080.凶悪なる拷問
リューミさんが調査結果かっこ速報、の書類を持ってクロさんの部屋にやってきたのは、次の日のお昼前だった。ちなみに今日の担当は私とハナコさんである。
「速報とはいえ、一日で情報が得られたのは早かったな」
「調査の皆さん、頑張ったんですねえ」
「推測だけどやっぱり餅の国っぽい、かあ」
クロさんがざっと目を通した書類を、なぜか私の手に置いてくれた。ので、ハナコさんと一緒に読む。生存者やその装備などから、餅の国の部隊である可能性が濃厚、ということだった。やっぱり餅かよ、おのれ。
「リューミさん」
「何だ?」
しかし、この書類見てよかったんだろうか。クロさんが渡してくれたから読んだけど、リューミさんがもし嫌だったとしてもクロさん相手じゃ駄目だとか言えないだろうし……。
「これ、私たちに見せてよかったの?」
「構わない。魔王様のプライベートを担当する者に見せておかないと今後、魔王様の生活への配慮ができんだろうからな」
「あー」
その答えってつまり、これからクロさんが忙しくなるから短い休憩のときとかしっかりやりやがれと言ってるな、このひと。
「要するに、クロ様の生活面でのバックアップはこちらに丸投げと」
「言い方は悪いが、そうなるな。すまんが頼む」
「構いませんよ。そのためのあたしら、お世話係なんですから」
ハナコさんも同じ結論に達したようで、ずんずんと床を軽く踏み鳴らしながら言葉の遣り取りをする。まあ、戦力が足りないから戦闘に出てくれ、よりはいいのかな。私たち、一応非戦闘員だし。
それに、クロさんの面倒見るのだって大事なお仕事だもん。だから、わざわざ専門の係がいるんだから。
「クロさん、王様だから色々忙しくなるもんね。ちゃんとお休みは取らせるから……夜当番の人たちにも、言ってあるんだよね?」
「それは当然」
「ならよし」
戦争になるとしたら昼も夜もなくなる可能性だってあるけど、夜は夜で担当のひとたちがいるもんね。彼女たちにも同じことを言ってあるなら、そちらはそちらに任せるよ。私だって、夜は眠いんだから。
「いつでも昼寝は取れるようにしておきますか。ちょっとでも休ませたほうが良さそうだし」
「今はまだいいけど、餅の国が本気出して来るかもしれないもんね」
「うにゃー……モイチノめ、めんどくさい……」
真剣に今後のお仕事のこと話している私たちの横で、当のクロさんはベッドの上で猫のポーズでのびーっと背筋を伸ばしている。そりゃめんどくさいのも分かるけど、今後忙しくなるのは主にあんただよ猫魔王。
いやでもホント、餅の国のせいで色々面倒事が増えるのよねえ。できれば今回のどさくさに紛れてこてんぱんにのされてくれないかなあ。勝手にこの世界に放り込まれた、私自身の敵討ちも兼ねて。
「現在も調査は進めておりますが、何しろ潜入目的の部隊ですので口が固く」
「口を割らせる手段は問わないが、できれば平和になー」
「承知しております。ひとまず、生存者は厨房裏の牢に放り込むよう命じておきましたので」
厨房裏?
よく分かんないけど、台所の裏にそんな牢屋とかあるんだ。何でだ?
首をひねってたら、ハナコさんがにやにやしながら教えてくれた。
「料理のいい匂いが流れてくる場所にね、牢屋があるんだよ。いい匂いなのに、悪い奴らはその匂いだけしかご馳走になれないんだよねえ……」
「……い、意地が悪い……」
「しばらくそれでじりじりさせてな、その後うまい飯食わせるぞっつーと結構簡単に落ちるらしいぜ?」
いじめだー!
美味しいご飯のいい匂いがするのにそれを食べられないって、拷問だー!
そりゃ口割るわ! 鬼、悪魔、魔王! いやクロさん魔王だけど!
「ちなみに、昔幼かった魔王様がおいたをした際に閉じ込められたお仕置き小屋を改築したもので」
「あああその昔ばなしはやめろおおおおおお」
リューミさんが楽しそうに言い始めたのを、クロさんがあわあわと止める。何だ、つまり子猫のお仕置きが発展して一種の拷問部屋となったわけだ。……大丈夫かこの国。
「クロさん、どんなことしたんですか」
「いろいろだねえ。謁見の間の椅子に落書きとか、書類で折り紙したってのは知ってるけど」
「ごめんにゃー!」
ごめんにゃー、なのか。というか書類で折り紙って、そりゃお父さんとかえらいひととか怒るだろ。
あ、でも子猫がいたずらする図ってちょっと可愛いかもしれない。思うだけならただだしダメージはない、うん。
「でもそれで、美味しいご飯とかお預け食らったわけね。で、敵の拷問手段として活用、と」
「いやだって、殴ったり蹴ったりするより穏便だろ? それに、腹は減るもんだ」
「確かにそうですがね、魔王様」
リューミさんが呆れるのも分かると言うか、何というか。でもまあ、たしかに捕まえた相手を殴る蹴るしばき倒すなんてして情報引きずり出すよりはよっぽど平和的な手段だよね。
さて、捕まった餅の国の人、どのくらい保つかなー。




