081.匂いの暴力
もぐもぐ、とお昼ご飯を食べる。お休みの日に昼間っからとんかつ定食ウマー。これが大人ならビールとかかっくらってるところだろう。
「三日で陥落かー」
「そりゃせやろ。アタシかて、魔王城の厨房裏なんか行かされたら速攻落ちるわ」
今日はなぜか、カサノさんと一緒に食事中である。いや、お昼食べに行ったら食堂でちょうど顔合わせてさ。向こうは夜当番だからしばらく時間あるし、じゃあ一緒にってことで。
というかカサノさん、吸血鬼なのに私と同じとんかつ定食食べてるんだよね。それも、付け合わせの野菜にソースたっぷりかけてさ。まあ、美味しいのなら何の問題もないか。
「吸血鬼でもご飯の匂いに弱いんだー」
「血いばかり吸うて生きてるわけちゃうからねえ、アタシら。そんなんで身体も魔力もよー保たんわ」
「そっか、なるほど」
物語に出てくる吸血鬼っての、血を吸ってばかりでお腹空かないのかなって思ってたんだよね。
少なくとも、カサノさんは普通にお腹が空いて普通にご飯を食べるんだってことが分かって何と言うか、ホッとした。
「ていうか、栄養にならんかったってこのご飯は美味しいし」
ご飯にソースかけて食べるなよ、確かにふりかけとかないけどさ。
……ご飯って言ってるけど、厳密には私の知ってるお米とは違う作物。いやだって、この寒い国で取れるらしいし。お米って確か、暖かいところで取れるって聞いたことがあるような、ないような。
世界が違うんだから、そういう細かいこと言っても仕方がないんだけどね。
スープを飲みながらそんなことを思ってると、カサノさんがくんくんと鼻を鳴らした。ん、何か匂うのかな?
「アキラちゃんの匂いも、ええ感じに健康なってきとるしな」
「あ、ほんと?」
そういえばカサノさん、初めて会ったときに私のこと不健康みたいなこと言ってたなあ。匂いで分かるってのはまあ、人間が食べ物大丈夫なのかって匂いかぐのと同じことだよね、つまり。
てことはつまり、私そこそこ健康になってるんだ。やった。
「ほんまほんま。カレンちゃんとこで修行してるのも、ええ感じに影響しとるんやな」
「食べてばっかだと太るしなあ」
「あんまり太り過ぎたらな、血が脂っこうなってアタシも好かんのや」
「ははは」
とんかつは好きなのに、脂っこい血は嫌いなのか。……食物と飲物の違いかな、私吸血鬼じゃないから知らんけど。
でもまあ、ちゃんと修行を続けて太り過ぎないように頑張ろう。あまり重くなると、クロさんのお腹でもふもふできなくなるかもしれないし。あ、それマジでやばい。頑張る。
「んで、やっぱりモイチノのアホンダラやってんてな、カレンちゃんの蛇にぶちのめされた部隊」
「らしいねー」
さて。
お互いにクロさんのお世話係ということで、話題はそこに戻る。厨房裏の牢に放り込まれた生存者、さっき言ったとおり三日で音を上げたらしい。そのお零れに今預かってるんだけどね、私たち。うん、効果を上げるためとか何とか言って厨房スタッフ、いい匂いのするメニューを作りまくったから。
まあ、今日はそれから数日経ってるわけだけどやっぱりいい匂いだよねえ。揚げ物のあの匂いには勝てんだろ、ざまあみろ餅の国の馬鹿め。
「ま、いきなり空から魔法の束が降ってきたら対応しようがないっていうか」
「よう生き残りがおったな、ほんま」
「意図的に外した気がする。とっ捕まえて情報吐かせたいんだろうし」
「カサイの当主とその使い魔やったら、やってのける芸当やねえ」
私もカサノさんも、カレンさんとオトジローの魔法の凄さで意見は一致する。いやほんと、目で確認できないところに向けてビームぶっかまして、しかも逃げられないレベルにダメージ入った生存者ありとかさ。
「ま、ええわ。リューミ殿とか、クロ様の補佐役がきっちりお話伺っとるんやろ?」
「たまにクロさんが、お弁当持って話聞きに行ってるって言ってたよ」
このお弁当も、厨房スタッフの特製だという。それ持って牢の前で食べながらお話聞くとか何とか。鬼畜か、と思ったけどそもそも魔王だからね、クロさん。
「何やっとんねん魔王様」
「リューミさんたちのお仕事っぷりはよく聞いてるみたいだし、自分も仲間に入れてほしいんじゃないかなー」
「子供か!」
いや子供だよな、あれ。図体はでかいけど、プライベートだと私たちに構われたり逆に構ったりがすごく嬉しそうだし。
しかし、お弁当食べながら尋問とか……いや、多分実際に尋問してるのはリューミさんとかだろう。きっとクロさんはその横で、時々おかずを一つ持ち上げてとっても美味しそうに食べるんだ。「ちゃんと話ししたら食わせてやるぞ?」とか何とか……ぬああ、なんて凶悪な。
さすがは魔王、って私が勝手に思ってるだけだけどね!
「ほんまにクロ様、そういうところ子供やねえ。可愛らしいからええねんけど」
「ほんとほんと。もっとも、プライベートっていつもそんな感じだよね?」
「せやな。寝る前とか、絵本読んでくれなんて言わはることもあるし」
「マジかー」
ちょっと待て、それは初耳だ。ほんとに子供だったとは知らなかったぞ、黒猫魔王。




