094.力のないブーメラン
クロさんを見送った後、私たちはロンカ姫の書類作成に付き合っている。いやまあ、さすがにシロガネ国の内側を覗き込むわけには行かないから、そういうんじゃない書類をまとめたり新しい紙持ってきたりするくらいだけどさ。
一区切りついたところで、ミカさんがお茶を淹れてくれた。シロガネから来たメイドさんたちが全滅状態ってこともあるんで、一応念には念を入れてね。
「わたくしも、陛下のように呼びかけたほうがよろしいのでしょうか」
そのお茶と、私たちが持っていったプチパイを頂きながらロンカ姫が、ボソッと呟いた。いや、お姫様はお城でおとなしくしといたほうがいいと思うんだけどさ。
「誰に?」
「第二王妃様と共に国を出てしまわれた、部隊の皆様にです」
「やめなさい。狙い撃ちにされますよ」
そこら辺、ミカさんは頭が回るのが早い。さっさと事情を聞き出してすぱっと止める。というか、第二王妃と一緒に出てった部隊ってほぼ確実にこっちに向かってるようなもんじゃん。話聞くとは思わないぞ。
「ですが」
「軍というものは、上の命令は絶対なんです。いくら下っ端が嫌でも一番上、第二王妃様が命令したら彼らは、あなたを狙って攻撃しなきゃいけなくなるのよ」
「……そ、それは知ってます」
ああ、軍隊ってそういうものらしいねえ。私はそういうのに縁のないところから来たけど、さすがにこの国でしばらく暮らしてると話はどんどん入ってくるもの。
そうして、ミカさんの言ってることが事実だってことくらい分かるから。
「だったら、姫は出ちゃ駄目だよ。あんたを殺してクロさんのせいにする、なんてことくらいやりそうじゃない」
「…………わ、わかりました」
ついつい、ロンカ姫には厳しく言ってしまう。でもさ、死なれたらいやだもんね。
どーん、びりびりびり。
「おおっ!?」
「きゃっ」
「うわ」
ひどく重い衝撃音と、その後にお城全体が震える感じ。なんて甘いもんじゃなくて、座ってた私たちも一斉に床の上に転がった……と思ったんだけど。
「大丈夫でございますか?」
「あ、はい」
おおう、黒一色の人型さんたちが受け止めてくれたよう。てことはコクタンさんとこの影さんたちか、本当にちゃんと見ていてくれたんだなあ。
周りを見るとロンカ姫もミカさんも、あとメイドさんたちも大丈夫みたい。影さんたち、今の揺れでよく平気だったなあ。
というか、何の揺れだ?
「今のは何なんでしょう?」
「少々お待ち下さい……はい、遠距離からの魔法攻撃のようです。カレン殿の結界が、直接のダメージを防いでくださったようですが」
「うわあ」
ミカさんを助けてくれた影さんが、そう報告してくれた。遠距離からの魔法ってあれか、伝書蛇魔法ビームみたいなもんか。
「カレンさんがやったのを、やり返してきたってわけね」
「そういうことのようです。出力は、カレン殿の伝書蛇よりも遥かに小さいですが」
「……なんて、ことでしょう」
誰がやってきた、なんてことは誰も言わない。どうせ餅の国か第二王妃の兵隊に決まってるんだから。
「結界が防いでくださったということは、お城には被害はございませんのね?」
「そういうことになります。ただ、防いだ魔力がいずれかの地域に落下した可能性はございますが」
この状況で、ロンカ姫はまずお城の方の心配をする。というか、そういえばそっちが先なんだよなあ。さっきの報告にもあったとおり、カレンさんのおかげでノーダメージらしいけど。
「確認は……言うまでもなく動いてますね」
「はい。私どもを始め兵士や使用人は城内を鎮めるので忙しい故、皆さまお気をつけくださいませ」
「分かりました。ご苦労さまです」
ミカさんとのやり取りもあっという間に終わり、「では」の一言を残して影たちはあっという間に消えた。隠れたのかいなくなったのか、それはわからないけどまあいいか。あ、お茶こぼれてるよもったいねー。
……というか、さ。
「……カレンさん戦法、餅の国もできるの?」
「魔法使いをかき集めれば、できるんじゃないですかね」
そこなんだよね。
カレンさんの伝書蛇はとってもでっかくて、一頭でどーんと魔法ビームぶちかませる。主であるカレンさんの力も、そこには関係するらしいんだけど……私は魔法使いじゃないからなあ。よく知らん。
で、カレンさんレベルの魔法をぶちかましてくるには普通は、魔法使いの集団で一斉にえーい、と発射しなければならない。カサイ一族の当主というのは、そのくらいすごい魔法使いなわけだ。
餅の国に魔法使い、どのくらいいるんだろうと思ってたらロンカ姫が、追加情報持ってきた。
「第二王妃様も、魔法は少し使えるはずですが」
「じゃあ、第二王妃主導で集団で掛けてきたんじゃないかな」
「まあ、そのあたりでしょうねえ」
なるほど、第二王妃がいたのか。そうすると、連れてった兵隊さんの中にも魔法使いいるよね、多分。




