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007.戻れるか戻れぬか

 魔王クロさんのお城に来てから、一週間経った。ご飯は薄味だけど美味しいし、お部屋でゆっくりさせてもらえたこともあって何とか自力で立って歩けるようにはなった。


「それは良かった!」

「まだ、ゆっくりだけどね」


 そのことを知らせたときのクロさんてば、また額をぐりぐり押し付けてきたんだよね。その時は上着に七分丈パンツなんてラフな服装してて、わかりやすくしっぽがぴーんと立ってて。

 あ、クロさんのしっぽって、先端ちょっとだけ白いってことに気づいたのはこの時。聞いてみたら、両足もいわゆる白靴下らしい。両手は黒いから、気が付かなかったよ。ふふふ猫って可愛いよね、ふふふ。


「それと、これありがとうね」


 着替えがいるだろうからって、メイドさん姉妹が可愛いドレスや履きやすい靴をいろいろ持ってきてくれた。その中から、ピンクのワンピースとぺたんこの靴を今日は着けている。

 いつまでも鎧のアンダーとか、ここで最初着てたナイトウェアとかだけ着てるわけにもいかないもんねえ……あ、ちゃんと新品の下着もあったので、ありがたく使わせていただいてる。この世界、ゴムとかないみたいでぱんつが紐パンだしブラも紐結ぶタイプなんだよね。慣れろ、自分。


「引き取ったのだから、用意するのは当然だな」

「クロ様が拾ってこられたのです。お世話をするのは当然のことですよ」


 ふん、と胸を張っているクロさんに、ドーコさんがツッコミを入れるのにはもう慣れた。今日はベルミさんはお休みらしい。……ほんと、餅の国に比べたらいい国だわ、ここ。

 ……とは言ってもクロさんの私の扱い、拾った犬猫の餌やベッドや予防接種するのと同じ感じだよね、これは。まあ、拾われた当人としてはほんとありがたいんだけど。

 それと、私の扱いはいいとして。


「クロ様。今朝のお手入れ、怠りましたね?」

「え、なんで…………………………あ」


 あーあ、ドーコさんが怒ってる。

 私にすりすりしてたクロさんの額とか、外に出てる部分の毛が抜けて私の服とかベッドとかに張り付くんだよねえ。コロコロクリーナーがない世界、猫の毛取るの大変なんだぞ。


「クロさん、毛が長いんだからちゃんとお手入れしましょうよ。いつもやってるひと、いるんでしょ?」

「うにゃ~……気をつける……」


 柔らかい毛のブラシで撫でてクロさんの毛を取りながら、さすがに私もちょっとたしなめた。クロさんがしょげると、全体的に毛やらひげやらがしなしなと下を向くのがちょっとおかしいんだけど、頑張って笑わないようにしよう。

 何とか毛が取れたところで、クロさんが尋ねてきた。


「それで、今日は予定などあるか?」

「ないですよう」


 予定なんて、あるわけがない。昨日くらいまではずっと室内で立ったり、歩いたり、服選んだりとのんびりさせてもらってるだけだし。

 大体、私この後どうすりゃいいんだかね。


「そもそも、魔王を倒しに別の世界から引っ張り出されてきただけだしねえ。餅の国にいたとしても、あの後どうなってたか」

「ああ。多分モイチノ王国も、元の世界に返す宛てとかなさそうですよね」

「というか多分、元の世界で死んでる可能性が高いし」

「え」


 あ、みんな表情が固まった。さすがに犬猫じゃ、顔色はわかんないけど……人間だったら何となく、青くなってる気がするね。

 ただ、説明はしなくてもいいかな。この世界、トラックなんてなさそうだし。「死ぬ目にあって気がついたら、こっちの世界にいたのよ」とだけ言っておこうか。


「なるほど。そういう者が、選ばれて召喚されたということか?」

「事情は知らないけどさ、後腐れのないようにそういうの選んだんじゃないのかな」

「もしくは、そういった者でなければ呼べない魔術なのかも知れませんね」


 クロさん、私、ドーコさんがそれぞれの考えをぶつける。んだけど、結局実際のところを知ってるのは餅の国くらいだろうしなあ。確認しに行くのなんて、御免だわ。

 にしても、トラックにはねられた……らしいのなんて間抜けだよねえ、私。あーあ、今頃元の世界じゃどうなってるんだろ。宿題とかテストとかバイトとか……お父さん、お母さんとか。


「帰れるもんなら帰りたいけど、葬式終わった後とかだとやだなあ」


 ついつい独り言みたいに言って、ため息をついてしまった。途端、クロさんの耳がびるんと震える。あ、聞こえたかあ。


「……分かった。一応、魔法使いたちにはそのへんを研究させておく」

「その辺って、元の世界に帰る魔法?」


 思わず尋ね返してから、クロさんの真剣な顔に息を呑んだ。

 いや、帰れるならホント帰りたいけれど、確かやばいんだよね? その魔法。

 それに、クロさんがそんなことする理由とかないんじゃないのかな。やらかしたのは、餅の国の人たちなのに。


「そうだ。帰る帰らないは勇者アキラに任せるが」

「ていうか、そもそも使っちゃいけない魔法じゃないの?」

「それはそうだが、こちらの世界の責任ゆえ後始末はきちんとせんとな。そのあたり、周囲の国々とも話をしておく。心配するな」


 いやまあ、こっちの世界の責任って言えばそうだけど。でも、クロさんがそこまですることないと思うんだけど。

 魔王なんだから、餅の国侵略してやらせるとかするんじゃ……ないか、この猫魔王様じゃ。


「心配ですよ。クロ様、腹の探り合いはさほど得手ではございませんもの」

「うー……で、できるぞ! できるとも!」


 ……でも、何かやる気出してるみたいだからお願いしてもいいかな。可能性は、ないものと思っておこう。うん。

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