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詐欺師  作者: 仮名
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6.詐欺師と風俗嬢スカウト

【eスポーツ7日目】

 動画サイトでeスポーツの配信がされている。

 そのeスポーツは、俺がログアウトして以降ログインしていない例のラストファタンジーだ。一週間経った今も競技は続けられている。


 宣伝目的のためもあってか、各プレイヤーの動画配信は自由どころか閲覧数が高ければ賞金も出るということもあって、こぞって動画配信され、今や世界的に注目を浴びる話題の動画となりつつある……らしい。


 宮川から聞いた情報だ。

 誠也がログイン出来なかったため、あれから関与していない。


 定職に就いていない俺はその日暮らしをしている。小遣い稼ぎするために、今日は風俗のスカウトマンをしにいく。


 天気は雨。

 会社もグループもない俺個人のスカウトで、知人が働く店に届ける。

 今じゃあ、スカウトなんてのは法律で厳しく罰せられる上に、女たちもその手の話しに慣れてしまっているし簡単にあしらわれる。そんな中で俺の作戦はとにかく声をかけまくるというものになる。


 街角の赤信号。人の足が止まる。恥も外聞もない。いい女でなくとも人前でアタックする。基本的に笑顔で話しかける。俺はヤクザでもなんでもないから、困り顔でも笑みを含め、相手が高圧的に受けてしまう印象は極力排除する。


 傘を持ってても関係なし。時間帯も関係なし。私服警官だけは警戒しつつ、まずは走って女にぶつかった。


「おーっとととと! いたた! うわ、お姉さん大丈夫すか!?」

「あ、はい。大丈夫です」

「ほんと? ケガとかない? ってかお姉さん可愛いねえ!」

「え? いえ……あの」

「マジ可愛いんだけど。傷付けたと思うと心苦しいわ。あー、そうそう。ついでだから聞きたいんだけどお姉さんこの人見てない? この辺に居るはずなんだけど」


 スマホで写真を見せる。


「見てない……ですね」

「ほんと? よく見てみ。この人だから」


 顔をぐいと近づけてみた。すると、女は「あっ! この人お兄さん本人じゃないですか」と笑った。

 信号は青になっている。女は変な男に絡まれているんだと気付き歩き出す。


 真横を並んで歩いて尋ねる。


「腹へったー。お姉さん可愛いよね! 飯付き合ってよ。和食とフレンチどっちがいい?」


 選びやすいように選択肢を二つ、分けてやる。


「お腹すいてません。っていうか、お兄さんなんでついてくるんですか?」

「可愛いから。隣歩けるだけで幸せ」

「はいはい」

「まじまじ。飯はまあ、時間とか気にするだろうけど、ならコーヒー一杯くらい飲みに行こうよ。ちょっとだけ俺と話そ。その可愛い笑顔でさ」


 小説や漫画、どこかのテレビであたかも大事なことのように重宝している話術がある。ドア・イン・ザ・フェイス。

 今じゃ営業マンの常識となりつつある話術であり、大きな要求のあとに小さな要求を持ちかけることで受け入れるハードルを心理的に下げる手法だとか。


 まあ、残念ながらそんな夢・妄想のような効果は実際のところ一切なく、むしろこの手法に掛かる人間は、そもそもどんな話でもゴリ押しの口車で乗ってきやすい人間だったというだけのオチ。話術云々は関係なかったりする。

 お布施狙いの宗教勧誘や、新作が控えているから古いのをさばきたい期間限定セール品。「あなただけですよ、いまだけですよ」そんな適当な言葉すら断りきれずバカだから受け入れる。一度でもそんなセールストークに乗ってしまえば住所や環境が業者に回され、カモられる。自分で考えることを放棄しているから悪党の口車に導かれ、さらに良縁だと勘違いする。


 じゃあ、ドアインザフェイスなどと、どうでもいいことを大それた話術みたいに宣伝されるのはなんなのか? という答えだが。単にそういうネタの本や番組を作って販売しているだけ。

 ただのネタ。料理なら、トマトは体に良いですよ、だからトマト料理の本を出したので買いましょう、と言っているレベル。

 現実、「小学生のぼくが考えた最強の話術」みたいな妄想が通用するのなら、道行くそこの男も、あのオタクも、このチンピラも、そこらの主婦も交渉率を簡単に上げる天才であり、人生をもっと大きなものに変えられる。


 そんなことはまず無い。それが結果だ。


 つまり、口説く側はバカ発見器。俺は相手をバカかもしれないと思って誉めまくる。なんの脈絡もなく誉められようがバカは良い気持ちになる。

 特に大バカには将来が上手くいく想像を掻き立ててやると「うわあ! お金持ちになれるの?」なんて甘い夢を描きはじめる……などの一通りのカラクリは、有名なAVスカウトマンに教えてもらった。


 そこで、バカの欲望を漁ることを基本としている。


「何かほしいものある?」

「別にありません」

「すごく高いもので、お洒落な服とか化粧品とか、何かない? 考えてみて。それらが簡単に買えるようになるよ!」

「ありません」

「本当にない? 親に仕送りしたいとか、友達に誕生日プレゼントいいのを買ってあげたいとか」

「それはありますけど」


 心に掠った。


「でしょ? やっぱあるよねー。でも安心。稼げるよ」

「……具体的においくらくらいですか?」


 おー。無視せず聞き返してきた。搾取される才能が少しありそうだな。


「あんま具体的なことは言えねえけどさ、勤務時間を守った粗で月60以上は保証する」

「ちょう怪しいー」

「怪しくないって! あの喫茶店で話そ。入ったことある? 俺行ったことねえけど、おごるから入ろうぜ」


 強引に店に連れて行こうとした。しかし、何度も断られた。残念。店に入れば逃げ場なしでじっくり話ができるんだけどな。

 仕方ないので名前と番号を何としてでも聞き出して、オトモダチになった。


「じゃ、ユミちゃん。困ったことがあったら連絡してね! 金とかね! 金はあって困るもんじゃねえし、めっちゃ質のいい化粧品とか、宝石とかも買えて他の人と美容の差もつけられるよ!」

「はいはい。お兄さんも頑張ってね声かけ」


 一日に500人くらいに声かけるペースでアタックする。無視されるのは当たり前で、たまに「死ね」「うざい」などと冷たく罵倒されたりで、十秒も喋らないのがほとんどだ。


 そんな活動の内、15人以上が番号を教えてくれる。5人くらいが飯とまではいかなくても喫茶店でコーヒーに付き合ってくれる。2人くらいが風俗店に入る。番号交換した女から半年くらいして電話が掛かってくることなんかもある。「美味い話、なにかある?」ってな感じで。


 声をかけすぎて同じ女に声をかけていた、なんてことも沢山ある。同じ女であっても恥知らずな風にもう一度アタックしてみる。そしたら案外風俗に入ってくれたりする。とりあえず、女を見たら声をかける。ひたすら声をかける。

 こうやって日々スカウトマンが努力して、日本だけで一日に千人以上の女が入店する。内緒で風俗嬢をしている女や、キャバクラなども合わせれば年間で数十万人が入り乱れ、男はその数十倍利用している。


 性は、金のなる木だ。


 俺のスカウトマンとしてのレベルは高くはない。絶望的に低いわけでもない。

 ただのバカ探し。DV夫然り。浮気男然り。結婚詐欺女然り。浮気調査費用ぼったくり然り。SNS中毒然り。バカはどうしてか、それが人間でなくとも不利益が大きいことだとしても、どんな相手でも引っ掛かり依存しちまうもんだ。


 風俗店に紹介するときはブスで2万円、並で4万円、美人で6万円で買ってもらっている。友人価格で安値紹介だが、友人契約としてスカウトする人数やタイミングは好き勝手にやらせてもらっている。


 このスカウトマンをするのは暇なとき、歩きたいとき、個人的に女がほしいときなどに、雨の日がかぶったらしている。雨の日だと店のなかに誘いやすく、店に入れば長々と話ができるからだ。それ即ち、落とし込みとも言われている。


 今日のお遊びスカウトは終了。俺の中ではなかなかの記録である、一日で四人入店に成功したので、俺の奢りであとで宮川を誘い焼き肉を食いにいく。

 そんな時だった。

 一月ほど前に声をかけた女の一人が電話を掛けてきた。

 今日は四人入店させたからそっちに流すのではなく、個人的なセックスのお誘いをした。


「そうそう。お店に入るより俺とヤった方がいいじゃん。俺のルックス別に嫌いじゃないんだろ? とりあえず他の予定蹴って楽しみに待ってるから。何時くらいにコッチ着きそう?」


 ゴリゴリで段取りを勝手に付けて女を誘った。どんな女だったのか全然覚えていないが、よっぽど酷い外見の女に声をかけたことはないので大丈夫。

 しばらくして駅前にやってきた女は金髪ギャルだった。名前は愛。すっげーバカそう。他人をバカバカと思うことがあるが、全てが全てを貶しめている訳じゃない。褒める意味のバカもある。


 バカな女の方が本音で喋りあえるから俺は好きだ。

 ホテルに向かう。

 上着を脱いだら愛が恍惚な表情を浮かべる。


「キョウヤくん、すんごー! 筋肉あるね!」

「ちょこっとな。ガチで鍛えてる連中と並ぶと貧相なもんだわ」

「へー! 愛ちゃんにはよくわかんないけどぉ、なんかスゴいね! カッコいい!」


 ほんと、頭が悪そうな女だ。

 実際には悪くねえんだろう。面倒だから適当に俺のことを煽てている、というのは俺らのやり方と似ている。

 セックスがしたい。金がほしい。相手は選びたい。そういったものの利害が一致して都合のいいセックスフレンドになれる。このレベルの女ならまたしたい。便利な道具だ。


 女と真面目に付き合うことは絶対にない。恋愛には必ず弟の医療費と俺の犯罪行為が絡まってくるからだ。それはお互い面倒極まりない。


「寂しいなぁ。もうホテル時間だねぇ」

「んじゃ、また会うか」

「ほんと? うれしいっ。キョウヤくん大好きっ」

「ああ。俺も好きだよ」

「両想いだね! 今度はデートとかどぉ?」

「おう。来週でいいか?」

「うん!」


 小説のチョロインくらいちょろい。この女もきっと、誰と結婚しても上手く合わせきれるタイプだ……というよりも、合わせきれるほどに、どうにでもなれ、と思わざるを得ない何かがあるのかもしれない。


「ほらよ。タクシー代」

「えーっ、いいの? ありがとぉ。ちゅっ」

「…………」

「じゃーねー」



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