070.王妃様のえらびかた
「んで、これはただの興味本位なんだけど」
ずい、とカレンさんが身を乗り出してきた。うわ、何ですかその興味津々な表情は。
「クロ様のこと、男性としてどう思ってる?」
「は?」
うわ、何ですかその質問は。というか、そういえばクロさんって男性だったな。でっかい猫という認識しかなかったぞ。
「いやさっぱり考えたことないです。失礼ですが大きな猫なので、もふもふできるのはありがたいですけど」
「あ、やっぱりか」
なので素直に答えると、カレンさんもそれを予測してたみたいで肩をすくめただけだった。
ああ、でもクロさんがどうこうってことはつまり。
「……王妃様がどうのこうの、ってやつですか?」
「まあね」
ですよねー、とは口に出して言わないけどね。
ま、王様が独身だとこう、跡継ぎ問題とか起きるしなあ。さっさと結婚してもらって子供作ってもらったほうが、こういう国の場合はいいみたいなんだよね。
でも、何で私?
「シロガネ国より面倒なのよ、この国。種族が多いから」
「王妃様を出した種族が偉くなる、とか何とかですっけ」
「そうそう。人間の国でもそういうのってあるけれど、この国の場合は見た目で分かっちゃうからね」
王妃様が犬なら犬、猫なら猫、亀なら亀の種族が偉くなる。少なくとも、その種族はそう振る舞う。そうして他の種族は王妃様を出した種族に頭下げたり反感持ったり賄賂送ったり、となるんだろうな。……ドラマのみ過ぎかなあ、私。もうだいぶ見てないけどさ。
んで、種族で行くと私は人間、だよね。魔族の国であるこの国ではめっちゃ少数派、だって聞いてる。ミカさんやロンカ姫、カレンさんを除くと……確かにあんまり見ないな。
「……なんでぶっちゃけ、人間……というか、あなたみたいなよその世界から来たひとが王妃様になってくれると面倒がないわけ。リューミ殿あたりは多分、そう考えてるはずよ」
そんな事を考えていた私に、カレンさんはバッチリぶっちゃけてくれた。ああ、そういうことか。
「他の種族には公平になるから、ですね」
「そ」
この国では人間は少なすぎて、王妃が人間であっても偉そうに振る舞えるほど数がいるわけではない。で、それ以外の種族は王妃を出してないからどこも偉そうにはできない。
……まあ、人間に対して反感を持たれることはあるだろうけど、そこはクロさんなりリューミさんなりが何とかしてくれるんじゃないかなあ? いや知らんけど。
「……まあ、考えたことないならいいんだけど」
「猫な王様をもふもふふにふにできるなら、今でもできますからねえ」
「ま、たしかにね」
今の私にとってはクロさんは雇い主ででっかい猫で、もふもふしたりされたりの穏やかーな関係なんである。色恋沙汰よりもねこだいすき、のほうがデカ過ぎてこう、何だ。
あの腹にダイブできたら正直その他どうでもいい。肉球ふにふに最高。猫魔王様最高、なんである。
いかんいかん、顔が緩みそうだ。慌てて引き締めるけど、カレンさんには気づかれてないよなあ。
「ただ、多分だけど王妃様を選んだら、お世話係のお仕事は減らされるか王妃様担当になるかもしれないわね」
「ふへ?」
え、クロさんのお世話係なくなるの? と思ったんだけど、考えてみりゃそれもそうか。
「第二王妃とか出てくると、こうややこしくなるからですね。シロガネ国みたいに」
「そうそう。……いっそ、種族ごとにお妃様がいればいいんだけどねえ」
「相手するのが大変じゃないですか、それ」
「大変よねえ」
猫の王妃様、犬の王妃様、亀の王妃様、人間の王妃様、鳥の王妃様、コウモリの……うんめっちゃきりがない。夜も昼もどれかの王妃様のお相手しなくちゃいけないんじゃないか、クロさん。王様の仕事する暇あるのか、それ。
「でもそういう場合、みんなに子供ができないと大変なんじゃないですか?」
「大変ね。できなかった王妃の種族は、できた種族から見下されるだろうし」
「………………王様って、いろいろめんどくさいですねえ」
「めんどくさいわねえ」
ほんと、めんどくさいねえ。
でもそういうことなら、王妃様は一人のほうがいいのかもしれないな。クロさんが、そこら辺どう考えているかは分からないんだけどさ。
「まあ何にせよ、今のところはそういうのよりモイチノの問題のほうが重要でしょうね」
「餅の国ですかあ。いつ何してくるか分かりませんもんね」
うむうむ、お妃様問題は国が平和であればこそ出てくる話だろうし。まずは何とかして餅の国をおとなしくさせたいもんだ。
だから。
「モイチノ王国の隠密部隊が、我が国の領域内を侵攻。警備部隊と交戦、撃退された模様です」
「被害は」
「我が国の部隊は損傷軽微。モイチノ部隊は半数が撤退したようですが、数名を捕縛したとのことです」
そのリューミさんの報告に、悪いけどちょっとだけホッとした。
向こうから喧嘩を売ってきたのなら、こっちはやりやすいらしいからね。




