060.個室でお鍋
で、結局。
『いただきまーす!』
勧められたお店で鶏鍋と、デザートをいただくことになってしまった。ふふふラッキー、と思っておこう。
さすがに国王陛下とそのおつきなんで、個室を用意してもらえた。……多分この部屋、クロさん専用になってる気がする。
「んまーい」
鶏鍋、といっても鶏よりもちょっと濃い味の肉。その分おダシも濃い目で、一緒に入ってる野菜がじんわりといい味に仕上がってる……外はちょっと寒めだから、こういう温まるのが嬉しい。あーほんと美味しいなあ。
「こいつはあたしにも合う味でね、ほんと助かってるさ」
ハナコさんも、もぐもぐと満足気に食事中。リクガメは椅子に座れないけど、そういう種族用の座席と言うか床置きテーブルが用意してあってそっちに取ってあげている。直接食べたら、いくらなんでも熱そうだもんね。
「ハナコの味覚が、俺たちとそんなに違うとは思わないけどな。普通に城の飯も食ってるだろ?」
「お城のシェフたちは、ちゃんと種族別に味付けしてくれてんですよ。クロ様はね、お城で働いてる全ての者に感謝すべきです」
「うにゃー」
文字通り猫舌なクロさん、ふうふうしながら食べてるけどハナコさんに突っ込み入れられて涙目。あ、いや、今のは口に運んだ肉が熱かったな。結構大きかったから。
でも、みんなに感謝すべきなのはそう思う。私は別にいいけどさ、がーすけとかいろいろ大変みたいだし。
ま、そこらへんはお城に帰ってからでもいいでしょ。それより。
「食べてるもの見ると、私とクロさんはあんまり味覚違わなそうだね」
「俺のほうが薄味らしいが、実際どうなんだろうな?」
「私ももともと薄味が好きなんで、大丈夫かと」
「そうか。なら良かった」
うん、あんまり濃いとこう、舌がおかしくなるっていうか。友達には激辛大好きな子とか逆に甘いの大好きとかいたけどさ、私はこのくらいのがいい。そう言うと、年寄りの味付けが好みなんだねとか言われることもあったなあ。いや、薄いほうが自分好みにできるからいいじゃん? ごまドレッシングとか後でかけると、健康にもいいんだぞ。多分。
「はあ、そういう経緯が」
さて、せっかく個室にしてもらったこともあってか、クロさんはカレンさんたちにお手紙を託した事情を教えてくれた。
シロガネ国が餅の国寄りにならないように、何とかしてもらいたくて行ってもらったってことか。
「何でまあ、もしかしたらアキラには面倒なことになるかもしれないんでな。一応先に言っておく」
もぐもぐ。くたくたの白菜ぽい野菜を飲み込んで、クロさんはそう言ってくれた。あ、でもシロガネ国の話なら、私はそうでもなくね?
「私より、ミカさんやロンカ姫のほうじゃ」
「そっちは先に言っておいた。ロンカ姫なんかはやっぱりか、と肩を落としていたな」
「こちらとしても、シロガネ国がモイチノ寄りになられては面倒ですもんねえ」
ああ、もろ関係者には先に言ってあるんだ。そりゃそうだよなあ、と思う。
というか、私にとって面倒ってもしかして、ハナコさんも言ったけど餅の国絡みか。私をこの世界に引きずり込んだの、餅の国だもんなあ。なんかあって私があっちの勢力に取り込まれ……うわあ、いやだいやだ。
「まあ、カサイ・カレンが動いたんだから大丈夫だと思いますけどねえ。彼女を敵に回したら、国消えますし」
同じく野菜をもっしゅもっしゅと噛み砕いて飲み込んで、ハナコさんはのんびり口調でちょっと恐ろしいことを言う。国消えるって、まさかとは思うけど物理的に、じゃないよね?
「カレンさん、そんなに影響力あるんだ」
「本来のカサイの当主は彼女だから。普段中立でいる分、意見を述べると絶大よ」
ほんとに中立かあ?
どう考えてもカレンさん、クロさん贔屓だと私は思うんだ。……人間である私にも優しいから、もしかしたら人間と魔族との間で中立とか言うのかもしれないけど。
うーむと考えていると、クロさんが私をガン見しているのに気づいた。私が視線を合わせると、ひげがふわふわと揺れる。多分、鍋の湯気で。
「考えてみれば、アキラはカレンの弟子だな。それなりに影響力、あるはずだぞ」
「魔法の弟子じゃなくて、剣の弟子なのに?」
「カレンがお前を見込んで教えている、ってのが重要らしいぞ。カサイ一族には」
え、なんですかそれ。
カサイ一族ってすごい魔法使いの一族で、そのトップってことはとんでもなくすごい魔法使いだから影響力があるってことだよね。
でも、私はカレンさんから魔法は教わってなくて、剣を教わってる。弟子といえば弟子だけど。
それでカサイ一族に対して影響力あるって、何だろう?
「あー、多分アレだ。カサイ・カレンの剣を受け継ぐとんでも剣士、とか思われてると思う」
「それこそなんですかそれはー!」
楽しそうに言ってくれたハナコさんに対し、鶏肉を皿に落としつつ叫んだ私に罪はないよね?
というか、別にそんなに強くないからね、私!




