プロローグ
ー亥ノ刻ー
行灯の火が揺らめく薄暗い部屋の中、中年の男と面をした男が向かい合って座っていた。
「して、どうなのだ?」
「ええ、憑いてますね、それも強力なのが」
「やはりか!ここのところ、壺や皿がいきなり割れたり、人魂が飛んでいたり、行灯の火が幾度も消えたり、寝ている時にも奇妙な気配を感じたり、」
「あー全てその憑いてるもののせいですねー」
「私はどうすればいいのだ?」
「私がその憑いてるものを浄化する儀式を行いますので、旦那様にはそのための費用をご用意して頂ければ」
「いくらだ?」
「20両になります」
「20両⁉︎そんなにかかるのか⁉︎」
「必要経費ですので」
「むむむ…」
ヒュッ ガシャーン
突然、床の間に飾られていた花瓶が飛び、柱に当たって砕けた。
「な、何だ?」
ヒュッ
次は積んであった巻物が宙を飛び交う
ガタガタガタガタ
障子や襖も音を立てて激しく揺れ始め、男は恐怖で震えだした。
「これは不味いですね、すぐに儀式を行わなければ旦那様の命が…」
「わかった!払う!払うから何とかしてくれ!」
頭を抱え、震えながら叫んだ男の言葉に面の男はほくそ笑んだ。
「では儀式の準備を致しましょう」
「また何かあればおっしゃってください。それでは」
20両が包まれた包みを持って屋敷を出た霊媒師が、しばらく歩いた先でその面を外す。
「ふ〜、今日も疲れたな〜」
「疲れたのは力を使った私の方。兄さんはあの男のビビリ顔を楽しんでただけでしょ」
脇に連なる家の屋根から、長い髪を一つに結った女が飛び降りてきた。
「そんなこと言うなって、ほらきっちり20両取っただろ?これであの男も少しは大人しくなるだろ」
「いっそ100両くらい取ってやればよかったのよ」
「流石にあいつもそこまでは出せな…おい、誰か倒れてるぞ」
2人の歩く道の先に倒れていたのは、浅葱色の羽織りを着た青年だった。
「おい、大丈夫か?」
「うっ…」
「この人、頭から血が…」
「ここなら医者よりうちの方が近い…仕方ない、一先ずうちに連れていこう」