069.敵はしばき倒すべし
とりあえず、のほほんとしてばかりはいられない状況ということで私は、カレンさんのもとで剣の訓練を重ねていた。
「は、はあっ!」
「よ、は、ほい」
「ぎゃっ」
ううーむ、何とか木刀攻撃、二回までは何とか凌げるんだけどなあ。三回目を見事に横っ腹に食らってダウンした。おーいてえ。
さすがに、カレンさんの腕にはまだまだかなわない。ってのに、師匠たるカレンさんはとっても満足げに笑うんだよね。
「うん、まあ腕は上がってるわよ。私の一撃、どころか二撃受けられてるんだから」
「そ、そうですかあ……?」
「大概の敵は、一撃も受けられずに首が飛ぶんだからね」
「……あー」
そんなふうに言われて、ゾッとした。そうだ、この人の前に立つ敵は木刀じゃなく真剣を振り回すカレンさんに戦いを挑むんだ。そうして、あっさりずんばらりん。
……そう考えると、何とか二回は受けられた私って実はすごくすごい? いやいや、まだまだだって。
「そういうわけだから、あなたの腕はこの世界でもかなり高いものだと自慢していいのよ」
「へっ」
当のカレンさんは、私が増長しそうなことを言う。そんなふうになったら私、多分生きてはいけないと思うんだけどなあ。
でも、師匠のおかげでそこそこ強くなったことは事実だし。
「自慢するなら、カレンさんの弟子だって言えばいいですかね」
「それはどうかな? 何でか、自称弟子が多いのよねえ」
だからそう言ったら、カレンさんは苦笑しつつ肩をすくめた。ああ、カサイ・カレンの名前を背負えば皆ビビるだろうと思ってる愚か者が多いわけか。
いやでも、正直に言えば勝手にカレンさんの弟子を名乗ってるのとマジ弟子とでは腕が違うと思う。多分。一応ね、そのくらいには自信があるんだ。ごくたまーに他の人と木刀で勝負するんだけど、何か一撃か二撃で私が勝っちゃうから、
「自称の人たちは、すぐに負けちゃうと思いますが」
「ま、そうね」
そのことをカレンさんも知ってるので、私の感想には素直に頷いてくれた。もっとしっかり修行しようよ、ねえ。
いやまあ、カレンさんの闘い方って割と一対一に近いところがあるんで、集団で戦うのとはやり方が違うっぽいけどね。
さてさて。
ここのところ私も熱心に修行してるんだけど、カレンさんもきっちりしごいてくれる。その理由はまあ、さっこんのじょうきょうをかんがみてってやつ?
「ロンカ姫のこともそうなんだけど、あなたはクロ様のお世話係ってことで直接狙われる可能性もあるから」
「それに、餅の国は私のこと一応知ってますしね……うえー」
「そういうことね」
イコンはともかく、餅の国のほうがサクサク動く可能性が高いとか何とか。イコンはそもそも過激派と穏健派で内部分裂状態なので、そっちのほうが手間取ってるらしい。
それに今言ったけど、餅の国は私をこの世界に引きずり込んだ張本人。要するに『勇者』トモドー・アキラのことはある程度知ってるので、何ぞやらかしてくる可能性はある……ということ。うわあめんどくさい。
「だから、できれば自力で叩き潰してほしいんだけど」
「自力で、ですか」
「お世話係が自力で敵を叩き潰せるなら、そのお世話係にお世話されてるクロ様を狙う確率は下がるでしょ?」
「なるほど」
この場合、私が勇者だとかそういうことは勘定に入っていない。というか、餅の国もうっかり表沙汰にはできないだろうし。
それは置いといて、クロさんのそばにいるお世話役の小娘が、クロさんやそのお世話係を殺しに来た敵をこてんぱんに叩きのめして丁寧にお返ししてあげればいい、んだよね。
たかだかお世話係の小娘がめっちゃ強いなら、クロさんはどれだけ強いんだってなる。暗殺よりは直接攻め込んだりするほうがマシってなるだろうから……うんまあ、あとはリューミさんとかそっちに任せる。
「そういうことなら、がんばりまーす」
「頑張れ。まあ、基本的には私が出るつもりだけど」
「それは、敵がかわいそうですねえ」
「敵がかわいそうな結果になっちゃうほうが、向こうもビビって出てきにくくなるから」
「ははは……」
いやほんと、私が出てあげたほうが何というか、敵にもちょっとは勝ち目あるんじゃないかなーって思うんだけどさ。いや、自分が負けたら嫌なんで修行頑張るけど。
でも、カレンさんが出ていったら敵に勝ち目なし、ということは断言できるんだもん。一対一なら拳や剣で、多数が相手なら魔法で、って使い分けできる人だし、巨大伝書蛇たちもいるし。
「本当は、あなたにも伝書蛇付けたほうがいいのかもしれないけどね。こればっかりは、本人の素質が物を言うから」
「あー。一匹くらい、いてもいいかなって思ったことはあります」
「便利だしね」
さすがにあんなでっかいのは無理だけど、手のひらサイズのちっちゃい子なら飼ってみたいなあとは思うんだよね。主になれば、その子とはお話できるらしいし。




