089.立派な護衛役
「では、頼む」
「頼まれたー」
「任されました」
ロンカ姫の執務室前で、私たちはクロさんやリューミさんと別れた。あっちの二人はこのまま再び会議に突入、場合によっては戦争を受けて立つことになるらしい。
そこら辺の説明も頼まれたので、私とミカさんは早速ロンカ姫にそのことを話す。ああ、メイドさんたちもそうだけどお姫様もマジかそれ、って顔になってるよ。
「モイチノの部隊が、入り込んでこられたと」
「うん、ガチで戦ってるみたい」
「クロ様たちは、これから対策会議です」
そう伝えると、ロンカ姫はすごく暗い顔になった。まあ、自分がいる国で戦争が起きそうだってのは困るよね。自分の国じゃないのにさ。
「……モイチノ王国だけでしたらともかく、第二王妃様も手を貸しておられるのでしょうね……」
「そうなの?」
「推測ですが」
って、自分の国が絡んでる可能性も考えてたのか。確かに、第二王妃周りって餅の国とつるんでるらしいしね。
「侵入経路とか、そのあたりをモイチノに流している可能性はありますよ」
ミカさんが、関連性を教えてくれた。ああ、情報か。ラーナンとシロガネは仲がいいからそのへんの情報が行き来してるかもしれないもんな。
で、それを第二王妃が餅の国に横流し、と。やばくないかそれ。
「とはいえ、今そこをこちらから突くわけにも参りませんわね」
「そういうの、多分リューミさん気づいてそうだし。何とかやってくれるでしょ」
シロガネの国内にいるわけじゃない私たちが、あっちの国の情報がどうだこうだなんて調べられるわけないので丸投げしよう。うん、それがいい。リューミさんならきっと気づいて、調べるなりなんなりしてくれるはず。
「ところで、それ」
そんな事を考えていると、ロンカ姫が私たちの腰に気づいて指差した。木刀をぶら下げております、珍しかろう。
「ああ。クロさんから武器の許可出たんだけどね、何しろ私実戦とかやったことないから」
「もしロンカ姫を狙って敵が出てきたら、これでボコボコにすることになっているんですよ」
「まあ」
私と、ミカさんがそれぞれ木刀を持ってみせる。ニコニコ笑いながらそこそこ物騒なセリフを吐くミカさんに、さすがのロンカ姫もちょっと引き気味だなあ。
メイドさんたちは割と平気そうだけど……あれ、その中のひとり、手になにか持ってる。
「例えば、こんなふうにっ!」
「ぎゃ!」
ばきっ、と見事にクリティカルヒットの音がして、なにか持ってたメイドさんがミカさんの木刀の下で昏倒してる。って、手から落っこちたそれ、銀色の綺麗なナイフ?
と、次の瞬間人間のメイドさんたちが一斉に同じナイフを構えた。獣人のメイドさんや使用人さん、護衛の人たちは素手で身構えたり、即座に椅子構えたりしてる。
てか、人間メイドさんたち全部敵方かよ。ふっざけんな第二王妃、最初からこちらで片付ける気満々かよ。見てよロンカ姫、ショックで真っ白になってるじゃないか。
「こっち木刀なのに!」
「近づくなっ!」
まあ、ぐだぐだ考えてても仕方がないので遠慮なくぶん殴らせてもらう。カレンさんのもとでの修行がちゃんと身についてるみたいで、メイド軍団の攻撃がスローモーションで見えるというか、読めるというか。
「めっちゃ殺る気だね!」
「というか、なんで今本性見せたあ!」
ばきばきばき、何かいい音立ててメイドさんたちがどんどん倒れていく。あ、一応胴体とか肩とかキック繰り出そうとした脚とか狙ってるからね。頭なんて殴ったら、いくら木刀でも割れかねないし。頭が。
「こっちが武器持ってきたから?」
「多分!」
というか、二人対多数でこっちが優勢なの何でよ。シロガネ第二王妃勢力、弱すぎないか?
そんなことを考えてたら、「ひゃあ!」と悲鳴が上がった。あ、やば、ロンカ姫の方にメイドさんが行ってる!
「きしゃー!」
……と思ったら、そのメイドさんが殴られたみたいにふっとばされた。ついでに二、三人ばかり巻き込んでくれてありがとう。こっち側のメイドさんたちが一斉に群がってエプロンやテーブルクロスなんかでぐるぐる巻きに縛ってる。
「しゃあ!」
「へっ?」
ロンカ姫の手のひらの上で、伝書蛇がぱたぱたと羽を動かしながら上機嫌。あ、でもこの模様、見たことあるなあ。
というか。
「マスダくん?」
「リューミ様から、お預かりしておりましたの」
「しゃー」
マジか。本人というか本蛇、大きく頷いてるし。
そういえばリューミさんとこのヤマダくんと仲良かったはずだから、その関係で預かったのか……それにしても。
「すっかり懐いてるし」
「しゃしゃしゃ、しゃあ!」
ちゅどーん、という感じで小さい口からビーム。見事にマスダくんは、敵のメイドさんの土手っ腹に一撃を食らわせることに成功した。
……ビームだからずばんと貫くと思ってたんだけど、あれもしかして光のパンチみたいなものか? どうみても殴られて吹き飛んだように見えたもん、今のメイドさん。
「まあ、いいんじゃない?」
「はい」
ともかく、立派な護衛役がいるんならロンカ姫もだいぶ安全でしょ。と、もうひとり殴っとこ。
「よろしくおねがいしますわね?」
「しゃい!」
何しろ、本蛇がとってもやる気みたいだし。よかったよかった。




