8.詐欺師とラストファンタジー
【eスポーツ7日目】
ラストファンタジー。
eスポーツのタイトルとなったこのゲーム内の文明レベルは中世。時代背景は現代文明が一度荒廃してから再興された遥か未来となっている。
あらゆる技術の進化と、生体の品種改良を持って多様な種族が生まれた。中には魔力を持つ種族や、異能を扱う種族まで存在する。
しかし、文明の崩壊と共に何もかもが狂っていった。多様な種族は研究所を出たあと、更なる独自の進化を遂げていく。そうして、機械と魔法が入り交じる中世ハイファンタジーの世界が誕生した。
自動二輪車などは数少ないが、普通に存在する。だが、多くの機械はロストテクノロジーとされ、オーパーツとして扱われている。
設定はそんなところだ。
従来のゲームにある、長くプレイしているだけで強くなるレベル制や、課金するほど強くなる販売アイテムを始めとした、チープさを出してしまうご都合覚醒など、ステータスの異常上昇システムは存在しない。
あくまでもeスポーツ。
大部分がプレイヤースキルに依存する。
選手の知恵や駆け引きも競うスポーツに恥じないゲームだ。
そんな大舞台へ、eスポーツ開催8日目にして立った俺。
早速、ベンチに座ってアバター作成に入る。
コンソール画面でアバター作成ボタンを押した。すると、ナビゲーションシステムが起動する。
【アバター作成に入ります。アバターを作ることによって得られる特殊能力は大きく分けて2種類あります】
特殊能力が2種類。
種族により決まるアビリティーと、役割と武器により変わるスキル。
アビリティーは先天的な技能。
鳥が飛ぶとか蜘蛛が糸を出すとかだから種族に依存する。最大5種族までミックス可能なので、5個のアビリティーを獲得できる。
スキルは選択した後天的な技能。学んで得るものだから役割専用装備に使えるスキルが付随している。装備を変えることでスキルが変化する。
これらの使いどころの差は微妙なところだ。被っているような能力もあるからぶっちゃけ何でもいい。
種族の項目をスクロールする。200種を越える種族は魔族だの竜族だのというメジャーそうな種族が存在する。ここら辺は選んでるやつが多そうだから、そうだなー。マイナーっぽいのをぶっ混んでみよう。
「鉄鋼族……かな?」
鉄鋼族は硬度関連の種族。ザクッと説明を読んだ感じ、メリットは頑丈になること。デメリットは泳げなくなること。ぶっちゃけ良く分からねえ。デメリットがあるならそもそも要らねえ。
やっぱ種族決定は後回しにするか。一先ず素っぴんでいい。
【次に、役割を選んで下さい】
役割は5つある。
1つ目はディフェンダー。
圧倒的耐久力を誇り、こと戦闘においての近接タイマンは最強。商人同士の交渉の際、相手の攻撃的な主張を無効化、防御するシールドスキルなどを必ず備えている。王道ロールプレイングゲームで言うところの戦士。
2つ目はアタッカー。
範囲攻撃を必ず備えていて、中火力スキルを持続的に放ち続けることもできる。ディフェンダーを肉壁にして後ろから弾幕を張る姿は、王道ロールプレイングゲームで言う所、魔法使いや弓使い。
3つ目はストライカー。
紙耐久だが、自己回復スキルと数秒の無敵スキル、高機動力スキルなどは瞬間的な戦いや撹乱を非常に得意とする。タイマン戦闘ならディフェンダーの次に強い。王道ロールプレイングゲームで言うところ、盗賊や暗殺者。
4つ目はコマンダー。
バフスキルに特化している。HPバフ、攻撃バフ、防御バフ、速度バフ。あらゆるバフで味方を強化し、デバフやスタンも多彩に使用できる司令官にもなる。王道ロールプレイングゲームで言うところ、僧侶や魔物使いだ。
5つ目はタクティシャン。
全能力が低いが、地形や戦場全体へ影響を与えることができる変わった立ち位置。短時間で防衛施設を建築したり、天候を操ることができる。王道ロールプレイングゲームで言うところ、条件付きフィールドの構築や特殊システムの役目を担う。アイテムの保有数が他役割より少し多い。
戦闘のプロとかがeスポーツ選手として出場してんのに、そいつらに戦闘を挑むのは愚策か。戦闘メインになりそうなディフェンダーは除外だな。
人気一位の役割はアタッカー。二位にコマンダー。二位と差はそこまでなく三位にストライカーで、四位がディフェンダー。ここまでで94%の割合を占めている。残り6%の人口しか選んでいない役割はタクティシャンだ。
目立つには不人気役割なんだろうが、役割で何もかもが決まるような悪いゲームバランスはしていないはず。
「タクティシャンにする」
【種族、現状維持。役割、タクティシャン】
初期アバターに変化はなかった。テレビゲートに入ったままの俺。ファー付きの茶色いジャケットに白シャツ。ダメージジーンズ。黒いブーツ。
【素っぴん用のツールを贈答】
種族、素っぴんが使うんだろう古びたショートソードが目の前で生成されてドロップされる。
ソードかぁ……。
俺にソードの知識はない。ナイフの扱いは少しかじっている程度。かじったくらいの技量ではテレビゲート内で発動するアクションアシストシステムを越える動きはできねえ。
その柄を握ると、ソードの重みが感じられた。
同時に、ソードのステータスが開示される。
<武器:ショートソード>
最大攻撃力:10ダメージ
最大衝撃力:10m
体感重量 :2kg
耐久値 :弱
スキル :あなたの役割では扱えません
ダメージやスキルを俺のステータスと照らし合わせてみる。
【キョウヤ:すっぴん/タクティシャン】
HP :300
最高時速 :28km
アビリティ:――
スペル :――
ランク :ランク外
役割タクティシャンの俺のHPは300。
スキルや武器のダメージが連続で入れば300なんてあっという間だろう。それを10人に囲まれて総攻撃を受ければ秒殺される。そんで、筋力は種族と役割と自分の体格に比例して設定される。
かなりシビアな数字だわ。敵の攻撃を無効化できるスキルを覚えられて、HPも他役割の二倍近くあるディフェンダーは超重要ってことだな。
俺はゲーム初心者だが、流石に数字を見れば役割というものの意味は理解できる。
シールドスキルで敵集団の攻撃を無効化しつつコマンダーの回復を受け、攻撃性能に優れた味方のアタッカーやストライカーに攻撃を委ねる。
こんな感じか。
指をパチンと鳴らすとアイテムボックスが開かれる。この操作は宮川から聞いていた。
ボックスはカテゴリー分けされていて、武器は12本まで収納できる。
ソードの収納ボタンを選択すると、ソードは剣先を下にして縦に滞空する。まだアイテムを入れていない、武具カテゴリーの11個の空ストレージは、俺を中心にして円状に広がっていて「no item」と表示されている。
チュートリアルって無いのか? 考えていると、視界の隅でプレゼントマークのアイコンが点滅している。溜まっていたらしい運営からのギフトを頂く。
ナビゲーションが開く。
【二回目のログインボーナスを手に入れました】
全体通信機×1/部隊ギフト/装備ギフト/アバターギフト/武将アンロック権限
おお。噂の全体通信機だ。これは確保、と。
っつか、二回目のログインだからチュートリアルが無い可能性あるな。スキップしてしまったんだろうな。
早速、頂いたギフトカードたちを使ってみる。
アイテムウインドウを表示する。
「ギフトカードを全て使用する」
【本当に全て使用しますか?】
「する」
【では、ギフトカードを空間に挿し込んで下さい】
コンソール操作で召喚したギフトカード。手の中で光の粒が集束し、虹色に輝くカードへと具現化する。それを目の前の空間に挿す。
「本当に空気に挿さった。すげっ」
動画で見た通りだ。
【2個のギフトが贈呈されます。すっぴんのため、アバターギフトは使用できませんでした】
ナビゲーションとデフォルメされたアイテムアイコンが次々と表示されていく。
手駒となる部隊と装備。
部隊ってのはいわゆる召喚獣だ。時間をおけば再度召喚できる。隊種は様々で、俺が手に入れた部隊は土方部隊。道を作ったりするための建設系だ。っつか、土方部隊ってなんだよ。
装備はもう一本のショートソードに丸型バックラー。ジャケットの下に装着された薄い胸当てに、黒いブーツが黒鋼のブーツに変わったくらい。
あとは、武将アンロック権限ってのを使うだけか。
武将アンロック――。コンピューターで制御され、自動で行動するキャラクターの召喚だ。そいつらはノンプレイヤーキャラクター、通称NPCと呼ばれている。この権限を使えばNPCの仲間を増やせる。
そうしてアンロックしようと武将を選んでいた折、喋りかけてきた小太りの男が居た。
小太りでチビ。石油王にでも居そうな服装をしている。周りに従者を引き連れている。
「もし。プレイヤーの方ですか?」
「あー……」
なんだ、こいつ。日本人じゃねえな。言語解析システムで言葉は通じるが。
「そうだけど。なに?」
「只今そこの店内で、プレイヤーの方を集めて、アイテム販売の特別オークションをしておりますので、あなたもどうですか?」
アイテムオークション?