表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/101

006.いろんな過去がありまして

 外が見えないので時間経過は分からないけれど、ある程度スープを飲み終わったところで眠くなってきた。……一応トイレには連れてってもらって、それから寝る準備をする。トイレは思ったより清潔で、なんでも魔法式水洗トイレ、らしい。すごいな魔王様の国。

 で、寝る準備をしてるところでふと、思いついたことがあってドーコさんに聞いてみた。いや、クロさんの扱いからの流れで。


「ドーコさんのお母さん、クロさんのことも育ててたんだよね」

「まあ、そうなりますね」

「ということは、行動パターンからいってドーコさんの方がお姉さんだったりする?」

「そうですね。クロ様は、ベルミと同い年になります」

「お姉ちゃん、小さい頃はクロ様の面倒見る係だったよねー」


 ベルミさんも証言してくれた。やっぱりかー、と思う。

 クロさんがドーコさんの言葉遣いとか態度とかに文句言わないの、自分のお姉さんだという認識だからなんだろうな。ベルミさんも妹みたいなもんだろうし、なるほど。

 しかし、クロさんの面倒見る係、か。


「……大変だったんだろうね」

「それはもう」

「私や、弟のマンペイも手伝ったんですけどー、ほんと大変でしたー!」


 あ、弟いるんだ。つか、同い年のベルミさんや年下の弟さんに手伝わせないといけない世話係ってどんなんだ。魔王……当時は魔王の王子なのかな、だから大変なのか。その手の偉い人についてはよく分かんないな、うん。


「でも、ちゃんと魔王はやってるんだよね。クロさん」

「そうでなければ、ラーナン魔王国は続いておりません」

「ていうかね、クロ様が魔王になってから落ち着いたんだよー。対抗勢力叩き潰したからー」

「え」

「ええ。クーデターを企てた勢力は全滅させましたし、それを見て日和っていた種族は全てクロ様の前にひれ伏しましたもの」

「ひれ伏し……」


 ……ちゃんと魔王だったんだ、あのでかい猫。というか、敵対勢力全滅って……まあ、魔王ならやるか。ゲーム思考かも知れないけど、いわゆる魔王ってそういうもんだよね。ドーコさんもベルミさんも当然のように言ってるし。

 その割に餅以外の他の国とは上手くやってるってことは、そこら辺の問題を国内だけで収めたってことか。もしくは、他の国の偉い人たちとちゃんと話をつけたか。

 うん、きちんと王様やってるみたいじゃない。ちょっと感心したぞ。


「魔王国とか言っても、きちんとした国なんだよね。餅の国と何か偉い違いだ」

「そうなのですか?」

「私たち、知りませんもんねえ」


 ふと口に出した言葉に、二人が反応した。そっか、敵対してる国だと行ったこともないだろうしねえ。特に、魔王様のきょうだいみたいな立場のメイドさんじゃ行く機会もないか。


「餅の国ねえ、お城の中ギスギスしてたのは覚えてる」


 まあ、私もろくに覚えてないかな。少しでも覚えてることを、何とか絞り出してみるんだけど……そうすればするほどひどい国なんじゃないかな、餅の国って。


「魔王を倒すんだ、倒すんだってそればっかり聞こえてきたかな。呪いの鎧のせいかもしれないんだけど」

「……不毛な国でございますね。シロガネ国などは我が国との平和的な交流を進めておりますのに」

「へー」


 シロガネ国、って国があるんだ。まあ、他にいろいろある国の一つなんだろうけどさ。


「どうせ呼ばれるんなら、そっちに呼ばれたかったなあ」

「そうですよねー。シロガネ国は、多分アキラ様には優しい国だと思いますよー」


 思わずため息をついたら、ベルミさんに大きく頷かれた。はて、何でだろう? いや、餅の国に比べたらきっとみんな優しい国なんだろうけどさ。


「そもそも、別の世界より人を召喚する魔法は、世界の総意として禁じられております」

「へ?」

「黒の神に仕えし者どもが、神に捧げる生贄を別の世界に求めて乱用したという過去がありましてね」

「うーわー」


 ドーコさんが説明してくれて、思わず頭を抱えたくなった。

 生贄を呼び出すのに使うなんて、そりゃ全国まとめて禁止するわ。黒の神って、いかにも悪い神様っぽいし。


「そういった方々を助け、またその中のお一人を祖として建国されたのがシロガネ国なんです。ですから、ベルミの言うようにアキラ様にはお優しいかと」

「へー。国作っちゃったんだ、すごい」


 なるほど、そういうことかー。王様だか女王様だか、ともかくそういう人が私みたいに別の世界から呼ばれて来たんだね。

 ……でもさ、そういうことのあった世界で、しかも本来禁止されてる魔法を、餅の国は使ったんだよね。


「って、餅の国やばいんじゃないの?」

「ええ。ですが、我が国から直接文句を言うとそれを口実に攻め込んできかねませんので、我が国と仲の良い別の国からそれとなく抗議していただくのが賢明かと思われます」

「こんな噂があるんですけどー、まさかやってませんよねえ? なんて嫌味っぽく言ってあげるとかするんじゃないですかね、クロ様」

「なるほど」


 うわあ、はっきり言わずに全力で嫌味炸裂させるわけか。他の国からも同じようにじわじわやってさしあげる、と。

 餅の国、どう出てくるのかなあ。ちょっと楽しみ、と言ったら怒られるかな?


「勇者アキラよ! 俺は戻ってきたあ!」


 いきなり空気を読まず、ばたーんと扉が開いた。クロさん、書類抱えて何やってんの……思わず「早っ」とか言っちゃったよ。


「ちゃんと仕事も持ってきたからな、ここでやるぞ!」

「書類のサインだけじゃないですか! 会議とかはどうなさったんですか、クロ様!」

「私寝るから、静かにしてくれるなら仕事でも何でもしてよ……もう」

「クロ様ー、アキラ様寝るって言ってますから静かにしてくださいねー」

「……は、はい」


 ……ああもう、寝る邪魔さえしないなら何してもいいわよ。ほんとに魔王か、この黒猫。

 というか、いろいろありすぎて、もう、ね……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ