055.わたしのやりかた
リューミさんがいろいろ考えてくれたおかげで、十日後のお昼にお茶会の時間を作ってもらえた。ロンカ姫はお昼休みということなので、時間延長はできないって言ってたけどまあ、しょうがないよね。
こっちは私とミカさん、そしてカレンさんが連れ立って向かった。で、カレンさんとは初対面だったらしいロンカ姫に紹介すると。
「カサイの方? まあ!」
「カサイ・カレン、今はこの城で剣術指南を請け負っているわ。よろしくね」
「はいっ!」
あ、なんかロンカ姫、めちゃくちゃ嬉しそうだ。カサイ一族って、それだけすごい一族ってことなんだろうなあ。私にとってはめっちゃ強いお師匠様、ってなもんだけど。
「わたし、カサイの一族の方とお会いするのは初めてなんですよー」
「あら?」
「あれ、そうだっけ?」
その後に続いたお姫様のセリフに、カレンさんどころかミカさんまで目を丸くした。……えーと、それが不思議……なんだろうなあ、私にはわからないけどさ。
カレンさんが軽く頭をかきながら、「本当に?」と尋ねてきた。
「シロガネ国なら、私の従弟がいるはずだけど。王族なら、会っていてもおかしくはないわよ」
「わたしには会う資格はないわねえって、よく言われてました。第二王妃様から」
『は?』
私とカレンさんとミカさん、見事に声がハモった。
第二王妃様ってえーと、つまりロンカ姫のお母さんじゃない王妃様だよね。ええいめんどくさいなあ一夫多妻制。
と言うか、何で自分の母親でもないおばはんからそんな事言われなきゃいけないのか。
「いや、それおかしくない?」
「えー、でもお」
思わずって感じでミカさんが上げた声に帰ってきた返事は、ああやっぱりロンカ姫、という感じの言葉だった。
というかロンカ姫のお父さんお母さん、って王様と王妃様か、何やってんだあんたら。もしくは育児係やらお世話係の皆さん。お姫様が推定罵倒されてるっぽいのに反論ないんかい。
「カサイの一族に会う資格なんて、何の取り決めもないわよ。シロガネ国だってそれは一緒……ま、モイチノ王国の連中には会いたかないけどねえ」
「そうなんですかあ?」
呆れ顔のカレンさんの目が、なんというか怖い。今すぐシロガネ国にすっ飛んでって第二王妃様に真正面からストレート打ち込んでもおかしくないような、そういう感じ。どんなだ。
「……まあいいわ。分かった」
小さいため息の後、カレンさんはそう言った。そのときに見せた笑顔は普通にカレンさんで、さっきの迫力は何だったんだろうって思う。……あれが、カサイ一族の持ってる何かかもしれないね。
「そっちはどうにかしとくから、ひとまず姫君はここでのお仕事頑張ってね?」
「は、はい! ありがとうございます!」
笑顔で、言葉だけで考えると特に何も問題ないことを言ってるし、ロンカ姫も嬉しそうに笑って頭を下げてる。
でもさ、カレンさんがどうにかしとくって言った『そっち』ってつまり、第二王妃様とかそこらへんのことだよね?
「どうにかなるんですか?」
「これでもカサイの端くれだからね。ラーナンにいるのが結構、交渉材料になるのよ」
「そうなのですか?」
「シロガネとかってね、ラーナンの情報入手先が少ないのよね。私はとっても貴重なの」
「はあ」
説明がよくわからなくて、私とミカさんは顔を見合わせる。……これはもしかしてもしかすると、あんまり詳しく聞いちゃいけない話なのかもしれない。裏の世界がどーとかこーとか、きっとそういう。
ほら、カレンさんがこっち見てにっこり笑った。さっきの、めちゃくちゃ怖い目で。よし分かった、何も知らないことにしよう。ね、ミカさん。
「は、はい! カレンさんにおまかせします!」
「よろしい」
あう、ロンカ姫も含めて皆背筋がピンとしてしまった。こわい、カレンさん怖い。
「んで、ロンカ姫」
「あ、はいっ」
「身の回りに気をつけなさい。本国から使用人を連れてきてると思うけど、念のためにこちらからも使用人が出されてるはずだから両方を混ぜて配置するように」
「え?」
カレンさんはロンカ姫の方に向き直って、不思議なことを指示してきた。ふと室内を見回すと、そういえば人間のメイドさんと獣人……羊の角が生えてるメイドさんもいるなあ。人間のほうがシロガネ国から来たひとで、羊角のほうがこの国のひとか。
それはともかく、そんなことを指示した意味をカレンさんは、こんな感じでぶっちゃけた。
「自分の子でもない王女様にとっても無礼なことをお抜かしあそばされる第二王妃様、多分こっちで誰かのところに輿入れしやがれとか思ってるわよ。あなたのこと」
「はへ?」
「もしくは既成事実作りやがれ、そうしたらあんたの母親いたぶるネタになるわとか多分そんな感じで考えてるかもしれない」
カレンさんカレンさん、言葉選んだほうがいいと思います。多分ロンカ姫、今何言われたか理解できてない顔してるから。
というかなにそれ、ゲスい。




