066.おかえりなさい
「皆の衆、元気でしたかー!」
「きしゃー!」
そんな感じで、大変元気な様子のカレンさんとセージローが帰ってきたのは、出発してから十日後のことだった。お茶会でまだ帰ってこないねー、といってからさらに五日後、ってことになる。
あの様子なら大丈夫だったのだろう、と見た瞬間誰もが納得するような様子で戻ってきてくれたのでお城全体がほっとした、気がする。
それはもちろん、謁見の間でカレンさんを迎えたクロさんも同じことだったらしい。実は、リューミさんのはからいでこっそり玉座の裏から見せてもらったんだよね。
「……そうか。カサイの代表代理であれば、もう少ししっかりしてほしかったな」
「ええ、あまりに腰抜けだったもんですから根性を叩き直してきました」
カレンさんが根性叩き直すっていうと、ふっるーいスポ根ものみたいな感じになったのかな。木刀でびしばししごきながら走らせたり、腕立てとかやらせたり。……ま、いいけど。
「第二王妃殿下は相変わらず態度が大きくていらっしゃいましたわね。あれ、どこがいいんだか」
「人間の王は、乳が大きいのを好む傾向があると聞いたことがあるが」
「個人差がありますけど、今のシロガネ王はその傾向ですね」
「そうなのか……」
ふむふむ。つまり、シロガネ国の王様は巨乳が好き、と。
………………ロンカ姫ごめん、お姫様のお父さんだよね王様って。
いやまあ、巨乳に溺れてロンカ姫ないがしろにするっていうなら、私はその王様しばき倒しに行ってもいいけど。
で、カレンさんが戻ってきたということで本日再びお茶会である。ロンカ姫と、カレンさんと私。ミカさんは本日、クロさんが書類を溜め込んでいたので追い立てるためにクロさんの私室に缶詰とのこと。頑張れー。
「カレンさん、お疲れさまでした」
「いやほんと、疲れたわー」
「父や第二王妃様が、ご面倒をおかけしたようで」
「それは当人の問題だから、お姫様は気にしちゃ駄目よ?」
今日はミルクで煮出した紅茶を、のんびりと頂いている。ロイヤルミルクティーってやつだっけ? お砂糖入ってないのに、ほんのり甘くていい感じ。
「ひとまず、ロンカ姫や第一王妃の身になにか起きたら私がただじゃおかない、って第二王妃にはきっちり言っておいたから」
「え、わたしもですか?」
「なんかあって里帰りした際に、危害加えられないとも限らないもの。もちろん、私なり誰かなりついていくとは思うけどね」
ああ、ほややんとしたロンカ姫に対してとっても楽しそうなカレンさんの笑顔が怖い。
絶対これ、ロンカ姫の里帰りの際にでっかい伝書蛇連れてお供する気だ。……クロさんのOKが出るなら、ついてってみたい気はするなあ。気がするだけだけど。
「ああ、ロンカ姫」
と、不意にカレンさんの笑顔が普通の笑顔に戻った。そのまま、風呂敷に包んで持ってきた箱みたいなものをテーブルの上に出してロンカ姫の方に押しやる。
「ご母堂様から、直接お預かりしてまいりました」
「お母様から? まあ、ありがとうございますー」
お姫様、お母さんからの預かりものだと聞いてぱっと顔がほころんだ。ぽっちゃり美人さんだから、そういう笑顔って可愛いんだよなあ。
パステルグリーンの布を解いて出てきた中身は、木の箱。えーと……ああ、どういうわけかこっちの文字、こっちに来てすぐの頃から何とか読めるんだよね。
蓋に焼印で押してある文字は、マダム・セージュと読めた。って、わあ。
「マダム・セージュ!」
「あ、あのすごくいいお茶?」
「はい!」
昔の王女様の名前をつけた、最高級のお茶。お母さんがカレンさんに預けたお土産って、さすがは王妃様だよなあ。
「建国王の姉君のお名前を取った、っていうお茶。機会があればクロ様にもぜひ、というお話でしたわよ」
「分かりました! アキラちゃん、あとでいくつか持っていってください!」
「あ、そうだね。私が持っていくのが一番早いね、そうしよう」
あ、クロさんへのおすそ分けか。うん、お世話係の私がここで直接もらって持っていくのが手っ取り早いし、変なもの入れられる可能性は低い。……入ってたらそれはつまり、お世話係かメイドさんが怪しいわけだ。
そういう問題はともかくとして、クロさんが飲めるんなら私も便乗して口にはできそうだ、マダム・セージュ。最高級のお茶って一体、どんな味がするんだろうね。ちょっと楽しみ。
「そういえば、クイーン・セージュとかプリンセス・セージュ、じゃないんだね?」
ふと思い立った疑問を、口にしてみる。だって、王女様なんだよね? 何でそういう呼び方じゃないんだろ、と微妙に疑問だもの。
「まあ、一応公爵夫人の地位にはついていたそうだけど」
「マダム・セージュご自身がそう呼ばれたがった、というお話も伝わっていますよー。多分、そこからじゃないですかねー」
「へー」
なるほど、本人の希望みたいなもんか。それならまあ、銘柄としてそう付けてもおかしくはないな。




