058.お見送り
今日からしばらく、カレンさんがお城を離れるという。「俺の用事だから、見送りに行くぞー」というクロさんの一声で、私とハナコさんはお城の外まで出てきていた。外に出ると言うので、コートとかは用意してくれてた。
……案外寒くないんだけど、周囲の山は雪で白い。ここが他のところより寒い地域だっていうのが、見て分かる。
「あれが、カレンの伝書蛇だ」
クロさんが示す方を見た瞬間、私の口から出た言葉は。
「でっか!」
それ以外に何があるよ。いやだって、ここからだいぶ距離あるのにこう、見上げるような高さに頭があるどでかい伝書蛇だよ? すぐ側まで寄ってみたら、たぶん頭の厚みが私の身長と変わらない。
「まあ、ここまで大きくなる個体はほとんど見ませんよねえ」
「あら、クロ様にみんな。来てくれたんだ」
ミカさんの呆れ声に重なるように、カレンさんの声が聞こえた。こちらに歩み寄ってきた彼女は薄手のコートの下に、漆黒のシンプルドレスとブーツ、長手袋。大きなつばの帽子までかぶってるからものすごく魔女って感じでうわ、かっこいい。
「せっかくだからな。カレンの伝書蛇を見せておこうと思って」
「それは構いませんわ。いきなり目の前にうちの子たちが出てきたら、腰抜かしちゃうかもしれませんものねえ」
……たち、って言った?
カレンさん、もしかしてこのでっかいのを複数飼ってるとかいうか? と思ったら、ハナコさんは知ってるみたいだった。
「このガッチリした子がセージロー。あっちの細身っぽい優男型がサンジローで、その手前にいる目元涼しげイケメンタイプがオトジローっつーんだよ」
「せめて色で説明してください!」
「あたしの色覚、人間とずれてるかもしれないからさ」
ああそうか、と納得せざるを得ないのは私が人間でハナコさんが亀だから、だね。
一番手前にいるセージローが十円玉みたいな色、一番向こうにいるのがサンジローだっけ、つやつや光沢のあるオレンジ。残る一匹、つーか一頭のオトジローがメタリックブルー。みんな毛の生えてないタイプで、だから鱗がつやつやして見えるんだよね。
で、セージローだけが立派な手綱というかベルトと言うかそういうのを装着してるんで、どうやらカレンさんのお出かけについていくのはセージローだけらしい。
と思ったんだけど、もう一匹いた。
「カレン、セージロー、タカダくん。しっかり頼むぞ」
「お任せあれ」
「しゃああ!」
「しゃい!」
カレンさんの胸元からひょこっと、タカダくんが顔を出した。そっか、君も行くのか。
タカダくんが行くってことは、タカダくんの主人であるクロさんのお手紙を持っていくってことなんだろう。……カレンさんとセージロー、その護衛で行くとかいう?
「どうなのかな? ハナコさん」
「国王陛下の親書を、国王陛下の伝書蛇が直接持っていくんだよ。当然、護衛は必要さね」
「それが、カレンさんたちなんだ?」
「そういうこと。カサイの魔術師を連れてるんだから、相手も無碍にはできないはずだよ」
……カレンさんとセージローで、相手を威圧するってことなのね。うんまあ、迫力あるもんなあセージロー。
そりゃ、他の二頭置いていくわ。三つ連れてったらただの侵略になりかねないし、絵面だけだけど。
「サンジロー、オトジロー。わたしが戻るまで、家とお城の守りを頼んだわよ」
「しゃーい」
「しゃああー」
カレンさんが声をかけると、お留守番になる二頭はそれぞれに返事をした。うん、返事とともに広げた翼がとにかくでかい。てかオトジロー、翼四枚ないか? 何かすごいぞ、巨大伝書蛇。
「では、国王陛下。親書をお届けに、行ってまいります」
「ああ、頼むぞ」
私がそんなふうに、巨大伝書蛇を見てあっけにとられている間にカレンさんは、クロさんとサクサク話を進めていた。というか、今から出かけるんだからその見送りに来たんだよね、私たち。いかんいかん、蛇がでかすぎた。
「私が留守の間に、攻め込まれたりしないでくださいね?」
「まあ、他にも護りの魔物たちはいるしな。大丈夫だとは思うが」
「カレンさん、物騒なこと言わないでくださいよう」
クロさんは笑って流したけど、カレンさんのセリフはちょっと怖いものがある。この国に攻め込んでくるといえば多分、餅の国だもんなあ。
「そんなことになればセージローで飛んで帰ってきますけど、少し時間かかりますから半日は持ちこたえてくださいね?」
「努力する」
カレンさん、どこに行くのか知らないけどその行き先から半日で帰れるよ、っていうのはすごい気がする。セージローで飛ぶって、何か上空を風に煽られながらごおおおおって感じで飛んでくるわけ? 飛行機に乗ってるのとは、わけが違うよね。
「お世話係トモドー・アキラ。このカサイ・カレンの弟子なら、ちゃんと国王陛下をお守りするんだよ?」
「は、はいっ!」
いきなりフルネームで呼ばれて、そんな事言われたので私は思わずピンと背筋を伸ばして返事した。そ、そうだ、お世話係ってそういう任務もあるんだよな。すっかり忘れてもふもふしてたけど!
「あたしもいるから大丈夫だよ、カサイの」
「ええ。頼りにしてるわよ」
ああ、なんというかハナコさんの不敵な笑みがものすごく頼りになるように見えた。




