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詐欺師  作者: 仮名
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1.詐欺師と架空口座

【eスポーツ0日目】

 これは、犯罪だ。

 架空口座の作成手順を相棒へ再共有する。


 ①まずイラストレーターに、本物と見た目が変わらない精巧な偽物の保険証を作ってもらう。


 ②銀行で偽物の保険証を使って通帳を発行する。


 ③キャッシュカードを手に入れるために、銀行から空き家の住所へキャッシュカードを送らせる。


 ④空き家はアパートの部屋で、部屋の鍵を手に入れるために、そこを管理している大元の不動産へ、まるで他の不動産屋のような口調で「◯◯号室の鍵ってポスト何番でしたっけ?」と電話をし、鍵の入っているポストの錠番号を教えてもらっておく。


 ⑤空き屋のドアを封鎖するために貼られているガムテープを剥がし、不法侵入。


 ⑥郵便で送られてきたキャッシュカードを受け取らず、不在票が郵便受けに入れられるのを待つ。これは郵便職員から直に顔を見られないようにするためだ。


 ⑦職員がポストやらに入れていった不在票を持って、最寄りの郵便局へキャッシュカードを取りに行く。この際、自分がパクられないようにするため「日雇いの難民」に受け取らせにいく。


 そうして、あら不思議。たった7つの手順でキャッシュカード付き架空口座をゲットだ。

 ここまでは誰でもできる。ここからが一線を越えて()()()()に手を染めるかどうかだ。


 裏サイトを閲覧する。ネットで募集した日雇い難民――つまりネットカフェに住みついている難民を取引人、交渉人として、架空通帳を所持させる。これは自分がパクられないために大事なことでセオリーとなる。


 架空通帳の使い道は何だっていい。各携帯会社の最新スマホやタブレットを何台か、その通帳で契約。それだけで、契約した機械は一台数万円でさばける。大手企業アッポルの最新スマホ「アイファン系」なら中国人に十万円越えで売りつけることもある。


 引き落とされるはずのない、持ち主のいない通帳・口座は数ヵ月で凍結される。だから、凍結される前にこの架空通帳、架空口座を欲している犯罪者たちへ百万円以上で売り付ける。高くて二百万。安くて五十万。

 タブレット契約などの手垢を付けた通帳は危険が伴うが、後のことは俺たち販売者の知ったことじゃない。


 オレオレ詐欺とか、個人でしている出会い系経営者とか。誰でもいい。欲している奴等は山のように居る。入手が困難なキャッシュカード付きとなると尚更欲しがる。


 いつから俺が、そういう事をする詐欺師になったのか――。

 親、姉弟、近しい親族も含めた観光旅行で、観光バスが事故に巻き込まれた。それが始まりだ。


 玉突き事故だった。バスはガードレールを突き破り崖から転落した。

 良くある事故。良くある報道。良くある事故死。弟だけは一命をとりとめたが、植物人間状態。ただひとり、旅行に行かなかった俺はこのテレビニュースを見たとき、全身から力が抜けたもんだ。


 この事故については、警察が遺族である俺へ確認の電話をするよりも、テレビでの報道の方が早かった。親が市長選にでていたからだろうか。報道の方が情報が早いとかマジであるんだな。

 その報道を観た俺は過呼吸に陥った。それから数分もせず警察から電話が鳴った。続いて弟が運ばれた病院からも電話が鳴った。


 バラバラと、訃報の追い討ち掛けすぎだろお前ら。

 そういうのはまとめて一回で報告してくれよ。


 訳も分からず葬式をして、親しくもないオッサンたちにたった独りの遺族代表として挨拶したアレもまた、良くある冴えない不幸な境遇の一つにしか過ぎねえ。俺にとっては人生の根元に除草剤の原液でも流し込まれたかのような痛烈な事件だったが。


 魂が。大切な何かが。力強く燃えていた信念が。一気に吹き消された。

 俺の魂は除草剤で腐り落ちちまった。

 それから弟にかかる医療費を払い続けるために、他人の命を脅かさない程度の半端な犯罪に手を染めている。


 同時に夢を見なくなった。記憶の整理をしているから見るという夢は、一体どこへ走り去っちまったのやら。


「ただいま。みんな」


 マンションの一室に帰宅。仏壇の前で手を合わせる。宗教についてはどうでもいい。神も仏も存在しない。これは寂しくなってしまった俺自身への慰めだ。


 無音の室内。その折り、携帯に着信の報せが鳴る。相手の名前は宮川。俺と組んでいる詐欺師仲間だ。

 宮川からの電話を受ける。


「もしもし。どした」

「よっ、キョウヤ。この前話してくれた架空口座作成方法のための人員が確保できたぜ」


 キョウヤってのが俺の名前だ。


「人員って、イラストレーターのことか?」

「そっちもだけど、交渉人も明日会う予定だ」

「オケ。交渉人とは俺が会ってこよう」

「オケオケ。んじゃ、イラストレーターに偽装保険証を作ってもらうから、イラストレーターに払っていい予算を教えてくれ」

「ピッタリ十万円で。ちなみに6月から保険証の素材そのものが法律で変更されるらしいから、その前に終わらせろよ」

「分かった。じゃ、交渉人の面接は頼んだよ。ポチ公前で待ち合わせしてるから。日本人で、名前はとりあえずガリバーと呼んでほしいそうだよ」


 交渉人。俺たちの手駒になるネカフェ難民たち。そいつの面接にいく。


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