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徹攻兵「アデル・ヴォルフ」  作者: 888-878こと
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秘匿記録ファイル20020509-96 徹攻兵の生まれの限界

 たった一つの誕生日と、六十四の定数、そしてわずか一式の装甲服だけが、その年、秘密裏に中国に運び込まれた。


 それは、徹攻兵開発の最先進国内の中国シンパによる特殊な情報提供だった。

 情報には、徹攻兵先進国内でも顕現者の発掘に苦労していることと、民族特性があることも含まれていた。

 早速、中国国内でもリストが作られた。

 当然、中国人民解放軍に所属するものから試験が繰り返されたが、顕現者はいっこうに現れず、予算もまともに付かない有様だった。

 鉄甲兵と呼称されたその取り組みは、とにかく笑いものの与太話として扱われた。

 職員も、言われたことをこなすことしか能の無いような士気の低いものが当てられた。

 一口に中国といっても国土は広大で、民族構成も多様ではある。

 しかし長い戦乱の歴史の中で、いわゆる漢民族と呼ばれる民族と、何らかの血のつながりがある民族が多く、そして中国共産党による一党独裁制の下では、漢民族を主張する傾向があり、民族特性による可能性は期待薄と見られていた。

 そして期待されている能力と、予言されているウイグル民族、チベット民族との組み合わせは、主に政治的な意味合いで余りにも相性が悪かった。

 他国も発掘に手間取っているという内情は、漏れ聞こえてくる分には耳障りのいい情報だった。

 小銃弾を無効化するといっても、五人や十人そのような兵士がいたところで、全体的な戦況にはなんの影響もない。

 人である以上、その活動には生物学的限界があり、その限界が来てしまえば一気に無効化できる。

 しかし五十や百集まるようになれば話は別である。

 かつての戦争では数百キロにおよぶ戦線を数百万の兵力で維持することもあった。

 それが情報通りの防御力と高い狙撃能力を持つのであれば、一人当たり一キロ四方を維持することも可能で、それが三交代、四交代で二十四時間維持できてしまえば、百人で二十五キロの戦線が維持できてしまう計算になる。

 当然、歩兵や他の兵科を組み合わせることで戦線を伸ばしたり、維持の質を向上させることができる。

 核の影響で戦場が局地化している現状では、十分な決定力になり得る。

 戦局が決定さえすれば、後は歩兵で維持するなど実効支配してしまえば、大国間の綱引きなどどうとでもなる。

 その決定力が、単純な法則と安価な装備でウイグルやチベットという地域から生まれてくることがあれば、中国共産党による一党独裁の統治への影響は計り知れない。

 最も生まれてきてはいけない地域が候補地となる新兵器というのはただただ、いらだたしいばかりだった。

 最初は、混血の子から着甲試験をしてみた。

 いわゆる一人っ子政策で男余りの中国人民解放軍の軍人との間に生まれた子供だ。

 これには、全く効果が無かった。

 他国では、混血の事例は多数有るのに、かなり執拗に試験を繰り返したがだめだった。

 仕方なしに、民族運動に関わった罪で収容所で教化している者の中から、成績の良いものを中心に選んだが、これも失敗に終わった。


 最初に着甲試験である程度の跳躍を見せたのは、収容所の中で拷問にあえいでいた元尼僧だった。

 半ば拷問の一環で着甲試験をしたところ、数メートルの跳躍を見せた。

 しかし彼女は、着甲試験の数日後、拷問による後遺症から死亡してしまった。

 そうしている間にも、他国では着甲時強化現象の顕現者を発掘していると思えば焦りこそしたが、拷問が必用なほど教化に手を焼く民族活動家が対象では、兵力に組み込むのはむずかしかった。

 着甲時強化現象が最初に確認された欧州では、狼にたとえる向きもあるようだったが、必用なのは野に放たれた狼ではなく、鎖に繋がれた番犬だった。

 仏陀の教えに救いを見いだすチベタンでは、顕現者が独自の行動に出る可能性をぬぐいきれなかった。

 その点で、部族単位、一族単位での連帯を重視するムスリムの伝統を色濃く残すウイグル人であれば、一族の安全の保証を条件にすれば、その行動を制御することも可能であるのではないかと考えられた。

 犬も刃物も、こちらの意のままになればこそ身近に置いておくのであって、危害を加えてくるとなれば排除するのみだった。

 収容所での人選は慎重に行われた。

 収容所に収監される時点で既に、中央政府から見れば門外の輩といえたが、新しい戦力として活用できるということであれば別だった。

 収容所は職業訓練施設という体を取っていたので、収容されているのは六十五歳までのはずだったが、それ以上の高齢者の方が「古き良き暮らし」というものを知っている分、教化に馴染まず収容されているの者も少なくなかった。

 栄養状態が豊富だったとはいえず、諸外国の同年代よりも老いぼれた者が多かったが、可能性を確かめるだけの相手としては都合が良いとも考えられた。

 腰の曲がった老人に装甲服を着せるのは、それだけでも虐待に近いものがあったが、人道的という言葉とは無縁の研究機関だった。

 そして着甲した老人は、腰が曲がった姿勢のまま、七メートルを飛び上げた。

 さすがに装甲服も、体の痛みまで解消するものではなく、走る方は腰が痛くて無理だということだったが、使い物にならない顕現者という存在は、今後の方針を検討する上で実に都合が良かった。

 何より、いざというときに「処分」しても高齢による病没ということにしてしまえる使い勝手の良さがあった。


 そこから研究機関は、即座に処分出来るという名目が中央政府の評価を得たことに着目し、六十四日ごとに誕生日を繰り上げて、高齢者を対象とした試験を繰り返した。

 この試験は実に順調で、顕現者の誕生日の法則を一つ、また一つと証明していった。

 比較対象として、誕生日を前後してずらした者も試験したが、着甲時強化現象が顕現することはなかった。

 これも、誕生日の法則を裏付ける一つの証拠となった。

 確実にリストを埋め、六十人を超える「戦力にならない」顕現者を発掘した研究機関だったが、有る誕生日を堺に、ぱったりと顕現者がでなくなることを発見した。

 その時の試験時、翌月に七十七歳の誕生日を迎える被験者は能力を顕現したが、その一つ前のすでに七十七歳を迎えた被験者は能力を発揮しなかった。

 これまで、あまりにも順調に顕現者を発掘してきた研究者にとって、大変意外なことであり、同じ誕生日の被験者を捕まえてきて着甲試験を三回したが、ついに着甲時強化現象を発揮することはなかった。

 歳経た顕現者は様々な基礎疾患を抱えており、健康な日常動作とはほど遠くこれ以上高齢の顕現者を見つけても軍事的にはなんの利用価値もなかった。

 ただ、思想特性としては大変豊富なサンプルを得ることができた。

 数代続く家柄の族長で、一族の目下の者の婚姻も気にかけながら、自らの跡継ぎとなる男子を複数臨む、そんな穏やかな部族のリーダーにこそ着甲時効果減少は顕現しやすい傾向があると思われた。

 年齢的に結婚適齢期、婚姻直後の顕現者を発見し、一族を、妻を強制収容所に収監するだけでよい。

 具体的な所在を隠し、映像で状況を短時間かわさせるだけでよい。

 将来の一族の形成を夢見させるだけでよい。

 それだけでこちらの意のままに作戦に従事する徹攻兵を産むことができる。

 ただし、教化に従順すぎると着甲時強化現象は顕現せず、教化に馴染まなさすぎると、野に放たれた狼に等しくなる。

 まずは誕生日の法則で目標を絞り込む。

 一族の何らかの地位にあるものであれば婚姻関係を中心に身辺整理をする。

 妻がいればよし、子がいればなおよし。

 着甲させ試験に合格すれば顕現者と家族を遠く離し、家族の安全を保証する。

 試験に合格しなければ家族共々教化訓練を開始する。

 こうすることで中国は、中国人民解放軍の意のままになる徹攻兵をぽつり、ぽつりと発掘していった。


 顕現者の年齢の上限については、なぜその誕生日を堺に顕現者が現れなくなるのか解明されることはなかった。

 いずれにしても高齢の顕現者は、戦力にならない、顕現者のサンプルというだけの存在のため戦力としては捨て置かれた。

 およそ人間の法とはいえぬ使い道が導きだされたのは、また別の話だった。


 最古の顕現者の生まれる六十四日程前、南太平洋で大規模な地殻変動があり、一つの小島が海没したことと、その日から六十四日周期が起算されることに気がつくものは現れなかった。

 小島には異常極まりない非ユークリッド幾何学的な外形を持つ多くの建造物からなっている遺跡が多く残され、顕現者の中でもお告げを受けるほどのものが見れば、何らかの精神的刺激を受けたかも知れないが、それも、人知れず南太平洋の海の中に沈み、次の寝覚めの時を待っているばかりだった。

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