表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徹攻兵「アデル・ヴォルフ」  作者: 888-878こと
10/22

戦闘記録ファイル202110dd-52 来寇撃退

 本格的な軍事行動には最低でも三ヶ月間の準備期間を要するという。

 その事変の予兆は既に半年前の四月中順には浮かび上がっていたのだが、誰しもが、何より多くのマスコミの論調が一月半前に起きた作戦行動に結びつけるものばかりだった。

 後に振り返った歴史家は、一年ほど前から予兆となるできごとは始まっていたとも分析した。


 二月末に、公式には日米両軍の軍事行動の元、尖閣諸島を事実上の中華人民共和国の侵略の手から取り戻して以来、日米両国と中国の間では激しい政治的駆け引きが繰り広げられていた。

 なにしろ、先に手を出してきたのは中国側であり、そして全滅という形で完膚無きまでに叩きのめされたのも中国側である。

 極東における中国の軍事的地位は失墜したといってよい。

 中国の外洋進出の取り組みは時に強引で、中国からの借款を元に社会的経済基盤となる鉄道や港湾の整備を行い、その借款を返済できない場合はそのままその鉄道や港湾の権益を丸ごと中国のものにするという方法が繰り返されている。

 経済的に困窮している国は、この方法に抗えない。

 整備工事に地元の労働力を当てられると考えていた政治家は、資材と供に押し寄せてくる華僑労働者を食い止めることができず、結果的に潤うのは中国人ばかりで、地元に経済貢献もできず、そして重要な社会的経済基盤を失うことになる。

 このため、諸外国の政治家の中には今回の事変を「痛快」という言葉を使って賞賛する者も現れ、それがよりいっそう中国の自尊心を逆撫ですることになる。

 中国側の主張は、非戦闘要員など無抵抗の者もいたで有ろうに無分別に虐殺が行われた、というもので、それに対して日米両軍の主張は、激しい戦闘行為が継続し作戦に参加した隊員の安全確保のためにも応戦せざるを得ず、結果的に生存者に恵まれなかったのは遺憾である、というものだった。

 また、巡視船とは名ばかりの軍事用揚陸艦であったという事実や、破壊されたものの地対艦ミサイル車両まで上陸していた写真を公開した。

 漁船側についても中国側の主張は、あくまで市民に過ぎない漁民を虐殺した、というものだったが、それに対し日米両軍は漁船とされる船の中にぎっしりと武器弾薬が詰め込まれている写真を公開し、漁をするための船ではなく、武装船であり激しい抵抗に遭った、と回答した。

 何より、日米両軍は揚陸艦のメインマストに中国の人民解放軍海軍旗が掲げられたままの写真を公開した。

 これは船の戦いにおいて古来より徹底抗戦を意味するもので、国際世論的には日米両国の主張もやむなしと見られた。

 しかし、軍事教育の不足している日本国内に向けてはあまり意味はなく、テレビマスコミを中心に、戦時国際法違反の論調がかまびすしく展開され、政権の支持率を低下させることに成功していた。

 鹵獲した揚陸艦と武装漁船はアメリカ海軍の管理する横須賀海軍施設に曳航され調査、清掃された。

 この二隻の返還を巡って中国側より日米両国に申し入れがあったが、日本政府はアメリカ海軍の管理下にあるとしてのらりくらりと対応を先延ばしにしていた。

 当然、水面下では様々な連絡経路を通じての駆け引きが繰り広げられていた。


 そのさなか、張り詰めた緊張の糸を表立って断ち切ってきたのは中国の次の一手だった。

 四月中順のその日、中国政府は大連出張中の日本の大手商社マン一人と、その商社マンの友人で大連観光旅行中の二人をスパイ容疑で拘束したと発表した。

 早速テレビマスコミは「調査の終わった中国の揚陸艦をいつまでも返さないから人質を取られた。

 人質解放のためにも中国の二隻を返還するべきだ」との論調を張った。

 むろん、先に返して三人が解放される保証などなにもない。

 それどころかそもそもスパイ容疑で拘束されている日本人は、報道の大小合わせて数十人に上る。  

 それら邦人の救出とはどのようにバランスを取るのかなど、解決しなければならない要素はいくらでもある。

 中でも政府にとってやっかいだったのは、今回の三人について、商社マンは日本の公安調査庁と実際につながりがあった点だ。

 テレビマスコミは、三人解放の行方、という見出しを取っている。

 残る二人は、どのような背景を写真に収めていたかはともかく、単純な旅行者である可能性が高い。 

 二人については比較的早期に釈放される可能性もある。

 しかしそのねじれが生じると、残る一人の解放を巡って二船舶の早期返還の声が強まる。

 手に入れたカードは最大限活用したい。

 そも、二船舶は米海軍管理下に置かれており、日本政府の意向だけで何かできるわけでもない。

 アメリカは過去、電子情報戦において中国に手痛い一敗を喫している。

 二〇〇一年、中国海南島沖の排他経済水域海上を航行する米海軍所属の電子偵察機EPー3Eが海南島の飛行場に強制着陸させられる事件が起きた。

 この時、最終的には乗員全員と機体は米国側に返還されたのだが、機体の電子偵察機器は丸ごと失われた状態だった。

 電子偵察機器と揚陸艦では勝手が違うが、今回米国は揚陸艦をがらんどうにして返すこともありうる、とはささやかれていた。

 とにもかくにも、日本政府の意向だけではどうにもならない問題でもあり、表だった交渉とは異なる、水面下での情報連絡活動で相手の求めるものや意図を正確につかむことが求められた。

 四月末、五月頭のゴールデンウィークには新型コロナ禍による外出自粛措置があり、政権の支持率に悪影響があるなか、神経質な対応が続く。

 米軍側の調査が終わったとしても、二船舶を返せば三邦人が単純に返ってくるというものでもない。

 三邦人に対する起訴の準備も進むとされる中、今度はゴールデンウィーク明けの五月中順に、大連を観光中の五十代の夫婦とその二十代の大学生の娘が拘束されるという事件が起きた。

 さすがにこれには、自己責任論の与論もあったが、政府として純粋な民間人の拘束に対応しないわけにはいかない。

 一方で中国政府の主張は、軍事施設を撮影していたスパイ容疑というものだった。

 外務省を通じて何とか本人達と面会を行ったが、旅順軍港などには近づいていないということではあった。

 中国国内の問題ということもあり、手出しがしづらい。

 しかし拘留が長期化すれば民間人である拘束者の体調にも変化が起こる。

 そもそも、四月の三人の問題もまだ解決していない、と、ここに来て中国は四月の観光者二人の身柄を解放すると出てくる。

 新しい人質を三人手にし、このタイミングで軟化の姿勢を示そうというものだろうがテレビマスコミはまんまとついてくる。

 そもそも四月の商社マンも公式的には民間人であり、コメンテーターは、政府の解放に向けた努力を、と声高に主張してくる。

 商社マン、そして三人の旅行者の証言で一致するものは「少し、鮮やかすぎる迷彩服を着た軍人が山道を行進するところを見た」というものだった。


 六月、米軍による尖閣の揚陸艦のはぎ取り調査が一段落を迎え、返還に向けた条件面の整理を日米両国で非公式に協議しよう、という段になり、日本政府内には、これを機に四邦人の解放に向けた交渉も進められると期待が高まった。

 このタイミングで中国政府が発表した、北朝鮮への人道支援について、一連の流れと結びつけるテレビコメンテーターはいなかった。

 いや、正確にはいるにはいたが、時間が短くほんの一回程度で、人々の記憶に残るようなものでは無かった。

 中国は北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国に対して、トウモロコシなど穀類十万トンの支援と、作業艦艇三隻、作業車両十八両の提供を、この秋までに実施すると発表した。

 北朝鮮を巡っては核開発問題で国際社会の支援体制が打ち切られる中、中国や、ときおりロシアからの支援があるばかりで、テレビコメンテーターはこれで北朝鮮の飢えた民衆も救われると発言した。

 七月、二船舶の返還と日本人拘束者の解放に向けた非公式協議が、日米中各国の外務官僚間で行われた。

 この間も四邦人に対しては、大連の施設で、日本外交官による面談が繰り返されており、健康状態には大きな問題はないものの、精神的なストレスの高まりが懸念されていた。


 八月、輝巳、遊、宇、堅剛の四人は、お盆休みに家族サービスも必用だったが、信世も含めて徹攻兵の慣熟訓練に参加していた。

 四月の訓練から明理も皐月も出力を伸ばし、明理は〇六式の九割の出力に、皐月は一八式の五割の出力に、それぞれ達していた。

 二人だけではなく、新たに二名の〇六式対応者も現れた。

 二十六才の小安(こやす)七生(なつき)三等海曹と、三十五才の鷲見(すみ)道照(みちあき)一等陸曹だ。

 七生は百八十一センチの長身、道照は百六十八センチのがっしりとした体格の持ち主だ。

 小安三曹は三割程度、鷲見一曹は五割程度だが、いずれにしても〇五式を超えてきたのは素晴らしいことだった。

 宇の声かけで、二人とも下の名前で呼び合うことには慣れてくれた。

 もちろん年の差もあり、輝巳達には、輝巳教官、遊教官、という呼びかけ方だったが、明理と皐月達とはさん付けで呼び合うようになった。

 二人とも男の子、というには年かさだが、やはり心は男の子なのでラインメタルの実射訓練は楽しみにしていた。

 七生は出力が引くく、後ろに輝巳が控えてのことだったが、目はよく、一発は赤丸をかすめた。

 道照も目がよく、三発は赤丸を押さえた。

 七生は、ラインメタルを下ろすと、右肩を回す。「いやぁ、ちょっと違和感がありますね。

 重かった。

 でも、実弾を撃たせてもらえるのはありがたいです」

 輝巳が答える。「百パーセントの力が出せれば弾道も安定して、同じ穴に収めるのも不可能ではないからね。

 早く、こつをつかめるといいね」

 がんばります、と答えてくる。

 道照はその点、少し考え込んでしまい、ラインメタルの構え方を、こうかな、こうかな、と反復している。

 堅剛が道照の左肩に触れる。「むー、焦ることはないよ。

 今の出力で赤丸に収まるんだから、出力さえ整えば見えてくるからさ」

 「ありがとうございます。教官」

 「むー、けんごう、ね俺の名前」

 「はい、覚えてます。堅剛教官」と返事をされて堅剛はマスクの下で苦笑い。

 まあ、十以上こっちの方が上だし、呼び捨てにはできんだろうなあ。

 道照と七生の成長もあり、〇六式の展示はやがて充実するだろう。

 輝巳は「明理ちゃんと皐月ちゃんが慣熟する頃には、長かった俺たちの展示訓練も終わりになるかな?」と笑って見せた。


 四邦人解放の交渉は長引き、なかなか具体的にはならなかった。

 日米両国側では二船舶返還の準備は整っていたが、中国側が交渉継続の意思を示すのみで、具体的な条件も提示せず季節は秋へとさしかかっていた。

 十月二十日の水曜日、突如中国の国営放送で、二船舶の返還を条件に身柄を拘束中の四日本人の拘束を解く、という内容が放送され、中国駐在の日本国外交官の間で中国政府への照会が始まった。

 これに先立つこと四日前、十月十六日の土曜日、中国政府は報道官を通じて、旅順に停泊中の三艦艇につき、搭載中の作業車両十八両と供に、北朝鮮への引き渡しが終わったことを発表した。

 様々な情報が溢れる現代社会で、この動きを結びつけて考える者はいなかった。


 十月十七日、旅順軍港を出た三隻の〇七四A型揚陸艇は、艦尾に朝鮮人民軍海軍の軍艦旗を掲げ、搭載する車両ごと、その特徴的な車両甲板全体をカーキ色の幌で覆い、黄海に出るとまっすぐ南下する。

 その船の行方を、日本のマスコミは全く触れなかった。

 世間的には無いものと同じだった。

 三隻の揚陸艇は、巡航速度の十二ノットを維持し、朝鮮半島を大回りに、済州島の南の公海を東進すると、対馬海峡と朝鮮半島の間、朝鮮海峡とも呼ばれる対馬海峡西水道をめざす。

 時は十月二十一日の木曜日に、さしかかっていた。

 中国から寄贈された艦船の航行ということもあり、日本の海上保安庁も巡視船を出す。

 時同じくして韓国の海洋警察庁の警備艇が現れ、北朝鮮の艦艇と巡視船の間の良い位置を確保してくる。

 海保の巡視船としては、まるで韓国の警備艇が北朝鮮の艦艇を保護しているようにすら見える。

 とはいえ、商船も漁船も通るさほど広くもない海路で無理をすることはないと、我慢の姿勢を見せる。

 この海域に、中国人民解放軍海軍の駆逐艦が出張ってきているのも気に成る。

 中国とは、二月末の一件以来むずかしい交渉が続いており、下手に事を荒立てても評価にも響く。

 何事もバランスをとり、冷静沈着に。

 それが海保に託された役割だと信じて、今日も日本を海から守る。

 保安官の一人がいった。「やけに、対馬よりを通りますね」

 いわれた保安官が返す。「韓国をすこしでも刺激したくない、ということかな」

 最初の保安官が苦笑いする。「日本は、刺激しても怖くない、ですかね?」

 対馬の領海は狭い。

 薄い、といった方がいいかもしれない。

 対馬海峡は国際的な隘路となっており、その航路の確保のため、対馬の領海はわずか三海里、五・五キロほどしかない。

 しばらくは一番北側を北朝鮮籍の揚陸艇が、その南側を韓国の海洋警察庁の警備艇が、さらにその南側を海保の巡視船が東に進んでいたが、いよいよ日本の領海に近づくというところで、突然韓国の警備艇が南に進路を切ってくる。

 彼の国はこんな時にもこういう行動を取ってくる。

 と海保の巡視船は相手にせず、そのまま東に進み、日本の領海側に向かいながら北朝鮮籍の揚陸艇に呼びかける。

 「こちらは、日本の海上保安庁。北朝鮮籍の揚陸艇に告ぐ。

 貴艦は日本の領海に接近している。速やかに航路を変更されたし」

 しかし、三隻の揚陸艇は向きを変えようとしない。

 おかしい。

 こんな時こそ揚陸艇に近づいて警告したいのだが、韓国の警備艇が日本の領海すれすれに南下してくる。

 夜明け前。

 そのまま、巡視船が日本の領海に入った時には、北朝鮮籍の揚陸艇の先頭の一隻が日本の領海に入ってしまう。

 「こちらは、日本の海上保安庁。北朝鮮籍の揚陸艇に告ぐ。

 貴艦は日本の領海に侵入している。速やかに航路を変更されたし」

 国連海洋法条約では、沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件として、事前通告をすることなく領海を他国の船舶が通航する権利が認められている。

 とはいえ、距離が距離である。

 ましてや揚陸艇は、戦闘部隊を上陸するための艦種である。

 これ以上の接近を許すわけにも行かないが、何しろ、遠い。

 韓国の警備艇を避けて領海に入り北進する頃には、二隻目の揚陸艇も領海に侵入してくる。

 「こちらは、日本の海上保安庁。北朝鮮籍の揚陸艇に告ぐ。

 貴艦は日本の領海に侵入している。速やかに航路を変更されたし」

 時既に遅し、揚陸艇は投錨すると沖合に碇を伸ばし、そのまま佐須側河口の小茂田の浜に乗り上げる。

 元寇の古戦場の碑が置かれた浜に、鎖に支えられた艦首部分のランプ・ウェイが音を立てて降りる。

 手際よく幌が外される。

 幌の下から現れたのは、六三A式水陸両用戦車と随伴歩兵達だった。

 海保の巡視船が洋上から警告する。

 「こちらは、日本の海上保安庁。北朝鮮籍の揚陸艇に告ぐ。

 貴艦の寄港は認められない。

 直ちに離岸して待機されたし」

 呼びかけには全く効果が無く、二隻目の揚陸艇は湾を出入りする漁船を蹴散らすように湾内に進み込むと、物揚場に着岸する。

 街頭に照らされた艦首から降りてきたのは兵員輸送用のトラック。

 要領良く六台が降りると、地理をわきまえたかのように集落に展開していく。

 夜明け前の漁港を戦闘車両が襲う。

 三隻目の揚陸艇はやや南寄りの河口付近の岸に着岸する。

 こちらも現れたのは六三A式水陸両用戦車と随伴歩兵達。

 二隻の揚陸艇に六両ずつ、計十二両の戦車が、展開する。

 海保の巡視船から対馬海上保安部、第七管区海上保安部を通じて本省に連絡がはいる。

 「北朝鮮籍の揚陸艇が三隻、小茂田港に着岸。多数の人員が上陸している模様」


 同時刻、国道三八二号線から陸上自衛隊対馬駐屯地に伸びる上り坂の中腹が何者かにより爆破され、道幅いっぱいが陥没する。

 それとタイミングを合わせたように、九州電力厳原発電所の変電施設が爆破され、次いで豊玉発電所、佐須奈発電所の変電施設も爆破され、対馬全島で民生用の電力が失われる。

 夜明け前の静寂を轟音で破られ、対馬駐屯地には対馬警備隊、通称やまねこ軍団の隊員が続々と集結する。

 が、情報が足りない。

 兎にも角にも駐屯地から車両を搬出する唯一の道路がふさがれてしまい身動きがとれない。

 爆発の威力を物語るかのように、道路脇の民家の壁も、大きく損壊している。

 電柱も倒れてしまい、架線が切れてしまっている。

 火災にならなかったのがせめてもの救いといえた。

 非常用電源設備を稼働させ、通信を回復させる。

 北部にある海上自衛隊の対馬防備隊との通信を試みる。

 「こちら、陸上自衛隊対馬駐屯地、対馬防備隊、応答願います」

 「こちら、海上自衛隊対馬防備隊、通信、どうぞ」

 つながった。

 取りあえず、お互いの状況を共有し合う。

 お互い、電源の供給を失い非常用電源で通信していること、陸自の駐屯地は出入り口となる道路を何者かに爆破され、即応が困難であることを共有する。

 そうしている間にも、対馬駐屯地では施設作業小隊が、倒れた電柱の撤去と、陥没した道路の修復を開始する。


 一方、小茂田港周辺では、朝鮮人民軍が一軒一軒家捜しを始める。

 住民の一人は、夜明け直前の薄暗い中、玄関を乱暴に叩かれ起こされる。

 取りあえず電気を付けようにもなぜか電気がつかない。

 玄関をライトで照らされているので、近所の誰かと思い玄関を開ける。

 すると迷彩服にヘルメットを被った男達から小銃を突きつけられる。

 「テイコウシナイデ、カゾクゼンイン、デテキナサイ」

 暗闇になれた目にライトの光がまぶしい。

 今一度小銃を突きつけられ、とんでもないことが起きていることだけは理解出来た。


 朝鮮人民軍は、小茂田港から県道二四号線を南に、六三A式水陸両用戦車と随伴歩兵、そして兵員輸送トラックを進める。

 一キロほど南の椎根の集落を家捜しすると、出てきた住民を後ろ手に縛り、一本のロープに数珠つなぎにする。

 家捜しする時に食料をあさることは忘れない。

 老人が多く、ほとんど抵抗は受けなかった。

 ほんの何件か、暴れだそうとした中年男性などは即座に射殺した。

 民家から車を奪い、県道二四号線の上に四台、五台と重ねて停車させ、道を封鎖する。

 同じ要領で脇の農道も封鎖する。

 そして集落を空にすると、人々を連れて小茂田港に向けて北上する。

 人々が抵抗なく従うのを確認すると、人々の列を前後二名ずつの四名で挟み込み、小茂田港北部の佐須中学校に向かわせる。

 戦車は県道二四号線の上に残し、南に砲塔を向けて、県道を北上してくる敵性車両への牽制に当てる。

 そのままでは格好の的なので、県道東側の黒岳に、兵員輸送トラック一両分の三十名の兵士を配置する。

 ここに、隠し球を一つ配置する。

 同じ要領で、小茂田港のメインといえる、佐須側河口の集落も家捜しをすませ、人々を佐須中学校に向かわせる。

 港を挟んで北にも延びる県道二四号線の路上に、民家から奪った車両を複数台放置し、その手前に戦車を配置する。

 同じく県道東側の大隈山に、兵員輸送トラック一両分の三十名の兵士を配置する。

 ここにも、隠し球を一つ配置する。

 こうして、背後の左右、北と南を固め退路を確保した格好を取ると、十両の戦車と四両の兵員輸送車は県道四四号線を東に、対馬市街に向けて行軍を始める。


 陸上自衛隊の対馬駐屯地では次の一手に向けて情報を求めていた。

 停電で道路の信号まで止まってしまっているのは痛い。

 早朝で人出もすくないのでなんとか成り立っているが、まもなく、通勤時間帯になる。

 交通量が増えれば信号のない交差点は四方向から進入してきた車で、完全に麻痺する。

 取りあえず行政との連携が必用だと考え、偵察用のオートバイを南下させ、市役所に向かわせる。

 道路の補修も倒れた電柱も手つかずだったが、身軽なオートバイは悪路を何とかこなす。

 そこに、海上自衛隊の対馬防備隊から連絡が入る。

 島の西岸、小茂田港に北朝鮮の揚陸艇が三隻着岸し、多数の人員が上陸している模様という。

 海保の巡視船も接近を試みたが威嚇射撃をうけ、距離を取らざるを得ず詳細が分からないという。

 何をするにもまずは正確な情報に基づかないと行けない。

 時刻、午前六時三十分。

 取りあえず、一個小銃小隊三十名と通信分隊十名が徒歩で向かうことにする。

 今一度、海自の対馬防備隊に連絡を図る。

 知事の要請なり、内閣からの命令なりで、治安出動の要件は満たされているかをたずねるが、揚陸艇の強襲が武力行使といえるかどうか、誰も確認できてないということが分かるばかりだった。

 これでは、武器使用はおろか警察権の行使もできない。

 専守防衛の国の部隊の定めと割り切り、丸腰で通信機器だけ持ち出して向かうことにする。

 朝日の差し込んでくる街路は、信号が付いていないことで停電していることを再認識させてくる。

 駐屯地に隣し、南北に走る国道三八二号線はまばらに車の流れがあるが、東西に走る県道四四号線は車の流れがない。 

 特に交通量の多い道ではないが、やはり、小茂田港のある西側からこちらに流れてくる車がないのは気になる。

 途中、坂の下、東側から西側に坂を登ってきてその先の佐須坂トンネルをめざす白いバンが通りかかった。

 停車させようとしたが、赤く光る警棒を持っているわけでもなく、崖の薄暗がりの中でもあり停車させることはできなかった。

 そのまま行ってしまうので、なにもないことを祈る。

 県道四四号線の曲がりくねった坂を西に進むとすぐにトンネルにさしかかる。

 照明の付かないトンネルは武装勢力にとっては格好の隠れ場になる。

 丸腰で、いや、武装していてもみすみす侵入するわけにも行かない。

 手前側、東側の出入り口を監視できる位置に、小銃小隊三名と通信分隊一名を配置する。

 残りは、尾根に上がりトンネルの反対側の様子をうかがう。 

 ぱっと見、トンネル西の出入り口付近を警戒している敵性勢力は確認できない。

 県道四四号線は尾根を超えるのを嫌って北側に大きく伸びる迂回路があるが、そちらにも敵性勢力の展開は感じられない。

 やはり小銃小隊三名と通信分隊一名を北側の、県道四四号線の折り返し地点まで派遣する。

 残るは、小銃小隊二四名、通信分隊八名。

 佐須坂トンネル西側の出入り口付近が確認できる場所を一旦の集結地点として、山の中に散開する。

 ここまで、敵性勢力の様子がうかがえない。

 と、西側から、二発、乾いた銃声らしきものが聞こえてくる。

 武器を持った何かがいる。

 住民の状態を確認しなければならない。

 谷底の佐須川に沿うように走る県道四四号線上での様子がうかがえるように、十六名ずつ左右の尾根に分かれて少しずつ進む。

 進むにつれて異変が鼻をつく。

 佐須川中腹にある銀山神社の東側手前にある集落が敵性歩兵によって襲撃されていることが分かる。

 曲がりくねった県道上には、回転砲塔を持つ戦車が、六両確認できる。

 兵員輸送トラックからは、頻繁に兵士が出入りする。

 人々を数珠つなぎにするロープを取り出してきたり、民家から奪ってきた食料を運び込んでいる様子がうかがえる。

 もう少し、具体的な発砲の状況を確認したいと思い、半数の小銃小隊六名と通信小隊二名を、尾根に隠れた法清寺側に向かわせる。

 すると、こちらの展開に呼応するかのように、路上に停車してあった兵員輸送車から、いかにも鈍重そうな装甲を身につけた兵士が二人、降りてくる。

 両腕には、ドラムマガジンを着けた小銃を下げている。

 重装甲を着けた兵士はジャンプとダッシュを繰り返し、瞬く間に小銃小隊の展開する尾根に迫ってくる。

 跳躍力が高い、その場で四十メートルほど飛び上がると、身を隠す木々を縫う形で小銃段を撃ち込んでくる。

 攻撃は正確で、確実に致命傷を撃ち込んでくるか、右腕、膝など、次の行動に支障の出る部位に撃ち込まれてくる。

 膝を打ち抜かれて、動けないでいると、次には確実にのど元など、防弾着の隙間を狙って仕留めてくる。

 相手は、重装甲には似合わない速度で木々の乱立する尾根に食い込んでくると、良い地点で高く跳躍し、木々の根元に身を潜めた姿勢の裏側から、自衛隊員に正確な射撃を撃ち込んでくる。

 三名、五名、八名と、確実に返事が無くなる。

 「敵襲、敵襲」そう、通信する兵士が射撃される。

 「敵性勢力は、戦車を上陸させている」そう通信した兵士が射撃される。

 「敵性勢力は、住民を連行中、人質に取っている模様」射殺される。

 十一名、十七名、二十一名と、時には近くに、時には高空から、確実に活動停止に追い込まれていく。

 佐須坂トンネルの尾根を超えてきた自衛隊員の死体は三十二名。

 尾根の北側に向かっていた四名と、トンネルの東側の口を監視していた四名は合流すると、駐屯地に戻る選択と、連絡を絶った隊員の様子をうかがう選択があり、八名は生存者確保の可能性を考えて、佐須坂トンネルの西側出口に向かう。

 木々の覆う山の中、多少の枝をものともせず、まるで草原を走り込むかのようなスピードで何者かが迫り来る。

 目視確認しようと目を出す。

 打ち抜かれる。

 痛みをこらえその場を離れようと振り向いた首筋を正確に射貫かれる。

 それを見ていた通信兵が通信機に向かって報告する。「敵性兵士は非常に重装甲。運動性は高く、射撃は正確」

 その連絡を最後に、対馬駐屯地への連絡は途絶する。

 対馬駐屯地は斥候に出した四十名を失った。


 十月二十一日の木曜日の昼過ぎ、輝巳は、取引先の音声認識システムと、その競合製品の比較資料を作っていた。

 一口に音声認識システムと行っても、会議用、通話用、WEB会議用と色々ある。

 各社各様の仕様があり、簡単に横並べ出来るものでもない。

 それらを一覧でみられる資料、といわれても手が止まる。

 人によっても、そんなことメーカーに聞けば、という声もあれば、そんなことまでメーカーに聞くのは、という声もあり、次のアクションをどうしていいか迷う。

 何をしても「尾形さんはもうベテランなんだからさ」と「尾形さん自身でとりまとめて」の言葉がつきまとうが、得意な仕事を奪われ、失い、見よう見まねの仕事に就き、係長をめざしていた主任の肩書きも外され、平社員のみに落とされた現状、比喩的な意味合いで立ちあがっているだけでも精一杯だった。

 何をすれば正解かも見えず、取りあえず上司役と相談し次のアクションを細かく聞いてはこなす日々。

 主体性など丸でない。

 そんな、四十八才の使えないおじさんが、着の身着のままありのままの輝巳の姿だった。

 とにかく情報をまとめて、情報がないところの穴を整理して、穴埋めの方針を固めて。

 本来であれば四十八才のおじさんがやる仕事でもない。二十も下の子が作ってきた資料を基に戦略的な方針を定めるのが仕事だ。

 なさけないなあ。

 作業のあいま、一息を入れて考え込むと、内藤部長から声がかかる。

 「ちょっといい」

 別室に呼び出されることでいい話しがあったためしがない。

 手近な個室に呼ばれると話が切り出される。「また、物産の丸井さんからご氏名で依頼が入ってくるから。

 今の作業、急ぎはあるの?」

 「急ぎというか、桜本次長との話で今週中に音声認識システムの比較資料をまとめるというのがあります」

 「ふーん、それは来週でも構わないんでしょ?」

 「ああ、まあ、はあ」

 「桜本さんには俺から話しておくからさ、丸井さんの話し、最優先にして」

 「わかりました」

 何の重要性もない、単なる人の駒が、輝巳の立ち位置。

 プランクトンのように、水の流れに流されるだけの日々。

 デスクに座って我が身を考え込むまもなく、支給されたモバイルフォンが鳴る。

 「尾形さん、ご無沙汰してます。物産の丸井です」

 「はい、ご無沙汰してます」

 「今回も詳しくは言えないんですが政府筋からの依頼で、座間基地の都築さん宛に」

 「分かりました」

 「それにしても」丸井の言葉が一拍開く「基地で何をされているんです?」

 輝巳は答えに窮する。「あー、その、それは機密事項でちょっと、言えないんですよ」

 丸井は、朗らかに返してくる「そういうことですか。ま、僕の役割はここまでなので、移動、速やかにお願いしますね」

 そういうと丸井は電話を切る。

 輝巳は我が身を嘆く、俺よりも四倍も五倍も年収のある人は爽やかだなあ。

 桜本さんとは、いい意味でも悪い意味でも嫌み無く話しが通った。

 所詮、任されている仕事と行ってもたいしたことのないことの現れ。

 輝巳は、ピルケースから抗うつ剤とステロイドを取り出すと残ったジュースで飲み下し、気持ちを切り替えることにする。


 移動中、いつもの新宿駅で莉央(りお)に電話をする。

 「もしもし、莉央」

 「うん、どうしたの?」

 「また、親会社から出張の依頼が来てさ、トラブルが収まるまで、出張ってことなんだけど」

 「いつまでになるか分からないの?」

 「うん、多分長くても、一週間だと思う」

 「そう、子供達のことは任せて。体調には気をつけて」

 「あ、うん、電車来ちゃったから、乗るね」

 時刻は、ラッシュアワーにさしかかっている。

 一刻も早く駆けつける、という気にはなれず、座れそうな始発を待つ。

 入線してきた始発のシートに腰掛けると、ようやく、おちついて信世にメールを打つ。

 「どしたの?」

 「出た」

 輝巳はそれを見て長くため息をつく。

 これは、しゃれにならん。

 スマホを取り出しても、アニメを見る気にもなれなかった。


 キャンプ座間に付くと、いつもの四番ゲートで信世を呼び出す。

 信世の車に乗り込むと、信世からたずねてくる。「薬は、まだ飲んでるの?」

 輝巳は、なんてことはないと答える。「飲んでるよ。

 メディカルチェックは忘れないね」

 「小隊を預かる身ですから、ね」

 「ちなみに、成長ホルモンと男性ホルモンの分泌に問題はないんだぜ。薬価がかかるから、その点は助かっている」

 「男性ホルモンが出ていてどうすんのよ」

 「子作りに支障がないんだと」

 「そういう歳じゃないでしょ」

 「俺だって、経済的に許されたら、信世のところみたいに三人目が欲しかったよ。

 男の子が良かったな」

 「うちは、むずかしいわよ、私のこと、お母さんとは呼んでくれないしね」

 「それは、まあね」


 会議室に入ると、既に遊、宇、堅剛だけでなく、明理、皐月、七生、道照が揃っている。

 説明に入るのを待たずに輝巳が口を開く。

 「明理ちゃんたちや道照さんまで連れてくの?」

 信世が答える。「あくまで、予備、としてだけど」

 輝巳が続ける。「俺たちの中に、戦死者を織り込むってこと?」

 信世が答える。「そうはならない万全を期して、ということだけど、とにかく情報が足りないのよ。

 まずは状況の説明を受けてもらえる?」

 「ごめん、分かった」と輝巳が席に着く。

 いつもの通り、情報将校をさしおいて、信世からブリーフィングが行われる。

 二十一日午前三時頃、対馬に、北朝鮮船籍の揚陸艇が三隻上陸したこと。

 揚陸艇からは多数の人員が上陸している模様であること。

 上陸地点の小茂田港付近の集落が襲われ、どうやら人質として集められていること。

 敵性勢力上陸と同時刻頃と思われる午前三時頃、陸上自衛隊の対馬駐屯地の出入り口に当たる道路が爆破され、車両の搬出が一時困難になったこと。

 同時刻、対馬の電力供給を支える、九州電力厳原発電所と豊玉発電所、佐須奈発電所に異変があり、対馬全域で民生用の電力供給が停止していること。

 警察は市役所を中心に交通整理に当たるなど、手が回っていないこと。

 小茂田港の沖合には海保の巡視船が待機しているが、威嚇射撃をうけ、不用意に近づけていないこと。

 同日六時半過ぎ、陸自の小銃小隊と通信分隊四十名が偵察行動に移ったが、次々と消息を絶ちおそらくは生存者が見込めないこと。

 全滅した斥候部隊の音声記録が再生される。

 「敵襲、敵襲」

 「敵性勢力は、戦車を上陸させている」

 「敵性勢力は、住民を連行中、人質に取っている模様」

 「敵性兵士は非常に重装甲。運動性は高く、射撃は正確」

 輝巳がたずねる。「これだけ?」

 信世が答える「これだけ」

 輝巳が考え込む、が、信世は気にしない。「続けるわよ」

 これを受けて同日八時半過ぎ、内閣から北朝鮮の出先機関である在日本朝鮮人総聯合会などに照会を試みたが回答が無い事。

 このため、同日九時過ぎ、防衛大臣による、治安出動下令前に行う情報収集が命令されたこと。

 これを受け、改めて対馬駐屯地より小銃小隊と通信分隊合計四十名が、今度は小銃を携行して威力偵察に出たこと。 

 威力偵察に出た部隊は、佐須坂トンネルの東口側付近で敵性兵力と交戦になり全滅した事。

 この際の音声記録が再生される。

 「敵性兵士には小銃弾の効果が無い模様」

 「敵性兵士の運動能力は高く、跳躍力は樹高を超える」

 「射撃は正確、カモフラージュに効果無し」

 輝巳がたずねる。「これだけ?」

 信世が答える「これだけ、じゃないの。

 鹵獲された通信機を通じて、敵性勢力より対馬駐屯地に連絡が入ったわ」

 音声が再生される。

 比較的、イントネーションの良い日本語が流れる。

 「こちらは、朝鮮民主主義人民共和国義勇軍です。

 こちらの要求が全て受け入れられれば、我々は人質を解放します。

 一つ、人道支援として穀物の供給。

 一つ、日本海での漁業権の約束。

 一つ、万景峰号の日本への寄港許可。

 一つ、戦後賠償金の要求。

 我々には時間がありません。

 人質の健康状態は保証しません。

 日本政府の速やかな判断を要求します」

 遊が割り込んでくる。「要求、といいいつつ、なんとも具体的な話にはなってないな」

 輝巳が口を出す。「義勇軍、ってことは北朝鮮本国とは無関係、ってことにしたいのかな?」

 信世が答える。「取りあえず中国の旅順港で北朝鮮に引き渡された船が、まっすぐ対馬に突き刺さってきたことで、一部隊の独断専行、という体裁は取っているわね。

 いずれにしても、中国、北朝鮮、両政府の息がかかっていることに間違いは無いんでしょうけど。

 万が一の時は尻尾切りをするつもりなんでしょう」

 宇がたずねる。「徹攻兵は、朝鮮半島には出ないんじゃなかったの?」

 信世が、言葉に詰まると、情報担当の尉官が答えてくる。

 「推察ではありますが、中国が徹攻兵の開発に成功し、今回北朝鮮を支援してきているものと思われます」

 それを聞いて宇が続ける。「じゃーさぁ。二月の全滅作戦は意味がなかったっていうわけ」

 遊が言葉を挟む。「何らかの形で察知されて、日本側が徹攻兵を運用するのであれば、中国側も黙っていないぞ、という恣意行動に出た可能性はあるのかもなあ」

 ふーん、と宇は不満そうにする。

 輝巳と堅剛は腕を組んでよその一点を見つめてしまう。

 ようやく、輝巳が呟く。「一体何だったんだよ、あれ」

 信世が毅然と答える。「あのときはあれが最善だったのよ。

 米軍、ドイツ軍との関係性をとらえても、存在の秘匿は最優先だった。

 今回、中国が徹攻兵を運用してきた模様と耳にして、米軍関係者も強い関心を示しているわ。

 中国を中心に、中近東に徹攻兵がばらまかれたら、世界の勢力図は大きく変わるでしょうね」

 輝巳は、ふん、と鼻息を一つ付いてみせる。「それで、今回の敵のことはどこまで分かっているの?」

 信世がうつむき、手元の資料に目を落とす。「さっきの通信が全てね。

 小銃が効かない重装甲の兵士が、高い運動性と正確な射撃で非武装の一歩兵小隊と、武装した一歩兵小隊を全滅させた、ということだけ。

 私達の常識では、これらの活動を可能にするには徹攻兵の存在が強く推察されるけど、その数も、質も、武装も全くの未知数ということ」

 堅剛が口を開く。「むー、それで、このチーム」

 信世が答える。「そ、日本国内で最高のチーム」

 堅剛が続ける。「明理ちゃん達、見習いだよ。なにさせるの」

 その言葉に、四人四様に表情を曇らせる。

 幕僚を交えて取り急ぎ考案された作戦はこうだった。

 万が一の迎撃を警戒し、低空より侵入させた航空自衛隊の輸送機より、八名の徹攻兵が対馬空港に降下。

 八九式自動小銃を携行して強行偵察し、敵性徹攻兵の数と質を調査する。

 合わせて、第一空挺段所属の通信小隊と施設小隊も対馬空港に降下し、対馬空港の通信機能を回復させ通信中継基地とする。

 平行して海自のひゅうが型護衛艦をもって陸自の水陸機動団を対馬に展開、電源の回復を主任務とするが、島民のライフラインの復旧を中心にしつつ島民を保護する。

 また、あわせて陸自のトラック三トン半で六門のラインメタルを搬送し、徹攻兵と合流。

 あらかじめ偵察を済ませた輝巳、遊、宇、堅剛による集中砲火で敵性徹攻兵を撃退。

 撃退後は明理、皐月、七生、道照の四人で敵性車両を無効化し、敵性兵士を無力化。

 そこまでできれば人質となっている住民の保護は陸自に任せることとする。

 宇が不満そうに口を挟む。「この期におよんでも、まだ俺たちの存在は伏せるわけ」

 「最新鋭の潜水艦の最大深度だって、一〇式戦車のほんとの最高速度だって公表されてないでしょ。

 現時点であなた達の存在は、最高軍事機密だってこと」

 輝巳が確認する。「今回、敵の兵士は無理に殺すことはないんだよな。結束バンドかなんかをつかって、後ろ手に縛れば、あとは本職の皆さんが対応してくれる?」

 信世がうなずく。「敵性徹攻兵の存在が確認され次第ではあるけど、徹攻兵の存在を前提としている兵士達ですからね。

 倒すよりは尋問して、敵性徹攻兵の情報収集に重点が置かれることになるわ」

 「大体の概要はわかった」というと、輝巳は考え込む。

 そんな会議室に緊急伝、として情報がもたらされる。

 情報担当の尉官がメモを読み上げる。「こちらは、朝鮮民主主義人民共和国義勇軍です。

 我が方の艦への燃料の補給を要求します。明日、十月二十二日の朝までに給油艦を手配してください。

 手配のない場合は、人質の安全は保証しません。との内容です」

 それを聞いて輝巳がうなずく。「ああ、やっぱりね、帰るつもりでいるんだ」

 堅剛がたずねる。「むー、なにそれ?」

 輝巳が語る。「いやさ、徹攻兵まで持ち出して、対馬の町をめちゃくちゃにすることもできるんだろうけど、要求が通らなかった場合、いつまで何をするつもりなのかと思ってさ。

 北朝鮮側は、愛国的行動に基づく示威行為、として表彰される未来が待っていて、中国側は徹攻兵の効果検証、としてみれば、あの要求は最初から通すつもりのない時間稼ぎなのかなあ、と思ってさ」

 輝巳がそのままの調子で続ける。「なあ信世、このまま様子伺いをしてさ、やっこさん達が引き上げてくれるのを待つ、って選択肢はないの?」

 信世は即答する。「無いわね。

 対馬の電源が喪失している以上、対馬全島民が人質に取られているような状態よ。

 ライフライン復旧を支援する陸自も通常歩兵戦力の半数を失い、復旧支援もままならない状態で、いつ背後から襲撃されるかもわからない。

 海自の支援艦もいつ山岳部からの砲撃を受けるかもわからない。

 こんな状態を打破できる徹攻兵を運用せずに、敵さんを飽きるまでもてなす道理はないわね。

 それに、引き上げる保証もないでしょ」

 輝巳が苦笑いして答える。「いわゆる無抵抗主義者のまねごとをいってみたかったのさ。

 信世のいうとおりだ。

 ただ、敵さんは敵性徹攻兵の運用を足がかりに撤退のタイミングをうかがってはいるはずだから、そこをさっさとつぶしてしまおう」

 こうして、作戦の大枠が決まる。

 折しも政府からの発表で、対馬に北朝鮮籍の船が着岸していること、

 多数の人員が上陸している模様であること、

 対馬の発電所が破壊されライフラインがたたれてしまっていること、

 陸上自衛隊の対馬駐屯地の部隊に人的被害が出ていること、

 人質が多数取られている模様であることなどが報道される。

 そして国会の承認を待たずして、対馬住民の人的被害を最小限に食い止めるためとして、内閣総理大臣より陸海空三自衛隊に防衛出動が発令され、翌日の二十二日にも臨時国会が開かれる見通しが報じられる。

 着甲しながら宇がたずねる。「これ、承認されなかったらどうなるの?」

 堅剛が答える。「むー、衆参両院とも与党が過半数を握ってるから大丈夫だろうけど」

 着甲を手伝ってくれている自衛官の一人が答える。「治安出動を飛び越しての武力出動です。

 戦後初のこととなります。

 武器の使用に当たっては、正当防衛または緊急避難に該当する場合の要件が無くなります。

 つまり相手の攻撃を待たずとも、先制攻撃が可能な状態です。

 もっとも、今回の場合対馬の防衛隊に多数の死者が出ている模様です。

 正当防衛の説明も十分付くものと思われます」

 宇が答える。「なるほど、えーと、ある程度好き勝手やっても、皆さんに迷惑はかからないですか?」

 「はい、被害者の救出を最優先にお願いします。それと」

 自衛官が一言区切る。「それが主目的ではなりませんが、存分に仇を取ってください」

 宇が顔を引き締める。「わかりました」

 着甲しながら、輝巳が道照と七生にたずねる。「二人とも、人を撃った経験は、ないよね?」

 道照が答える。「ありません」

 七生も答える。「ないですね」

 輝巳が続ける。「言うまでもないことだと思うけど、木々に覆われた山岳での戦いになると思う。

 ジャンプしてAPFSDSで狙うわけだけど、こっちも的を晒すこと、お互いに忘れないようにしよう。

 相手が二世代型なら一発で多分仕留められるけど、三世代型なら一発目は割るだけで、もう一発同じところに撃ち込まないといけない」

 輝巳は、ここで言葉を句切ると苦笑いする。「そんなのむずかしいよね」

 道照は「がんばります」と、七生は「ねらって、みせます」と答える。

 輝巳達徹攻兵が着甲準備を整える間にも、習志野からは第一空挺団所属の通信小隊と施設小隊が厚木に集結し、佐世保では日本版海兵隊といえる水陸機動団がひゅうが型護衛艦に乗り込む。

 既に、対馬駐屯地の隊員により、厳原発電所の変電設備の被害状況が報告されており、復旧用の資材も組み込まれている。

 まもなく、夜が来る。

 混乱する住民を不安から解放するためにも、電力の供給は欠かせない。

 物事が着々と平行して進んでいく中で、出発前の遊が信世にたずねる。「なあ信世、急で申し訳ないんだが」

 「なによ」

 「ラインメタル、二門持たせてくれないか?」

 「またほんとに急ね、司令と資材課に相談してみるけど何を考えているの」

 遊は着甲した腕を胸の前で重ねて語る。「いやさ、敵性徹攻兵に狙い撃ちされないために低空からパラシュート降下するんだろ?」

 信世が頷く。

 「俺と輝巳はパラシュート要らないから、真っ先に飛び出して威嚇射撃をしたい。

 的当て感覚で狙ってくるなら、こちらが容赦しないぞ、と挨拶したいんだが」

 信世は素手のままの右手を顎に当てる。「なるほどね、あなた達ならそれができるわね」

 それを聞いて皐月が発言する。「三門にしてください。

 私も、やれます」

 それを聞いて信世や遊が口を開く前に輝巳が口を出す。「的になろうって話しだぞ。

 せめて九割出せるようになってからにしな」

 ぴしゃり、と言われて皐月は胸の前に右手を当てるとうつむき加減に何かを我慢する。

 信世が声をかける。「皐月ちゃんはこれからの人だから、今回はおじさん達にいいところを譲りましょう」

 それを聞いて輝巳が、俺たちはこの先無いみたいじゃん、と笑う。

 遊が、無いんだよ、と笑う。

 皐月は、目を閉じてもう一度何かを我慢すると「わかりました」と答えた。

 そこに堅剛が割り込む。「皐月ちゃん、三番目に降りて、最初に着地すればいいんじゃない。

 念のため、地上の警護役をやってもらったらどうかな」

 宇もそれに乗っかる。「あー、地味だけど、それ大事。〇六式はパラシュート必須だから」

 信世がまとめる。「大まかな段取りは決まりね。

 詳細はCー2の中で第一空挺団の隊長さんとも話し合って決めてもらえる」

 この話を聞いていた他の隊員の連携により、ラインメタルの手配が整うと、八人、兵員輸送用の三トン半トラックに乗り込む。

 今回、胸とふくらはぎのマウントには弾倉を装備するが、左腰のマウントには六十四センチ級の光条武器が用意されている。

 徹攻兵はこれまで、事実上無力な敵を相手にしてきた。

 今度の戦いは違う。

 光条武器の用意が、それを嫌でも物語る。


 三トン半ごと徹攻兵達が厚木で待機しているCー2に乗り込むと、徹攻兵達を下ろして三トン半はCー2を出て行く。

 代わりに乗り込んできたのが習志野の第一空挺団の面々だった。

 軍隊とは、ライフラインの整っていないところで自活して活動することが求められる。

 通信小隊と施設小隊というと花がないようにも聞こえるかも知れないが、電源を喪失しライフラインを失っている状況下の対馬では、実に重要な役割を担う。

 今回は両隊を統括する中隊長として、施設中隊の一尉も参加していた。

 対馬空港にさしかかった地点で輝巳と遊が飛び出すこと、続けて皐月が降下することを告げると、快く了解してくれる。

 堅剛が説明する。「ご存じかも知れませんが、私達は座間駐屯地にいる都築小隊長と任意に会話できます。

 それに強行偵察が初期任務ですので、皆さんからすると勝手な動きに見えるかも知れません。

 皆さんが通信を回復して下さる事で、統合的な行動がとれるようになりますので、よろしくお願いします」

 中隊長の一尉が胸を張って答える。「お任せください」

 輝巳はそれを見て、本職は格好いいなあ、と思い、ついで、いや、ちゃんと役職をつとめられている人は格好いいんだなあ、と我が身を嘆いた。


 十月二十一日木曜日の午後十時過ぎ。 

 Cー2の格納庫のスピーカーから、合図の声が響く。「高度を下げます、まもなく対馬空港です」

 六メートルある、長大な砲身をひょいと担いで輝巳と遊が解放された後部ハッチに歩み寄ると、風の音にかき消された、おお、という驚嘆する声が聞こえてくる気がする。

 輝巳にはそれが痛い。

 Cー2が速度を落とす。

 高度三百メートル余り。

 敵性徹攻兵の出方次第では危険な一瞬。

 輝巳、次いで遊が飛び出すと、そのまま滞空してみせる。

 急いで皐月が飛び降りると、黄色い光条を輝かせ滑走路に降り立つ。

 灯りの全く無い暗闇の中、次々と降下していく落下傘を感じながら、輝巳と遊は感覚を稜線の向こうの谷間に研ぎ澄ます。

 輝巳は一瞬、気の焦りかも知れない、と思うより早く引き金を引く。

 轟音と砲火が天空を彩る。

 ほとんど同時にやや角度を変えて遊も撃ち込む。

 三瞬後、谷間に砲弾の着弾する連続音がこだますると同じくして、山間部から閃光が走り、Cー2のコクピットのわずか上を敵の砲弾がかすめ飛ぶ。

 敵の焦りを引き出すことができた。

 輝巳も遊も、自分が目を着けた地点に向けて第二弾を撃ち込む。

 しかし、反応が無い。

 輝巳が、徹攻兵全員に聞こえるように遊に話しかける。「なあ遊君、単発式なのかな」

 遊も、答える。「わからん。かもしれんが、待機だ」

 りょーかい、と輝巳が返事する。

 空挺団の面々が降下すると最後に七生、道照、明理、堅剛、宇が降下して、輝巳と遊とは違う角度から山間に潜む敵性徹攻兵に意識を馳せる。

 Cー2が速度を上げながら北に大きく進路を切るのを何とか見とどけて、輝巳と遊の滞空時間も限界を迎え空港に降り立つ。

 限界近くまで光条推進を使うと息が切れる。

 皐月が「お二人とも、大丈夫ですか?」と声をかけてくる。

 輝巳は「おじさんだからじゃないんだよ」と笑う。

 遊は「ああ、大丈夫」と答える。

 輝巳は明理に声をかける。「明理ちゃん、そっちの近くに副官はいる?」

 明理がたずねてくる。「すぐ、さがします。

 どうしました?」

 「ラインメタルを置いて邪魔にならないところを確認したい」

 「わかりました」

 ふーっ、と一つ大きく息を吐くと、輝巳は「一旦、集結しようか」と遊と皐月に声をかけた。


 空港の北端に七生を、南端に道照を置いて警護に当たらせ、残りの面々で意識あわせをする。

 とにかく、敵の数も武装も位置もわからないのはやりづらい。

 そもそも、六メートルの砲身を持つラインメタルは山間部では邪魔で仕方がない。

 そこで小銃だけ構えて偵察に入る。

 見つけ次第ペイント弾で目印を付ける。

 その後狩りに移る。

 宇が確認してくる。「全員、ペイント弾の弾倉に切り替えてるよね?」

 全員、手元の八九式を確認する。

 さきほどの反撃で、空港から約八キロほど離れた佐須坂トンネル付近に一名潜んでいることは明らかになっている。

 それより近くから攻撃がなかったのは、敵性徹攻兵がいないからなのか、砲撃用高圧砲を持ち合わせていなかっただけなのか、決めつけてしまいたいが決めつけが一番いけない。

 空港から南に放射状に展開していくことにする。

 向かって左側、一番東側には明理を当てる。

 一番最初に対馬駐屯地に到達するはずで、本職の尉官が出向くのが何かと良いだろうとの考えだ。

 その右隣を遊が、さらにその右隣を輝巳が担当する。

 報告のあった最前線のあたりで最も会敵が想定される位置だ。

 その隣に皐月を配置して、その隣が宇、向かって右側、最西端を堅剛がになう。

 逃げの守りを固めているところには、思わぬ敵が潜んでいる、と予想して目の良い堅剛を配置する。

 信世も「それでいいわ」と了解する。

 通信が回復しない中、信世が司令に報告している空気が伝わってくる。

 遊が「いこうか」といいだす。

 信世が告げてくる。「フタフタヨンゴー、各員、索敵を開始してください」

 その一言で、全員、散開する。

 山間部を走るのは苦ではない。

 着甲していれば、斜面も平地と同じように上り下りできる。

 藪や、細かい木の枝も、薄い草原を進むような気安さで、折り進むことができる。

 ただ、小銃の扱いは気をつけないといけない。

 そして刃渡り六十四センチの刀が何かと邪魔くさい。

 明理が、ぽつりと漏らす。「この刀が、邪魔よね」

 宇がうなずく。「それなー」

 みな、高みに登っては、沢に潜む何かを感覚で探す。

 見逃すことはできないが、時間をかけることもできない。

 既に攻撃の意思は示してしまっており、敵性勢力がどんな行動に出るかもわからない。

 人質にされているという住民の安否も気がかりだ。

 決して大きくない島のはずなのに、そこにいるかもわからない敵性徹攻兵を見つけ出すとなると、広い。

 一キロ、二キロ、進むごとに、後ろが広くなっていく。

 もしかして、見逃しているんじゃないか。

 GPSで自分の居場所はわかる。

 堅剛が、島の西までたどり着いたところで、みな、間隔を整えて南に進む。

 三キロ、四キロ、見つからない。

 輝巳が口を開く。「自分を疑いたくなるな」

 遊が答える。「焦るな」

 佐須川沿いの県道四十四号線まで、あと一キロ半というところで、宇が、入り組んだ尾根を嫌って飛び上がった。


 そこを狙われた。


 三本の轟音が一点に集まる。

 一発目が左のすねの装甲を砕く。

 二発目が左脚を吹き飛ばす。

 三発目が左脚のあった虚空を突き抜ける。

 「ぁっつぅ」慌てた宇が緑色の光条を背中から、右足から吹き出すせいで、不規則に回転しながら山肌に落ちる。

 「見つけた」

 輝巳と遊が声を揃える。

 二人とも、手近な発火地点に向けて一直線に飛び込む。

 邪魔な樹を避けながらも背中と足の光条推進をフルに使い、敵を見定める。

 砲は砲身のみ、弾倉は無い。

 近接武器は持っていない。

 装甲の厚みから、第三世代型。

 やれる。

 敵が逃げる。

 追う。

 遊は紫の光条を袈裟に切り払う。

 輝巳はどす黒いもやで首を刈り取ると、右側に目を凝らし三人目の砲撃者に向かう。

 徹攻兵に随伴していた歩兵達がようやく慌てて輝巳の背中に小銃弾を撃ち込むが意味はない。

 輝巳と遊が飛び込むのと同じタイミングで皐月が飛び上がっていた。

 輝巳と遊が討ち漏らさないように三人目にペイント弾を撃ち込もうとしていたが、堅剛に制される。「皐月、降りろ」

 一発、二発、打ち込んだ弾は正確に三人目をマークする。「ですが」

 堅剛の声に怒気が孕む。「的になるな。

 こっちにも何人か潜んでる。

 降りろ」

 皐月は口を結んでから「わかりました」と答え、次ぎにできることとして宇の救護に向かう。

 明理は進路を右寄りに変えて、対馬駐屯地と佐須坂トンネルの東側出入り口の間を狙って移動する。

 伏兵が潜んでいたら私が。

 そんな明理に遊が声をかける。「明理ちゃん、一度止まって」

 「どうしてです」

 「落ち着こう、明理ちゃんにはこれができる?」

 そういうと遊は自分が切り裂いた敵性徹攻兵の生々しい切り口の視界を全員に送る。

 肋骨を切り開いた断面に、白い骨の切り口がぽつぽつと見える。

 皐月は「うっ」と声を漏らし、明理はこみ上げてくるものをこらえるために腹に力を込めた。

 輝巳は深追いの危険性も感じていたが、皐月の撃ったペイント弾のマーカーは既に視界の中だった。

 堅剛が止める。「輝巳」

 輝巳は止まらない。「一八式なら耐える」

 輝巳の右前方、小茂田港北部の大隈山山頂から火砲の炎が上がる。

 輝巳はタイミングをとらえて右腕を振り上げ、秒速一・六キロのAPFSDS弾をはじくと、三人目の狙撃者に飛びかかり、同じように首をはねた。

 輝巳が三人目を追い詰めている間に、堅剛は大隈山の四人目を追う。

 輝巳も四人目を襲い挟撃を狙おうとしたが、背後に気配を感じて振り向いた。

 小茂田港が見える。

 向かって左の山に、なにか、いる。「堅剛、任せるよ」

 「むー」

 輝巳は小茂田港南部の黒岳を駆け上る。

 いる。

 輝巳が五人目の敵性徹攻兵を見つけたのと同じタイミングで遊は、六人目の敵性徹攻兵と対峙していた。

 輝巳達の背後を襲われても、孤立する明理が襲われてもいけないと、当たりを警戒する中で気配を感じて柳ノ壇山に分け入る中で見つけたその徹攻兵は、先ほど切り払った徹攻兵とは装甲の質が違っていた。

 おそらく、第四世代型。

 そして何よりやっかいなのは、その手に青白く光る柳葉刀型の光条武器を手にしていたことだ。

 取りあえず背後の空間を確保する。

 そして視覚を全員に伝える。「出た。

 気をつけろ」

 輝巳と堅剛は、小茂田港の北と南の山で、それぞれほぼ同時に敵性徹攻兵を文字通り切り裂いた。

 輝巳が答える。「相手にすんな」

 堅剛が答える。「逃げろ」

 それに対して遊が告げる。「わかってる」

 遊としても、先ほどの一閃が瞬間的だっただけに、敵性徹攻兵と面と向き合うのは初めての経験だった。

 遊も光条武器を中段に構える。

 六人目の敵性徹攻兵は柳葉刀を大きく振りかざす。

 遊は、来るか、とたずねられた気がした。

 首を横に振り、いや、と意思を示して後ろに飛び退く。

 仮に相手にするとしても、輝巳、堅剛と合流しないことには話にならない。

 明理が近づいてくる気配を感じて「明理ちゃん、来るな、気が散る」と伝える。

 輝巳と堅剛は、とにかく遊の無事を祈りながら、県道四四号線の北と南を、他の敵性徹攻兵がいないか気を配りながら駆けつける。

 輝巳は移動しながら皐月に語りかける。「皐月ちゃん、宇を空港の方に連れて行って。

 県立病院があったはず」

 「わかりました」と皐月は返事をすると、取りあえず、止血をどうにかしなければならないと、苦痛をこらえる宇の脚の装甲を外しにかかる。

 そして、先に輝巳が、次いで堅剛も、柳葉刀の敵性徹攻兵を視界にとらえた。

 遊は言葉が通じなくとも、投降しろ、と念じる。

 輝巳も、遊も、堅剛も、言葉は通じなくとも、敵性徹攻兵の、俺は生き延び一族を守る、という意思を受け止めた。

 遊に一計があり、輝巳と堅剛に語りかける。「堅剛、輝巳、西側を、小茂田港の方向を開けよう」

 信世から声がかかる。「できれば生かして捕まえて欲しいんだけど」

 黙ったままの、輝巳、遊、堅剛を差し置いて、宇が呟く。「無茶、言う、なよ」

 輝巳と堅剛は、遠巻きに移動し、やがて、遊を南北に挟む位置まで移動する。

 輝巳が、明理に声をかける。「明理ちゃん、そっちの付近に敵性がいないかは気を配ってね」

 敵性徹攻兵は柳葉刀を構えたまま、山の中を西に進み、県道四四号線に降りていく。

 そのまま、後ずさっていくので遊が県道四四号線に降り、輝巳と堅剛が山中で距離を詰める。

 暗闇の山道に、63A式水陸両用戦車が投光器を付けて待機している。

 照明の中を、自軍の徹攻兵が後ずさってくるのをみて動揺した随伴歩兵達は、やがて照明の中に紫色の光条武器を構えた遊が現れたのを見て銃撃を仕掛けてくる。

 一八式の遊にとっては、機関銃弾も子供の豆まき程度だが、戦車の主砲が照準を合わせてくるのはさすがに嫌い、右に、左に、身をかわす。

 敵性徹攻兵が、一歩一歩、後ろに下がると、戦車も後退を始める。

 輝巳と遊は、最初に飛び出した時に八九式自動小銃を放置してしまっているが、堅剛は置き去りにしていない。

 堅剛は光条武器を左腰にマウントし、弾倉を実弾に変えると、随伴歩兵の脚を一人、また一人と打ち抜いていく。

 カモフラージュには鮮やかすぎる迷彩服の膝上が赤く染まる。

 あとあと捕らえるのに、山中を徘徊されても困る。

 とはいえ、関節を打ち抜いては回復も困難だろうと大腿骨の膝上を狙う。

 県道の北側の山からの射線と気づいた歩兵が何人か、小銃を撃ち込んでくるが、そもそも暗闇の中に見当もつけずに撃ち込んでくるものなのでまともに当たるはずもない。

 砲塔から上半身だけを出している機関銃手は狙い所も少なく、右前腕を打ち抜く。

 ついに、後退した戦車が兵員輸送トラックにたどり着いてしまうと、わらわらと歩兵が集まり、遊に小銃の集中砲火を浴びせる。

 攻撃自体は遊をなんら傷つけないのだが、さすがに数にひるむと、その間を計って敵性徹攻兵が背中を見せ、小茂田港に向かって県道四四号線を疾走する。

 遊が県道を、北側の山間を堅剛が、南側の山間を輝巳が追いかける。

 ただし、追い詰めすぎない一定の距離はとる。

 途中の集落で、敵性歩兵が住民をかり出しているのを見かけるが、まずは敵性徹攻兵の片をつけないと収まらない。

 このまま、湾まで追い詰めて、そこで間合いを詰めるのか、それともこの敵がどこかで身を翻してくるのか、その迷いが四人の微妙な距離感を維持させ、敵性徹攻兵を西の頂点とした菱形が西へ、西へと移動していく。

 遊は正面の敵性徹攻兵に気を配り、輝巳と堅剛は背後の山にも目を走らせる。

 信世の確認が入る。「皐月ちゃん、現在、マルマルフタゴー。宇の状態はどう?」

 皐月が、手を動かしながら答える。「左脚の装甲は全て外しました。

 弾性ストッキングを破らせてもらって、即席の止血帯を準備しています。

 膝下、十五センチから下を損失、出血多量ですが息はあります」

 宇も答える。「あっちい、感じ。

 まさ、か、こんな」

 信世も「無理しないで、しっかりね」と答え続けて明理にたずねる。「明理ちゃん、そちらの状況は?

 周囲に敵性はいそう?」

 明理が答える。「現在、佐須坂トンネル東側出入り口と対馬駐屯地の中間当たりの成相山山頂付近。

 視界の範囲に敵性の存在は確認できず。

 次の行動の支持を願います」

 信世が指示を出す。「県道四四号線の南側よね。北側の袖振山の山頂に移動して、警戒に当たり周囲の監視を継続してください」

 そして信世が続ける。「道照さん、七生さん、そちらの状況は」

 道照が答える。「敵性の反応無し」

 七生も答える。「こちらもです。落ち着いています」

 信世が答える。「わかりました。敵性は小茂田港を中心に県道四四号線沿いに展開した模様と判断します。

 第一空挺団副官と協議の上、可能であれば結束バンドをできるだけ持参して、明理ちゃんと合流してください」

 そして信世が続ける。「さてと」

 そこで通信が入る。「こちら、対馬空港管制室。座間駐屯地司令室、聞こえますか」

 信世が返信する。「こちら、座間駐屯地司令室、都築予備陸曹長です。対馬空港管制室、どうぞ」

 「了解、これより対馬空港管制室より、徹攻兵各員との通信を開始します」

 すると、壁面のモニターに輝巳達の視界が映る。

 信世はとっさに遊の視界をメインモニターに映す。「遊、敵性徹攻兵の姿をカメラに収められますか?」

 遊が嫌そうに返事する。「このタイミングで近づけってか、ったく」

 遊が速度を上げると、相手も速度を上げる。

 遊が語る。「動画のバックアップは、一時間分メモリーされてたっけ。

 そちらの保存を願います」

 信世が他の通信兵に指示を出しながら答える。「わかりました。

 逃がさないようにね」

 遊と堅剛が「了解」と答える中、輝巳は「聞こえなーい」と返事をしてくる。

 信世が叱る。「ふざけないで」

 輝巳が口答えする。「ふざけてんのはどっちだよ。

 俺は俺が怪我するのも、これ以上けが人が増えるのもごめんだね」

 遊が口を挟む。「正直俺も、輝巳に同意だ。

 このまま逃走してくれるなら、成り行きを見守りたい」

 信世が答える。「こちらからの指示で、逃がして、とは命令できません。

 第一優先は、生存したままの投降を、第二優先は活動の停止を試みてください」

 これには、堅剛が「了解」と返事したが、輝巳と遊は返事をしなかった。

 三人はついに柳葉刀の敵性徹攻兵を小茂田港に着岸した揚陸艇まで追い詰める。

 そこで立ち止まり身を翻した敵性徹攻兵から、来るな、という意思が送られてくるのを、輝巳も遊も堅剛も感じ取る。

 遊の、観念しろ、という念じは輝巳と堅剛には伝わるが、敵性徹攻兵が聞き入れる様子はない。

 周囲には敵性歩兵が多数構えていて、散発的に遊に小銃での射撃が与えられる。

 すると敵性徹攻兵は、暗闇の海の上、揚陸艇に横付けされていた一台の水上オートバイに跨がり、瞬く間に宵闇の沖合に消えていった。

 遊がつまらなさそうに通信する。「都築小隊長へ報告。

 敵性徹攻兵一名が用意していた水上オートバイで小茂田港より逃走した模様、付近の海自、海保に注意喚起を願います」

 信世も、つまらなそうに答える。「こちら都築、現地の状況を確認しました。

 引き続き小茂田港周辺の徹攻兵各員は、残存歩兵勢力の無力化と確保、次いで身柄を拘束されている現地住民の安全確保に当たってください」

 これには遊、堅剛、輝巳が「了解」「りょーかい」と答える。

 

 そこからの後始末の方が何かと大変だったかも知れない。

 輝巳、遊、堅剛の三人は、三隻の揚陸艇に各々乗り込むと、待機していた操船要員を拘束し退路を断った。

 残されていた水上オートバイは五台、ここから、敵性徹攻兵は輝巳達が無力化した五名で全員と推察された。

 揚陸艇の周りには、歩哨の歩兵が構えており、散発的に小銃による攻撃を繰り返してきたが、三名は、子供のオモチャを取り上げるように歩兵から小銃を取り上げると、太ももを打ち抜いて行動の自由を奪う。

 遊が、兵員輸送トラックからロープを見つけ出すと、一人ひとり捕まえては両腕と両足を縛る。

 一八式はなるべく住民に姿を見せるなという信世の指示で、小茂田港北側にある佐須中学校には堅剛が向かう。


 皐月は、見よう見まねでなんとか宇の脚の止血を試みると、GPSで手近な山道を捜す。

 跳躍を繰り返して山道を駆け抜ける方法もあったが、重症を負う宇の負担はできるだけ軽減したい。

 皐月はできる限り安定して背負えるよう、宇の装甲をヘルメットを残して全て外してしまう。

 「教官、お加減はいかがですか?」

 宇は切れ切れの声で答える。「止血、あり、がとう、ね。気が、遠く、なる感じは、まだ、ない」

 皐月は宇の右腕を右肩に担ぐ。

 宇は皐月の背中越しに、左腕を左肩の上に回す。

 皐月は宇の腰の下に手を回し、「しばらく、我慢してください」と声をかけると、満月の夜空に向けて垂直に八十メートル飛び上がり、足底の光条推進で目当ての山道をめざした。

 皐月がこの時、一八式の出力百パーセントに達したことを、信世は見逃さなかった。


 明理は袖振山の山頂で手頃な石をみつけ座り込んでしまっていた。

 今晩、私は何ができたんだろう。

 感覚的に、佐須坂トンネルの東側に敵性勢力はいない。

 空を見上げる。

 雲間に、満月が見える。

 すると気配で、道照と七生が近づいてくるのがわかった。

 立ちあがる。

 道照が「鷲見一曹、小安三曹、到着しました」と敬礼してくる。

 階級は明理の方が上だが、経験は道照や七生のほうがつんでいる。

 明理も、返礼する。「到着、ご苦労様です。

 バンド、私にも分けてもらえますでしょうか。

 私の考えですが、佐須坂トンネルの中を七生さん、トンネル北側に延びる県道四四号線沿いを道照さん、佐須坂トンネルの上の山中を私がそれぞれ、敵性勢力がいないか確認して、佐須坂トンネル西側の出口で一度落ち合いませんか」

 道照が「了解です」、七生が「わかりました」と答えてくる。

 明理はそつなく「信世さん、それでいかがでしょう?」と確認する。

 信世も「結構です。

 敵性歩兵は見つけ次第、両腕と両足を拘束してください。

 それと、現地住民を見かけたら積極的に保護してください」

 ここで一旦区切った信世が、思い出したように続ける。「あ、山中に敵性歩兵が潜んでいる可能性があります。

 皆さんの感覚ならある程度つかめるはず。

 捕虜を確保する駐屯地の要員に万が一の事がないよう、山中の敵性勢力の無力化にも気を使って下さい」

 三人とも「了解しました」と返答する。


 日付は変わって十月二十二日金曜日の午前三時、佐世保を出向したひゅうが型護衛艦が厳原港に入港する。

 長らく待機状態にあった対馬駐屯地が機能し出す。

 対馬駐屯地の対馬警備隊は規模こそ小さいが連帯格の扱いがあり、駆けつけてくれた偵察中隊、施設中隊、通信中隊、後方支援大隊を臨時編成として対馬警備隊隷下に起き、まずは厳原発電所の復旧と、豊玉発電所、佐須奈発電所の被害状況の確認が優先される。

 そして後方支援大隊には市役所前で給水作業に当たってもらい、偵察中隊には島全土の住民の状況確認に当たってもらう。

 対馬警備隊直接隷下の普通科中隊は、県道四四号線沿いの山中に横たわる隊員達のご遺体と武器の回収に当たる。

 せめて、仲間のご遺体は、自分たちで相手にしてあげたかった。


 夜が明けても、輝巳達徹攻兵の仕事は続いていた。

 一八式をまとう輝巳と遊は、できるだけ住民の目に止まるなといわれ、まずは山中に転がる敵性徹攻兵のご遺体を揚陸艇に集めると幌をかける。

 後ほど対馬駐屯地の三トン半トラックで対馬空港に搬送する予定だ。

 次いでこれも山中に転がっていた砲撃用高圧砲を回収し、揚陸艇に集める。

 更には宇の脱ぎ捨てた装甲服と、自分たちの携行していた八九式自動小銃も回収する。

 皐月は宇を県立病院に運び込むと、応急処置と麻酔をしてもらう。

 宇本人の希望で、本格的な処置は都内で受けることにする。

 堅剛は佐須中学校に向かい敵性歩兵を排除すると、講堂に閉じこめられていた住民を解放する。

 トイレにも行かせてもらえず酷い有様だったが、人々からの感謝はくすぐったい。

 明理と道照、七生は県道四四号線沿いに敵性歩兵の無力化に当たる。

 何人か、堅剛が射貫いた兵士もいたが、一通り手足を拘束すると道ばたに転がす。

 とにかく人数が多い。

 敵性戦車の随伴歩兵など、抵抗を見せるものもいたが、明理も、道照も七生も、致命傷にならない部位を狙って無力化を効率良く進める。

 明理が呟く。「嫌なものね」

 道照の「本当だね」、七生の「全く」という同意がせめてもの救いだった。

 とにかく、徹攻兵の堅牢性を生かした危険性の徹底排除と後片付けを終えると、機密扱いということで対馬駐屯地の三トン半トラックを優先的に回してもらう。

 被害にあった住民の見守る中、小茂田の港を後にする。

 復旧した対馬空港に降りてきたCー2に三トン半トラックごと乗り込むと、担架に乗せられた宇が合流してくる。

 堅剛が声をかける「むー、どうよ」

 宇が笑う。「痛みは大分薄いよ。車いすかな、義足かな」

 みな、帰りのフライトは表情が重かった。

 

 十月二十二日の夕方には、Cー2輸送機は厚木に降り立ち、装甲服を外した顕現者達も座間駐屯地に戻る。

 宇だけは、自宅近くの総合病院まで救急車で運ばれたが、今回は色々あったこともあり、他の要員は留め置かれる。

 空き宿舎を借りて体を休めると、翌土曜日の九時から会議に入る。

 今回の鹵獲対象は、中国製揚陸艇三隻、戦車十二両、兵員輸送トラック六両、水上オートバイ五台。

 北朝鮮からは早くも、長引く経済制裁による現地部隊の愛国的行動であり、資材と人員の返還を速やかに要求する、と声明が出される。

 堅剛がうなる。「むー、さすがだな」

 確保された捕虜は総勢三百名余り。

 遊が呟く。「そんなにいたのか」

 これには、明理、道照、七生も何度か頷いてみせる。

 敵性徹攻兵については、結論が出ていないものの、体質、容姿などからウイグル系民族であることが強く推察される。

 また、回収された装甲服は装甲の厚さや重量などから、第三世代相当と推定された。

 砲撃に使用された高圧砲は単発式で、砲撃ごとに薬室への砲弾の再装填作業が必要な型と見られた。

 そして遊の記録画像に残った六人目の敵性徹攻兵についても考察が加えられる。

 他の敵性徹攻兵と比べて、やや細身の形状は明らかに異なるものであり第四世代相当と推定された。

 そして光条武器の発動。

 これは第二世代型に留まる、アメリカ、オーストラリア、ゼライヒ女王国に取って非常に脅威と成る存在だった。

 信世が語る「ドイツ、アメリカには報告済みです。

 他の各国との連携は、イギリスやフランスも神経質になりますので、ドイツ、アメリカに任せることになります」と一拍開けて「本当は確保して欲しかったんだけど」とため息をつく。

 輝巳が両手を後頭部に当ててのけぞる。「むちゃゆーな。

 〇六式の堅剛が無事帰ってきただけでも収穫だと思え」そして輝巳が続ける。「それより、宇の怪我、どうすんだよ?

 あんなの、奥さんに顔向けできないよ」

 沈黙が会議室に走る中、堅剛が小さく手を挙げる。

 「むー、それなんだけどさ、もう一度時間をかけて考えるようにするけど、俺、徹攻兵引退するよ」

 輝巳は天井を見上げる。

 遊は腕組みをして正面を見つめる。

 信世は堅剛と合わせた目をそらす。

 明理は目元を細めて口を結ぶ。

 皐月は、はあ、と目線を左下に下ろす。

 道照は顎を引いて眉間にしわを寄せる。

 七生は痛々しそうに苦笑いする。

 堅剛が呟くように一言告げる。「娘が、二人いるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ