084.考えておけよ
「どうした? アキラ」
「へ」
クロさんに声をかけられたのは、一緒にお仕事してるハナコさんがクロさんのお使いで部屋を離れた隙のことだった。
「私、何かおかしかった?」
「ぼーっとしてたぞ。起きたばっかりで寝ぼけてるみたいに」
「クロさんに言われたくないわー」
「うにー」
起き抜けの間抜け顔は、クロさんすごいぞ。ガチで寝てた後の顔を、夜当番のひとたちに見せてもらったことがあるんだけどもうお寝ぼけ猫さんでしょ、可愛いったらありゃしない。餅の国には見せられないな、もったいなくて。
そうじゃなくて、私がそのくらいボケっとしてたってことか。いやまあ、お妃がどうのこうのなんて言われたのが尾を引いてるかな、うん。
「もしかして、今後の身の振り方など考えているのか?」
ぎく。
もしかして、リューミさんとかから話が行ってるのかな……行ってそうだな、あの人真面目だし。そろそろお妃様選んでくださいとか言っててもおかしくないもんね。跡継ぎって、こういう国だと重要問題だもんなあ。
「あー……まあ、はい」
なので一応頷いてみると、クロさんは「やっぱりか」と目を細めて笑った。ほらだからな猫魔王、可愛すぎるんだよ喉ゴロゴロさせろ。
「さほど気にせんでいいぞ。俺は魔族で、人間よりはちょっとばかり寿命が長いからな」
その、喉ゴロゴロしたい魔王様はそんな答えをくれた。よくあるお約束と言うか、クロさんも寿命長いのか。ハナコさんなら亀だし、わからんでもないけど。
「それに、アキラが人で言うところの成人をしておらん、というのは聞いている。それまでに、考えをまとめればいい」
「はあ……それはありがたい、けど」
いや、たしかに私は私の基準で成人してないわけですけど。この世界だと、私の年でも結婚してておかしくないらしいし。
しかしまあ、数年単位で待ってくれるらしいのは助かる。私としても、数日で決めろなんて言われても困るしな。
「それまでは、のんびり俺の腹でくつろいでおけ」
「そうするー」
本人から許可が出たので、巨大猫の腹にダイブしてやる。あーもふもふふかふかふにふに、毛並みもつやつやふわふわだし、猫独特とはいえいい香りがするし。頑張ってお手入れしてる甲斐があるというものだ。
「というか、クロさんはいいの?」
「何がだ?」
「お妃様がどーとか、言われてるんじゃないの?」
「言われてるな。リューミとか、あと昔から仕えてくれてる年寄りどもに」
やっぱり言われてるんだ。最初にリューミさんが出てくるあたり、一番言ってきてるの彼なんだろうな。昔から仕えてるお年寄り……どのくらいお年寄りなんだろ、百年越えてるのは確実な気がするけど。
「あー、俺の祖父さんあたりから仕えてるやつがいるな。亀とか蛇とか龍とか」
「クロさんの一族より長生き?」
「長生きだな。ただ、長生きすぎて下々の変化とかについていけないんで、ここ数代政治の中枢からは離れてる」
長寿命の弊害、というやつ? いや弊害なんてニュースとかで見たぐらいかもしれない言葉、よく出てきたな私。
何かよく分からないけど、魔族には魔族なりの問題もあるってことだ。魔王様ってのも、大変なんだよね。猫だけど。
「魔王とそのお世話係、とは思えない光景ですねえ」
うわ、ハナコさんいつの間に帰ってきてたんだ。慌てて跳ね起きかけて、クロさんの肉球に押し戻された。きゅう。
「お前も込みだぞ、ハナコ」
「あたしが一番、思えない要素ですよ。見たまんまリクガメですもの」
「その実ゲンブ様の末裔、だがな」
「他所の国から見たら、ただの亀です」
あっはっは、と笑いながらハナコさんは、テーブルをちょいちょいと指す。どうやら、何か書類を預かってきたらしい。彼女の場合くわえて持ち歩くから、置いてからでないと話はできないっていつから見てたんだ、この亀。
「ホー殿とコクタン殿から、それぞれ報告書をお預かりして来ました。カサイの洗礼を受けた方々、やはりモイチノ軍で間違いないとのことです」
「やっぱりかー。非難声明出しとかないとな」
「そこら辺も既に草案ができてますので目を通してください、とのことでした」
ハナコさんもだけど、補佐役のみんなも仕事が早い。というか、そういうひとたちだからクロさんの補佐役やってるんだよね。
非難声明、つまり餅の国がこんなことしました許せねえ、って感じか? もしくは謝罪と賠償を要求する?
……どっちにしろ、餅の国はそんなこと知らねーとか言ってきそうだなあ。
「ですが、モイチノは認めないでしょうね」
「奴らが認めなくてもいいさ。シロガネや他の国に、モイチノがやったことを知らしめるための声明だからな」
「餅の国、どうなるのかな?」
「周囲から孤立する……だろうな。もともとあまり周辺国とは仲良くない国だが」
まあ、やってることがやってることだしね。私とか。
そりゃ、仲良くなりたくないよなあ。クロさんはじめとしたこの国なんて、特に。




