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詐欺師  作者: 仮名
1章:舌戦
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9.詐欺師と悪質プレイヤー

【eスポーツ7日目】

 アイテムオークションと言われてもな。


「いや、金が無いからいいよ」

「では、参加して頂くだけでこちらからお金をお支払いしますので、参加して頂けませんか?」


「どゆこと? なんで参加するだけで金くれんの?」

「ご存知の通り、イベント主催者は参加者を多く集めたり、名声と実績が轟いているプレイヤーを参加させるほど、自分にも名声と実績が手に入りやすくなります。言ってしまえば上位プレイヤーになるための利益を求めた数合わせですね」


 へー。そうなのか。

 普通なら美味い話にゃ裏がある、って考えるもんだが、ゲームの中ではプレイヤーランキングを上げることが目的だから、ゲーム内通貨は掃いて捨てても良いようなもんなんだろ。


 まさかeスポーツのゲーム内で詐欺られたりしないだろう。

 イベントっつーのもどんな感じか見ておいて損はないし、乗っとくか。


「じゃ、軽く参加だけ。で、金はいくらくれんの?」

「どなたにも一律で1万銅貨を渡しております」


 高いのか高くないのか分からねえ。


 男は自身をバロウズと名乗った。バロウズに案内されて店内へ入る。店内は研ぎ澄まされた木造アンティークの他にシャンデリアなど、高級感溢れている。

 店内の至るところには鉄の檻が。檻に入れられたキャラクターたちは人型が多く、そのほとんどが生気のない表情でこっちを見てくる。


「おい、あいつらって」

「奴隷です」

「バロウズあんた、奴隷商人なのか?」

「左様です。利回りが良く仕入れも簡単ですからね。eスポーツでランキング上位に食い込むには私にはぴったりの商売ですよ」

「へー。閉じ込められてるのは……NPCだよな?」

「勿論ですとも」

「……」


 なんか、NPCもリアルな人間にしか見えねえな。


「それよりもキョウヤさん。気が変わらない内に参加の方を済ませてしまいましょう」


 受付カウンターでNPCの女店員がコマンドコンソールを拡げる。

 そこには、オークションイベントに競売者として参加しますか? の文字が浮かんでいた。

 めっちゃ薄い文字だ。目を凝らさないと見えない画面。コントラスト悪すぎ。


 はい/いいえ


 選択肢は二つある。はい、を押してみるとピッという機械音が鳴った。しかし、画面は変わらない。


「あ? はい、を押したけど何もならねえぞ」

「押し損ねたのでは? もう一度お願いします」

「ああ、そうなんだ」


 もう一度、はい、を押してみた。すると、またピッという機械音が鳴った――直後、バロウズが虫歯が丸見えの卑下た笑みを浮かべる。


「か……かかか! かーっかっかっかっかっかっかっかっかっかっかっかっかっかっ!!」

「うおっ! なに!? え!? バロウズがいきなり笑いだすからビビったわ。何だよいきなり」

「なんだ、だって? まだ分からないのか、間抜けめ!」


 不意に、俺の目の前に身に覚えのないテキストが流れた。


【キョウヤの、奴隷契約了承を二度確認。キョウヤはこれより、バロウズに絶対服従の奴隷と認定します】


「……は?」

「よーく見てみろ! お前がタッチしたコンソール画面をなぁああ!!」


 オークションイベント競売者としての参加画面。目を凝らせば、その画面にうっすらと別の画面が被っている。透明に近いそれには奴隷契約なるものの事項がつらつらと書き並べられていて、奴隷契約を了承するボタンと競売者参加のはいのボタンが重なっている。


 こ、これは――!

 別の画面をタッチさせられていた!?

 コンソールウインドウのコントラストをいじって、透過度をあげている!!

 透明に近いコンソール画面……!!

 だからこそ、別の画面が重なっていることに気付かなかった!!

 俺はこれを二回押しちまったってことか!!


「てめえ……! 俺を嵌めたのか!」

「嵌まるやつが悪いのだよ!」

「こんなのルール違反だ!」

「コンソールウインドウの色彩や柄は誰でもいじれるただのレイアウトに過ぎん! ルール違反ではない!!」

「こんなものが認められるもんかよ! 運営に報告するからな!」

「認められるかどうかは、このゲームを管理しているシステム四柱(しちゅう)が決めることだ!」

「四柱……!?」


 視界の左下に、四柱についてのナビゲーションテキストが浮かぶ。


【四柱――ゲーム内の絶対ルールを守る最高の中枢システム。誰でも平等に、立場に関係なく公平に、情を持たず公正に、不具合にも対応できるよう改革を行う。平等、公平、公正、改革。この四つを基盤にした四柱が是と言えば是であり、否と言えば否となる】


 んなバカな! 四柱がこの行為を止めてねえってことは、バロウズを認めてるってことかよ……!


 押し黙ると、バロウズは俺の髪を鷲掴みにして足を払い転ばせてきた。


「て、てめえっ!」

「ご主人様であるこのバロウズ様に対して、()ーがーたーかーいーんーだーよー! 奴隷の分際でよおおお!!」


 腹が立ったので膝を着いた体勢のまま拳をかちあげる。アッパー。しかし、俺の拳はバロウズの顎の前で【不可侵領域】なる文字が刻まれたヘクスラインのバリアーに阻まれる。


「はあ!? なんだ、こりゃ!」

「おいおい! 奴隷! 貴様はルールを知らんのか! 奴隷は主に攻撃してはならないし、始まりの街での戦闘もできん! なのに、今、貴様はこの俺様に何をしようとした? 殴ろうとしたのか? この俺を! ご主人様を! 奴隷契約内容に違反する罰則あるべき行いをしようとしたなぁ!!」

「黙れデブ!」

「奴隷になった時点で、貴様のランキングは下位で確定したんだよ! 主に逆らったペナルティーを受けろおおおお!! ペナルティー!!!」


 バロウズが杖を俺へ向けると、俺の全身に電流のようなエネルギーが走った。


「ぐっ、ぐああああああああああああ!!」


 いってぇ! ゲームなのにめっちゃくちゃ痛え!


「てめえ! 何しやがった!」

「キョウヤ。いや下等生物よ。貴様が逆らうたびに貴様には最大痛覚のお仕置きを受ける奴隷契約内容になっている。分かったか? 下等生物! そもそも攻撃不能圏内の街中でただの攻撃が通るわけがなかろう! そんなことも知らんのか! くへへへへへ!! ウジ虫が! ログアウトして逃げても無駄だぞ! 奴隷のアバターは消えることなくコンピューター制御の下、主のために存在し続ける! まあ、そこらに並んでいる商品のようにログアウトして永遠に中身が戻ってこない人形になるのもいい様だがなぁああ!! 全国にこの動画を流して晒してやるよ、ウジィイイイイ!」


 こいつ……!! とんでもないキチガイじゃねえか……!

 明らかに分が悪い! 向こうには攻撃できねえのに向こうからはメチャクチャ痛い攻撃されるとかヤバすぎ!


 下調べしねえとこいつの思うがままになりかねねえ……! ちっ! 癪だが、一旦退くか……!


「ログアウト……!!」

「逃げるか、ウジ虫! もしまたこの世界に戻ってきたときにはお前は奴隷として売れているかもな! ウジ虫!!」


 ログアウトの詠唱により、ふっと、意識が仮想空間から離れて現実空間へ戻ってくる。

 病院の特設ルームだ。ログインしてから30分経たずにログアウトさせられちまった。

 すぐに宮川から電話が鳴る。


「キョウヤ! ゲーム公式の生中継でプレイ動画観てたんだけど、大丈夫か?」

「観てたって、バロウズのやつか?」


「それそれ。あのバロウズってやつを調べながら動画観てたんだけどさ、あいつネットに悪質なプレイヤーとして書き込まれてたぞ。街の広場に居るプレイヤーが大体初心者だから、キョウヤみたいな初心者狩りしてんだって」

「……ちっ。ムカつくわ。っつーか、何あいつ? 全世界で中継されるeスポーツでそんなふざけた真似をして、なんの意味があるんだよ」


「炎上商法だろうなぁ。ラストファンタジーをする前から、ヘイト集める動画を投稿しまくって金稼ぎしてるらしい。ほら、動画サイトってリスナーを集めると金が貰えるからさ」


 くっそ。腹立つ。ちょっと怒りが収まらねえ。


「やられたわ……! あー、くそっ。俺のミスか。あいつが動画投稿しまくってるのなら事前に調べられたのに」

「キョウヤと同じように奴隷にされた中にさ、世界的にそこそこ有名なピアニストも居るみたいだよ」

「そのピアニストとやらもバロウズの炎上商法の糧か?」

「みたいだね」

「世界的ピアニストを奴隷にするとか。怖いもの知らずかよ」

「有名人だからこそ大炎上を狙ったんだろうね。アルビノで盲目な天才ピアニスト。それだけで注目を浴びる理由になるから」

「……リアルなファンに殺されるぞ」

「その人、一時期話題沸騰してたんだけど、難聴にもなってピアノやめちゃってさ。バロウズはその人のピアノへの想いを利用して、ピアノ弾かせてあげるよー的な嘘を吐いて奴隷契約のボタンを押させたっぽいよ。お陰でバロウズの動画閲覧数は爆発的に増えてたよ。バロウズ本人はウハウハだろうね」


「それなら、何で俺みたいな無名プレイヤーをわざわざ捕獲する必要があったんだ? 俺なんかよりその有名人を利用した方が金になるじゃねえか」

「ご心配なく。キョウヤも綺麗に利用されてるよ。いまキョウヤがログアウトしたから、キョウヤの脱け殻の(アバター)を踏み回して視聴率上げまくってるみたいだよ。ぶっちゃけ、ゲームの技術も相当高いことでも有名だから、出場しているeスポーツ選手を喰っちまうんじゃないかって注目を集めてるよ」


 バロウズ自身がゲーム業界じゃ名の知れた男なのか。

 それにしても納得いかねえ。


「疑問なんだけど。運営はバロウズのあの裏技を容認してんの?」

「うーん。これは噂なんだけどさ。ラストファンタジーってNPCが物凄く人間味あるんだって。でさ、それはNPCが本物の人間の感情サンプルを組み込みまくってるかららしいんだ。それで、今回身障者を沢山ログインさせたのは、身障者の弟がいるキョウヤに対してこう言っちゃなんだけど、身障者の劣等感とか幸福感とか、そういう感情サンプルを欲しがってるらしくてね」


「感情のデータを収集するために、わざと放置してるのか」

「だね」


「……8時間後にまたログインする」

「何か対抗策あんの?」


「わかんねえ。それを今から調べる」

「ネットでは既に、バロウズへの対抗策が書き込まれていたよ」


「え? マジで?」

「うん。舌戦システムってやつでさ、道理と摂理と条理について、バロウズを論破すれば良いらしい。審判は四柱(しちゅう)が務めるから、口喧嘩が強ければどんな猛者や策士相手でもその力やルールを封殺・改変できるとか」

「ルール改変……。いちプレイヤーが敵を論破するだけでゲームのルールが変わることがあるのか」

「そうだね。ネットに書き込まれてるのは、ゲームそのものを変えるんじゃなくて、例えば、バロウズを論破出来たならバロウズに奴隷契約を無かったことにしたり押し付けたり、あるいは敗北(デス)級のデメリットを押し付けることができるみたいな感じかな」


 論破か。

 は……。

 はひ。

 はひゃ。

 はひゃひゃ。

 はっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!


「そういえば、キョウヤさ。ログイン報酬で武将アンロックってギフトもらったでしょ? ソシャゲのよくあるガチャとは違って好きなキャラを配下にできるチャンスが与えられるから、それはよく考えて……って、聞いてる? キョウヤ」

「論破っ! ゲームシステムがジャッジを降す論破! はひゃひゃひゃ。バロウズ……楽しみだなぁ!」

「おーい。キョウヤー?」

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