3.詐欺師とVRゲームモニター
【eスポーツ0日目】
おばさんが外壁塗装を頼んで、あれから五日。
塗装業者はおばさんが留守中にたまに来て作業をしているが、作業時間は1時間以下。ほとんど玄関に座ってタバコをふかしている。
サボっている。
――あれは、悪徳業者だな――
俺は日課のトレーニングをしながら二階の窓からその様子を眺めていた。
トレーニングで汗をかいた。シャワーを浴びる。鏡に反射する俺。切れ長い二重は、ガキの頃からよく目付きが悪いとか反抗的な目をしていると難癖を付けられたもんだ。
その度にケンカした。ケンカには慣れた。見よう見まねの武術も反復練習するようになった。反復練習することでそれなりに昇華した。苛立ちを携えるハングリー精神しかなかった。ハングリー精神の塊のような青年期を過ごした。
脱衣場にて、寝巻きにしている安物のジャージズボンとシャツへ着替える。
パソコンと向かい合う。弟の担当医にしか教えていないアドレスに電子メールが届いている。開封する。内容は関心を引くものだった。
最新VRゲーム機を利用した医療モニターに、植物人間状態の弟「誠也」を参加させてみないかというものだった。
すぐに医者に電話する。
「やあ、キョウヤくん。電話してくれたということは、メール内容に興味を持ってくれたということで良いかな?」
「そうです」
この医者の裏の顔は闇医者で、地元が一緒だった先輩だ。
「僕は次のオペが控えているから、話は手短にさせてもらうよ。モニターに参加してみるかい?」
「その前に確認させてください。全身が動かない植物人間状態でも、ゲーム内の仮想空間でなら体を動かせるというのは前例はあるんすか?」
「もちろん。医学的に、意識があるのなら脳波という命令系統そのものは稼働はしているから、仮想空間内でも活動できるよ。そのまま現実世界でも神経系統が回復した前例もある」
「回復……。マジすか。医学的なことはよく分かんねえけど、植物人間状態の弟が本当にゲームへログインできるならしたいな」
「セイヤくんは検査の結果、意識がある確率の方が高いという可能性が浮き上がってるよ。だから話を持ちかけてるんだよ。っと、悪いけどもう時間だ。返事はなるべく早くお願いするね。一応、親族や保護者の人もゲームにログインすることはできるから安心していいよ」
VRゲーム内でなら多分、会話ができる……。そういう解釈でいいのか?
今ではたった一人の肉親となった誠也とコンタクトが取れるのか? マジか?
「応募人数に限りもあるだろうし迷うことは無いすね。こっちからも頼みます。モニターにして下さい」
「うん。じゃあ、モニターの手配はしておくよ。提出する書類関係はまた後で説明しよう」
医者との通話を切った。
数年前のVRゲームは、テレビ画面内の果てなき歪曲空間――専用の部屋みたいなところに入って、ネットワークで共有した視覚や感覚に作用する映像・衝撃波などを本人の体へ直接送り込んでいるアトラクションだった。
今のゲームは一昔前より遥かに進化している。
プレイヤーはゲーム専用のテレビ画面へ直接飛び込み、ゲームの世界いわゆる仮想空間で稼働する。