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詐欺師  作者: 仮名
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2.詐欺師と日常

【eスポーツ0日目】

 犬のポチを象った銅像の前。雑踏多いここに、交渉人志望の生活苦であろう男ガリバーが立っていた。


 あいつが交渉人希望者だな。


 スーツを着ている。小綺麗にしている。腕時計で時間を確認したメガネのサラリーマン。肩幅は少し広い。革靴も綺麗にしている。

 こいつが警察――捜査官なら、スーツに革靴の組み合わせじゃなくて、スーツに運動靴を履いていたりする組み合わせだろうが……どうだかな。

 囮捜査なんか法律でしていないように見えて、連中は普通にグレーゾーン走ってしまくってやがるからな。注意が必要だ。


「こんにちは、ガリバーさんですか?」

「あ、はい。そうです。お疲れさまです。あなたがキョウヤさんですか?」

「偽名ですが、そうです。よろしく」


 ガリバーに握手を求めてみた。


「ああ、そうでしたか。こちらこそよろしくお願いします」


 ガリバーは握り返してきた。手の皮は厚みというか、硬さがある。

 なるほどなー……。広い肩幅とこの手は、格闘技なり何かしらのスポーツをやってきた奴に多い。こんなゴツい手だと殴られただけで死にそうだ。


「んじゃ、ガリバーさん。早速仕事の話なんですけどね」

「はい」

「折角来てくださって申し訳ないんですが、あなたには頼めませんのでお引き取りお願いします。もちろん、交通費と昼食代は全額お渡しします」


 三千円をガリバーに差し出した。ガリバーはきょとんとした。


「え? 頼めないって? どうして?」

「どうしてもです」

「あの、何か予定を変更されたとかですか?」


 直球で答えておくか。


「ガリバーさんはそんなにお金が欲しいんですか?」

「はい、欲しいです。そのために、裏サイトで募集されていたこのアルバイトに応募しました」


「とてもじゃないですが、あなたのその格好はお金に困ってそうには見えないですね。腕時計もそうですが、スーツも安くはない。本当に困っている方なら、ヨレヨレのシャツに汚い靴を履いていても不思議ではないと思うんですよ」

「それは決めつけじゃないですか?」


「ええ。可能性の話です。でもあなたは明らかに困っていない。私がお頼みするお仕事は、質屋に入れるスーツさえ無いようなお金がほしい人にはピッタリという、繊細であり、意欲が大事な仕事ですからね。こういった些細なズレも取り除いておきたいからの今回の面接なんですよ。ですから、立ち話の面接で申し訳ないんですけど不採用ということで失礼させていただきます」


 交通費を受け取らなかったガリバーは大きなため息を吐いてから大人しく去っていく。


 宮川に短文のメールを送る。交渉人は警察かどうかは分からないが、追い詰められて金を求めている人間ではなかった、と。

 そもそも、追い詰められているやつの方が珍しい。


 ――人生ってのはイージーゲームだ。日本の中流家庭に生まれた俺は世界的に見れば生活水準は立派なものだっただろう。幸せ者の一人に入れていたということだ――


「ただいま」


 帰宅。自宅であるマンション。二階の角部屋に帰宅。出迎えるのは、通販で購入したトレーニング器具、それと殴っても倒れないサンドバッグの風船。友人がふざけて贈ってくれたものなので、正式名称は分からない。

 二時間のトレーニングとストレッチを終えてシャワーを浴びる。体を冷ますために窓の外を眺める。


 部屋から見える窓の外は、いつも見る風景。隣の一軒家に住んでいるふくよかなおばさんが、自宅の二階で洗濯物を取り込んでいる。おばさんは俺と視線を重ねると、さっと黒い下着を隠して恥じらうように挨拶してきた。


「あらあら、おはようキョウくん」

「うっす。おはようございまーす」

「見た?」

「何をっすか?」

「あたしの、し、た、ぎ」


 ウインクしてきた。恥じらってんのか誘ってんのか良くわからない……。

 おばさんの後ろのテレビ画面には、ニュース番組が映っている。そこには新世代ゲーム機とeスポーツの映像が放映されていた。

 今のゲームはすげえ。バーチャル世界で、生身の体を使って動ける。さらにその先を行く新機種は、脳波だけで動けるとかいう代物だ。仕組みはどうなってんのかよくわかんねえ。


 テレビを眺めているとおばさんが恥じらう。


「ああーん。キョウくんから熱い視線を感じちゃうわぁ!」

「後ろのテレビを見てるんすよ!」


 その時、おばさんの家の前にワゴン車が停まる。ワゴン車から降りてきた業者たちは作業着で、おばさんの家のインターホンを鳴らす。

 業者は三人。若年も熟年も、作業着をずいぶんとペンキで汚しちまっている。

 そのペンキの汚れはまだ新しく見える。


「おばさん。客が来てますよ。業者っぽいすけど」

「塗装業者さんよ」

「塗装?」

「そ。壁のペンキを塗ってくれるの」


 外壁塗装……? いや。その壁、まだ塗る必要ねえよな。二年前くらいに塗ったっておばさん言ってたし。


「まだ塗らなくても大丈夫なように見えますけどね」

「そうなの? もう塗った方が良いって塗装屋さんが言ってたわよ」

「それってお金どれくらい掛かるんすか?」

「大体の金額しか分からなくて、実際に作業してみないと出ないそうよ」

「で、大体いくらくらいになるんですか? うち実家がしたがってるんで、参考までに聞きたいんすよね」

「それだったら。250万くらいよ」

「……へー」


 おばさん、金持ってんなぁ。

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