4.詐欺師とeスポーツ大会
【eスポーツ0日目】
「あ、もしもーし。宮川?」
「ほいほーい。どったの」
「あのさ、宮川さ、ゲーム詳しかったよな」
「本気の趣味ってくらいやり込んでるぞ」
「医療用ゲームモニターの話とか知ってる?」
「ああ。知ってる知ってる。eスポーツに参加させて宣伝させるやつでしょ?」
「そこんとこ、もっと詳しく」
「詳しくって言っても、そのままだよ? eスポーツ選手とは別に、体の不自由な人間も専用ゲーム機で参加させて、それが医療用として稼働できるっつー認知度を広めようってやつ」
「なるほど……」
「eスポーツパラリンピックみたいなものを作れって世界的な運動が起こり始めてるから、それの先駈けでもあるんだよ」
医者のメールを読みながら話す。
「そのゲームのタイトルってさ、ラストファタンジー?」
「うん。ラストファタンジー」
「身障者を混ぜて、eスポーツで公開プレイをするわけか」
「まあ、eスポーツ運営側もボランティアとか言いつつゲームを広めるための宣伝用お祭りイベントにしてるな」
「ふーん。そっか。教えてくれてサンキュー」
「なに? キョウヤ、ゲームやりたくなったの?」
「そういう訳じゃねえけど。ちょっと調べものをな」
「なんなら、明日eスポーツ観に行く? アリーナに」
「――へ?」
宮川に連れられて行ったアリーナは満席だった。
エレクトロニック・スポーツ――通称eスポーツと呼ばれる競技大会が開催され、熱気と声援で沸き上がっている。
今やテレビゲームは、漫画や小説内でしか語られなかったバーチャル仮想空間を実現。
プレイヤーはゲームの中そのものへ直接飛び込み、活動し、世界一のゲームプレイヤーであることを競っていた。
オリンピックがスポーツを使った代理戦争だった時代は終わり、eスポーツが戦争ゲームを採用して代理戦争を行っている。
あくまでも噂だが、真実だ。
eスポーツにチョイスされるゲームの内容が戦略性に富むバトルゲームが多い上に、各国を代表する軍人が出場しているからな。もうマジ戦争そのもの。
アリーナの巨大ビジョンに映るのは仮想空間内の戦場と、架空の死闘を繰り広げるプレイヤーたち。
廃墟のステージで銃を持ったプレイヤーたちが撃ち合っている。
誰かが何もない空間から戦車のホログラムを召喚した。ホログラムは実体化し、プレイヤーはそれに乗り込む。
砲撃開始。
砲身が短く振動。
眼前に火球。
敵機を轟沈。
自国の代表プレイヤーが勝利すると、その国民はアリーナを震わせるほど歓声をあげる。
男のアナウンサーが叫ぶ。
「決まったー! 日本チームのエース、桐生の秘剣! 発射された砲弾ごと戦車を両断してしまったぁああ! 信じられないいいい! 絶対王者、桐生は今大会も健在だぁあああ!」
騎士を思わせる白いパワードスーツを着込む男が、近接戦闘用の武器プラズマブレードで暴れまわる。
電気エネルギーを媒体とした剣という設定のそれを用い、超人的な動きで飛び交う弾丸を弾き返す。
そんな桐生の活躍により日本チームは堂々の優勝を果たした。
日本チームがログアウトボタンを押して、巨大スクリーンから直接出てくる。
私服姿。
桐生は短髪。体躯は大柄。鍛え上げた筋肉を持っているのが服の上からでも分かる。
とんでもねえ威圧感だな。
この男なら、プラズマブレードという武器が現実でも存在するのなら本当に戦車を両断してしまいかねない雰囲気が漂っている。
アナウンサーが桐生にマイクを向ける。
「今のお気持ちをお願いします!」
桐生はため息を吐いて、インタビューに応じた。
「引退だ」
「へ?」
「現実空間でも仮想空間でも、俺の心を震わせてくれる敵は居なかった……ゲームは終わりだ」
静まり返ったアリーナ。
桐生はマイクをアナウンサーへ返して退場していく。
これは、まるでスーパースターが引退したかのようにニュースとしても大きく報道されるほどの出来事であり、桐生ファンでもあった隣の家のおばさんはアリーナで大粒の涙を流していた。
桐生ファンでもなんでもない俺は宮川と共にアリーナから出ていく。
童顔で小柄の宮川はeスポーツを満喫した表情で語る。
「イヤー、すごかったよね。流石に世界各国の軍人をぶっ混んだ公開戦争と呼ばれるだけはあるわ。特に、桐生一馬! あの動きはもう人間じゃない!」
「まあ、そうだな」
「キョウヤは調べもの目的だったろうけど楽しめた?」
「もちろんだ。誘ってくれてありがとうな」
「また行こうぜ! とりあえず腹へったからラーメンでも喰い行かね?」
男二人、駅前のラーメン屋に入る。
ラーメンを食べながら宮川が話す。
「そういえば、キョウヤeスポーツ見たの初めてなんだよね?」
「ああ」
「面白かったっしょ」
「また観戦してみたいくらいにはなー」
「観戦じゃなくて、クラン組んでeスポーツに出てみたりとかはどう?」
「クランってなに?」
「そこからか! クランってのはチームのことだよ」
「俺がeスポーツに出場するのは考えられねえけど、もしかしたら弟の付き添いで出ちまうことになるかもしんねーな」
「へ? …………ああー! ああね! 例のモニター参加か! 弟くん受けさせるんだね! それで調べてたのか!」
「黙っててすまねえ。折角楽しむために来たのに、余計な気を遣わせるのもなと思ってさ」
「いや、いいよいいよ。キョウヤでも悩みとか色々あるだろうし。でも、あー、そっかー。eスポーツに出れるかもしれないんだなー」
「宮川はeスポーツ出たかったのか?」
「うん。俺ね、こっち系のプロを目指してたんだよね。実力不足で結局、練習時間と生活費稼ぐために詐欺とかいうクソみてーな生業で落ち着いちまってるけど。落ちぶれてんなぁ」
「やりたいことあるなら、生きてるかどうかも分からねえ無気力人形達よりは充実してるんじゃね?」
「人を傷付けながら生きてるけどね」
「やっぱお前、詐欺師向いてねえよな。もう辞めれば?」
「キョウヤがそれ言う? キョウヤはいつ辞めるの?」
「弟の意識が戻ったらかな」
「そうだよな。キョウヤは好きで詐欺してる訳じゃないって言ってたもんな。死亡認定か、大金出して延命かで迫られれば、そりゃ金稼ぎするしかないし」
「ただの医療費だけなら遺産だけで足りてたが、市長選の関係者たちから色々負債処理をさせられたのがデカかったな」
っと、いけねえ。
「そうそう、宮川。あのさ、話変わるんだけどさ。eスポーツで気になったことがあったんだよ」
「なに?」
「ゲームプレイヤーたちがたまに超人的な動き出来てたの、あれなんなんだ?」
「ああ。あれね。アクションアシストシステムだよ」
ゲーム内の補正――アクションアシストシステム。
AASとも略されるそれは、五体満足ではない身障者のプレイヤーや運動能力に欠けるプレイヤーでも、ゲームシステムの補助を受けることによりある程度思う通りに体が動かせる機能らしい。
あらかじめにプログラミングされている動きが可能になる。
「努力せずとも慣れがなくとも超人になれるって訳か」
「だね。でも桐生って日本チームのエース居たでしょ? あの人はAASをオフにしてるらしいよ」
「化物かよ」
ラーメンを喰い終わったら宮川と別れる。
帰宅。
パソコンを開く。
メールが届いている。
医者からだ。
「おめでとう、キョウヤくん。モニターの件、通ったよ。良かったら電話してねっ」
おっしゃ!
通った!
弟のeスポーツのやつ参加できる!