスコミがやいのやいの言ってるけどね」

 信世が返す。「その辺りは政治家を含めた本職にお任せしましょう。

 私達は私達にしかできない事実を積み上げることが必用です。

 さて、前回の作戦では教育効果をかねて、国内外から五十名の徹攻兵に作戦の様子をモニタリングしてもらいました。

 結論から言うと効果がありました。

 〇六式の七割の能力を引き出せる顕現者が一名、そして一八式の二割の力を引き出せる顕現者が一名、新たに確認されました」

 案内してください、と信世が情報将校の一人に声をかけると、信世はページを切り替える。

 「一名が穂村(ほむら)明理(あかり)二等陸尉二十三歳、もう一名が相原(あいはら)皐月(さつき)三等陸曹二十一歳です」

 輝巳、遊、宇、堅剛のおじさん達が、揃って口をあける。

 「むー、女の子なの」と堅剛が驚く。

 「垣根を越えてきたのは女子かあ」と遊が頷く。

 「ちょっとまって写真だけでも美人じゃない、ふたりとも」と宇が笑う。

 「ふー、嘘でしょ」と輝巳が我が身を嘆く。

 その間に、二人の女性自衛官が会議室に案内される。

 二人、揃って敬礼する。

 「初めまして、穂村二等陸尉です」

 「初めまして、相原三等陸曹です」

 二人とも、ぱっと見取っつきにくそうな、クール系の美人だった。

 穂村陸尉は、百五十七センチ。

 耳が隠れない程度の長めのショートヘア。髪に癖があるのか気持ち外ハネしている。

 意志の強さを示すような切れ長の瞳の美人で、顎が丸くほほがふっくらとやや丸顔を帯びる。

 相原陸曹は、百六十八センチ。

 耳の隠れるショートヘアとミディアムの中間くらいの髪の長さ。

 癖のない髪はすとんと真下に落ちる。

 黒目がちな瞳が大きく、まだ、女の子の雰囲気を残した娘で、良く通った鼻筋と大きすぎない口元をきりりと結ぶ。

 女性としては長身な方で穂村陸尉とは明らかに身長差がある。

 輝巳が、上目遣いで呟くようにたずねる。「どっちが、一八式なの?」

 相原陸曹が答える「自分が、一八式に対応しています」

 マジか、と輝巳は呟くと、横にいる遊に小声で耳打ちする。

 「遊君、任せていいか?」

 「なにを?」

 「教育係」

 「なんで?」

 「あの子、ドンズバタイプだわ。莉央さんに顔向け出来ん」

 「知るかボケ」と遊が笑う。

 信世が四人の反応を見て苦笑いしながら語る。「いっとくけど皆さん、この二人、揃ってエリートですからね」

 宇がたずねる「どゆこと?」

 「明理ちゃんは防大の出。

 いわゆる幹部候補。

 皐月ちゃんは一般曹候補生として成績優秀なだけでなく、この年で三曹って事は普通無いのよ。

 今回一八式の運用を開始するに当たって、整備兵とのバランスから、特例で任命されたって事」

 それを聞いて輝巳が長嘆息する。「ふー、また年下の上司さんって感じかー。

 そもそもさ、俺たちの扱いって何なの」

 信世が答える「あなた達は一応、書類上で登場する時は特務予備役一等陸尉相当官っていうへんてこな呼称が与えられているわね」

 輝巳が驚いてみせる。「あれま、一尉って大尉だよね」

 ふーん、テンパの最終階級と一緒かー、と呟く輝巳を遊が肘でこづく。それ以上いうな、と。

 信世が続ける「ちなみに私は予備陸曹長だから、肩書きの上ではあなた達の相当下ね。

 でも、作戦上は私の指揮下に入ってもらうでしょ。

 私達徹攻兵にとっては、階級ばかりが意味を持つものではないってこと。

 教導役として、皆さんには明理ちゃん、皐月ちゃんの良き道案内となって下さい」

 改めて明理と皐月が敬礼をする。

 「よろしくお願いします」

 「ご指導、よろしくお願いします」

 堅剛が、大人の微笑みで「はい、よろしく」と返事してみせる。

 信世が続ける。「さて、今回の訓練のメンツが揃ったところで、今回の訓練の主目的を伝えます」

 プロジェクターの表示を切り替える。「ドイツのアデル・ヴォルフ機関から新しい情報が入りました。

 光条の近接武器への応用です」

 輝巳が呟く。「なんでも、新規開発はドイツからだな」

 信世が受ける。「仕方ないわね、日陰者の私達と違って、向こうは将来の主力兵器としてお金をかけているし」

 そういうと信世は視線を同席している将校達に送る。

 誰一人、信世と視線を会わそうとしないのを見て、信世は嘆息すると続ける。

 「徹攻兵の発光現象をクリスタルを使って集約し、推進力として応用しているのは皆さん周知の事実です。これについては発光を伴う気圧の上昇のみ確認され、熱などは発生せず周囲の装甲を損壊しないことも知られています」

 ページを切り替える。

 「これに対して今回もたらされた近接武器への応用は全く異なります。

 柄の部分、持ち手の部分にクリスタルを埋め込んだ武器を発光させることが出来ます。

 発光は特に武器の縁の部分に集約する特性があり、鉄パイプやバットのような丸みのある武器より、刀や剣などの刃の部分がある武器の方が効率的です」

 また、ページを切り替える。

 「発光箇所を通常の物質に当てると、瞬時に熔解します。

 この際、熱は伴わず単純に熔解することが報告されています。

 熔解のスピードは速く、砲丸や自動車のエンジンの様な構造物でも一気に両断できます」

 さらに、ページを切り替える。

 「装甲服の装甲部分に発光箇所を当てると、よく知られる脆性崩壊、つまり割れ、が生じます。

 脆性崩壊の箇所の下部は徹攻兵としての防御力を示さないのは銃砲撃による脆性崩壊の事象と同様です。

 発光箇所はアンダーアーマーを溶融し、敵性徹攻兵の肉体も溶融します」

 説明は、最終ページにいたる。

 「発光現象は、世代によって長さが変わります。ドイツ陸軍の場合、AWー01では近接武器を発光させることが出来ません。これに対してAWー02では持ち手から三十センチ程度の長さまで、AWー03では持ち手から六十センチ程度の長さまで、AWー04では持ち手から百三十センチ近い長さまで発光させられることが報告されています」

 「質問」と最初に手を上げたのは堅剛だった。

 「〇六式の俺たちが百三十センチ級の得物を持った時ってどうなるの?」

 信世がページを切り替える。

 「ええと、そういうこともドイツ人のやることに抜け漏れはないのよね。

 発光武器、改め光条武器同士は発光箇所を接触させ合うと干渉し斥力を生じます。

 平たくいうとつばぜり合いが始まるって事。

 この際、非発光部分は光条の干渉に守られず熔解します。

 つまり刃先だけ融け落とされる、ってことね」

 「なる」と堅剛が呟く。

 「はいはい」と今度は輝巳が手を上げる。

 「刀剣のことは素人なんで良くわからないんだけど、百三十センチの刀っていうのは長いの? 短いの?」

 これに対しては剣道の心得のある遊が答える。

 「アホほど長え。

 居合刀が刃渡り七十センチ程度だから倍ちかい長さがあるし、そもそもそんな長い鉄の塊自由に振り回せない。

 ドスってさ、見た目は短いけど接近戦で確実に相手の内蔵を破壊しようと思ったら、取り回しのいい長さなんだよ。

 それが百三十センチ級になったらもてあます感じだわな」

 輝巳が納得してみせる「ふーん、まあ、徹攻兵ならではの武器ではあるのか。

 着甲してれば、丸めた新聞紙振り回すようなもんだろ。

 あ。

 ところでそんなもの、どうやって携行するの」

 信世が答える。「ホントに、刃渡り百三十センチ級の刃物を携行する場合、背中に背負う事が想定されているわね」

 輝巳が、それってド、と呟いたところで遊から肘鉄をくらう。いうな、と。

 宇が手を挙げる。「あのさー。逆に一八式が三十センチとか六十センチとかの武器を持った時はどうなの?

 伸びるの?」

 それについても信世が答える。「光条武器の発光は得物の縁の部分に限られるの。

 だから短い武器を持った場合は短いままってことね」

 そうかあ、と宇は考え込む。

 これまでは正規の自衛官でも〇五式止まりだったところに、自分の娘といってもいいくらいの年の子が一八式の運用に達したことで、宇自身も意識しないうちに、焦りの様な気持ちが芽生える。

 その点堅剛はどっしりしている。

 自分には目としての感覚の鋭さがあるという自負があり、皐月が伸びてきても、明理が伸びてきても現場で指示を出すのは自分だという落ち着きがある。

 遊はどうやって使いこなそう、と考えていた。

 考え込むうちに疑問が浮かび、そのまま発言する。「なあ信世、これって便利かも知れないけれど、何に使うんだ?

 地上で一番やっかいな戦車だって頭からAPFSDS撃ち込めば沈黙するし、攻撃機やヘリも同じ話。

 歩兵に対しては小銃があれば十分止められるわけで……、これ、使いどころ無くないか?」

 信世が答えるより先に、輝巳が呟く。「対徹攻兵用じゃないかな」

 それを聞いて遊が自分にあきれ、額に右の手のひらを当てる。「ああそうか、なるほどな」

 遊の同意を得て気分を良くした輝巳がたずねる。「それにしてもドイツはよく、気前よくも新兵器の情報をくれたね」

 信世はそれを聞いて苦笑する。

 そして資料のページをめくるとドイツ語の原文のページを示す。

 「それがね、彼らも嫌みのつもりか知らないけどドキュメントの日付を隠そうともしないのよ。

 資料の日付を見ると二〇一九年。

 つまり私達がようやく一八式をものにした時、既にドイツはこんな研究に手を着けていたわけ」

 なあんだ、とつまらなそうな顔を作る輝巳を横目で見て堅剛は、こういう抜けてるところが輝巳の仕事っぷりに足りないところなのかもなあ、と思ったことは黙っていることにした。


 一通りの説明が終わると、一行は夜間訓練の準備に取りかかる。

 徹攻兵の存在は何より民間に対する機密扱いとされ、金曜から土曜にかけての夜間と、土曜から日曜にかけての夜間に行われる。

 庁舎の食堂で夕食を取りながら、輝巳は、こういう無茶、後何年出来るんだろう、と自分の年齢を振り返る。

 五人の中で、一番大人な堅剛が皐月に話しかける。「俺たち、中学からのつきあいなんだ」

 皐月は興味なさそうに「はあ」と答える。

 着甲時強化現象の顕現者の傾向として、人付き合いの悪さがあるのは堅剛自身がよく知っている。

 だから気にせず用件を続ける。

 「二人で一班、二班で四名に作戦の中継役の小隊長を加えて、五名で一小隊になるわけだけど、アルファチームとか、ブラボーチームとか煩わしいいい方せずに、直接名前で呼び合ってるんだ。

 むー。だから相原三曹のことも、皐月ちゃんって呼んでいいかな?」

 「はい、構いません」と、無愛想に答えてくる。

 その話しを受けて輝巳も明理にたずねる。「聞いてた、今の話し?」

 「はい。私も明理で構いません」と、明理はそつなく対応してくる。

 その上で明理がたずねてくる。「私達は教官の事をなんとお呼びしましょうか?」

 輝巳はすこし無愛想に答える。「輝巳でいい」

 皐月はもくもくと食べているが、明理は戸惑いをみせる。「さすがに呼び捨てには出来ません」

 宇が口を開く。「構わないよ。おれも宇でいいし。あ、でも、遊君のことは、みんな時々君づけで呼ぶね」

 堅剛もうなずく。「むー。そうだね、遊は遊君だね」

 話しながら輝巳は、皐月の顔をチラ見する。

 まつげ、なげーなー。

 こんな子もラインメタル振り回すのかあ。

 「ほんと何なんだろうな、この力」と思わずつぶやきが漏れる。

 目があった皐月が返してくる「分かりません。でも、使えるものは使っていくのが軍事力なんだとおもいます」

 明理が同意する。「そうね、教官達が先日示してくれたのが好例ね」

 遊が口を挟む。「後味は、悪かったよ。出来ればああいう思いを、君たちみたいな若い子にはさせたくないな」

 明理が反論する。「お気遣いは無用です。私も相原三曹も、自分の意思で選択してこの任務に当たっています」

 堅剛が割ってはいる。「むー。そうは言っても、自衛隊の仕事は戦闘だけが主な任務じゃないじゃあない。

 災害時の復旧支援とか、哨戒だってあるしさ。

 あんな事、無いに越したことはないよ」

 沈黙がはしる。皐月が耳に髪をかける。

 輝巳が口を開く。「戦わずして勝つ、のが用兵の基本なのだとしたら、総火演に出られるくらい普及しないとさ、抑止力としては今ひとつだよね」

 それはそうだけど、という空気を察して輝巳が続ける。「だからさ、君たちみたいに世代を上げる顕現者が、もっと増えるといいなって思ってるよ」

 信世が口を開く。「さ、食事はそろそろ終わりにして。出発の準備に取りかかりましょう」


 装甲服は各人の体格に合わせて用意されるため、共通のパーツはなく全身がオーダーメイドといって良い。

 そして着甲漏れがあると機能しないため、所属基地で一度着甲し、装備漏れが無いかを確認してから装甲服一式ごと移動する。

 彼らの行っている月次慣熟訓練の場合、少しばかり、流れが違う。

 そもそもが、金曜の仕事上がりにオールして、土曜の日中睡眠を取り、土曜の夜から日曜の朝にかけてまたオールする。

 流れだけでいえば宅呑みのそれに近い。

 そのためスケジュールが窮屈に詰め込まれている。

 座間駐屯地に集合しブリーフィングと食事を取る。

 そのまま一度シャワーを浴びて着甲する。

 強化現象が発動していることを確認して兵員輸送車という名前のトラックに乗り込む。

 米海軍と海自の管理する厚木基地に向かい、空自の準備したCー2輸送機にトラックごと乗り込む。

 輸送機は北海道東部の矢臼別演習場に向かい、資材入りのコンテナと供に落下傘降下する。

 日の出前までに演習を切り上げてヘリコプターで帯広駐屯地に移動すると、格納庫に収まり、そこで装甲服を外す。

 駐屯地の宿舎で睡眠を取る。

 夕方、日没前に起き出して食事とシャワーを取り、ヘリコプター格納庫の一角で正規の隊員の邪魔にならないように再び着甲する。

 日没と供にヘリコプターに乗り込み矢臼別演習場に移動。

 前夜、こなせなかった訓練を実施し、未明のうちに切り上げて移動を開始。

 ヘリコプターで空自の千歳基地に向かうと、用意されていた兵員輸送車に乗り換え、輸送車ごと待機していたCー2輸送機へ。

 広いCー2輸送機内で装甲を外し、アンダーアーマーも脱ぐと、病院の検査着の様な簡易服に着替え、装甲やアンダーアーマーなど装備品一式をチェックしながら各自のコンテナに格納。

 朝日と供に輸送車ごとCー2輸送機から降りると、そのまま座間駐屯地へ。

 座間駐屯地で訓練を振り返り、午前中のうちに荷物を受け取ると解散となる。

 

 輝巳は、一連の流れの最初となるシャワーを浴び終えると、最後のトイレを済ませ、大人用紙おむつを履く。

 首には、支給されたクリスタルのペンダントトップが付いたネックレスを下げる。

 その上から弾性ストッキングと長袖の圧着肌着を着ける。次いで、ナイロン繊維の編み込まれた鎖帷子であるアンダーアーマーのボトムを履き、トップを羽織るとファスナーで背中側を留め、また、上下をファスナーで繋いで着込む。

 この状態から、内側を複数層のショック吸収剤で一人ひとりの体つきに加工した装甲を着甲していくのだが、この段階で、誰もが気がついていて控えていた一言を輝巳は口にしてしまう。

 「なあ、あの子達もおしめ着けて着甲してるんだよな?」

 堅剛が答える。「むー、若いなお前さん」

 宇が笑う。「変態」

 遊があきれる。「……ばかやろう」

 輝巳はへこたれない。「いやいや、あの子ら普通にかわいすぎるだろ。

 キラキラした服着て歌でも歌ってろって感じでさ。

 なんで徹攻兵なんかやってるかな」

 堅剛が相手する。「むー、でもまあ、皐月ちゃん結婚してるけどな」

 輝巳が驚く。「へ、どゆこと?」

 「左手に指輪してた」

 「はえー、よく見てるなあ」そーか、相手の男がうらやましいなあ、と考えていると堅剛から追い打ちを食らう。

 「お前さん、顔ばっかり見過ぎ」

 いやいや、ああいう背の高い美人顔ってタイプでさー、とか、莉央ちゃん背が低いじゃん、とか、くだらない話しをしながら着甲を終える。

 重厚感のある〇六式に比べて、一八式はやや細身ながらもたくましさを保った外見と言える。

 顔の部分は同じ様式で、多数のカメラが配置されたゴーグル部分と、ガスマスクを応用したマスク部分で構成される。

 ゴーグルとマスク部分は一体化され、こめかみの辺りのジョイントで前面に跳ね上げられるようになっている。

 ドイツのAWシリーズは避弾経始を考慮した曲面を応用したデザインだが、陸自の装甲服は経費面が考慮され、平面を多用した全体的に角張ったデザインとなっている。

 見る者によっては、ドイツのそれはスポーティに、日本のそれはスタイリッシュに見えるかも知れない。

 全員、着甲を終えると廊下に出る。

 すれ違う他の自衛官から敬礼を受ける。

 返礼する時に気をつけなければならないのは、よく周りを確かめてからにすることだ。

 気づかず、うかつに通りかかった誰かにぶつかると、良くて打撲傷、悪くて骨折、最悪切断することも可能性として無くはない。

 しばらくすると、女性陣が着甲に使っていた部屋から、明理と皐月が出てくる。

 輝巳が軽口を挟む。「すごいね、明理ちゃんと皐月ちゃんが着ると、装甲服もすこしかわいらしく見えるね」

 明理はまともに相手にせず、「訓練、よろしくお願いします」と敬礼してくる。

 皐月は、はあ、と一つため息をついてから、「よろしくお願いします」と敬礼してくる。

 堅剛が「はい、よろしく」と返礼する。

 輝巳は内心、自分を笑ってしまう。

 俺ってつくづく、好みのタイプから相手にされないなあ、と。


 小隊長をつとめる信世を指揮所のある座間駐屯地に残し、大型の幌で覆われたトラックに乗り込む。

 早速、一人ひとりの通信状態のチェックが始まる。

 クリスタルを介した音声会話、視覚通信は、第三世代型の〇六式以降では母語の通じる領土内であれば電波状態、機器の故障状態にかかわらず成立することが明確になっている。

 とはいえ、精密な電子機器であるヘッドマウントディスプレイには各種センサー類から得られる数値など、徹攻兵の感覚だけでは済まされない情報が表示される。

 更には、一人ひとりの情報は細かく記録され、保存され、時に幕僚の想定計画立案に利用されることもある。

 このため、機器の機能のチェックも兼ねて信世が一人ひとりの通信状態をチェックする。

 信世の指定で最初のチェックが遊からはじまる。

 空き時間が出来てしまうことを嫌って、輝巳が問いたずねる。「二人はさ、この力のこと、どう考えているの?」

 明理がたずねる。「ご質問の意図が分かりかねます」

 皐月は、はあ、と目をそらす。

 堅剛が割ってはいる。「むー、輝巳はさ、二人の認識を確認してるんだよ」

 輝巳がそれを受ける。「結論だけ先に言うと、二人の適正がどこまで伸びそうかを確認したかったんだ。

 ほら、誰でも引き出せる能力じゃないじゃない。

 何で自分には適正があったんだと思う?

 今後どう向き合っていきたい?」

 明理と皐月、視線を交わすと明理から話し出す。「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束もしたくありません。

 それでも、いつかは最新世代に対応してみせることで、私自身の目的にたどり着けると思っています」

 輝巳が聞く。「目的って?」

 明理が答える。「私自身の大切な人を守る、です」

 輝巳が重ねてたずねる。「なぜ、自分に適正があったと思う」

 明理は、その質問には眉間にしわを寄せて答える。「尾形さんは、御自身でどうとらえているんです?」

 輝巳はつまらなさそうに呟く。「輝巳でいい」そして苦笑いして続ける。「先に聞かれちゃったか。

 別にクイズでもないし、俺自身の話しからすると、正直、謎すぎる、っていうのが答えかなあ。

 で、明理ちゃんはどう思っているの?」

 明理は、顎に右手の人差し指を当てて考える。「誕生日が、六十四の倍数に当たることが要件だということは聞きました……。

 いえ、これでは教科書的すぎて、ご質問の答えにはなっていませんね。

 なぜ、かはこれまで、あまり振り返らなかった気がします」

 輝巳は、ふーん、とうなずく。「じゃあ今度は皐月ちゃんだ」

 皐月は輝巳の目をにらみ返すように即答する。「分かりません」

 そして続ける。「ただ、いつも思うんです。 

 なぜ、今更なんだと」

 輝巳は良くわからなくて無防備にたずねてしまう。「どゆこと?」

 皐月は、はあ、と嘆息すると視線を床に移して答える。「震災孤児だったんです」

 宇と堅剛の視線が輝巳に刺さる。

 輝巳も、あからさまに、失敗した、という顔を作ってしまう。

 それで結婚も早かったのかもなー。

 トラックは厚木基地に入り、Cー2輸送機に乗り込む。

 遊は計器類のチェックを終え、今度は宇の番になる。

 輝巳が口を開く。「ちょっと、おじさんのグチっぽくなっちゃうんだけどさ、長話に付き合ってもらえるかな」

 明理も皐月も、黙ってうなずく。

 「俺の認識では、俺たちはその、中学のいじめられっ子グループというか、いじられっ子グループみたいな感じだったんだ。

 ちょっと気弱で、周りとうまく合わせることが出来なくて、だけど、このメンツで話し合うのは落ち着いて。

 大人になるにつれて、みんな生き方を覚えていったけど、俺だけは未だに人付き合いに迷いがあって、右往左往していてて、この年で平社員やってるんだよね。

 だから、この力を使う時も、何でだよ、何でこんな日陰者の力だけ使えるんだよ、って思ってる」

 一つ、区切る。

 「張り切って、慣熟訓練に取り組む徹攻兵達を何人も見てきた。

 でも、仕事が順調な人ほど今の状態から伸びないというかさ、教えていて手応えのなさを感じていたよ。

 これは俺だけの持論なんだけど、この力に対する戸惑いとか迷いがないと、絶対的な自信や自負を持っているほど顕現しないと思っている」

 話しを聞いていた遊が割り込む。「そのくせ、この力について、出来る、っていう自覚がないとやっぱり出ない。

 どこまでも矛盾をもった人間らしさが求められる理想像なんじゃないかと思うよ」

 堅剛が話をまとめる。「むー。結局、何が答えかはみんなたどり着いていないんだな。

 もしかしたら案外、世代を上げるコツをつかむのは、明理ちゃんとか皐月ちゃんになるかも知れないね」

 明理と皐月、目線を交わす。

 明理が薄くほほえんでみせるのに対して、皐月は目線を下に向け、はあ、と嘆息してみせる。


 通信チェックをしている遊を残して五人、兵員輸送車を降りると落下傘降下の準備を始める。

 支援要員と一緒に落下傘の装着を始める。

 一八式は正味の話し、高高度からの降下でも、光条推進を使えば落下傘など不要なのだが、これも訓練のうちと使用する。

 明理と皐月は着甲したまま初めての落下傘降下となるため、支援要員とのタンデムジャンプとなる。

 通信チェックを終えた遊がトラックから降りてくる。

 交代に、堅剛が通信チェックに入る。

 落下傘の装着を終えた、遊、宇、輝巳に今回の資材コンテナの内容が説明される。

 実弾入りのラインメタル、小銃、標的幕はいつもの通り。

 今回は三十二センチ、六十四センチ、百二十八センチの工業刀が納められており、柄に蛍光テープの蒔かれたものはクリスタル入り、蒔かれていないものは訓練刀で、遅乾性の蛍光スプレーを塗布して訓練するよう説明を受ける。

 そのほかの空きスペースには、試験溶断用のスクラップ類が納められている。

 フライトの時間はあっという間で、要領良く確認を進めないと間に合わない。

 結局、明理と皐月の通信チェックは駆け足で行われると、支援要員から声が掛かる。「まもなく、予定降下ポイントに到達します」

 「了解しました」と六人、声を揃える。

 会話していた五人全員、頭部前面上部に跳ね上げていたフロントマスク部分を下ろし、留め金をかける。

 「先にコンテナを下ろします、尾形さん、春日さん、搬出の補助をお願いできますか?」と支援要員から声が掛かる。

 こういうとき、重機並みの搬送力をもつ徹攻兵は重宝される。

 かさばる段ボール箱を運ぶ要領で二人で並んで開かれたハッチの縁まで歩み出る。風圧が強いが二人とも全く気に成らない。

 「せーの、はいっ」と放り出すと、落下傘が自動で開きふわふわと降りていく。

 「お二方、春日さんから降下開始して下さい」

 「了解しました、春日、降下開始します」

 遊が、ハッチの縁から降りる。

 それを見て、輝巳が進む。「では、尾形、降下開始します」

 輝巳が、ハッチの縁から降りる。

 続いて、宇、堅剛、と降り、少し間を開けてから明理、皐月の順番で降下する。

 輝巳、遊、宇、堅剛の四人は慣れたもので、着地の瞬間光条を吹き出し、勢いを完全に殺して降り立つと落下傘を切り離す。

 宇、堅剛はコンテナの開封に向かう。

 輝巳と遊は、降りてくる明理と皐月を待ち受ける。

 一八式は最長連続八分間の光条推進が可能だ。

 落下傘降下によるタンデムジャンプでは、普通、背中を下に降下するが、それでは補助要員を怪我させてしまう。

 そこで降下直前に飛び上がり、二人を抱きかかえるように支えると、輝巳は光条推進をうまく利用して勢いを殺し、立ちあがったまま明理を下ろす。

 装甲服越しでも、相手が若い女の子だと思うと緊張する。

 お仕事、お仕事、莉央さんごめんなさい。

 皐月じゃなく、明理を担当したのは他人には全く意味がないのだが、輝巳なりの妻への気遣いでもあった。

 明理は素早く補助要員を下ろす。

 補助要員が敬礼してくる。「降下、完了しました」

 明理が返礼する。「降下補助、ありがとうございました」

 補助要員は落下傘の回収と収容を開始する。

 輝巳、遊、明理、皐月はコンテナに向かう。

 信世から指示がでる。「こっちの司令も含めて、誰もが気になっているところだから、まずは四人、光条武器の発光状態から確認してもらえる?」

 「了解」「りょーかい」と口を揃える。

 「まず、宇、三十二センチの刀を持ってもらえる?」

 宇が、三十二センチの刀を握る。

 信世が指示を出す。「光条の発光、願います」

 宇が苦笑しながら呟く。「そういわれてもね、こうかなあ?」

 宇が、握りの部分に隠されたクリスタルを意識しながら、刃の部分を囲むように意識をすると、ぎりぎり目で追える素早さで、柄のところから刃先にかけて、宇の光条の特徴である緑色の鮮やかな光りでつつまれる。

 おお、という声は本人よりも、九百八十八キロ離れた座間駐屯地の司令所で上がった。

 信世から指示が飛ぶ。「宇、暗視から自然光にカメラを切り替えます」信世の操作で宇の視界が一気に暗くなる。

 しかし光条武器の鮮やかな光で、コンテナの中身まで照らされる。

 信世が続ける。「切れ味を試して欲しいところだけど、まずは出力の確認からね。宇続けて、六十四センチの刀に持ち替えてもらえる?」

 「はいよー」と宇が意識を切り替えると、光条が止まったとたん、画面が一気に暗くなる。ほんの少し待つと、自動で暗視に切り替わる。

 信世が苦笑しながら呟く。「夜間は暗視のままがいいみたいね」

 そうだね、と答えながら宇が六十四センチの刀を持つ。

 こうかな、と光らせると刀全体が光らず、先端に非発光部分が残る。

 信世からまた、指示が入る。「今回の刀、目盛りが振ってあるでしょ。

 どこまで光ってる?」

 宇が確かめる画像が、座間のモニターに大写しになる。「ええと、五十四センチだね」

 信世が電卓を叩く。「出力六十八パーセント、初めてとしては十分じゃない。

 ドイツでの検証では六十四センチまでは光るらしいけど、それはこれから慣熟していけばいいし。

 そしたら、堅剛、六十四センチの刀を手にしてもらえる?」

 堅剛は、コンテナの荷物をあさり、六十四センチの刀を手に取る。

 両手で握り、まっすぐ前に構えてみせる。

 程なくして、堅剛の光条の特徴である鮮やかな赤色の光でつつまれる。

 やはり先端に非発光部分が残る。

 「むー、五十五センチ、宇とどっこいだね」

 「出力七十一パーセント、発光を認むもなお慣熟を要する、といったところね」

 気をよくした信世が、遊に指示を出す。「そしたら遊君、百二十八センチの大太刀にトライしてもらえる?」

 遊が笑いながら答える。「なんだこの化け物は」そういうと、軽々と振り回してみせる。「さて、こんな感じかな」と構えると、信世がすかず「発光、願います」と口にする。

 遊の光条は紫。

 鮮やかな紫の光が剣を覆う。「百二十センチ」

 信世が再び電卓をたたく。「えーと、出力八十七・五パーセント。いいじゃない。じゃ、とりはいつもの輝巳で」

 「はいはい」と輝巳は苦笑い。「緊張するんだよね、こういう役回り」いいながら、百二十八センチの刀を取り出す。「緊張するっていうかさ、落ち込むんだよね。

 そっちにいるみんなも、信世も含めてお偉いさんなのに、どうして俺は仕事ダメなのかなあ?」

 片手で持ち、軽く振り回すと。「いいかな」とたずねる。

 「発光、願います」

 「はい」

 輝巳の光条の特徴は黒。

 闇夜の中ではある意味全く見えづらい。

 暗視スコープの画像のなかでも、刃の部分にもやが掛かり、発光、とは言えないが光条が発動しているのが分かる。

 「全部行ったね」

 「百二十八センチ、出力百パーセントを確認しました。

 さすが、日本のフランツ・シュタイナーね」

 「うーん、ありがたいけど、こればっかり出来てもね。

 仕事、どうしたらいいんだろうなあ?」

 それはここでいわれてもね、と信世が苦笑する。

 次いで明理、皐月にも試行させる。

 〇六式の明理は紫色光条、四十八センチ、出力五十パーセント。

 一八式の皐月は黄色光条、七十一センチ、出力約十一パーセント。

 二人とも、自分が着ている装甲服の一つ前の世代の長さは超えて見せたことで、その世代の装甲服をまとうのにふさわしいことを証明してみせる。

 こうなると男の子達は切れ味を試してみたくなり、信世の指示が飛ぶより先に、コンテナの中のジャンクを取り出す。

 砲丸投げの弾が二十個、廃棄品のエンジンが六個入っている。

 信世が伝える。「ちなみに、自分の光条で自分の装甲に損傷を与えないことが確認されているから、砲丸弾は手のひらの上で切っても大丈夫よ」

 それを聞いた堅剛が、左腕前腕の装甲に、そっと赤い光条を当てる。

 次いで、力をかけて当ててみる。

 「たしかに、脆化はおきないね」

 輝巳が口を開く。「ありがたい話しだね、誰もが遊君みたいに作法を心得ているわけでもないもの」

 遊が答える。「俺だって真剣を扱ったことはねえよ」

 輝巳が続ける。「日本兵が軍用刀で指を傷つけるのは珍しく無かったらしいけど」

 遊が受ける。「だな」

 宇が早速、手のひらに載せた砲丸に光条武器をあてる。

 すとん、と手のひらに刃が届く。「豆腐だ」

 どれどれ、とみんな砲丸を手にする。

 堅剛が、やってみな、と明理と皐月にも砲丸を渡す。

 もちろん二人とも、お手玉か何かを持つ気軽さで、砲丸を左手に乗せる。

 そしておのおの、光条武器の刃で砲丸を切り裂く。

 「豆腐だな」「豆腐だ」「豆腐ですね」はあ。

 と一様に口を揃えて手応えを伝えてくる。

 信世が苦笑する。「豆腐の手応えっていうのは、アデル・ヴォルフ機関の報告書には無かったわね」

 そして続ける。「さて皆さん、大事な試験が残ってるんだけど、資材の中から、おのおのの左腕前腕の予備パーツを確認してもらえる?」

 遊が資材を漁ると、尾形、春日、山中、根本、穂村、相原の名前が書かれた段ボールが出てくる。

 おのおの開封し、自分の予備パーツであることを確認する。

 「そしたら、宇と輝巳、遊と堅剛、明理ちゃんと皐月ちゃんでペアになってもらえる。

 脆性試験をしたいんだけど、おのおの慎重にやってね。刃先を当てる程度にとどめて下さい」

 宇が笑う。「危なっかしーことやらせるなー」

 信世が真剣に答える「装甲の耐久力を記録する意味でも、光条武器の破壊力を試す意味でも、万が一の近接戦闘を想定する上でも大事なことよ。

 くどいようだけど、本当に慎重にやってください。

 そうだな、順番に行きましょう。

 まず輝巳、左腕を伸ばしてもらえる?」

 輝巳が苦笑する。「切られる方はまっさきなのかよ」

 信世が続ける。「あんたの光条は光条じゃなくてもやだから分かりづらいのよ。

 宇、発光してもらえる。

 輝巳のカメラ、通常光に戻すわよ」

 信世の操作で、輝巳のヘッドマウントディスプレイの表示も切り替わる。

 宇の、鮮やかな緑の光条が視界に映る。

 信世から指示がある。「宇、淡く光っている部分で輝巳の腕を照らしてもらえる?

 決して、刃は当てないで」

 ゆっくりと宇が刃を近づける。

 信世も、慎重に言葉を選ぶ。「輝巳、異常はない?」

 「うん、特にまだ何も感じない」

 「宇、もうちょっと近づけてもらえる?

 刃がぎりぎり触れない程度に」

 宇もまじめな声になる。「こえーな、これ」

 「ストップ、一旦外して。

 輝巳、自分の装甲確かめてもらえる?」

 輝巳は腕を曲げると、右手の指で宇が今照らしていた辺りを確かめる。

 輝巳が答える。「装甲に損傷は認めず、塗装にも異常なし」

 信世も確認する。「では次の段階に行きましょう。

 輝巳、もう一度腕を伸ばして。

 宇、今度は刃先をゆっくり当てて下さい」

 「了解」と、宇は慎重に刃先を当てる。

 光条の一番強く発光する刃先を当てると、塗装面が線状に反り返る。

 輝巳が呟く「来たね。特に痛みは感じない」

 信世が声のトーンを下げる。「宇、そのまま気持ち、五ミリくらい進められますか?」

 「了解」と、宇は少しずつ刃を下げる。

 刃を中心に、一センチくらいの細かいひびが装甲に入り、刃が食い込んでいく。

 「そこまで」信世がとめる。

 宇はすっと武器を上げる。

 輝巳が暗視に切り替えて、自分の左腕をカメラの前にかざすと、右手で傷跡をなぞる。

 脆化した装甲がぼろぼろと落ちてゆく。

 宇が語る。「包丁で卵の殻を切ったことは無いけれども、きっとこんな感じの手応えなんだろうな、って感覚があったよ」

 信世が受け止める。「なるほど。

 でも、格闘戦においては無いも等しい防御性ね」

 堅剛が呟く「むー、ドイツはよくこんなもの見つけたな」

 信世が続ける。「さ、慎重に、てきぱきと行きましょう。

 次は輝巳と宇、交代ね」

 こうして慎重に、しかし着実に試験を繰り返していく。

 明理が呟く。「ふー、でも本当に、卵の殻みたいな感覚ですね」

 だろー、と宇が得意げに返事する。

 一通り全員終わると、損傷した装甲を外し、予備品に付け替える。

 何気なしに輝巳が、外した損傷装甲を光条武器で切る。「豆腐だ」

 信世が叫ぶ。「あっ、なにしてんの」

 「えっ、えっ?」

 「それ、また修復して使うものなのよ」

 「ごめん」に続けて、どんだけ日陰者なんだよ、と呟いた輝巳の声を信世は聞き逃さない。

 「聞こえてるわよ。毎回実弾訓練出来てるだけでも奇跡なんですからね」

 はーい、と返事する輝巳のそれはだだっ子にも似て、マスクの下で明理も、皐月も唇の端を少しつり上げる。

 ついで、つばぜり合いの訓練は、万が一のことも考慮して、短い三十二センチの光条武器を使って行われた。

 出力の違いも考慮して、〇六式同士の宇と堅剛、一八式同士の輝巳と遊で行われる。

 光条部分を交差させて、お互い徐々に力をかけていく。

 不思議と地面を痛めない装甲服の足底が地面にめり込む頃には、既に刃の部分には数十トンの力がかかっているが、それでも、お互いの光りは混ざらない。

 信世が「そこまでにして」というので、四人とものけぞるように力を緩める。

 信世が続ける。「じゃあ明理ちゃんの相手を宇、皐月ちゃんの相手を輝巳がやってもらえる?」

 輝巳が確認する。「受けろ、ってことだよね?」

 信世があきれ声を出す。「当たり前でしょ。

 これから出力を伸ばす子に、フランツ・シュタイナーが本気を出して何をするつもりなの?」

 皐月が、黄色く輝かせた光条武器を構えてくる。「よろしくお願いします」

 「はい、どーぞ」と輝巳は横に構えた光条武器の、刃先の峰の部分に左の手のひらを当てる。

 実際には峰の部分にも光条が集まり、実質峰は無いのだが、自分の光条では自分を傷つけない特性が、こんな形で生きる。

 十字に刃を当てた皐月が、徐々に力をかけていく。

 やがて皐月の足底の地面が削れていくが、輝巳の姿勢は変わらない。

 信世が「はい、そこまで」と、声をかける。

 皐月が、はあ、と一息つく。

 輝巳が声をかける。「いずれ俺や遊君と同じ力が出るからさ」

 はい、と返事をしてきた皐月がどんな表情だったのかは、お互い、マスク越しで分からない。

 信世から指示が来る。「さて、今夜の光条武器の試験訓練はこのくらいにして、〇六式と一八式に分かれて、いつもの出力訓練をして」

 そういわれて皆、光条武器の出力を押さえると、コンテナに収納に向かう。

 輝巳が、名残惜しそうにもやの掛かった三十二センチ刀を振り回すので、遊がいぶかしがる。「お前さん、なにしてんの?」

 「いや、これ、飛ばすこと出来ないのかな?」

 遊が吹き出す。「そんな物騒な武器ねーよ」

 いやー、ゲームだと飛んで行くじゃない、と輝巳が苦笑いして出力を止める。


 ここからは、飛んで走っての繰り返しになる。

 徹攻兵の動作は、体力勝負というわけではない。

 むしろ日常動作と同じ気軽さで、驚異的な運動能力を発揮するところに、徹攻兵の兵器としての価値がある。

 輝巳は普段運動もせず、鬱で土日は寝込むばかりだが、着甲時は一時間でも二時間でも、平気で連続走行できる。

 走行速度も驚異的で、〇六式で時速九十キロ、一八式では時速百二十キロの速度で連続走行する。

 これは中の本人が力んでも、リラックスしていても変わらない。

 四人とも、最初のうちこそ力んでもいたが、二十年以上装甲服と付き合ううちにすっかり馴染んでしまっていた。

 姿勢こそ前傾姿勢は取るが呼吸も乱れず、散歩するのと変わらない気安さだ。

 これに追従する明理や皐月は違う。

 〇五式の運用をつうじて、時速七十二キロでの一時間半の連続走行には慣れている。

 当然、〇五式を身につけている時は、二人とも体力向上のためではなく、出力確認のために走っているだけで、決して走り込んでいるわけではない。

 しかし、教導役の輝巳達と併走すると、自分たちの出力が規定に達していないのがわかる。

 輝巳と遊が一分で二キロを走りきるところ、皐月は七十五秒かかってしまう。

 宇と堅剛が、八十秒で二キロを走りきるところ、明理は八十五秒かかってしまう。

 お互い、行ったり来たりを繰り返す。

 慣熟に要する時間は人それぞれで、輝巳のように、〇五式の運用を成功させた翌年の末に、〇六式の運用を完了させたこともあるほど、順応性の高さを見せるものもいれば、これまでほぼ全員が〇五式止まりだったように、なかなか壁を破れないこともある。

 そんななか、明理も皐月もようやく壁を越える素質を見せたこと自体優秀ではあるのだが、出力の不足を見せつけられると、何とかしたいと思う。

 自然と、力む。

 二人の呼吸が荒くなってきたのが、ヘッドホンから伝わってくる。

 信世が休憩を挟ませる。「ふたりとも、すこし息を整えましょうか」

 明理が答える。「平気です」

 皐月も返答する。「まだ、続けられます」

 信世が諭す。「でしょうね、でも体力を使っても無駄なのよ。

 あえて言います。

 体力を使っている時点で欠格です。

 五十手前の運動不足のおじさん達に、普通科の訓練にも参加することのあるあなた方がたどり着けない、なぜ、を考えて下さい。

 十数年も九八式を運用する間に、一佐になっちゃった顕現者もいるのよ。

 いま、〇六式と一八式を運用できている自分を認めてあげて」

 明理は天を見上げ、皐月は横を見つめる。

 明理が呟く。「何なの?」

 皐月が受ける。「ほんとう、ですね」

 明理につられて、輝巳は空を見上げると、顎の留め金を外しマスクとゴーグルを上げる。

 「寒っ」

 遊が笑う。「なにしてんだよ」

 輝巳が答える。「星が見えるかなって」

 切れ切れの雲の向こうに、星々がきらめく。

 「何なんだろうなあ?」雲の切れ間に輝く火星が、輝巳の瞳をひときわ引き寄せた。


 全員、一息を入れると、跳躍や光条推進の継続時間の訓練に移る。

 報告書にもあったとおり、明理は〇六式で三十四メートルの高度に達し七割の出力を、皐月は一八式で四十八メートルの高度に達し二割の出力を出してみせる。

 そこに君の限界は無いんだよ、ということを示すためにやっているのだが、おじさん達はなんだか、大人げない気分になってくる。

 かといってヘッドフォン越しに伝わってくる二人の息づかいが真剣で、なまじ優しい言葉をかけるのもためらわれる。

 真っ先に音を上げたのは輝巳で、ふーっと長いため息をつくと「やりずれーなぁ」と苦笑い。

 それを受けて宇も「だよねー」と苦笑い。

 「なにが悪かったでしょうか」と即座に聞いてくる皐月に、輝巳は「違うよ」と答える。

 「お互い、当たり前の事をしているだけなのに、なんだか大人げなく得意げになってるような気分になってさ、仕事もへたくそなのに家庭も持ってるだめおじさんが、若い子相手になに粋がってるんだろうなって気分になってさ」

 皐月が納得する。「なるほど」

 輝巳が軽口を叩く。「そもそも二人とも、もてるでしょ?」

 明理も皐月も、よどみなく「はい」と返事をする。

 二人、見つめ合う。

 すると「すげえ、息ぴったりじゃん」と遊と堅剛の声が揃ってしまい、宇が「お前たちのほうがぴったりじゃん」と即座に指摘し、六人の間に一体感のある笑いが生まれた。


 北海道東部の日の出は早い。

 空が白み始める前にヘリポートに向かう。待機していたヘリコプターに乗り込むと、夜明け前の帯広駐屯地に着陸する。

 ヘリコプターが格納庫に収まると、ようやく降りることが出来る。

 そのまま、格納庫の隅っこで、他の隊員の迷惑にならないか気を使いながら装甲を外す。

 整理整頓は自衛隊員のたしなみ。

 民間人である四人も、そのくらいのわきまえはある。

 男性陣はここでアンダーアーマーまで外してしまうが、女性陣はアンダーアーマーを着たまま「ありがとうございました」「失礼します」と庁舎に向かう。

 宇が呟く。「重いのに元気だねー」

 堅剛が答える。「若いからな」

 四人、用意されていたレンタル品のスウェットを着込むと庁舎に向かいシャワーを借りる。

 着甲していると緊張もするのか元気でいられるが、くつろぎモードになると持たない。

 誰しも、歳のせいだとは思いたくないが庁舎のベッドを借りると睡眠を取る。

 夕方前、少し早めに起き出した輝巳は、顔見知りの隊員に声をかける。「インターネットで動画を見られる端末は借りられますか?」

 「それはちょっと、無いんですよ。無いと言うかお貸しできないんです。

 あー……、私物のスマホならお貸ししましょうか?」

 輝巳も気が引ける。「いやいや、それはちょっと恐れ多いといいますか、人様のスマホはお借りできないです」

 相手には、自分が民間人であることも、徹攻兵の教官であることも知られている。

 それだけに、無理な気を使わせてしまっているのではないかと申し訳ない気持ちになる。

 「なにか、調べ物でも?」と、腕時計を確認しつつさらにたずねてくれる。

 輝巳も、自衛官という官僚が訓練ばかりではなく大量の事務処理を抱えていることを知っている。「大丈夫です。お心遣い感謝します」

 隊員は、何かあれば、またお声がけ下さい、と言い残して去っていった。

 借りているベッドに戻る前に、飲み物が欲しくて自販機スペースに行く。

 とはいっても財布は座間に預けてある。

 なにも買えないのだが、決められた食事の時間まで、間をもてあましてしまいつい向かってしまう。

 すると遊も宇も堅剛も集まっていた。

 「だよな」

 宇が「うん」とうなずく。

 輝巳は気になっていたことを思いきって聞くことにした。「なあ遊君?」

 「んー」

 「光条武器のためには、剣道覚えた方がいいのか?」

 遊は答えを考え込む。「んー」

 そして答える。「正直俺も、悩んでる。悩んでるっていうか困ってる」

 堅剛がたずねる。「むー、どうした?」

 「正直、剣道も、真剣を使った居合道も、そもそも刀という武器自体、光条武器と違いすぎる」

 宇がたずねる。「どういうこと?」

 「光条武器はあまりにも強すぎる。

 刀として見たら化け物だと言っていい。

 そもそも刀に対して対抗できる防具として、鎧や盾が生まれてきて、それで初めてチャンバラが成り立つようになっていたのに、光条武器は装甲服を簡単に破ってくる」

 遊は、考えながら喋っているため、少し間を開ける。

 「そもそも剣道は一本を決めるスポーツだから、防具に竹刀を当てながら間を開けたりすることもある。

 そんなことしたら、光条武器の場合お互い肩からざっくり行くだけだ。

 剣道ののりで一本を取りに行ったら、自分も相手の光条武器で致命傷を負う。

 相打ちにしかならない。

 かといって剣道自体捨てたものでもない」

 また、間を開ける。

 三人、黙って遊が口を開くのを待つ。

 「んー。

 剣道って読み合いには役立つというか。

 そもそも押し斬りなんだ」

 輝巳が割る。「ん、押し斬りって?」

 遊が、右手と左手を前にして、竹刀を持つ構えを見せる。

 右手のこぶしを上に、少し間を開けて左手のこぶしを下に構えて両手を前に突き出す。

 「こうやって、竹刀を前に押し出した姿勢で相手に向かっていくのが剣道だとしたら、刀で本当に斬る居合道は引き切りといって」いいながら遊は両のこぶしを左の腰の位置まで下ろす。

 「こう、包丁で刺身を切るように、如何に美しく斬り抜くかを鍛錬してる」

 なるほど、と三人うなずく。

 「刀で本当に斬るためには引き斬りである必用があるから、実践的なのは居合道だけど、光条武器に引き斬りは必要ない。

 となると剣道の押し切りの姿勢は光条武器でも役には立つかと思うんだが、それだと相打ちになる」

 そこまで語ると遊は腰に両手を当て、目をつむって上を向き、大きく息を吐く。

 「手詰まりなんだよ。

 あんなもの、どうしたらいいのか。 

 防具を全く無効化する刀なんて化け物、これまでこの世に存在しなかった。

 戦国自体の主兵器は槍だったとは読むけど、改めてなるほどなと理解したよ。

 せめて、槍の距離が欲しい。けれど、一八式でも百二十八センチが限界だからどうにもならん」

 堅剛が話しを聞きながら腕を組み、右手を顎に当てる。「むー。結局どうしたらいいんだ?」

 遊が答える。「そうさな、まず素人が振りかぶるのはすきがでかすぎる。

 横に切るのも縦に切るのもすきがでかい。

 一気に間合いを詰めてのどを突き抜くのが効果的だが絶対じゃあない。

 当然、相手も突いてくるし、それにアニメと違って人間、のどを突き抜かれても即死する訳じゃない。

 動けるうちは反撃してくる。

 反撃食らえば相打ちになっちまう。

 そこで、剣道の読み合いが活きてくる。

 いつでも相手の太刀筋に対応できる高さを保って、最小限の動きで出来るだけ大きく相手の刀を払う」

 宇が笑う。「無茶言うな」

 遊も笑う。「でも、そうしなければ相手の光条武器がお前さんを傷つける。

 そして対応してきた相手となんとしてでもつばぜり合いに持ち込む」

 輝巳がうなずく。「ふむ」

 遊は至極まじめな顔で続ける。「そしたら他の誰かがラインメタルを撃ち込んで始末する」

 宇が笑う。「卑怯じゃん」

 遊はまじめな顔を崩さない。「卑怯じゃない。

 確実に相手にするなら体を引いてかわし続けて相手のすきをうかがいつつ、ここぞというところで飛び込んでつばぜり合いに持ち込んで止める、そしてそこを狙うのが現実解だと、思う」

 三人、話しを聞いて考え込んでしまう。

 果たしてそれは自分に可能なことなのか、と。

 遊が続ける。「案外、古武術の方が競技化していない分、実践的な動きが見つかると思う、ただ」

 輝巳が問う。「ただ?」

 遊が言葉を選びながら呟く。「道着を着ているとか、相手の手首なりをつかめるとか、金的を打って痛みでひるませるとか、どれも徹攻兵相手には通用しない条件なんだな。

 抜き身の状態で始まる、触れただけで致命傷の刀での戦いに相打ち以外の答えなんてあるのか」

 宇が時計を確かめて、時間だね、と告げてくる。

 四人、食堂に向かう時の口数は少なかった。


 段取り通り日没後、隠れるようにヘリコプターの格納庫で着甲すると、矢臼別演習場に向かう。

 信世から指示が入る。「まずは二人にラインメタルの射撃訓練をしてもらいましょうか」

 本来、主力戦車の主砲であるラインメタルの発射時の衝撃はすさまじく、五十トン級の車体でようやく受け止められるほどである。

 徹攻兵が如何に驚異的な身体能力を発揮するといえども無限ではない。

 第一世代の九十八式の場合、二百キロ相当の衝撃が、第二世代の〇五式の場合でも百キロ程度の衝撃が、着甲している顕現者本人の身体にかかる。

 実験では、〇五式二名で支えることで何とか運用できたものの、実用的ではないとして二名懸架用の様式は制式化が見送られている。

 このため、明理と皐月にとってラインメタルを撃つのは初めてのことになる。

 主力戦車による実用的な砲撃は二千メートルから三千メートルとされており、三キロ離れた地点では宇と輝巳が標的幕を張って待機している。

 信世の指示で、まずは〇六式の明理から試射することになる。

 身長の最も高い堅剛が身長の最も低い明理にラインメタルの担ぎ方を教えるのは、どこか親子の様子すら思わせる。

 長大な砲身はなかなかかさばり、構えるのに一呼吸を擁する。

 それでも明理は、自家用車一台分にあたる重量物をあまりにも軽々と取り回してみせる。

 前後のとれる位置で右の脇の下に構え左手を添える。

 砲の重心から上に伸びる一本の柱はちょうど肩にかける高さで後ろに折れ曲がっている。

 堅剛が手本を見せる。「むー、懸架鈎は肩の端の方じゃなくて、もう少し首に近い位置に構えられる? そうそう」

 信世から連絡が入る。「明理ちゃん、瞬間的に六十五キロ相当の衝撃が肩に入ることになるからそのつもりで」

 明理が返事をする。「はい」

 堅剛が優しさを見せる。「緊張してる?」

 明理が答える。「していますね」

 堅剛が、それでいいと思うよ、とかけた声に明理が「ありがとうございます」と答えると、信世から指示が入る。「穂村二尉、射撃訓練開始、撃てっ」

 明理は右足を後ろに引くと腰を落とし、暗闇の向こう三キロ先の標的を意識する。

 見えたっ。

 右手の位置に来ている引き金を引く。

 轟音と閃光。

 初めての衝撃に明理は一歩後ずさる。

 弾は同心円の右の端を撃ち抜き、少し離れた裏の丘に突き刺さる。

 明理は悔しがる。「外しましたか」

 宇から声がかかる。「初弾で、的には入ったんだからいいんじゃない」

 信世が確認する。「明理ちゃん、肩の様子はどう?」

 明理はラインメタルをそっと下ろすと、右肩を一周回してみせる。「ずいぶん重みを感じましたが、問題ありません」

 信世は、一回考え込むと「それじゃ、姿勢に気をつけながら、残りの三発も撃ってみましょう。

 出来るだけ、的の中心を意識して」

 わかりました、と答えた明理は、ラインメタルを軽々持ち上げてみせる。

 砲身はこんなに軽いんだけど、と先ほど感じた衝撃の重々しさを意識せずにはいられない。

 そして、もう一つのことも。

 あの子は、もっとうまくやる。

 構える。「穂村、準備整いました」

 二発目、三発目、四発目と、信世のかけ声と供に撃ち込む。

 どうしても後ずさりする癖は抜けなかった。

 弾は、徐々に中心に近づいたものの、赤丸には届かなかった。

 信世の指示が皐月に移る。「じゃあ、今度は皐月ちゃんの番ね。一八式の皐月ちゃんでも、四十五キロ相当の衝撃がかかります。

 気をつけて」

 「了解しました」と返事する皐月に信世は、「一八式の出力をフルに発揮できるようになれば二十五キロ相当になるからずいぶん違うんだけどね」と声をかける。

 皐月は、はい、と答える。

 明理の構え方を見ていた皐月は、遊の目からみても嫌みなく構える。

 「それでいい」

 「ありがとうございます。

 都築教官、相原三曹、整いました」

 「相原三曹、射撃訓練開始、撃てっ」

 皐月の放った初弾は、中心の赤丸をかすめて裏の丘に突き刺さる。

 輝巳が標的幕をカメラに映し込む。「いいね、こんな感じだ」

 三キロ先程度であれば、暗闇の向こうでも、〇六式の明理も一八式の皐月も意識できる。

 皐月は、こんなものかと口を結び、明理は、負けてられないと口を結ぶ。

 信世が確認する。「皐月ちゃん、肩の調子は?」

 「問題ありません」

 「じゃ、続けて行きましょう」

 皐月は残りの三弾を、ばらつきはあったものの全て赤丸の中に収めて見せた。


 射撃訓練を終えた六人は、各々撤収の準備を整えると、コンテナの位置まで戻ってくる。

 輝巳と遊は百二十八センチの、他の四人は六十四センチの、柄に蛍光テープの巻かれていない工業刀を手に取る。

 信世が「念のため、光らないことを全員確認して」というので全員、昨晩と同じように意識するが誰の刀も光らない。

 そこで遊が声をかける「信世、ちょっといいかな?」

 「なによ」

 「俺なりの考えを、みんなに説明してみたい」

 信世は、ふう、と一息つくと「お願いしようかしら」と伝える。

 「輝巳、つきあって」

 「おう」

 「構えて」

 「こうかな?」

 素人なりに、輝巳は両手で剣を持つと、前に構える。

 刃先を重ねるように遊も構える。「おそらく、光条武器の戦闘はこの形から始まる。この時点で納刀していたり、非発光だったら既に死亡が確定したようなものだと思う」

 そして遊は真上に振りかぶる。「真剣での戦いは、この形もあるとは思うけど、普段慣れてないと、どうしても相手の動きを見てから動くから出遅れる」

 遊は今一度刃先を重ねるように構える。「この形で一番早いのはこうして」

 遊は一歩進むと、輝巳ののど元に切っ先を近づける。「相手ののど元を打突する突きだけども」

 その状態で既に、輝巳の構えた刀は遊の肩にかかっている。「この通り相手の光条武器も自分にかかってる。

 仮に突きが成功しても、相手が振り下ろしてくれば」

 輝巳は、遊の意図を察して、そっと刀を遊の左肩にあてる。

 遊が続ける。「卵の殻を割る要領で自分の体が切られるだけだ。

 輝巳、今度はゆっくり突いてきて」

 二人、今一度刃先を合わせて構えると、輝巳が一歩進む。

 遊は下から頭の高さまで柄を上げるようにして輝巳の刀を押し上げる。「相手が突いてきたらこうして、相手の光条武器を十分すぎるほど離してから」 

 遊は刀を振り下ろしつつ一歩進む。「こうして、相手を斬りに行く。輝巳、受けて」

 輝巳が押し上げられた刀を下げると、つばぜり合いの格好になる。

 遊の説明はまだ続く。「この形に入ったら、一瞬だけでも相手の動きを止められる。

 ここから、相手がもがくようなら刀を上下に動かしてでも」

 遊はそういうと、少し左に刀を傾けて上にスライドしてみせる。「とにかく相手の動きを封じる。

 この時大事なのは少しでも自分に迷いがあったら、迷わず後ろにジャンプして距離を取ること。

 逆に相手の動きを封じられるなら、〇・一秒でも長く維持する。

 で、パートナーはラインメタルを相手に撃ち込む」

 皐月が手を挙げる。「質問があります」

 遊が刀を下ろすと、輝巳も刀を下ろす。

 そして遊が受ける。「何でもどうぞ」

 「二対一での戦闘が前提のようですが、一対一とか、二対二の場合はどう処理しますか」

 遊はよどみなく答える。「逃げる、とにかく距離を取る。

 そして相手方を何とか引き離して、二対一の二回戦に持ち込む。

 持ち込めないなら引き上げる」

 皐月が食い下がる。「それでは、作戦目標を達成できない可能性があります」

 遊の言葉には迷いが無い。「構わない。

 そもそも光条武器を携行した徹攻兵に同数の徹攻兵を当てる時点で、その作戦は失敗している。

 徹攻兵の使いどころは対徹攻兵戦の損耗品としてだけじゃない」

 堅剛が口を挟む。「むー、遊はそうはいっても、皐月ちゃん達は本職な訳で、上の命令には従わざるを得ないんじゃない?」

 遊は一息吐く。「いい方が悪かった。

 逃げるといういい方は取り消すよ。

 うん。

 距離を取る、とにかく二対一の二回戦に持ち込む、が、俺の中の正解だ」

 信世がまとめに入る。「遊の正解だけが正解とは限らないけど、いずれにしても徹攻兵の世代更新は急務ってことね。

 さて、出力の近いもの同士、実際の近接戦闘を想定した訓練に取りかかって下さい。

 遅乾性の蛍光塗料を刀にスプレーしたら、摸擬戦に取り組んで」


 そこからの一時間、宇、堅剛、明理、皐月は異常なものを見た。

 最初に気がついたのは堅剛だった。「なあ、あいつ等ずっと続けてないか?」

 堅剛の目線の先には輝巳と遊がいた。

 それは、遊の小手調べから始まった。

 輝巳と遊、お互い一礼してから刀の先を合わせる。

 正直、輝巳の刀を下にはじいても、上にはじいても、輝巳の反応は緩慢でいかようにでもつけいるすきはありそうだった。

 下に小さくはじく。

 下ぶれする。

 輝巳が戻そうと上げてくる刀を改めて上にはっきりとはじく。

 輝巳の刀がぶれる。

 そのまま一歩踏み込みさらに輝巳の刀を押し上げる。

 十分に輝巳の刀が開いたところで、飛び退くセンスが欲しいと思い、向かって右のカメラレンズに向けた突きを出そうと振り下ろす刀に一歩下がった輝巳の刀がまとわりついてきてそのまま右下に押し払われる。

 あれまと思い刀を下から回り込ませて、輝巳の刀を右に払う。

 またも光条武器戦を想定した十分な位置まで払ったら、がら空きになった脇腹に向けて右から左に当てようとする刀に上から回り込んできた輝巳の刀が縦に構えられて今一度右に押し出される。

 一旦離れて刀の先で上に、下に、フェイントを重ねながら徐々に近づく。

 遊が上に誘えば上に、下に誘えば下に、輝巳の刀は子供のようについてくる。

 開く。

 攻める。

 回り込まれる。

 改める。

 誘う。

 ついてくる。

 その勢いで開く。

 十分すぎることを確かめて攻める。

 まとわりつかれる様に回り込まれる。

 距離を取る。

 詰められる。

 誘いには釣られてくる。

 その流れを活かして開く。もっと開く。

 返す刀に本気が乗る。

 回り込まれてせめぎ合いになる。

 刀を滑らせて構えを変える。

 力がかかりすぎて火花が飛ぶ。

 踏み込むように押し込むと思い切って後ろに飛び退き距離を取る。

 二人の剣劇は徐々に速度を増していく。

 とにかく輝巳の刀は遊の誘いを読み切れない。

 それどころか開いてしまうのは輝巳の刀。

 それなのに遊が攻める時には必ず刃を立てて回り込んでくる。

 そして幾ら遊が踏み込もうとも刃を輝巳の装甲にたてることは出来ない。

 いつの間にか宇も堅剛も自分たちの刀を下げて輝巳と遊の行く末を見つめてしまっている。

 そんな二人に気がついた明理と皐月も、二人の目線が輝巳と遊の攻防に注がれていることに気がつくと、つい、自分たちの刀を止めてしまう。

 輝巳も遊も体力は使っていないのに呼気が荒くなる。

 決して乱れているわけではないが、吐息の勢いがマイクに回り込みノイズになって全員に響く。

 信世が割り込む。「そこまで、訓練時間終了です。

 使用した資材をコンテナに収容し、皆さんは予定集結地点に移動して下さい」

 輝巳と遊はお互い飛び退くと、刀を下げて一礼する。

 輝巳が笑う。「ダメだー、全く攻め込めない」

 遊も笑う。「一切触らせないだけでも恐ろしい。お前さん何者だ」

 輝巳が転がっていた蛍光塗料の缶を拾いながら言葉を選ぶ。「うーん、お告げがあった」

 遊がいぶかしむ。「お告げ」

 「やばいって思うより前に、こう来るよってお知らせがあって、やばいやばいと慌ててたら時間切れになった」

 遊がまた笑う。「なんだそれ、ちょっと何いってるか分からないんですけれども」

 宇と堅剛の賞賛の声が輝巳の胸に堪える。

 仕事でこう言われたいなあ。

 明理は、不思議なものを見た気がして考え込んでしまう。

 皐月は、美しいものを見た気がした。


 六人は片付けを終えるとコンテナのハッチを閉める。

 コンテナそのものの回収は別の班にお任せし、ヘリポートに駆け込む。

 待機していたヘリコプターに乗り込み空自の千歳基地へ。

 千歳基地で用意されていた兵員輸送車に乗り換え、輸送車ごと待機していたCー2輸送機へ。

 ここまでを宵闇の中で終えればようやく自由に動ける。

 輸送車を降り、広いCー2輸送機内でまずは装甲を外す。

 兵員輸送にも使われるCー2輸送機にはトイレも備え付けられており、順番にアンダーアーマーも脱ぐと用意されていた使い捨ての下着とクリーニング済みのスウェットに着替える。

 装甲やアンダーアーマーなど装備品一式をチェックしながら各自のコンテナに格納。

 脱ぎ終えた装甲服は重く、男二人がかりでなんとか兵員輸送車に載せる。

 そして各々も兵員輸送車に乗り込む。

 朝日と供に厚木に降りたCー2輸送機から輸送車ごと降りると、そのまま座間駐屯地へ。

 座間駐屯地で訓練を振り返り、午前中のうちに荷物を受け取ると解散となる。


 事務処理を抱えた明理と皐月に見送られ、四人、座間駐屯地から最寄り駅まで車で送ってもらう。

 新宿までは小田急線。

 輝巳は乗り込んだ各駅停車のシートに座り込み、またあの子達と会えることは無いんだろうなあ、と思いながら居眠りを始めてしまった。

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