062.仲いいよね
「クロ様、そうおっしゃってたんですか」
「うん」
数日後、クロさんに頼まれて書類をロンカ姫のお部屋まで持っていった。そのときに、鍋を頂きながらクロさんから言われたことを伝える。
姫に言われたくない話なら、口止めするはずだよね。だったらあの話は、教えてもいいはずだと思った。
「だから、ロンカ姫も身の回りとか気をつけてね?」
「お城の中だから、大丈夫だと思いますけどお」
お姫様はのんきに笑いながら、私が差し出した書類を受け取る。ああ、一応教えておかないといけない事件があったよな。
一応、室内にいる使用人さんとかには聞こえないように声をひそめて、私はロンカ姫に伝えた。
「前にスパイが首尾よく潜り込んだことがあってさ、その後警戒は強化してるはずだけど念のため。あ、これ内緒ね」
「わ、わかりましたあ」
こくこくこく。何度も大きく頷いてくれたから、分かってくれてるといいけど。
「あ、お茶飲んでいきませんか? この書類、すぐ処理できるものなので」
「そう? じゃあ、待たせてもらうついでにいただくねー」
「どうぞ。お願いね」
「はい」
ロンカ姫の申し出を、素直に受けることにする。いやだって、姫のお部屋とかで飲むお茶美味しいんだもん。ミリコのお茶だっけ、あれ私の口に馴染むんだ。一度は飲んでみたいなあ、噂のマダム・セージュ。
「いただきまーす」
「どうぞ」
手早く書類をめくるロンカ姫を見ながら、私は人間のメイドさんにソファの方に案内された。すぐに出てきたお茶を、遠慮なくいただく。あー、ホッとする感じで美味しい……というか、お花の香りがする?
「花の香りをお茶の葉に移したものです。味はほとんど変わりませんが、良い香りですので好まれておりますよ」
「説明ありがとう。うん、たしかにいい香りがするねえ」
「よかった、アキラちゃんに気に入ってもらえたみたいで!」
メイドさんの解説に頷き、ロンカ姫のはしゃぐ声に苦笑する。……いや、今仕事中だよね私ら。と思ってたら、書類を手にしてお姫様が席を立った。
「処理終わりましたよー。これ、クロ様のところにお届けくださいませね?」
「りょうかーい。すぐにやってくれて助かりましたー」
詳しいことは私には分からないけど、持ってきた書類にちゃんとロンカ姫の確認のサインが入ってる。多分、これをそのままクロさんのところに持って帰ればいいんだろうな。
うーん……でも、お茶が美味しいんだよね。置いていくのももったいないしなあ。
「あ、お茶飲み終わるまで大丈夫ですよ。そこまで急ぎじゃないでしょう?」
「わあ、ありがとう。よかったー」
ロンカ姫、苦笑しながらそう言ってくれたけど私今、どんな顔してたんだろ? メイドさんが向こう向いて肩揺らしてるし……そんなに変な顔してたのかな。してたんだな、きっと。
「ところで、アキラちゃん」
そのメイドさんから自分もお茶をもらって飲みつつ、ロンカ姫がこっちを覗き込むように見てきた。
「ミカちゃんもなんだけど、クロ様となかよしですねえ」
「まあそりゃ、雇い主とお世話係だし」
「そうですけど」
王様とそのお世話係が仲悪かったら、そもそもお世話係の仕事は成立しないと思うんだ。いや、王様が駄々こねてそれをお世話係が怒るとか、そういうことじゃなくてさ。
というか、王様のことをよく思ってない人がお世話係になったらその、何だ。暗殺とか毒殺とか、おぞましい結果になりかねないじゃないか。あの偽メイドさんのお仕事が、うまく行っちゃったとかいう感じになって。
でもまあ、さすがにそこまでロンカ姫に言うことはないよね。
「でも普通、国王様のお腹もふもふとかしないじゃないですか?」
「あれは、クロさんがお腹に乗っけてくれたりするから」
そうそう、でかい猫の魔王様がわざわざ、お世話係をお腹の上に乗っけてくれるんだよう。あのふわふわもふもふはもう、お世話係でなければ堪能できないんじゃないだろうか。あとは……お妃様になった人とか?
「クロ様、無防備なんですね……」
「だからかもしれないな。夜もお世話係に警備してもらうの」
「夜行性の種族の方が担当されてるんですよね」
「そうそう」
朝夕の交代時に、カサノさんやユーアさんを始めとする夜当番の人たちとも顔を合わせる。夜行性の獣人とかヴァンパイア、たまにまじの幽霊さんとかいるのはびっくりするよ、アレ。
そんな事を考えてたら、ロンカ姫がちょっと寂しそうに微笑んだ。ああ、ふっくらしてても美人は美人、そんな表情も似合うなあ。
「わたしは、お父様ともそういうふうに遊んだことはないので正直、羨ましいです」
「おとうさまって……あー」
ロンカ姫はお姫様で、お父さんはシロガネ国の王様。……そっか、王様とお姫様って、あんなふうに遊んだりしないのか。
考えてみたら王妃様が二人いて両方に子供がいる時点でこう、勢力争いとか色々ありそうだもんなあ。
……大変だ、王族って。




